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掲載:2018.03.12

日本の人事部 HRコンソーシアム主催 人事新年会
「人生100年時代のキャリアと学びを考える」

HRコンソーシアムのコンセプトは「人事同士がつながりあい、学びあう、人事のオープンプラットフォーム」。2018年2月2日には130名を超える会員が集まり、新年会(セミナー、懇親会)が開催された。セミナーのテーマは「人生100年時代のキャリアと学びを考える」。法政大学・武石教授、ソフトバンク・源田氏、GEジャパン・谷本氏による課題提起をもとに、参加者全員でディスカッションを行った。この壮大なテーマについて、人事の方々はどう考え、何をしようとしているのか。当日の様子をレポート形式でお伝えする。

プロフィール

法政大学 キャリアデザイン学部 教授 武石 恵美子氏(たけいし えみこ) 専門は、人的資源管理論、女性労働論。お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士課程修了。博士(社会科学)。労働省(現 厚生労働省)、ニッセイ基礎研究所、東京大学社会科学研究所助教授などを経て、2006年4月より法政大学。著書に、『雇用システムと女性のキャリア』(勁草書房)、『国際比較の視点から日本のワーク・ライフ・バランスを考える』(編著、ミネルヴァ書房)、『ダイバーシティ経営と人材活用』(共編著、東京大学出版会)、『キャリア開発論』(中央経済社)など多数。厚生労働省「中央最低賃金審議会」「労働政策審議会 障害者雇用分科会」「労働政策審議会 雇用均等分科会」などの公職や民間企業の社外役員を務める。
ソフトバンク株式会社 人事本部 採用・人材開発統括部 統括部長 源田 泰之氏(げんだ やすゆき) 1998年入社。営業を経験後、2008年より現職。新卒及び中途採用全体の責任者。ソフトバンクグループ社員向けの研修機関であるソフトバンクユニバーシティおよび後継者育成機関のソフトバンクアカデミア、新規事業提案制度(ソフトバンクイノベンチャー)の責任者。ソフトバンクグループ株式会社・管理統括人事部 アカデミア推進グループ、SBイノベンチャー・取締役を務める。採用では地方創生インターンなどユニークな制度を構築。幅広い分野で活躍する若手人材と、企業の枠を超え、国内外問わず交流を持つ。教育機関でのキャリア講義や人材育成の講演実績など多数。
GEジャパン株式会社 執行役員 人事部長 谷本 美穂氏(たにもと みほ) 慶應義塾大学卒業。2000年GEに入社。人事リーダーシップ・プログラムに選抜され国内並びに米国の金融部門で業務ローテーションを行う。その後、米国金融部門の人事担当、日本GE本社部門の採用リーダーや組織開発マネージャーを歴任。2011~2014年の間は米国のGEグローバル本社にて次世代グローバルリーダー開発担当マネジャー。帰国後は日本地区の組織開発・人材育成リーダーを経て、2016年よりGEジャパン人事部長を務める。

武石氏によるプレゼンテーション:
個人がキャリアを自律的に考える時代へ

セッションは、登壇者それぞれによるプレゼンテーションからスタートした。まず武石氏が「人生100年時代」に起きる変化について解説した。

「これまでは人生70~80年で、60~65歳に仕事を引退するというゴールを見据えながら、職業キャリアを考える時代が長く続いてきました。しかし、2000年前後に生まれた若者たちは、人生100年といわれています。これまでと比べて、人が一生のうちに使える時間が大幅に長くなるのです」

武石氏はここで、書籍『ライフ・シフト』の著者で人生100年時代の提唱者であるリンダ・グラットン氏による、「人生においてこれから重要度が増す三つの無形の資産」を紹介した。一つ目は所得を得るための「生産性資産」。二つ目は長く働くための心身の健康である「活力資産」。三つ目は世の中に柔軟に対応していける「変身資産」だ。

「変身していく個人を企業がどのように支えていくのかを、今後の人事は問われることになります」

人生100年時代の社会の変化について考えようとしても、その変化の方向は不確実でスピードが速く、予測することが難しい。当然、人材育成の方向性を定めることが極めて難しい時代になることが予想される。

「今後は、効果的な人材育成のプランを企業主導でつくることが困難になるのではないかと思います。内部育成の効果は低下し、外部調達との機能分担のあり方を検討する必要が出てくる。そのため、視点は人材開発から、個人主導の『キャリア開発』へと転換されるのではないでしょうか。今後は個人のキャリア自律が重要になってくると思います」

人材開発とは、組織が主体的に人材を育成していくものだ。これまでは、ある程度の完成形を目指しながら、「こうすれば人が育つ」という感覚の中で人材開発が行われてきた。それに対してキャリア開発では、主体が「個人」へと移る。キャリアをどのようにつくっていくのか、働く人自身が自分のキャリアを考えることが求められるのだ。

「キャリア開発という考え方を、これからの企業は人事の仕組みの中に明確に位置づけていかなければなりません。また、個人は、自ら仕事を選べること、働き方を選べること、自分が投資する能力を選べることが重要になります。その分、自己の責任も認識しておかなければなりません」

今後、企業はキャリア自律を支援する組織に変化していかなければならない。そのためには、キャリア自律の受け皿となる人事制度を整備し、柔軟な働き方の提示をすることが求められる。

「個人のキャリア志向と組織の方向性のすり合わせを行いながら、キャリア自律を支援していくことが、自律的な人材を引き止めることにもつながっていくのではないでしょうか」

源田氏によるプレゼンテーション:
人材を成長させる「ネットワーク」と「コミュニティ」

続いて源田氏が、ソフトバンクが行うキャリア開発と学びの特徴について語った。まずは、人材のネットワークや人脈で得られる対話による学びに関して。

「働き方改革の一環として、自己啓発のために月1万円の支援金を全社員に配っています。また、2017年11月には副業を解禁しました。副業を活用することで、社員が多様な経験を積み、それが仕事にも循環される流れが生まれるのではないかと考えています」

現時点ですでに、120件以上の副業が承認されている。内容をみるとエンジニアにはプログラミング業務が多く、そのほかにも大学で講義をしたり、本を書いたり、両親の会社を週末だけ手伝ったりするなど、さまざまな副業が許可されている。

ソフトバンクでは、社員のキャリア自律のためにサポートを行っているが、それは同社の人事施策の根本に置かれているものだという。

「ジョブポスティングやFAなど、自分で手をあげて次のキャリアにチャレンジできる制度では、毎年200名以上がキャリアチェンジを実現させています。また、約70ある集合型研修コースは、ほぼすべて手上げ制で、社員が受けたいコースを選択することができます」

社員の学びを支える重要な仕組みとして、ソフトバンクには社内認定講師制度がある。同社の研修のうち9割は内製化されているが、この研修が人をつなぐ、よいコミュニティになっているという。

「研修で聞いたことが現場でうまくいかないとき、社内認定講師であれば、すぐに疑問を伝えてフィードバックをもらうことができます。継続的なつながりが担保されているので、より実践的な学びになっています」

他にもソフトバンクグループでは孫正義代表の後継者を育成する目的で、ソフトバンクアカデミアを開講。社内外の約300名が所属している。約半数が外部生で、そのうち7割は自身で会社経営を行っている経営者だ。

「他にも弁護士、学生、政治家、医者、官僚などいろいろなバックグラウンドの方が揃っています。参加者に話を聞くと、アカデミアに入る一番の理由は『コミュニティ』でした」

また、ソフトバンクイノベンチャーはソフトバンクグループの従業員を対象とした新規事業提案制度だ。

「社内起業家の育成を後押しするためのイノベンチャー・ラボがあり、皆でコミュニティをつくって新規事業を考えています。イノベンチャー・ラボにはすでに2000名以上の社員が登録して活動中です。すでに13事業が立ち上がっており、最近では自転車のシェアリングサービスなどの事業がスタートしています」

谷本氏によるプレゼンテーション:
社員にはできるだけ「自由」と「責任」を与える

インフラ事業中心のGEだが、現在はハードウェア企業からソフトを融合させたデジタルインダストリアル企業への変革期にある。この大きな転換の中で、人事は企業カルチャーも変えていかねばならない。このような状況下で、谷本氏には思い出す言葉があるという。元会長のジャック・ウェルチ氏の言葉だ。

「Control your destiny, or someone else will. 『自分の運命は自分でコントロールしよう。さもないと誰かにコントロールされてしまう』という意味です。GEの基本的な人事の仕組みは、この言葉を基に成り立っています」

社員と会社との対等な関係性を見ると、そのことがよくわかる。GEには180ヵ国30万人以上の社員がいるが、世界中どこにいってもまったく同じ制度で働いている。もっとも重視されているのは成果主義。パフォーマンスで人を評価し育てていくのだ。

「社員の異動も、人事が一方的に決めるのではありません。すべては社内公募制で、自分でやりたい仕事を決め、職場を移ることができます。また、社内には評価決議会議もありません。以前は行っていましたが、現在のタレントレビューは基本的に部下の成長を支援しています。つまり上司は目標管理ではなく、パフォーマンス促進を行うのです」

最近では、社員が自らの働き方への思い込みについて考える「SmartWork@GE」という活動も行っている。これは「真の生産性とは何か」「働き方と生き方の関係とは何か」といった仕事のあり方について話し合う活動だ。

「これらの活動からわかったのは、社員を信頼するほどより大きな成果が生まれる、ということです。人事にとっても、非常に大きな発見でした。現在の私たちのテーマは、社員にはできるだけ自由と責任を与えよう、ということです」

人生100年時代はデジタルテクノロジーにより、働き方や会社の中の構造が大きく変わっていく。谷本氏は、これからの時代を生きるには、人間の付加価値は何なのかを考え、もっと専門性を追求していくことが大事だという。

「GEで今、新しい考え方として導入されているのが『エンプロイー・エクスペリエンス』。従業員が企業や組織の中で体験する経験価値です。人生が長くなれば一つの会社ではなく、いくつもの会社で仕事をすることになります。そのため企業としては、社員にいかに長く働いて、成長してもらうかを考えなければなりません。今後人事の仕事は、人の『管理』から『デザイン』に変わっていくと思います」

また谷本氏は、人のキャリアについて、「人生のテーマを見つけ、それを追求していくことでつくられるのではないか」と語る。

「早くからそのことを社員に問いかけ、自分のテーマを見つけてもらい、専門性をつけてもらうようにする。時代に変化があっても、自分の専門性を大事にしていけるような仕組みをつくることが大事だと思います」

キャリア自律の時代にも組織で共に働く「一体感」が必要

武石:具体的な制度について、お二人にお聞きしたいと思います。ソフトバンクで行われている副業ですが、具体的にはどのような内容でしょうか。

源田:個人の成長につながることを基準の一つとしています。ただし、細かく決めた内容にしてしまうとうまくいかないので、ある程度は社員を信頼し、「どんどん相談にきてね」と伝えています。

谷本:GEも大々的ではありませんが、個別で兼業は認めています。意外に多いのは、仕事とは関係のない、趣味の領域でのビジネスに関する相談です。今後問題になると思うのは、仕事との重なり具合をどの程度認めるかです。例えば「週末に他社をコンサルティングしたい」といったことを、どこまで許容するのかが課題になっています。

武石:夜間大学院の話ですが、社会人学生の中に、会社には大学院に通っていることを内緒にしている方がいます。話をうかがってみると「転職すると思われるのが嫌だから」とおっしゃっていました。人事が自社の人材が何をしているのかわからないのは、とてももったいないことだと思います。個々が持つスキルやネットワークは、会社がしっかり把握していたほうがいいですね。

源田:ただ、会社が人材を囲い込むという方向性には不安があります。それよりも、個人がどんどん外に向けてチャレンジできるような環境をつくることが大事ではないでしょうか。個人が学ぶことを、社内でも社外でもポジティブに受け取ってもらえるようにしなければいけないと思います。

武石:多様な学びの環境をつくることが、組織の求心力を強めるのではなく、人材が外に飛び出すことにつながるのではないか、と危惧する人もいるでしょう。その点について、源田さんはどう思われますか。

源田:それで出ていくのなら、会社の魅力が足りないのだと思います。「考えてみたら、これは社内でもできるな」と思える環境をつくることが大事ではないでしょうか。一人ひとりのチャレンジが会社の成長につながっていく循環の実現を、目指すべきだと思います。

武石:次に谷本さんにお聞きします。異動のすべては公募ということですが、部署には人気のあるところ、ないところもあると思います。調整をされることもあるのでしょうか。

谷本:入社の段階で個々に専門性の希望を聞いて配属しているので、部署の人気のあるなしは基本的には生じません。あえて人気の差があるとしたら、人事権を持つ部門リーダーに対して「あの人の下で働いてみたい」と思う人の数によるものだと思います。

武石:お二人が話されている事例に出てくる社員の方々は、自分自身の将来への希望を会社にきちんと伝えられるしっかりとした人のように感じます。中には自分の将来について「まだ考えていない」といった人もいると思いますが、そのような社員にはどう対処されていますか。

谷本:やりたいことを見つけるフェーズやタイミングは、それぞれで違っていていいと思います。その上で日頃から私たちが社員に寄り添い、頻繁にコミュニケーションを取りながら、コーチングをまめに行っていくしかない。上司では言いにくいこともあると思うので、人事が話を聞き、本人に気付きを与える。それこそが人事が提供できる付加価値ではないかと思います。

源田:個人の希望を支援しようというスタンスはあります。しかし、現時点での仕事が自分のゴールだと思っている人に「もっとチャレンジしよう」と言っても仕方がありません。そこは本人の意思を尊重したい。ただ、会社そのものがどんどんチャレンジしている会社ですから、せっかくなら「会社のチャレンジに乗って、自分でもチャレンジしてみたら」といったメッセージを出していきたいと思っています。

武石:これからは組織で多様な人が活躍する時代になると思いますが、組織で共に働くためには一体感も必要だと思います。会社内で共有されている思いや理念はありますか。

谷本:GEでよく語られるのは、行動指針となるバリューです。トップ層は自分の言葉で会社の戦略を語り、何度も社員に対して問いかけています。その点では非常にコミュニケーション量が多い会社だと思います。評価の中にもバリューが反映されており、それにより社員は同じ方向を向くことができています。また、風土づくりも大事です。人事は制度設計に走りがちですが、どんな会社になるべきかを言葉で語ることは重要です。その中で、社員が自分自身で没頭できるテーマを見つけ、会社内でそれを実現できるサイクルをつくることが理想だと思っています。

源田:ソフトバンクの経営理念は「情報革命で人々を幸せに」ですが、この言葉に対する社員の共感度は非常に高いと思います。当社には働き方のキーワードとして「№1」「挑戦」「逆算」「スピード」「執念」といった言葉があり、評価にも取り入れることで、このような働き方を推奨しています。もちろん人事も例外ではなく、さまざまなことに挑戦しなければなりません。昨年からは、新卒のエントリーシートの合否判断にAIを導入しました。始める前は自分でも「どうなんだろう」と不安でしたが、学生に伝えると「さすが先進的な取り組みをしている」と魅力的に思ってくれ、会社のブランディング面でもプラスになっています。

人事自らがチャレンジし、リーダーシップを発揮していかなければならない

次に参加者がテーブルごとにわかれて「人生100年時代のキャリアと学びを考える」をテーマにディスカッションを行った。ディスカッション終了後は、数名の方が代表して話し合った内容を発表した。

社員が転職や起業で他の企業に移ることが増えましたが、その結果として、元の会社に戻る動きも増えている、という話がありました。例えば、大企業を出てベンチャーを起こしたがうまくいかなかったので元の会社に戻り、その人材がイノベーションのリーダーになっているそうです。こういった動きは現状では人事絡みの施策ではありませんが、人事が狙って行うようになれば、人材開発も面白くなるのではないでしょうか」
私たちのグループの半数は、店舗を持つ企業の方でした。興味深かったのは、店と企業の良し悪しを、社員にきちんと分けて考えてもらうことの重要性です。店のイメージが悪かったから会社も悪いと思われているようでは、採用にも大きく影響します。私の会社でパートやアルバイトとして勤めた人に、正社員にならないか、と勧誘する活動を行ったところ、入社者が大幅に増えたことがありました。これからは人材採用の視点から、個人のキャリアを考えることも大切だと思います」

最後に登壇者それぞれから、参加者へメッセージが送られた。

源田:人事はデータをもっと活用するくべきだと思います。それは経営層に提案をしていくうえでも大事なことです。もう一つ大切なことは、人事自らがチャレンジすること。変革の模範を示すことが重要だと思います。

谷本:社員にいい成長経験をさせてあげられると、人事の組織に対するインパクトも大きくなるのではないかと思います。また、人事には変革を起こすリーダーを育てる使命がありますが、そのためにはまず私たちが変革のリーダーにならなくてはいけません。ぜひ私たち人事から、リーダーシップを発揮していきましょう」

武石:人の成長には「自律」と「自立」という言葉が出てきますが、キャリアについて考えるときには「自律」のほうが使われます。「自律」が自身が方向性をコントロールするという意味合いが含まれます。豊かでイキイキとした社会では、自律した人材が活躍しています。学生に「自律」の重要性を繰り返し強調している私としては、人事の皆さんから、若者や社員の方々に向けて、「企業も自律的な人材を求めている」という強いメッセージを送ってほしいと思います。それが、個人の意識や行動を変えていく契機となるはずです。本日はありがとうございました。