「働きやすさ」から「活躍しやすさ」へ
――女性活躍が開く日本経済の未来
漆 紫穂子さん(品川女子学院 理事長)

少子高齢化が進み、生産年齢人口が減り続けている日本では、女性の活躍が欠かせません。「今や女性活躍はC S R(企業の社会的責任)の文脈を超えた国家戦略です」。そう語るのは、品川女子学院 理事長の漆紫穂子さんです。同校では、リーダーシップや起業マインドを育む教育「28p r oj e c t」に取り組んでおり、卒業生の実社会での活躍が注目されています。女性が日本社会で活躍するために重要なこととは何でしょうか。漆さんに、効果的な女性活躍につながるエンパワーメントのヒントを伺いました。
うるし・しほこ/1925年創立の中高一貫校、品川女子学院理事長。国語科教師を経て2006年より校長、2017年より理事長に就任。同校は1989年からの学校改革により5年間で入学希望者数が30倍に。現在は「28project」を教育の柱に社会と子どもを繋ぐ学校作りを実践している。近著に『女の子が幸せになる子育て』(大和書房)。番組出演『カンブリア宮殿』『賢者の選択』ほか。
女性活躍はもはやCSRではなく
日本の国力を左右する「国家戦略」
日本社会の女性活躍の現状をどう感じていますか。
「このままでは日本は滅びる」。先日お会いした歴史学者の方がそうおっしゃっていました。この言葉は少子高齢化が進む日本において労働力の確保は急務である現実を痛感させます。また、人口減少の中で国際的なプレゼンスを保つためには、一人当たりの生産性を上げることが必要です。しかし、日本社会には「今の延長線上でも何とかなる」という空気があると感じています。ITが発展し知的労働が増えた現代、担える仕事の性差はほとんどなくなりました。その中で、人口のおよそ半数を占める女性にアクセスしないのは、50%のリソースで100%以上の成果を目指すようなもの。企業は今、自社の定義で優秀な男性だけでなく、優秀な男性と優秀な女性の両方を採用できるかどうかの分岐点にいると思います。
これまでの女性活躍の議論は、時に男女の対立構造を作ることもありましたが、今や社会設計の問題です。これはもはやCSRの文脈ではなく、企業の生存戦略であり、国家戦略なのです。
女性が活躍できない社会は国際競争においても不利なのですね。
内閣府の「選択する未来2.0」では、日本で高等教育を受けた人の将来における経済的リターンについて、20万ドル以上の男女格差があると報告されていました。これはOECD平均ともかけはなれている数値です。
このように世界各国と比較し、日本は女性の教育レベルが高いのに人的資産としての活用が進んでいません。就職ランキング上位の人気企業でも、上席に就く女性は少ない。女性の高等教育の経済リターンが低く、望まない非正規雇用も多いことは、資本効率が悪いとも言えます。男女の平均賃金格差が大きい企業は、今後、優秀な女性に選ばれないことを、日々若年層に接する立場から実感しています。変化の激しい時代、同質性の高い組織のリスクは高く、すぐそこにある危機を未然に防ぐための改革は急務です。
女性の活躍を妨げている障壁は何でしょうか。
「女性管理職比率を上げたいが、立場に見合う優秀な女性がいない」という声をよく聞きます。ここまで「優秀」という言葉を使ってきましたが、そもそも「優秀」の定義の前提が男性社会基準になってはいないでしょうか。男性社会のルールを変えずに女性をはめ込もうとするのは無理があります。例えるなら、ラグビーの試合で女性にだけ「手を使うな」とサッカーのルールを適用しているようなもの。女性の社会進出を期待するなら、社会の枠組みにも変化が必要です。
この続きは「日本の人事部 LEADERS(リーダーズ) Vol.13」でご覧になれます。
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