HRのオピニオンリーダー100人が提言、日本の人事を考える情報誌 「日本の人事部 LEADERS(リーダーズ)」

「人・組織・経営」研究の第一人者に聞く“コンフィデンス(信頼)”

「同質性のマネジメント」から脱却し、
ダイバーシティを成果につなげていくには

松浦 民恵さん(法政大学 キャリアデザイン学部 キャリアデザイン学科 教授)

法政大学 キャリアデザイン学部 キャリアデザイン学科 教授 松浦民恵さん

ダイバーシティ&インクルージョンに取り組む企業が増える中、「個人の尊重」と「求心力を持って組織をまとめていくこと」のバランスをどう図るかに苦心する企業の声を聞くようになってきました。同質性の高い組織を前提としてマネジメントを行ってきた日本企業が従来の慣習から脱却し、「組織と従業員」や「従業員同士」が信頼し合いながら成果を出していくためには何が必要なのでしょうか。ダイバーシティ・マネジメントや女性活躍推進などについて研究している法政大学の松浦民恵教授に話を伺いました。

Profile

まつうら・たみえ/1989年に神戸大学法学部卒業。2010年に学習院大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得退学。2011年に博士(経営学)。日本生命保険、東京大学社会科学研究所、ニッセイ基礎研究所を経て、2017年4月から法政大学キャリアデザイン学部。専門は人的資源管理論、労働政策。厚生労働省の労働政策審議会などで委員を務める。『営業職の人材マネジメント 4類型からの最適アプローチ』(中央経済社)など著書、論文、講演多数。

大切なのは経営者と従業員の「見えている景色をそろえる」こと

ダイバーシティ&インクルージョンに取り組む企業が増える中、「個人の尊重」と「求心力を持って組織をまとめていくこと」のバランスをどう図るかに苦心する企業が増えているようです。多様性を尊重しながらも、「組織と従業員」あるいは「従業員同士」がまとまり、力を発揮するために必要なことは何でしょうか。

さまざまな価値観や事情を持つ人材が集まると、どうしても対立や衝突が起きやすくなります。そんな中で、組織と従業員がまとまって力を発揮するためには、「高い次元での共通のゴール」を持つことが重要でしょう。価値観や事情は違っても、「どういう組織にしていきたいのか」「どういうことを成し遂げたいのか」という共通のゴールを言語化し、みんながそれに納得して腹落ちしている状態をつくることが大切です。

以前、「組織の目標達成に向けて、社員をどのようにまとめていくべきか」についてアンケート調査をした際に「経営理念・組織文化(Vision)」「業務プロセス・ルール(Behavior)」「成果・パフォーマンス(Performance)」の三つの要素をどの程度重視するかを尋ねたところ、多様性や創造性に価値を置く組織ほど「経営理念・組織文化」や「成果・パフォーマンス」を重視する傾向にありました(日本人材マネジメント協会リサーチプロジェクト・産労総合研究所「2014年 人事のあり方に関する調査」より)。多様な人材を活かすためには、業務プロセス・ルールを画一化するのではなく、経営理念や組織文化で求心力を持たせて、なおかつ、成果をしっかりと評価することが重要だということです。

「高い次元での共通のゴール」とは、いわゆる経営理念やビジョン、ミッションと言い換えられますか。

そうですね。ただ経営理念やビジョン、ミッションをどの程度の解像度で言語化しているかは企業によって異なります。スローガンのような漠然としたゴールを掲げても社員はついてこないでしょうし、場合によっては組織目標などもっと具体的な内容にブレイクダウンする必要もあるかと思います。

「高い次元での共通のゴール」を共有するために大切なのは、「見えている景色をそろえる」ことです。経営側が見ている景色と、従業員が見ている景色は、当初は異なる場合が多いでしょう。たとえば従業員側は職場でのミクロな現状や課題が、経営側は企業が置かれているマクロな現状や課題が、よりはっきりと見えているかもしれません。見えている景色を両者ですり合わせることが、ともに目指そうと思えるゴールの策定につながります。

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