激動の時代に求められる「戦略人事」とは
企業の成長に貢献する人事の本質的役割を考える
野田 稔さん(明治大学専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科)
ビジネス環境や市場、組織、個人などあらゆるものを取り巻く環境が変化し、将来の予測が困難になっている現状から「VUCAの時代」と言われる現代。加えて2020年は、新型コロナウイルス感染症の流行で、大手からベンチャーまで、いずれの企業も予期できなかった変化にさらされました。この激動の時代に求められる人事の役割とは何でしょうか。企業の成長に直結する「戦略人事」をテーマに、明治大学専門職大学院 教授の野田稔先生にお話をうかがいました。
のだ・みのる/一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。野村総合研究所、リクルート新規事業担当フェロー、多摩大学教授を経て現職に至る。専門は組織論、組織開発論、人事・人材育成論、経営戦略論、ミーティングマネジメント。大学で学生の指導に当たる一方、企業に向けて組織・人事領域を中心に、幅広いテーマで実践的なコンサルティング活動も行う。ニュース番組のキャスターやコメンテーターなど、メディア出演も多数。
戦略人事とは、経営戦略の実現のためにあるもの
まずは、野田先生の考える「戦略人事」の定義について教えてください。
戦略人事という言葉は、いろいろな使われ方をしていますが、学習院大学の守島基博先生がまとめられた、「戦略人材マネジメントとは、『経営戦略』と『人材マネジメント』をリンクし、経営戦略の達成や企業の競争力を確保するために人材マネジメントを行うこと」という定義が最も明確だと思います。簡単に言うと、経営戦略の実現のために人事機能を果たしていくという意味です。
私は、人事が果たすべき役割は、大きく三つあると捉えています。一つ目は「同じ人件費を使いながら、最大限のやる気を社員から引き出せるような制度・仕組み・文化・組織を構築し、現場での運用を支援すること」。ポイントは「社員のやる気を引き出す」という部分です。現在は、人件費の削減にばかり目を向ける人事が多いですが、人件費効率や人件費効果にこそ注目してほしいと考えています。
例えば、あるラグジュアリーブランドでは、年間の販売成績優秀者に対して海外旅行をプレゼントしていました。海外旅行といっても、観光目的ではありません。行き先はフランス。香水を調香している現場を見学させたり、オートクチュールを縫っているお針子さんたちに会わせたりと、まさに自分たちが手がけているブランドの原点とも言える場所や人との出会いの場をつくったのです。旅費にかかる費用を全額インセンティブとして支給することもできますが、単純にインセンティブを支給した場合と、ブランド価値を体感できるツアーに連れて行った場合、長期的に見てどちらが社員のエンゲージメントを高めるかは言うまでもありません。このような人件費効果を考え、工夫をすることが、人事に求められる役割の一つだと言えます。
二つ目は「企業の戦略に合わせて、その戦略を遂行するにふさわしい能力・スキル・マインドセットを持った社員を、必要な時に、当該現場に供給すること」。
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