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フロンティアリーダーに聞く

枠を超え、壁を突破する加点法のリーダーシップとは

川口 淳一郎さん(JAXA(独立行政法人宇宙航空研究開発機構) シニアフェロー/宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 教授)

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授 川口淳一郎さん

絶体絶命と言われながら“奇跡の生還” を果たした小惑星探査機「はやぶさ」の物語は、日本中の感動を呼びました。世界初のプロジェクトを成功へと導いたのは、JAXA(宇宙航空研究開発機構)のシニアフェローで工学博士の川口淳一郎さん。幾多の危機に直面しながら困難なミッションを成し遂げたリーダーとして、科学者や技術者のみならず、一般のビジネスパーソンからも大いに注目を集めています。新しい仕事にチャレンジする心構えとは何か、失敗とどう向き合うべきか、これからの人材育成はどうあるべきか――未知への挑戦を使命とする宇宙開発の第一人者の言葉には、枠にとらわれ、自分を見失い、変わりたくても変われない多くの日本人への、貴重な示唆が詰まっていました。

Profile

かわぐち・じゅんいちろう/宇宙工学者、工学博士。1978年 京都大学工学部卒業後、東京大学大学院工学系研究科航空学専攻博士課程を修了し、旧文部省宇宙科学研究所に助手として着任、2000年に教授に就任。2007年4月から2011年9月まで、月惑星探査プログラムグループ プログラムディレクタ (JSPEC/JAXA)、1996年から2011年9月まで、「はやぶさ」プロジェクトマネージャーを務める。現在、独立行政法人宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所(ISAS/JAXA) 宇宙飛翔工学研究系教授、2011年8月より、シニアフェローを務める。著書に、『はやぶさ、そうまでして君は~生みの親がはじめて明かすプロジェクト秘話』(宝島社)、『「はやぶさ」式思考法 日本を復活させる24の提言』(飛鳥新社)、『閃く脳の作り方 飛躍を起こすのに必要な11のこと』(飛鳥新社)などがある。

自ら考えて判断せよ!「学んでさえいれば道が開ける」は錯覚

川口先生が宇宙に興味を持たれたのは小学生の頃、人類初の宇宙飛行士ガガーリンの活躍を報道や映画で知ったのがきっかけと伺っています。以来、ずっと宇宙ひと筋で、幼い頃の憧れを追い続けてこられたわけですね。

小さい頃から関心をもっていたのは確かですが、決して“宇宙ひと筋” だったわけではありません。ほかにもいろいろと興味があって迷ったし、そもそも自分の将来や先々の進路をどうするか、学生時代にはほとんど考えていませんでした。大学を選ぶ時も、文系と理系では、どちらかといえば理系だろうなと、それぐらいしか頭にありませんでしたね。何かものづくりができればと、ぼんやり考えていただけでした。

それは意外です。では、「宇宙」を自分の仕事として具体的に意識し始めたのはいつからですか?

初めて自分で自分の行く道を考えたのは、就職するか、大学に残ってもう少し研究するかというタイミングでしたね。そ れで、宇宙開発の道に進んでみようかと。小さい頃から自分の将来を考えて意識的に進路を決められる人は、あまりい ないと思います。「自分は将来こういう仕事に就きたいから、この大学のこの学部に進む」というより、何となく選んだ大学や学部によって、その先の進路も決まってしまうほうが実態としては多いでしょう。

昔は15歳で元服ですから、その時にはもう自分で自分の将来を決めなければならなかったわけですが、今の10代ではまず無理ですよね。大学を出る段階になっても難しい。私もそうでしたし、迷う人はたくさんいます。現に最近は一度社会へ出てから、また学校に入り直す人が少なくありません。

なぜ迷うのでしょうか。

「自分で考えて判断する」という経験が足りないからでしょうね。言いかえれば、ただ教わったり習ったり、知識を与えられたりするだけの「学び」から、日本人はいくつになっても抜け出せない。むしろそういう学びの中にずっと身を置きたいと、若者に思わせるような教育や人材育成が行われているということです。ここが日本の一番の問題だと思います。自分で考えて自分で決めるなんて、求められたこともなければ、トレーニングした経験もない。だから判断を迷ったり、先延ばししたりしてしまうのは当然なんです。

迷うと、まだ学びが足りないんじゃないか、もっと学ばなきゃいけないんじゃないかと思ってしまいます。あれこれと学んでさえいれば、いつかその先に自分の将来が開けてくるような気がして、安心できるわけです。でも、それはまったくの誤解です。会社帰りに英会話学校に通っていれば、海外で働くチャンスがめぐってくるわけではありませんよね。まず自分で自分の仕事を創り出し、その上で必要に迫られたら、語学でも何でも学べばいいと思います。

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