HRのオピニオンリーダー100人が提言、日本の人事を考える情報誌 「日本の人事部 LEADERS(リーダーズ)」

「人・組織・経営」研究の第一人者に聞く“リスキリング”

ダイバーシティ&インクルージョンから考えるリスキリング
個人の中の多様性をどう経営に生かすのか

谷口 真美さん(早稲田大学商学学術院 教授(国際経営論))

早稲田大学商学学術院 教授(国際経営論)谷口真美さん

変革の時代に対応するため、新たに必要となる能力・知識を身に着けるリスキリングが求められています。必要なのは従業員だけではありません。企業にも、環境の変化に応じて変わり続けていくことが求められます。長年にわたり、多くの企業がダイバーシティに取り組んできましたが、現在特に注目されているのが「深層のダイバーシティ」「インクルージョン」「エクイティ」です。これらは企業に何をもたらすのでしょうか。そのために人事は、どのように変わっていく必要があるのでしょうか。早稲田大学 商学学術院の谷口真美教授にうかがいました。

Profile

たにぐち・まみ/1996年神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了、博士(経営学取得)。2008年4月より現職。2013年8月より2015年3月まで、マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院研究員。2020年度まで経済産業省ダイバーシティ経営企業 100選/プライム 運営委員。2021年度は同省人的資本経営の実現に向けた検討会 委員。 ダイバーシティを専門とし、戦略変革の時期に応じたD&Iの論文は、2020年8月アカデミーオブマネジメント、国際経営部門のペストペーパーの一つに選出。また、2006年から現在までボストン大学ダグラス・ホール名誉教授らと、キャリア意識と行動の26か国比較研究に取り組む。

本当の多様性は深層のダイバーシティの中にある

かつて女性活躍を中心に語られることが多かった「ダイバーシティ」ですが、近年は「ダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)」「深層のダイバーシティ」「インクルージョン」「エクイティ」など、言葉にも変化がみられるようになってきました。この状況をどのようにご覧になっていますか。

新しい言葉が出てくるのは、必要性があるからです。既存の言葉への対応に一区切りがついて次のステップに進む段階に入った、ということでしょう。「インクルージョン」という言葉は、2000年前後にアメリカで使われるようになりました。当時は「ダイバーシティ」という言葉とともに、多様な人材を採用し雇用するための制度の設計・整備が一巡したところでしたが、新しく入ってきた人材が実際に職場で生かされるまでには至っていませんでした。さまざまな属性の人材を採用するだけでなく、そういう人材が、組織に自分の居場所があると感じ、自らのアイデンティティが組織の成果に生かされていると実感できているかが問われ始めたのです。企業の課題意識がこのように変遷していく中で、この概念を表すものとしてインクルージョンという言葉が現れました。

日本企業の取り組みもその文脈に沿っています。ダイバーシティの入口においては、女性活躍を掲げたり、キャリア採用を活発化したりしてきましたが、正直、どの会社の施策もあまり差がありません。しかし、さらにインクルージョンに着目して取り組むことで、多様性の強みが生きてきます。日本企業もその段階に入ってきたといえるでしょう。

ダイバーシティには、性別、年齢、人種・民族などの「表層のダイバーシティ」と、外見からは識別できない、知識、スキル、能力、経歴、物事の見方、価値観やコミュニケーションスタイルといった「深層のダイバーシティ」とがあります。これまでダイバーシティに関わる制度の設計・整備は、女性、高齢者、障がい者といった「表層のダイバーシティ」を進めるために行われていました。しかし、本当の意味で「多様性を生かす」ためには、個々人の持つ深層のダイバーシティが職場で生かされることを期待しているはずです。

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