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特別講演[D-2]

企業研修のオンライン化 課題と成功のポイント

山口 裕二氏 photo
株式会社ビジネス・ブレークスルー 企業研修部門 統括責任者
山口 裕二氏(やまぐち・ゆうじ)
プロフィール:2001年ビジネス・ブレークスル―入社。企業研修部門の責任者。大手企業中心に、経営人材・リーダー育成の研修企画に数多く携わる。企業研修にオンライン上のディスカッションを取り入れるなど、新時代のラーニング・ソリューションの開発・実践に取り組んでいる。

テクノロジーの進化やスマートフォン・タブレット端末の普及を背景に、企業研修にオンライン学習を積極的に活用したいというニーズは急速に高まっている。これまで多くの企業は、コスト削減の手段として“eラーニング”の導入を推進してきたが、近年、学習効果を高める手段として改めて“オンライン教育”への期待が高まっている。オンライン教育に長年実績を持つ株式会社ビジネス・ブレークスルー(BBT)の山口裕二氏は「学習塾や予備校などを中心に教育のオンライン化が急速に進展する一方で、企業研修のやり方は過去からほとんど変わっていない。企業は競争を勝ち抜くためにも、企業研修のオンライン化を競合他社に先駆けて実施し、人材育成の差別化を図るべきだ」と語る。今回の講演では、企業研修オンライン化の成功のポイントについて詳しく語った。

【本講演企業】
ビジネス・ブレークスルー(以下BBT)は、経営コンサルタントの大前研一が1997年、まだブロードバンドもスマホもなかった時代に「インターネットで教育を行う」という構想を掲げスタートした会社です。正解のない時代、「世界で通用する人材育成」をミッションに、知識偏重・型にはまった日本型教育を変えていくために、様々なチャレンジを続けている会社です。
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「オンライン教育革命」 今後どうなるのか?

2012年にMITやハーバード、スタンフォード大学が立ち上げスタートした、大規模公開オンライン講座 MOOC(Massive Open Online Courses)。受講者は急速に拡大、現在では数百万人が受講していると言われている。「オンライン教育革命」といわれるこの新しい流れは、我が国の学校教育、そして企業研修に今後どのような変革をもたらしていくのだろうか。

山口裕二氏 講演photo矢野経済研究所の調査によると、2014年度の我が国のeラーニング市場規模はBtoC市場で対前年比246.4%の成長を予測している。学習塾や大手通信教育などの教育事業者によるタブレット端末を活用した学習コースが市場を牽引している。また、佐賀県の武雄市では、市立小学校の全生徒にタブレット端末を配布し、「反転学習」の取り組みを開始した。

我が国においても「オンライン教育革命」への期待が高まりを見せている一方で、MOOC関連の最近の情報を調べてみると、半数以上は登録しただけでアクセスを一度もしていないとの事実が明らかになってきた。修了率も4%以下となっており、「オンライン教育」の効果や発展に否定的な意見も目立つようになってきた。

ビジネス・ブレークスルー(BBT)は、まだブロードバンドもスマホもなかった1998年に、大前研一が「インターネットで教育を行う」というチャレンジングな目標を掲げ設立された企業である。MOOCに先駆けること10数年、BBTでは受講者のモチベーションや修了率を高める仕掛けづくりを様々な観点から思考錯誤を繰り返し取り組んできた。

「講義の様子を映像収録して配信するだけの教育・学習サービスでは、受講者のモチベーションは長く続かないし、修了率を高めることも難しい」と山口氏は語る。BBTがこれまで長年取り組んできた具体的な事例をもとに、企業研修のオンライン化の成功のポイントについて詳しく語った。

企業研修のオンライン化ニーズ高まる

先ほどの矢野経済研究所の「eラーニング市場」の調査結果では、BtoC市場が急速に伸びる一方で、BtoB市場、いわゆる企業研修市場における「オンライン化」はほぼ横ばいとなっている。これは企業におけるeラーニングへの設備投資がほぼ一巡したとの見方によるものだ。

「このデータは見方を変えると、企業研修のオンライン化を進める上で必用な環境は既に整ったことを意味するものだ。」と山口氏は分析する。BYOD(Bring Your Own Device)と呼ばれる、従業員の私物のスマートフォンなどを持ちこんで業務利用することを許可する企業も、米国ASTD調査(2012年)であるが60%以上がOKとしている。企業の人事・教育担当者が、企業研修のオンライン化について積極的な姿勢を見せれば、eラーニング市場におけるBtoB市場は今後大きく拡大していくものと思われる。

その企業の人材・教育担当者の最近の声として特に多いのが、“集合研修限界説”である。経営陣からも研修の投資対効果が求められ、現場からも研修に業務を空けて参加することに対しても強い抵抗感が存在する。また、海外駐在員への教育機会も課題となるなど、「集合研修だけに頼って研修を実行することはもはや限界。企業の人材育成担当者が持つ研修のオンライン化ニーズ・期待は、ここ1年で急速に高まってきています」と山口氏は語る。

成功のポイント[1]:
集中して学べる講義映像をつくる

企業研修のオンライン化を推進していく上での最大の課題は、受講者のモチベーションである。無機質なテキストやアニメーションを使ったものがこれまでのeラーニングの主流であったが、今後は実際の講義を映像収録したものが主流になっていくであろう。

BBTでは、自社でスタジオを持ち過去9,000時間超、年間約1,000時間の講義映像を収録、配信している。

BBTでは最近、マーケティングなどの知識・スキル習得を目的にした講座については、モバイル・ラーニングを前提とした短いクリッピング映像(約15分程度)を組み合わせた構成でコンテンツを制作している。講座の内容はしっかりと構造化・体系化されているため、復習を行う際にもとても便利である。こうした細切れ学習により、履修率があがり、大きな学習効果を生んでいる。

また、講義映像の収録においては、大学の教室の最後尾で講義受けているような感じのものでは集中力を高めることができないため、講師がマンツーマンで画面の向こうの“私”に語りかけてくれるようなスタイルで作り込むようにしている。

リーダーとしてのマインドセットを促すことを狙いとした「経営者講義」「起業家講義」などでは、聞き手が彼らの魅力を引き出す対話形式でコンテンツを制作、ストーリー性を重視した長め(30~60分)の作りにしている。

このように、受講者が集中力をもって学習を行うためには、講師の力量はもちろんのこと、制作段階における工夫もいろいろ必要となる。

成功のポイント[2]:
リアルとバーチャルを融合する

「反転学習」が注目を集めている。「反転学習」とは、自宅で講義映像を予め視聴して予習を行い、教室では講義は行わず、従来であれば宿題とされてきた応用課題に挑戦したり、グループディスカッションを行うといった学習形態のことである。企業研修の世界でも、「ブレンディング型研修」として既に実施している企業も多い。

一定の理解レベルを持つ受講者は倍速視聴を行い、理解に乏しい受講者は繰り返し講義を視聴するなど、予習段階で一人ひとりが自分のペースで学習できることは、その後実施される集合研修においてレベルをより高い位置に揃えた形で研修運営が可能となる。

BBTでは、グループディスカッションをAirCampus®という学習プラットフォーム上で行っている。最近では、ビジネスの現場では当たり前に使っているSkypeやビデオ会議などのツールも積極的に活用するようにしている。「リアルとバーチャルの学びの融合は、今後企業研修においても最も標準的なやり方になると思われます」と山口氏は予測する。

成功のポイント[3]:
双方向のオンラインコミュニティをつくる

eラーニングはこれまでとても孤独なものであった。PCの前に座り、学習が修了・合格するまで、受け身でこの苦痛に一人で耐えなければならなかった。このような状況では、学習効果は絶対に期待できない。

成功のポイントの三つめは、双方向のオンライン上の議論を研修に組み込み、受講者のモチベーションと学習効果を高めていくといったものだ。BBTでは、この方法でBBT大学院などMBAホルダーを1,400名以上輩出してきた実績を持っている。企業研修においても、選抜部長・課長を対象とした「次世代リーダー研修」を中心に導入実績が数多くある。

オンライン上のコミュニティには、必ずファシリテーターが議論に関与し、受講者同士の対話・議論を活性化させる役割を担っている。集合研修のように時間的制約がない分、参加者のさまざまな考えに触れることができたり、議論の深堀を行うことで、集合研修以上の気づきや学習効果を生み出している。

しかし、オンライン上のコミュニティをつくるためには「自分で苦労して身に付けたことをなぜ他人に教えなければならないのか……」「自分が無知であることを相手に知られたくない……」「相手に誤解を与えるような発言は無理にしたくない……」など、自分の考えをオンライン上に書き込むことへの抵抗やリスクを参加者に克服してもらわなければならない。そのためには、受講者同士の信頼感の醸成やコミュニティに参加することによるリターン・報酬を早期に実感してもらうことがカギとなる。BBTでは、研修のスタート時にオリエンテーションをあえて集合研修形式で行うことにより、こうした課題を克服に成功している。

成功のポイント[4]:
受講者の学びを支援する

BBTのオンラインを使った企業研修では、受講者の発言数や講義視聴状況をリアルタイムに共有できる仕組を構築している。講師・ファシリテーター・企業・BBTが一体となって、受講者の学習状況を見ながら、受講者をきめ細かく支援し、場合によっては研修の内容やレベルの軌道修正を行うことができる体制を構築している。

また、学習支援という観点からは上司の存在はかかせない。研修効果に及ぼすインパクトで最も大きいのは受講前・受講後の上司の関与だと言われている。BBTでは、オンライン学習で学んだ内容を上司に報告、上司はコメントを即座に受講者に返信する仕組をシステム化して提供している。数千人規模の受講者がいる研修でも導入した実績があり、これまでよりも学習効果が上がったという研修担当者の方のフィードバックもいただいている。

講師やファシリテーターによる、受講者のモチベーションを高めるための支援ももちろん重要である。BBTでは受講者のアウトプットに対するフィードバックをテキストで行うのではなく、講師やファシリテーターが映像で行う取り組みも行っている。受講者一人ひとりには難しいが、グループアウトプットに対するフィードバックや研修全体のフィードバックなどについては、こうしたやり方は受講者のモチベーションを高める上でとても効果を発揮する。

企業研修オンライン化のステップ

個人の能力開発において、基本的で一般的な知識・スキルのほとんどは、オンライン学習に置き換えることができるだろう。「企業研修のオンライン化を推進していく最初のステップとして、基本的で一般的な知識習得を目的とした集合研修をまずはオンライン化することである。BBTでは、一流講師陣による映像講義を多数用意しているのでので、階層別研修や選択型研修の集合研修メニューの置き換えをまずはお薦めしています」

山口裕二氏 講演photo次のステップとしては、学習効果を高めるという観点で、オンライン上の双方向の学びを取り入れることだ。集合研修を毎月実施するような長期トレーニングを実現しながら研修効果を高めていくというアプローチは、もはや現実的に困難である。オンライン上でも活発なディスカッション、コラボレーションできる組織文化をつくることができれば、企業の競争力の観点からも非常にインパクトが大きい。

インターネットを利用すれば、さまざまなバックグラウンドをもった「異質な人」たちをネットワーク化することが容易にできる。「異質な人」たちのネットワークから得られる学びは無限大の可能性を秘めている。今後、企業の人材育成においては、「何を学ぶか」はもちろん重要であるが、「どうやって学ぶか」「誰と学ぶか」という視点は欠かせないものとなるであろう。

他社に先駆け、こうした新しい学びにチャレンジしてほしい。

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