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パネルセッション[C]

企業内人材教育改革
~新しい人材育成のあり方について考える~
(協賛:日本経済新聞社)

鈴木 典比古氏 photo
国際教養大学 理事長・学長
鈴木 典比古氏(すずき・のりひこ)
プロフィール:1945年、栃木県生まれ。1968年一橋大学経済学部卒業。同大学大学院経済学修士。インディアナ大学経営学博士(DBA)。ワシントン州立大学助教授、准教授、イリノイ大学助教授などを経て、国際基督教大学準教授、教授、学務副学長を歴任。2004年、同大学学長に就任し、2期8年を務め、2012年に退任。2013年に国際教養大学理事長・学長に就任。国際基督教大学時代から一貫して「リベラルアーツ教育」を推進している。

藤原 和博氏 photo
教育改革実践家/杉並区立和田中学校・元校長/元リクルート社フェロー
藤原 和博氏(ふじはら・かずひろ)
プロフィール:1955年東京生まれ。1978年東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任後、1993年よりヨーロッパ駐在、1996年同社フェローとなる。2003年より5年間、都内では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校校長を務める。08~11年、橋下大阪府知事の特別顧問に。著書に『人生の教科書[よのなかのルール]』など人生の教科書シリーズ(ちくま文庫)のほか、『リクルートという奇跡』『つなげる力』(文春文庫)、『35歳の教科書』(幻冬舎)等。近著に『藤原和博の必ず食える1%の人になる方法』(東洋経済)、12万部 のベストセラー『坂の上の坂』『負ける力』(ポプラ社)がある。活動は「よのなかnet」に詳しい。

21世紀に入り、人材に求められる要件が変わり、教育内容も変化。一つの決まった答えを探すのではなく、自らが状況を把握し、何が課題かを考え、回答を探す自律性の高い人材育成が求められている。本セッションでは、若者の人材教育改革を実践してきた二人が登壇。授業はすべて英語、全寮制で留学生との交流を図り、海外留学を義務化するなど、厳しい教育でグローバル人材を送り出す、国際教養大学学長の鈴木典比古氏。リクルートで活躍後、東京都初の民間中学校長として教育改革を行うなど「教育改革実践家」として知られる藤原和博氏。現在の人材教育の問題点や今後の方向性について、二人の改革者が熱く語りあった。

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鈴木 典比古氏によるプレゼンテーション:
グローバル人材の育成と企業の将来―国際教養大学の役割―」

鈴木氏はまず、米国最大の大学団体AACUが示した報告書を紹介。『20世紀』と『21世紀』における米国教育原理の変化について語った。「これは大学団体が“21世紀に対する大いなる期待”としてまとめた報告書です。20世紀までと21世紀で、どう変わるのか。例えば『授業中心→学修中心たるべし』。これは授業“teaching”が、学修“learning”に変わるということです。つまり、教師が教えるだけの一方通行でなく、双方向の授業が必要だと。そのためには、学生も発言できる個を持たなければならないし、自分磨きをしなければなりません」

鈴木典比古氏 講演photo 他には「知識中心→何が必要な知識か、どう評価するか、どう活用するか」「カリキュラムによって知識は整理される→既存の概念や価値を見直す必要あり」「クリティカル・シンキング(批判的思考)→クリティカル・シンキングを現実社会で適用」といった言葉が並ぶ。そのすべてにおいて基礎となるのは、やはり“個” と“自分”だ。

それでは、最近注目度の高いグローバル人材の特質・能力とは何か。いろいろな定義・解釈があるが、例えば日本で大学を評価・認証する機関である「大学評価・学位授与機構」がまとめた『大学評価文化の定着-日本の大学は世界で通用するか』という報告書によれば、以下の4点が示されている。(1)主体的に物事を考え、それを他者に伝えられる (2)異なる文化や歴史をもつ人たちと理解し合い、自分の考えを伝えられる (3)相手の強みを理解し、新たな価値を生み出せる (4)国と国という関係を超えた地球規模の視点を持ち、既存の価値観にとらわれずに物事に挑戦できる。「現状で英語は国際語として使われており、コミュニケーションの技術として英語は必要になります。その上で、この四つの力を持っていなければいけません」

続いて、国際教養大学における、グローバル人材教育の具体的な取り組みが紹介された。「入学は春・秋で少人数教育。1年生は全員、寮生活で留学生との混住を経験します。全ての講義は英語です。予習復習が大変なため、図書館は24時間・365日開いています。1年間の海外留学が必修であり、主に3年次に海外で学びます。なお、GPA制度と厳格な留学互換単位の管理を行っているので、TOEFL550およびGPA2.5以上でなければ留学は許可されません」

その成果は目覚ましく、2004年開学後、卒業生の就職率ほぼ100%を達成し続けている。「TOEFL、GPAがほんの少し足りずに留学できない生徒もいますが、その点は厳密に判定しています。また、年に数人、留学途中で帰ってきてしまう生徒もいますが、卒業には単位が必要ですから、そこは心を鬼にして送り返しています」

国際教養大学には、留学生を送り出し、また海外から受け入れる「デュアル・アセンブリー・カリキュラム」であり、このシステムが世界基準の教育を保証している。「3年生が海外留学で不在となる場所に、海外からの学生を受け入れています。この制度が成立する条件としては、授業科目・科目水準・授業方法が海外の大学と同等である必要があります。それにより海外162大学と提携を結んで、互いの生徒がいつ留学してもスムーズに授業が受けられる環境を作っています。将来はこの世界基準の上を行く大学にしていきたいと思っています」

最後に、鈴木氏はグローバル人材に今後必要となる要件を述べた。「グローバル人材は、根無し草人材ではありません。その点ではナショナルなもの、そしてローカルなものも学んでいかなければならない。その上で日本にしっかりと根付いて世界的イシューに関与していく。そんな人材を育成していきたいと考えています」

藤原和博氏によるプレゼンテーション:
今求められるのは、納得解が出せる「情報編集力」

檀上に設置されたホワイトボードには、左側半分に「みんな一緒・情報処理力」、右側半分に「それぞれ一人ひとり・情報編集力」と大書きしてある。「皆さん、この図を見てください。時代は左から右へ動いています。これから人材は『情報処理力』のある人間よりも『情報編集力』のある人間を採らないといけません」

藤原氏は、この二つの力の時代背景を説明する。情報処理力が求められた20世紀は「成長社会」。しかし、高度成長期は山一證券の倒産の年、1997年に終わる。翌年1998年からは、一人当たりの個人消費などのデータが十数年間ダウントレンドへと向かう。21世紀は「成熟社会」だ。

「特徴を一言で言えば、『みんな一緒』の社会が、『それぞれ、一人ひとり』の社会になった。家の電話が携帯電話に代わり、結婚式の引き出物は贈答品からカタログギフトへとシフトしました。コンビニ、通販会社など、15年ほど前からビジネスは全部右側へと流れています。『みんな一緒』のシステムだった企業は、どんどん利益を失っています」

藤原和博氏 講演photo「みんな一緒」の時代は正解も一つであり、それを当てるのが速くて正確な人、つまり、「情報処理力」の高い人を採用すればよかった。しかし、現在の仕事は正解が一つではない。大事なのは、自分が納得し、かつ関わる他者をも納得させられる解(納得解)をどれくらい生み出せるのか。これが「情報編集力」だ。

「この力には、思考力、判断力、表現力に始まり、コミュニケーションやロジカルシンキング技術、他人の役割をロールプレイする技術、シミュレーション技術、プレゼンテーション技術まで含まれます」

アタマを左から右に移動させるコツは、クリティカル・シンキング(批判的思考)にある。常識や前例は左側。それを疑ってかかれば右側へと振られていく。ただし、このベースとなるクリティカル・シンキングには教養が必要。リベラル・アーツなど、かなり幅広い分野での教養が前提だ。

「日本の正解主義教育は大変強烈で、すぐにアタマが戻されてしまう。いま、人事の皆さんがほしいのは、選択肢を与えられる人材でなく、自分で選択肢を考え、顧客の考えも聞きながら納得解を提示できる人材ですよね。そのような人材は、自分に他人の脳もつなげて、脳を拡張させて考えることができる。だからこそ、この時代に伸びしろのある人材になれるのです」

ディスカッション:
グローバルリーダーに必要なものは「熱意と人間性」

藤原:グローバルリーダーを育成していくには、何が必要なのでしょうか。

鈴木:英語は必要とされる範囲で、できなければいけないとは思います。ただ、英語だけを磨いていてはダメだという段階が必ず来ます。やはり、必要なのは熱意と人間性でしょう。人間性を磨くには、「自身を発信していこう」とする意識と、「相手を理解しよう」とする意識のバランスが良くとれていること。全人格を育てることが重要ではないかと思います。

藤原:英語は、意見を言うための言語ですよね。自分の中に意見がなければ、英語を教わっても話せない。小中学校の教育で英語を早く教えるべきという人がいるけれど、まず生徒に意見を言わせることが大事ではないかと思います。

鈴木:英語が上達していくと、英語を日本語に訳して考える段階から、あるとき英語を英語として考える段階へと変わります。実際の会話では話題が次々に変わっていきますし、いちいち訳している時間はない。このレスポンスへの対応が必要です。ただし、これも手段なのですね。語るべき自分がないと、英語を英語で考えることもできません。

ディスカッションの様子藤原:新卒採用の面接でぜひ、学生に小学生、中学生時代にどういう失敗をし、どう乗り越えたのかを聞いてみてください。以前、リクルートに伝説のリクルーターがいて、「この人が選ぶ人材は間違いない」と言われていたのですが、彼はいつもこの質問をしていました。どうしてかというと、近い過去のことはいくらでも嘘がつけるけれど、遠い過去のことはなかなか嘘がつけないからです。いかに、面白おかしく感動的に語れるかで、その人のコミュニケーション能力や人間力がわかります。ぜひ、試してみてください。これからも人事の皆さまには、情報編集力を発揮する人材をたくさん育成していただきたいと思います。
(文責:『日本の人事部』編集部)

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