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「日本の人事部 LEADERS(リーダーズ)」TOP  >  2017 Vol.5  >  太田肇さんインタビュー
「人・組織・経営」研究の権威に聞く

人事改革のキーワードは「分化」
尊重・承認から始まる個人と組織の新しい関係性とは

太田 肇さん(同志社大学 政策学部・同大学院 総合政策科学研究科 教授)

同志社大学 政策学部・同大学院 総合政策科学研究科 教授 太田肇さん

日本の強みは勤勉さとチームワーク――日本人なら、誰もがこの言葉にうなずくでしょう。スポーツの団体競技からものづくりまで、組織一丸の頑張りやチームワークこそが世界と渡り合う上でのよりどころだと、広く信じられてきました。しかしそれが今、危うい状況にあります。各種調査によると、日本人の組織への帰属意識や仕事への熱意は世界最低レベル。海外では「日本人はチームワークが苦手」との評判まで広がっています。日本の人と組織に、いったい何が起こっているのでしょうか。「社員の意欲と能力のわずかな差が企業の生死を分ける時代に、古めかしい“組織の論理”がまかり通り、個人の活力を奪っている」とおっしゃるのは、同志社大学政策学部教授の太田肇先生です。組織を個人の視点から問い直す“異端”の組織学の真髄を語っていただきました。

Profile

おおた・はじめ/1954年生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。京都大学経済学博士。公務員を経験の後、滋賀大学経済学部教授などを経て2004年より同志社大学教授。専門は組織論、人的資源管理論。経営者、ビジネスマンなどを相手に講演やセミナーを精力的にこなし、マスコミでも広く発言している。著書として『承認欲求』『お金より名誉のモチベ-ション論』(以上、東洋経済新報社)、『日本人ビジネスマン「見せかけの勤勉」の正体』(PHP研究所)、『承認とモチベーション』(同文舘出版)、『公務員革命』(ちくま新書)、『組織を強くする人材活用戦略 』(日経文庫)、『がんばると迷惑な人』『個人を幸福にしない日本の組織』(以上、新潮新書)、『最強のモチベーション術 人は何を考え、どう動くのか?』(日本実業出版社)、『「分化」の組織論』(新潮社)などがある。

「個人を幸福にしない日本の組織」はもう限界!?

太田先生は、企業をはじめ地方自治体、教育機関などあらゆる組織を、個人を起点に問い直す「個人尊重の組織論」というユニークな研究をされています。その概要を改めてご説明ください。

従来の経営学や組織論は、組織を経営者の視点から、あるいは組織全体の立場から観察し、研究するのが一般的でした。しかしどんな組織であれ、それを動かしているのは結局のところ個々の人間であり、その人間が何を考え、どう行動しようとしているのか、そこに焦点を当てない限り、本当の姿は見えてきません。そもそも組織は個人が単独では成し遂げられないことを実現するために作られるものであり、最終的に個人のためにならない組織は無意味です。そうした考えから私はこの20年来、多くの学者が当然視する見方とは逆に、一個人の視点に立って組織のあり方を問い直してきました。

生産活動をめぐる時代環境は工業化社会からポスト工業化社会へ移り、IT化やグローバル化の進行で、いまや個人と組織のあるべき姿も加速度的に変わりつつあります。ものづくり中心の時代に必要だった、決められた作業を標準的な勤勉さで大量にこなすような仕事は機械や新興国に任せればいいでしょう。今後、国内の正社員に求められる能力は、多様化・複雑化する市場や顧客のニーズに即応して新しい価値を創造するような、いわば人間特有の高度な知恵です。そしてそうした能力は、組織に依存する受け身の働き方では十分に発揮されません。経営側の立場からすると、社員一人ひとりを自立した個人として尊重し、本人の自発的な働き方や本気のモチベーションを促すことで、組織全体の成果や競争力の向上へつなげていく――そういう時代に入ってきたといえます。

ところが、長きにわたる過去の工業化社会時代の“慣性”が働いているため、企業社会ではいまだに「一丸」「団結」といった言葉が唱えられ、“組織の論理”を優先する風土がはびこっています。ここを改めなければ、人も企業も環境の変化に適応できません。

この続きは「日本の人事部 LEADERS(リーダーズ) Vol.5」でご覧になれます。

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