やる気を引き出し、人で勝つ。
真の「戦略人事」を実現するために
八木 洋介さん(株式会社people first代表取締役/株式会社ICMG取締役/元 株式会社LIXILグループ 執行役副社長 人事総務担当)
「考えればわかること」――インタビューの中で、八木さんが“変われない”日本の人事部門の問題点をさまざまな角度から指摘されるたび、このフレーズが付け加えられました。人事本来の役割とは何なのか。“人のプロ”になるためには何が必要か。考えればわかることなのに、それがいつまでも実行されないのは、きちんと考えていないから。八木さんは「人事のプロならもっと学んで、考えなければいけない」と警鐘を鳴らします。NKKやGE、LIXILで長年にわたって人事部門を歩み、いまや日本を代表するHRのオピニオンリーダーとして活躍されている八木さんは、2016年末で前職を退任して独立。今年から、個人としての活動も始められています。その節目に、あらためて人事に関する持論をうかがいました。
やぎ・ようすけ/1955年京都府生まれ。1980年京都大学経済学部卒業後、日本鋼管株式会社に入社。主に人事などを担当した後、National Steelに出向し、CEOを補佐。1999年にGEに入社し、Healthcare Asia、Money Asia、GE Japanにおいて人事責任者などを歴任。2012年に株式会社LIXILグループ 執行役副社長 兼 株式会社LIXIL 取締役副社長 執行役員に就任。CHRO(最高人事責任者)を務め、同社の変革を実践。グローバル化、リーダーの育成、ダイバーシティの促進など、戦略的人事を推進した。著書に『戦略人事のビジョン 制度で縛るな、ストーリーを語れ』(光文社新書、共著)がある。
なぜ、日本企業では「戦略人事」の実現が進まないのか
八木さんは「戦略人事」の重要性について、イベント「HRカンファレンス」などで繰り返し発信してこられましたが、『日本の人事部』が実施している大規模アンケート『人事白書2016』の調査結果でも、回答した企業の実に95%以上が「戦略人事は重要」と答えています。
私も『人事白書』を読みましたが、アンケート結果を見て正直なところ、強い危機感を覚えました。「日本の多くの人事パーソンや経営者はまだこの程度の認識なのか、ほとんど変わっていないじゃないか」と。というのも、95%の企業が戦略人事は重要だと感じているのに、実際に「人事部門が『戦略人事』として活動できている」という企業はわずか25%程度にすぎません。なぜ、いつまでも実態が伴わないのでしょうか。
冒頭の「貴社における『戦略人事』とは何ですか」という質問に対する回答例を見てもわかるように、多くの企業が「戦略人事」の定義について「経営戦略に合った人事戦略」「経営戦略と人事戦略の連動」といった、ビジネススクールの教科書に書いてあるような曖昧な理解にとどまっています。もし本当に人事戦略が経営戦略と連動することで機能するのであれば、そして、そう信じて人事が働いているのであれば、戦略人事は日本でとっくに実現し、普及しているはずです。しかし、現実はまったくそうではありません。
戦略とは何かを実現するための手段であって、手段だけが一人歩きしても機能しません。その何かとは、経営戦略で求められる人事の“ゴール”。つまり、私がいつも言っている「勝ち」の定義のことです。ゴールなしに戦略は立てられません。経営戦略と人事戦略の連動も、ゴールがあって初めて成り立つ話なのです。もっと言えば、経営と人事のゴール同士をきちんとつながないと、戦略と戦略の連動なんて起こるはずがない。そこをつなぐ「勝ち」の定義が明確になっていないことに最大の問題があると、私は考えています。
日本の人事が、会社という車の“助手席”にしか座れないのも、「勝ち」を明確に定義できていないからです。それではいつまでたっても、「縁の下の力持ち」や「サポートファンクション」と言われて満足するしかない。「会社のドライバーズシートに陣取って自ら経営のハンドルを握るために、私は人事をやっているのだ」というような気概を持つ人は、まだまだ少ないように感じます。
この続きは「日本の人事部 LEADERS(リーダーズ) Vol.5」でご覧になれます。
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