HRのオピニオンリーダー100人が提言、日本の人事を考える情報誌 「日本の人事部 LEADERS(リーダーズ)」

「人・組織・経営」研究の第一人者に聞く“エンパワーメント”

従業員をエンパワーする組織のつくり方
――「ミスを許容する」管理職育成と三つのフィードバック

沼上 幹さん(早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター 研究院 教授)

早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター 研究院 教授 沼上 幹さん

従業員の創造性や主体性を引き出す「エンパワーメント」が経営の重要課題となっています。トップダウンの指示だけでは限界がある今、管理職の育成や組織設計を見直すことで、現場から生まれるアイデアが企業の成長を加速させるのです。エンパワーメントが実現するためには、どのような組織をつくるべきなのでしょうか。そのために経営者や人事部門は何ができるのでしょうか。組織論を長年研究している、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター 研究院 教授の沼上幹さんにお話をうかがいました。

Profile

ぬまがみ・つよし/一橋大学社会学部卒業。一橋大学大学院商学研究科博士(商学)。一橋大学経営管理研究科教授、同大学理事・副学長、組織学会会長を歴任。経営学における新たな研究手法を確立した功績により紫綬褒章受章。現在はJFEホールディングス株式会社社外監査役、東京センチュリー株式会社社外取締役、株式会社荏原製作所社外取締役も務める。著書に『液晶ディスプレイの技術革新史:行為連鎖システムとしての技術』(1999年、白桃書房)、『組織戦略の考え方: 企業経営の健全性のために』(2003年、ちくま新書)、『組織デザイン』(2004年、日経文庫)、『小倉昌男:成長と進化を続けた論理的ストラテジスト』(2018年、PHP研究所)など。

日本企業における組織論の重要性

現代の日本企業において、組織論が果たす役割や重要性についてお聞かせください。

組織論は経営学の基盤を形成する重要な要素で、大きく二つの領域に分類されます。一つ目は組織行動論、二つ目は組織構造論です。組織行動論は、心理学を基盤とした領域で、リーダーシップやモチベーションといった人間行動を分析し、組織の中で人がどう相互作用するかを研究します。組織構造論は、社会学を基盤とした領域で、組織内の役割体系がどのように人の行動や相互作用を促進または抑制するかを探求します。

よく「最後は人が大事だ」と言われますね。私もその考え方には賛成です。しかし、その前に組織をつくることが重要なのです。

私が特に研究している組織構造論は、道路網や通信回線のようなインフラ構築にたとえられます。適切なインフラを整備することで、初めて経済発展や業務効率化が実現する、と言えばわかりやすいでしょう。組織構造論でもう一つ重要な点は、「誰と毎日関わるか」を決めることです。事業部を分ければ、その瞬間から他の事業部の人と会う機会が減り、関係が薄れることもある。人は日々会う相手によって常識がかたちづくられます。同じ会社でも人が接する「企業内世間」は狭く、そこで身につけた常識が新しいアイデアを生むこともあれば、間違った、硬直した行動を引き起こすこともあります。これが組織構造の持つ怖さでもあります。経営層は、企業内の「世間」をどのようにつくれば健全な状態になるかを考えて、組織構造を設計しなければなりません。健全な相互作用を生む構造をどうつくるかが重要なのです。適切な組織構造を設計することで、個々の従業員がその能力を最大限に発揮できる環境が整備されることになるのです。

DXが進展している今、組織構造のあり方も変えていく必要があるのでしょうか。

組織構造を考える上で重要な視点の一つが「情報処理パラダイム」です。組織構造は単なる人間関係の集まりではなく、情報処理システムとも深く結びついています。DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展に応じて、組織のあり方も大きく変えていかなければなりません。

かつて、組織内のコミュニケーションは内線電話や対面が主流でした。1990年代半ばのインターネット普及以降は、外部の取引先やコラボレーション先とのつながりが深まり、組織は固定的な境界を持たないネットワーク型やバーチャル型へと進化しました。

現在では、オンライン会議ツールやチャットツールといった技術が普及し、グローバル規模でのコミュニケーションが容易になっています。特に距離の壁を越えたリーダーシップの発揮が可能となり、従来とは異なる形での影響力を生むようになりました。この変化は、日本企業におけるグローバル化を加速させる契機となる可能性があります。

情報処理システムとしての組織構造が新しい技術と連動することで、これまでの枠組みを超えた革新が可能となります。

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