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掲載:2022.02.21

HRコンソーシアムレポート

立教大学 田中聡氏・中原淳氏と考える
人事パーソンの「学び」と「キャリア」

田中 聡氏(立教大学 経営学部 助教)
中原 淳氏(立教大学 経営学部 教授)
東 由紀氏(コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社 人事・総務本部 人事統括部 人財開発部 部長)
鈴木 潤氏(SCSK株式会社 人材開発本部 人材戦略推進部 採用課 課長)

立教大学 田中聡氏・中原淳氏と考える 人事パーソンの「学び」と「キャリア」

これまで人事の研究者や人事部長が語る「人事はこうあるべき」論は数多くあったが、「人事パーソン」個人に焦点を当て、その意識や行動を分析した研究はほとんどなかった。そこで立教大学経営学部の田中聡氏・中原淳氏と『日本の人事部』は共同で「シン・人事」の大研究と題し、人事パーソンの実態を調査するリサーチプロジェクトを始動。「HRコンソーシアム」全体交流会において、参加者全員で人事パーソンの「学び」と「キャリア」について考えた。

プロフィール(講師/ファシリテーター)
田中 聡氏(たなか さとし)
田中 聡氏(たなか さとし)
立教大学 経営学部 助教

1983年 山口県周南市生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程 修了。博士(学際情報学)。新卒で株式会社インテリジェンス(現・パーソルキャリア株式会社)に入社。大手総合商社とのジョイントベンチャーに出向し、事業部門での実務経験を経て、2010年 同社グループの調査研究機関である株式会社インテリジェンスHITO総合研究所(現・株式会社パーソル総合研究所)立ち上げに参画。同社リサーチ室長・主任研究員・フェローを務め、2018年より現職。働く人とチームの学習を研究している。主な著書に『経営人材育成論』(単著:東京大学出版会)『チームワーキング』(共著:日本能率協会マネジメントセンター)、『事業を創る人の大研究』(共著:クロスメディア・パブリッシング)など。

中原 淳氏(なかはら じゅん)
中原 淳氏(なかはら じゅん)
立教大学 経営学部 教授

立教大学経営学部ビジネスリーダーシッププログラム(BLP)主査、立教大学経営学部リーダーシップ研究所 副所長などを兼任。博士(人間科学)。北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院 人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学講師・准教授等をへて、2018年より現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発・組織開発について研究している。専門は人的資源開発論・経営学習論。単著(専門書)に『職場学習論』(東京大学出版会)、『経営学習論』(東京大学出版会)。一般書に『研修開発入門』『駆け出しマネジャーの成長戦略』『アルバイトパート採用育成入門』など、他共編著多数。

東 由紀氏(ひがし ゆき)
東 由紀氏(ひがし ゆき)
コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社 人事・総務本部 人事統括部 人財開発部 部長

ニューヨーク州立大学卒業後、外資系と日系の金融機関でセールスやマーケティングの業務に従事し、2013年に人事にキャリアチェンジ。野村證券でグローバル部門のタレントマネジメントとダイバーシティ&インクルージョンのジャパンヘッドに着任。その後、アクセンチュアを経て、2020年2月より現職で人財開発、採用、評価制度を統括。中央大学大学院戦略経営修士、職場におけるLGBTアライと施策の効果について研究。 2018年11月からAllies Connectの代表として、企業×アカデミック×社会のアライをつなげる活動を開始。特定NPO法人東京レインボープライド理事、認定NPO法人ReBit アドバイザー。

鈴木 潤氏(すずき じゅん)
鈴木 潤氏(すずき じゅん)
SCSK株式会社 人材開発本部 人材戦略推進部 採用課 課長

金融業界にて営業、人事を経験後、2001年に株式会社CSK(現SCSK株式会社)へ入社し、200~300名の新卒採用を担当。グループ会社に出向して人材開発課長を務めた後、SCSKへ帰任しグローバル研修、新人研修などを担当。2020年4月より現職で新卒採用およびキャリア採用を担当。副業ではキャリアコンサルタントとして就職・転職支援、大学での講師や国家資格更新講習の講師などを経験。文学部心理学科卒。

田中氏によるイントロダクション:人事パーソンの学びとキャリアを考える

はじめに田中氏が登壇。本日のテーマである「人事パーソンの学びとキャリア」に関する問題提起を行った。

「これまでも『人事部門はどうあるべきか』『現場の人の学びやキャリアを考える』といったセミナーはあったと思いますが、本日は参加者の皆さんに『人事パーソンとして自分はどうありたいか』について考えてほしいと思います。そもそも世間は“人事”をどう捉えているのでしょう。人事以外の方が『人事って、〇〇だよねぇ』と言うときに、皆さんはどんな言葉が入ると思いますか。以前、週刊ダイヤモンドが行った『人事部の掟』という特集では、キャッチフレーズに『“伏魔殿”ニッポンの人事を徹底解剖!』とありました。伏魔殿を辞書で引くと『悪魔がひそんでいる殿堂。陰謀・悪事などが絶えずたくらまれるところ』とあります(笑)。人事と聞くとそういうダークサイドなイメージを持つ人も少なくないようです」

次にGoogleで「人事部」と検索すると、セカンドワードにはどんな言葉が来るのかを解説。「花形」という明るいワードもあれば、「仕事できない」という厳しいワードもあるという。田中氏は「人事はいろいろなイメージで語られる存在」と述べた。

そもそも人事とは何をする人なのか。田中氏は「人と組織にまつわる課題を解決し、企業と社員の持続的な成長に貢献すること」と語る。これが人事部の基本的機能といえるが、田中氏はここで注目すべきは、『人と組織にまつわる課題』という言葉が指す内容が大きく変化していることだという。

「特にこの5年ほど、皆さんが直面してきた課題は多岐にわたってきたのではないでしょうか。2014年くらいから有効求人倍率が1倍を超え、世の中が人手不足になってくる中で、『生産性向上』『シニア活用』『外国人雇用』『ダイバーシティ』といったワードが聞かれるようになります。それから、『職場のメンタルヘルス』『ウェルビーイング』『健康経営』という言葉もよく言われるようになりました。他にもデータ活用で人事業務を高度化するため、『DX対応』『ピープルアナリティクス』『AI面接』なども聞かれます。ここ2年ほどは『新型コロナ対応』に追われ、加えて『コーポレートガバナンスコード改訂』を行い、人的資本経営を本格化することも人事のミッションとなりつつあります。この5年ほどだけでみても、『人と組織にまつわる課題』はこれだけ多岐にわたる内容が取り上げられているのです」

次に田中氏は米国の調査を紹介した。「人事のプロフェッショナルに何が求められるのか」の優先順位を人事の責任者に聞いたところ、今、求められているのは「HR technical skills」という人事のそれぞれの機能に関するスペシャリティよりも、「Business understanding」というビジネスに対する理解や事業課題のほうが、順位が高かった。人事にはテクニカルなスキルも必要だが、それだけでなくビジネスについての理解も求められているのだ。

では、人事は社内からどのように見られているのか。2020年のKPMGの調査によれば、経営層に「人事部門は価値提供部門(バリュードライバー)ではなく、管理部門(アドミニストレータ―)としてみなされているか」と聞いたところ、「強く同意する・同意する」の割合はグローバルで46%、日本で60%だった。

「つまり日本では、6割の経営層が『人事は社内(経営層)からは新たな価値をもたらしていない』という厳しい見方をしているのです。一方で人事にはどんな悩みがあるのでしょうか。実際に会った人事パーソンの方に聞いたところ、『新しい課題の連続』『人に言えない仕事が多い』『他部門に理解されにくい』『嫌われ役になることが多い』『減点方式で見られ評価されにくい』『将来のキャリアが見えない』など、人事の立場ならではの意見も聞かれました」

では、データから見た人事パーソンの本音はどんなものなのか。田中氏は『日本の人事部 人事白書2021』 のデータをもとにした分析結果を紹介した。人事メンバーに自身の成長についての満足度を聞いた質問では、一般メンバー層では「やや不満+不満」が51.9%と不満が半数を超えていた。また、人事パーソンはどうやって学んでいるのかという質問では、外部研修・セミナーは84%と多かったが、OJT14%、社内研修12%と社内で学ぶ環境・機会は圧倒的に少ないことが浮き彫りになった。

「人事はなぜ学べないのか。理由のトップ3は『時間がない』『予算がない』『周囲の理解がない』です。特に一般メンバー層では『学習方法が不明』という比率が高くなっています。さらに『今の仕事をこれから極めていきたいか』と聞くと、成長不満層ほど極めたいとは思っておらず、『他社に転職したい』という意向が強いことがわかりました」

田中氏は、これらの人事に関するデータから想像される、素朴な問いを参加者に投げかけた。

「働きがいを感じられずにいる私たち(人事パーソン)が、本当に社員の働きがいを高められるだろうか」
「成長実感を感じられずにいる私たち(人事パーソン)が、本当に社員の成長を支援できるだろうか」

「人事が、人と組織にまつわる課題を解決していくためには、何よりもまずは人事パーソン自身が元気になることが大事だと考え、私たちは今年、「シン・人事」の大研究というプロジェクトを立ち上げました。このプロジェクトでは、『人事部』ではなく『人事パーソン』に焦点を当てた、初めての大規模調査を実施します。ちまたに溢れる『人事あるある説』をデータ検証し、人事パーソンの学びとキャリアの実態を明らかにし、優れた人事パーソンになるポイントを明示したいと思います」

そのうえで田中氏は「人事の仕事やキャリアの魅力を経営層や一般社員にも広く発信し、人事に憧れ、人事を志す学生や若手社員を増やしていきたい」と語る。

「本日はこのプロジェクトのキックオフです。経営、社員、職場のことはすべていったん脇に置いて、人事パーソンとしての自分自身の、これまでの学びや今後のキャリアだけを考え、自分の言葉で思いを語れる場にしたいと思います」

ゲストトークセッション

ここからは人事パーソンに自身の学び・キャリアについて話していただいた上で、田中氏、中原氏との対話が行われた。

コカ・コーラ ボトラーズジャパン 東由紀氏:私の複線型キャリア

東氏の人事歴は9年。現在は人財開発部部長として、採用、育成、評価制度などの人材マネジメントを担当。また、個人団体Allies Connect代表として、企業と社会のアライをつなげる活動を行っている。「アライ」とは英語で「同盟、支援者」を意味する「ally」が語源で、LGBTに代表される性的マイノリティの課題について理解し、活動を共に支援する仲間、あるいはそうした立場を表明している人々を指す言葉だ。東氏は今、自身で意識しているものとしてハイブリッド・キャリアを挙げた。

「ハイブリッド・キャリアは日本語では複線型キャリアと言われ、本業で得たスキルや能力を活用し、副業やボランティアなど社外での活動に取り組むことです。そして、社外で得た新たなスキルや考え方、人脈をさらに本業に活かす働き方のことを指します。『企業×アカデミック×社会』、それぞれをつなげていく活動が、今の私のキャリアの軸となっています」

東氏はニューヨーク州立大を卒業後、金融専門の通信社であるブルームバーグ東京に入社、30代でリーマン・ブラザーズ証券に転職し、リサーチのマーケティングを担当する。しかし、突然の倒産で買収先である野村證券に移籍。そこでもリサーチのマーケティングを担当したが、40代前半に社内公募制度を利用して人事に異動した。

「人事に異動しようと思ったきっかけは、グローバルチームのマネジャーになったことでした。それまで米国系企業で働いてきて、突然日本企業に移籍し、カルチャーの差異を実感。日本と海外のオフィスで働くメンバーの働き方やモチベーションの違いに戸惑い、マネジメントで大変苦労をしました。そのとき『人』というものがビジネスにおいて、もっとも重要だと気づきました。人事に異動して人材開発とダイバーシティ&インクルージョンを担当した後、評価制度を担当するようになったときに、これは人の人生を左右する仕事だと再認識。経験則ではなく、専門的に人事についてしっかり学ばなければと考え、中央大学大学院のMBAで人的資源管理を2年間学びました」

その後、40代半ばでアクセンチュアに転職し、人材開発を担当。現在はコカ・コーラ ボトラーズジャパンで人財開発部の部長として採用・育成・評価制度を担当し、経営改革をリードするための人財戦略に力を入れている。

「コカ・コーラ ボトラーズジャパンというと外資系企業とよく思われますが、実は内資の製造業の会社です。海外企業と親子関係にあるのは、原液の供給と製品の企画開発や広告などのマーケティング活動を行う日本コカ・コーラ株式会社。当社は『コカ・コーラ』などの製品の製造・物流・販売・回収を行うボトラー社で、18年間で国内の12ボトラー社を統合して2017年に設立されました」

2019年に企業理念「Paint it RED! 未来を塗りかえろ。」を総称とするミッション・ビジョン・バリューに刷新し、「これまでのやり方は選択肢にない」という強いメッセージのもと大規模な経営改革を推進している。

「今、会社で求められているのは将来のビジョンを描きながら、変革をリードしていくマネジメントです。多様な価値観、考え方、アイデアを総合しながら、変革をリードする人財が必要になっています」

東氏は、今の時代は人事においていろいろなチャレンジが必要になっているという。現在の人事の仕事は、自身の9年ほどの人事経験ではまったく判断できないものであり、過去の自身の経験すべてを使う必要があると語る。

「例えば、金融機関時代の『相手目線の営業トーク』は、人事施策を提案する際に相手にとってどんなメリットがあるかを説明するうえで大変役に立っています。施策の導入をプロジェクト化して進める「プロジェクトマネジメント手法」、社員のことを考えて伝える「マーケティング視点」も同様です。人事時代であれば『MBAで学んだ経営戦略と人的資源管理』、『他社事例、ベストプラクティス、フレームワーク』を活用して人事戦略を考えていますし、LGBTアライの活動では『学生から活動家までさまざまなメンバーと協働する経験』『異なる視点、異なる考え方』を取り入れる重要性が役に立っています」

東氏は「今、私が人事として大事にしているのは、自分の中にいろいろな判断の軸を持つこと」と語る。これからの人事キャリアもこの判断軸を増やすことがキーになる。

「私が好きな言葉に、スティーブ・ジョブズ氏が言った『将来、どの点と点がつながるかは分からない。この点は未来のどこかでつながると信じる』というものがあります。この言葉のように日々の経験や知識の点はどこかにつながると信じて、「企業×アカデミック×社会」をつなげて新たな価値を創造しながら人事のキャリアを積んでいきたいと思います」

東氏のプレゼンテーションを受けて、中原氏が語った。

中原:私も25歳ごろから、キャリアの前半・後半理論を唱えています。私の場合でいえば、前半は大学での人材開発の理論中心の研究で、後半はテーマが組織に近づき、データ中心の研究となっています。人生やキャリアは長いですから、「前半と後半でそれぞれ何をやっていこうか」と考えていくとよいのではないでしょうか。それともう一つ、私にはキャリアのピボット理論があります。キャリアの片足が軸足として定まっていると、もう一方の足が動かしやすくなる、というものです。一人で複数のキャリアを持つと互いに対していい影響を及ぼします。これをポジティブ・スピルオーバーといいますが、もう1ヵ所自分の居場所を持つことは、精神的にもヘルシーなことではないかと思います。

SCSK 鈴木潤氏:一事例としてのキャリア紹介

SCSKはシステムインテグレーターとして総合的にITサービスを提供する企業だ。同社は業界の労働慣行を変えるべく、ここ10年で先進的な人事施策を多く行っている。働き方改革が叫ばれる以前の2013年度から「スマートワーク・チャレンジ20(スマチャレ)」と題して労働時間の削減に取り組んだ。2015年度には健康経営に関する取り組みとして「健康わくわくマイレージ」、2017年度には学び続ける文化を企業に根付かせる活動として「コツ活」などを行っている。現在は人事領域の中で採用を担当している鈴木氏にこれまでの「学び」と「キャリア」を聞いた。

「キャリアのスタートは金融業界での営業で、異動して人事となり、それからは人事一筋です。その後、現在の会社に転職し、途中で出向も経験しました。これまでの職種転換や転職、企業合併や出向などを通じてキャリアの棚卸しをすると共に、その時々で得た自分なりの学びを共有することで人事パーソンの一事例とさせてください」

鈴木氏は「キャリア」の中で得た「学び」について「キャリア≒訪れた転機」「学び≒経験の言語化(教訓)」と定義づけた上で、自身のこれまでの6度の転機について説明した。

「一つ目の転機は金融業界にいた時に営業から人事へ職種転換したことです。当時、ノルマが厳しくて『もう辞めたい』と言ったら引き留められて異動することになりました(笑)。営業から人事へ異動したことで、結果だけでなく合意に向けたプロセスが大切だと学びました。

二つ目は金融からIT業界への転職です。この時はリスクテイクする文化からリスクヘッジする文化への変化を肌で感じました。三つ目は企業合併。文化が違う中でいかに人事として融合施策を実現するかが求められました。

四つ目の転機は子会社への出向です。それまでよりも企業規模が小さい中で人事と現場の距離が近い中での仕事でした。五つ目は仕事の挫折です。思うように成果が上がらず自分のキャリアはここで終わったというくらい思い悩んでいました。

六つ目の転機は管理職への登用です。それまで肩肘張っていたものが挫折経験を経て適度に力が抜けた結果ではないかと捉えています。人事パーソンの学びとキャリアを議論する際には自分の転機とそれを通じた自分なりの学びを言語化してみると良いかもしれません」

また、鈴木氏は主体的に行う「学び」については「興味の証明」だと捉えている。大学で心理学を学び、人事で採用・教育を経験。自身で挫折を経験したことで、キャリアカウンセリングに興味を持つ。経験から得た興味を証明するための「学び」という考え方だ。

さらに鈴木氏はこれらの学びを「副業」というキャリアにつなげている。例えば、就職や転職に関するキャリアカウンセリングや大学でキャリア形成に関する授業の講師、社外1on1のサポーターやキャリアコンサルタント国家資格の更新講習講師をしている。

「こうした仕事や活動の経験から、主体的な学びの後にくるキャリアは『自己満足のマネタイズ(副業)』だと思っています。自ら興味を持って学び、それを活かして自己満足を感じられるような活動に対して誰かが認めてくれればそこにフィーが発生しキャリアとなっていきます」

最後に鈴木氏は、自分の将来のありたい姿について、CDP(キャリアデベロップメントプログラム)シートに、15年前から同じことを書いてきたと語った。

「以前から『50代後半からは会社に身を置きつつも、それまでに業務で得た経験を社外で活用したい。社外での活動を通じてSCSKの社会的な地位向上に寄与したい』と書いてきました。15年前は周囲から不思議な顔をされましたが、最近ではようやく、こうした姿を目標とすることが選択肢の一つになってきて、やっと時代が追い付いてきたなと感じています」

鈴木氏のプレゼンテーションを受けて、中原氏が語った。

中原:鈴木さんの話を聞いて、自分の中にいろいろな軸を持つことが大事だとあらためて思いました。一つの出来事が違う人から見たときにどう見えるのかを想像していく。これは端的にいえば共感力ですが、これは人事にとって大事な能力だと思います。英国在住のコラムニストであるブレイディみかこさんは、こうした姿勢を「他者の靴を履く」と表現されていますが、人事は一方だけではなく、別の視点から物事を見ることも大事になります。

ダイアログセッション(参加者同士)~ラップアップセッション

次に参加者がグループに別れて、「ゲストトークを聞いた感想」「これから人事として学んでみたいこと」についてディスカッションを実施。各グループで熱い議論が展開された。

最後に田中氏、中原氏がまとめの言葉を述べて、全体交流会は終了した。

田中:ディスカッションでは皆さん、前向きに人事キャリアについて話されていました。人事という仕事に魅力を感じ、熱い思いを持っていらっしゃることがよく伝わってきました。そうした言葉や思いを、ただ胸に秘めるのではなく、もっと外に向けて発信することで人事のイメージは変わっていくように思います。これからは人事という仕事がもっと多くの人から「選ばれる仕事」になることが大事です。そのために今足りないものは、人事にまつわる客観的なデータではないかと思います。一人でも多くの人事パーソンが前向きに働ける社会の実現に貢献するために、私たちはこれから「シン・人事」の大研究に取り組んでいきたいと思います。本日はありがとうございました。

中原:今日の東さん、鈴木さんのお話は大変参考になりました。実は私は、人事のイベントでよく取り上げられる「人事部はいかにあるべきか」というテーマが好きではありません。人事として問われるべきは個人であり、「人事パーソンとして自分がどうありたいか」だと思っています。本日のセッションでは人事の皆さんのいろいろな思いや願いを聞くことができました。しかし、そういった言葉はこれまでなかなか表に出てこなかった。そこで「シン・人事」の大研究で、これらにスポットライトを当てていきたいと思っています。人事にまつわるイメージをアップデートすることは、人事部の中にいる人たちでなければできません。研究結果を楽しみにお待ちください。本日はありがとうございました。