HRのオピニオンリーダー100人が提言、日本の人事を考える情報誌 「日本の人事部 LEADERS(リーダーズ)」

「日本の人事部 LEADERS(リーダーズ)」TOP  >  2017 Vol.5  >  伊丹敬之さんインタビュー
「人・組織・経営」研究の権威に聞く

経営者は“育てる”ものではなく“育つ”もの
経営課題を把握し、人材を見る眼を持った人事部が次代の経営者を見出す

伊丹 敬之さん(一橋大学 名誉教授)

一橋大学 名誉教授 伊丹敬之さん

いま、日本人の働き方、日本企業の雇用管理のあり方が大きく変わろうとしています。「働き方改革」「長時間労働」「人手不足」など、人・組織に関する課題はさまざま。これらの困難な問題に企業が対応していくには、経営者のリーダーシップが不可欠ですが、一橋大学名誉教授の伊丹敬之先生は「肝心の経営者の“器量”の問題が深刻だ。日本全体が必要とするだけの“器量”の質と量の供給もきちんと行われていない」と警鐘を鳴らします。果たしてこれからの日本企業には、どんな経営者が求められるのでしょうか。また、そのような経営者が育つために、人事部は何をすればいいのでしょうか。40年以上にわたって、日本企業の経営のあり方について独自の視点からメッセージを発信してこられた伊丹先生に、詳しいお話をうかがいました。

Profile

いたみ・ひろゆき/1945年生まれ。一橋大学商学部卒業。カーネギー・メロン大学経営大学院博士課程修了(Ph.D)。一橋大学商学部教授、同大学商学部長、スタンフォード大学客員准教授、東京理科大学大学院イノベーション研究科教授などを歴任。2017年4月からは、次世代経営者を育成するための私塾を開講する。著書は『マネジメント・コントロールの理論』(岩波書店)、『人本主義企業』(筑摩書房)、『日本型コーポレートガバナンス』『経営戦略の論理』『イノベーションを興す』『日本企業は何で食っていくのか』(以上、日本経済新聞出版社)、『経営を見る眼』『経済を見る眼』(以上、東洋経済新報社)など、多数。

「独断の根拠」を持てる人が経営者となるべき

企業において、経営者に求められるものとは何でしょうか。

大きく分けて二つあります。一つは、経営の方向性という大きなビジョンをきちんと明示すること。もう一つは、自分がよく分からない分野のことでも、バランス良く決断できることです。経営者は、会社の中にある全ての仕事の詳細を知っているわけではありません。しかし、経営を進めていくためには、最後は自らが決断しなければならない。そのためには、「独断の根拠」を自分の中に持つ必要があります。それを持っている人こそ、経営者になるべきなのです。これは日本、欧米に限らずどの国でも同じで、今後も決して変わりません。私は経営者には、組織の求心力となるリーダー、外部に向かっての代表者、そして企業のグランドデザインを提示する設計者という三つの役割があると言ってきましたが、その根底には、いま申し上げたような考えがあります。

現在の日本企業にはどのような「経営課題」があるとお考えですか。また、それを解決するために経営者は何をすればいいのでしょうか。

物理的な側面と心理的な側面の二つの課題があります。物理的な課題とは、投資をすること。どの企業も毎年投資を行っていますが、内外を問わず規模が小さ過ぎます。これでは、組織として元気が出ません。投資しない理由はいろいろとありますが、心理的な課題と関連します。それは、組織における心理的エネルギーが低下していることです。現状よりも、2ランクくらいアップさせなくてはなりません。前向きに行動しようという、まさに動物的なエネルギーを創り出すこと。このエネルギーを大きくするために必要なのが、大きな投資なのです。すると、社内でやるべき仕事が増えて活動する水準が上がりますから、必然的に組織全体にエネルギーが湧き起こってきます。このような話をすると、人事部の人たちは能力開発やモチベーション研修の実施を考えがちですが、それは正しくありません。能力開発は現実の仕事を通じて行われるものであり、仕事で得られるダイナミズムを大きくすればいいのです。

この続きは「日本の人事部 LEADERS(リーダーズ) Vol.5」でご覧になれます。

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