HRのオピニオンリーダー100人が提言、日本の人事を考える情報誌 「日本の人事部 LEADERS(リーダーズ)」

「人・組織・経営」研究の第一人者に聞く

変幻自在のプロティアン・キャリアをどう築くのか
いま企業に求められる「キャリア戦略会議」とは

田中 研之輔さん(法政大学 キャリアデザイン学部 教授)

法政大学 キャリアデザイン学部 教授 田中研之輔さん

人生100年時代の到来や、企業におけるDXの進展、世界的な新型コロナウイルス感染症の流行など、かつてないほどの大きな変化が起こっています。先の見えない状況が続く中、人事は従業員のキャリアをどのように考え、何をすればいいのでしょうか。近年注目されているのは、自分自身で主体的にキャリアを形成していく「キャリア自律」ですが、法政大学キャリアデザイン学部教授の田中研之輔先生は、その最先端理論として「プロティアン・キャリア」を提唱しています。いま個人と組織に求められている「キャリア戦略」について、田中先生にお話をうかがいました。

Profile

たなか・けんのすけ/博士:社会学。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。専門はキャリア論、組織論。一般社団法人プロティアン・キャリア協会代表理事。UC. Berkeley元客員研究員、University of Melbourne元客員研究員、日本学術振興会特別研究員SPD 東京大学。社外取締役・社外顧問を23社歴任。著書25冊。『辞める研修 辞めない研修 新人育成の組織エスノグラフィー』『先生は教えてくれない就活のトリセツ』『ルポ不法移民』『丼家の経営』『都市に刻む軌跡』『走らないトヨタ』、訳書に『ボディ&ソウル』『ストリートのコード』など。ソフトバンクアカデミア外部一期生。専門社会調査士。新刊『プロティアン 70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本論』。最新刊に『ビジトレ 今日から始めるミドルシニアのキャリア開発』。日経ビジネス、日経STYLEほかメディア多数連載。

いま求められるのは自律的キャリア形成と変化対応力

田中先生は、人生100年時代の新しい生き方・働き方として「プロティアン・キャリア」を提唱されています。まずは、その概要についてお聞かせください。

プロティアン・キャリアとは、米ボストン大学経営大学院で組織行動学や心理学を専門とする、ダグラス・ホール教授が1976年に提唱した概念です。プロティアンの語源は、ギリシャ神話に登場する神プロテウス。火になり、水になり、ときには獣にさえなる神プロテウスのように、社会や環境の変化に応じて柔軟に変わることができる“変幻自在なキャリア” をダグラス・ホール教授は「プロティアン・キャリア」と定義したのです。

私は2019年8月に、このプロティアン・キャリアにキャリア資本論・戦略的視点・キャリア開発実践法を取り入れ、現代版プロティアン・キャリア論として『プロティアン 70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術』(日経BP社)を出版しました。私はなぜ、この本を書きたいと思ったのか。その動機には、社会の変化が大きく関係しています。

現代は人生100年といわれ、退職してから30年、40年と生きていく時代。未曾有の長寿社会を迎えていますが、できるだけ長く働き続けたいと思っても、一つの会社や組織だけに居場所を求めることは困難です。また、近年では政府による「働き方改革の推進」や、経済界による「日本型雇用の制度転換」など、歴史的な変化も起こっています。

これまでは組織の中で右肩上がりに昇進を続ける「組織内キャリア」にばかり注目が集まっていましたが、組織内キャリアをどんなに磨いても、会社は生涯を保障してくれません。これからは自分で主体的にキャリアを形成する「自律型キャリア」の時代がくる。自律型キャリアの最先端理論として「プロティアン・キャリア」を広めたいと考えました。

2019年に書籍を出版されてから、約2年が経過しようとしています。この間に、企業や個人のキャリア観に変化はありましたか。

出版して半年が経ったころ、新型コロナウイルス感染症の流行が起こりました。コロナ・パンデミックを前に、必要とされたのが「変化対応力」です。自律的キャリアだけではもはや十分ではなく、社会のニーズに合わせて自ら主体的に変わっていく「自律的キャリア × 変化対応力」がいま、求められていると感じます。

以前は、プロティアン・キャリアはハイスペック人材に限られた話だと誤解されやすかったのですが、コロナ・パンデミックが起きたことにより、「変化に対応して自律的なキャリアを築くこと」や「テレワークを含めて多様な働き方を支援すること」は、一部の人材や企業に限られた話ではなくなりました。

この続きは「日本の人事部 LEADERS(リーダーズ) Vol.9」でご覧になれます。

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