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「日本の人事部 LEADERS(リーダーズ)」TOP  >  2016 Vol.4  >  清家篤さんインタビュー
「人・組織・経営」研究の第一人者が語る

「少子高齢化」と「付加価値競争」の時代に
日本の雇用はどうあるべきなのか
人を育てることができる企業が高い価値を持つ企業になる

清家 篤さん(慶應義塾 塾長)

慶應義塾 塾長 清家篤さん

少子高齢化の進展やグローバル市場の急速な拡大などの影響を受け、今、日本の雇用のあり方が問われています。「終身雇用」「年功賃金」「新規学卒一括採用」などを特徴とする日本的雇用制度は今後、どうなっていくのか……。労働経済学の第一人者である清家先生は、組織の中で人を育てていく日本企業の「強み」はこれからも不可欠であり、それが働く人の能力を高め、企業の成長にもつながっていくとおっしゃいます。ではそのために、企業の人事部は何をすればいいのでしょうか。清家先生に詳しいお話を伺いました。

Profile

せいけ・あつし/1954年東京都生まれ。78年慶應義塾大学経済学部卒業後、85年同助教授を経て、92年より同教授。博士(商学)。専攻は労働経済学。2007年より慶應義塾大学商学部長、09年より慶應義塾長。現在、World Economic Forum Global Agenda Council on Ageing メンバーなどを兼務。2013年8月まで社会保障制度改革国民会議会長を務め、現在社会保障制度改革推進会議議長。主な著書に、『雇用再生』(NHKブックス)、『労働経済』(東洋経済新報社)、『生涯現役社会の条件』(中公新書)、『高齢化社会の労働市場』(東洋経済新報社、第17回労働関係図書優秀賞受賞)、共著に『60歳からの仕事』(講談社)、『高齢者就業の経済学』(日本経済新聞社、第48回日経・経済図書文化賞受賞)などがある。

日本は「労働供給制約の時代」へと突入する

日本の雇用の現状を、どのように捉えていらっしゃいますか。

雇用に関する指標で言うと、完全失業率はここ4年間、一貫して下がり続けています。また有効求人倍率も大きく伸びていて、労働市場の需給バランスから見る限り、雇用の状況は基本的に良くなっていると言えるでしょう。ただし、大きく増えているのは非正規雇用なので、もっと良質の正規雇用を増やす方向へとシフトしていくことが必要です。

問題は、将来的に労働力人口が大きく減少し、「労働供給制約の時代」へと突入すること。2014年時点の労働力人口は6587万人でしたが、2030年には5800万人になり、800万人近くの労働力人口が失われると予想されています。労働力人口が減ると、潜在的成長力も低下します。そうならないためにも、60代の男性高齢者や子育てをしている30代女性の労働力率を、もっと引き上げるといった対応が欠かせません。

では、日本企業における人材の育成、マネジメントの現状については、どのようにご覧になっていますか。

日本企業の「強み」は自社の中で人を育てる力、つまり、若い人材(新卒者)を採用し、日々の仕事を通じて教育訓練を行ってその能力を高めていく、人材育成・マネジメント力です。OECD(経済協力開発機構)の「国際成人力調査」を見ても、日本の成人の読解力、数的思考力、ITを活用した問題解決能力は、世界でもずば抜けて高いことがわかります。これには日本企業の人材育成力も大きく貢献しています。ただ統計を見ると、日本企業の教育訓練に関するコストの比率が少しずつ減少していることは気になります。少ない人数で、より多くの仕事をしようとする傾向があるためか、若手社員をじっくりと育てる時間的な余裕や、資金的な余裕がない企業もあるようです。

仕事能力は、「技術」と「マーケット(市場)」に規定されます。そのため、仕事をする際の技術の構造が変われば、必要とされる能力も変わります。また、仕事とはモノやサービスを売ることですから、市場の構造が変われば、やはり必要とされる能力も変わります。ちなみに大学は、その時々の最適の仕事能力を身に付けるところではありません。大学で身に付けるべき能力は、技術や市場の構造が変わっても、その変化に対応し得る能力です。それを私は、「自分の頭で考える力」と呼んでいます。自分で問題を見つけ、その問題を説明し得る論理を組み立て、その論理が本当に正しいかどうかを何らかの方法で確認し、正しければその論理に応じて問題を解決する。要は筋立て系統的に考えることのできる能力です。この能力を基本として、個人は会社に入った後に仕事をしながら、その時々の技術や市場の変化に対応してさらに能力を高めていくわけです。

この続きは「日本の人事部 LEADERS(リーダーズ) Vol.4」でご覧になれます。

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