関連記事

いま人事パーソンに求められるリーダーシップとは
経営と従業員をつなぐ、人事としての心構えを考える
2025.03.21 いま人事パーソンに求められるリーダーシップとは
経営と従業員をつなぐ、人事としての心構えを考える
現場の声を反映した人事制度や施策はどのようにして作られるのか
従業員の本音の引き出し方、関係性の築き方を考える
2024.09.06 現場の声を反映した人事制度や施策はどのようにして作られるのか
従業員の本音の引き出し方、関係性の築き方を考える
「シン・人事の大研究」
ゲストと共に考える、これからの人事パーソンの「学び」と「キャリア」
2024.03.26 「シン・人事の大研究」
ゲストと共に考える、これからの人事パーソンの「学び」と「キャリア」

掲載:2025.03.21

HRコンソーシアムレポート

2025年1月28日開催「HRコンソーシアム」全体交流会レポート
いま人事パーソンに求められるリーダーシップとは
経営と従業員をつなぐ、人事としての心構えを考える

田中 久美氏(株式会社ジャパネットホールディングス 人材開発・採用配置戦略部 ゼネラルマネジャー)
清水 宏紀氏(合同会社DMM .com人事部副部長 兼 合同会社EXNOA(DMM GAMES)人事部部長)
伊達 洋駆氏(株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役)

  • facebook
  • X
  • note
  • LINE
  • メール
  • 印刷
写真:2025年1月28日開催「HRコンソーシアム」全体交流会レポート いま人事パーソンに求められるリーダーシップとは 経営と従業員をつなぐ、人事としての心構えを考える

「戦略人事」を実現するには、人事パーソンのリーダーシップが欠かせない。「経営に資する」人事を実現するため、人事パーソンにはどのような覚悟が求められるのだろうか。ジャパネットホールディングスの田中氏、DMM .comの清水氏の事例を基に、ビジネスリサーチラボの伊達氏のファシリテーションで、いま人事パーソンに求められるリーダーシップについて議論した。

プロフィール
田中 久美氏(たなか ひさみ)
株式会社ジャパネットホールディングス 人材開発・採用配置戦略部 ゼネラルマネジャー

2006年九州大学法学部卒業後、株式会社ジャパネットたかた入社。カスタマーサービス、経営戦略室を経て、2016年より採用・人材開発を担当。2018年より労務部門にて働き方改革・健康経営に取り組み、健康経営優良法人(ホワイト500)5年連続認定取得。2023年3月より現職。

清水 宏紀氏(しみず ひろき)
合同会社DMM .com人事部副部長 兼 合同会社EXNOA(DMM GAMES)人事部部長

中途紹介事業責任者、メーカー人事を経てサイバーエージェントグループにて事業部人事として子会社の採用・人事全般に携わる。その後、ゲーム動画配信プラットフォーム事業の立上げに参画し、グループマネージャーとして多岐に渡るプロジェクトを担当。前職であるカインズではCHRO室長兼採用責任に従事。2024年6月から現職。

伊達 洋駆氏(だて ようく)
株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役

神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。組織・人事領域において調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知を活用した組織サーベイや人事データ分析を提供している。近著に『イノベーションを生み出すチームの作り方』(すばる舎)など。

田中氏によるプレゼンテーション:
経営と従業員をつなぎ、「絶対どうにかする」

田中氏は新卒でジャパネットたかたに入社し、コールセンター、秘書、EC販売などを経験した後、現在は人事部門でゼネラルマネジャーを務めている。入社して18年が経ち、事業部門と人事部門での経験はちょうど半分ずつ。「人事以外の経験が、人事として生かせている」と言う。

写真:田中 久美氏(株式会社ジャパネットホールディングス 人材開発・採用配置戦略部 ゼネラルマネジャー)

「人事パーソンに求められるリーダーシップと聞いてまず考えたのは『絶対どうにかする』という覚悟。そして人事は、経営の目線と従業員の目線をつないでいく存在であるべきです」

ジャパネットの特徴は「自前主義」だ。つまり、新規事業が立ち上がるたびに、これまでとは異なったさまざまな職種での採用が必要となる。

ジャパネットといえばテレビ通販の会社として認知度が高いが、その他にもクルーズ旅行事業や食品事業、サッカースタジアムの運営など、幅広く事業を展開している。田中氏は「どうにかする覚悟」で取り組んだ人材採用の例として、システム部門の採用活動について語った。

「さまざまなシステムが社内にあり、自社で開発しています。しかし、システム開発の人材は年々採用難易度が上がっていて、これまで通りの手法では採用が難しくなってきました。そこで、2000名ほどいるコールセンターの従業員に対し、システム開発に携わってみたいという方を募りました。システム部門に研修チームをつくってもらい、ゼロから人を育てることにチャレンジしたのです。

この施策には手ごたえを感じていましたが、必要な人数に届かなかったので、昨年はインドの大学を直接回り、日本での就業を希望するIT系の学生と面接を行いました。実際に2026年の入社が決まった人もいます。このように、採用については現場と相談しながら、あの手この手で取り組んでいます」

最後に、田中氏は人事としての心構えを語り、プレゼンテーションを締めくくった。

「当社はアットホームでストイックな人を採用することを方針としています。だからこそ、人事自身がアットホームでストイックでありたいと思っています。例えば、明るく挨拶をする、変化に対して一番迅速に対応するなど。人事のリーダーシップは、会社によってさまざまでしょう。今日は皆さんと議論を深めて一緒に学びたいと思います」

清水氏によるプレゼンテーション:
ビジョンを持ったペースメーカー、事業とメンバーの成長を支援する

清水氏は人材系企業やメーカーの人事を経験後、サイバーエージェントグループで事業サイドに転身し、メディア事業の立ち上げに携わった。前職のカインズで人事を務め、2024年6月からDMMで人事を担当している。田中氏と同様、キャリアの半分は人事以外だ。

「DMMは16領域・60の事業を展開しており、事業変化が激しい中で挑戦を繰り返す企業です。“なんでもやっているDMM”が生存戦略であり、変化に柔軟に対応し、事業ごとの独立性やスピード感を重視するためビジョンはありません」

一方、人事部門にはMVVが存在する。ミッションは「人・組織を通じて事業の進化をリードし、支える」。ビジョンは「日本一変化に強いバックオフィス」「人事をやるならDMM」だ。

「『人事をやるならDMM』と胸を張れる世界観を目指しています。『日本一変化に強いバックオフィス』を定義するのは難しいことですが、目標を達成して終わりではなく、変化する時代とともに人事のあり方も変えていき、高い視座をもって業務に臨む、という思いを込めています」

DMMは人事制度にも特徴がある。一般的に企業は、人事制度を一律に運用しているところが多い。DMMでは事業領域が多岐にわたることもあり、事業特性に合わせて制度をカスタマイズできる形で運用している。

清水氏は「人事は会社の中のひとつの役割に過ぎない」とし、「事業は良くなかったのか、圧倒的な当事者意識」を大事にしていると語った。

写真:清水 宏紀氏(合同会社DMM .com人事部副部長 兼 合同会社EXNOA(DMM GAMES)人事部部長)

「課題は、会社の組織図に沿ってやってくるものではありません。目の前で起きている経営課題や人事課題に対し、全方位で向き合っていくことが重要だと考えています。私が考える人事のリーダーシップとは、ビジョンを持ったペースメーカーであること。役割や手段に関係なく、事業成長とメンバーの成長や自己実現に向き合い続ける覚悟が重要だと考えています」

ディスカッション:
リーダーシップの原体験

写真:登壇者3名

伊達:リーダーシップは生まれながらのものではなく、徐々に育成されていくものだと思います。お二人のリーダーシップが形成されるきっかけとなった原体験についてお聞かせください。

田中:新卒で入社して1年ほど経った頃、私は現社長で当時はカスタマーサービス部門の本部長だった髙田旭人の秘書を務めていました。ある日、髙田から「カスタマーサービス部門の責任者を全員集めてほしい」と指示があり、私は責任者たちにメールで連絡して、朝礼でも周知しました。しかし、当日は7割くらいの人しか集まりませんでした。「なぜ全員集まっていないのか」と言う髙田に対して、私は「全員にメールを送付し、朝礼でも言いました」と主張したのですが、「連絡することではなく、実際に集めるところまでが仕事だ」と言われたのです。そのとき、最後までやり遂げることが仕事なのだと気づき、衝撃を受けました。そのことが強烈に記憶に残っています。「どうにかする覚悟」につながっている体験です。

清水:私は新卒で社会に出た半年後にリーマン・ショックを経験しました。当時身を置いていた人材業界も大打撃を受けました。今ほど転職市場も活発では無く、終身雇用が前提の時代背景の名残がある中で、「雇用は保証されているものではない」と痛感しました。自分のキャリアは自分で考えなくてはいけない、と思うきっかけになりましたね。

伊達:原体験がそれぞれのリーダーシップに影響しているのですね。「どうにかする」という言葉にあるように、お二人とも担当業務が幅広い。そうは言ってもすべての役割を担うことはできないわけで、どこまで自分がやるのか、という線引きはどのように決めていますか。

清水:自分で線引きするというよりも、人事部門として優先すべきことを明確にして、チームや経営陣とすり合わせるようにしています。最初のすり合わせがずれてしまうと、成果につながらないこともあるからです。また、経営の優先順位は常に変化するため、日々チューニングを行い、状況に応じて柔軟に対応することを心がけています。

田中:優先順位については、まず自分に任された仕事を確実に遂行すること。その上で余裕があれば、最終的な目的を達成するために最も効果的な領域に手を出していく、という順序がいいのではないでしょうか。

伊達:経営と従業員間の考えのギャップはどのように埋めていますか。

田中:経営陣が本当に従業員のことを考えて決めたことであっても、意思決定の背景が伝わらなかったりする場面があり、もどかしく感じることもあります。そのため、トップの話を階層的に伝えるのではなく、話していることがそのまま従業員の耳に入る場を作ることを大事にしています。社員との年次別座談会、全社朝礼のYouTube配信、社内向けSNSの活用などです。

清水:DMMは商売・事業の会社なので、人事も事業の一つと例えると、60社のクライアント(お客様)がいるという感覚で捉えています。その視点に立つと、人事は各事業の経営やメンバーに対してソリューションを提供するベンダーであり、人事メンバーはプロジェクトメンバーということになります。プロジェクトリーダーとして推進することが私の役割だと考えています。

伊達:大変な経験を乗り越えなければ、人事のリーダーにはなれないでしょう。心身のバランスを保つためにやっていることはありますか。

写真:伊達 洋駆氏(株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役)

田中:人事の仕事はハードですよね。何か起きても、結局自分に戻ってくると感じます。例えば、いい人材を採用できたのに、現場では何かがうまくいかなくて退職してしまったとします。人事としては「現場でちゃんと対応してほしい」と思いながらも、現場の受け入れ態勢ができていなくて研修が必要だという結論になれば、再び人事にボールが戻ってきます。

人事は目の前の人の顔を見ながら仕事ができるので、会社の様子が手に取るようにわかります。どの部署のメンバーも本当に頑張っていて、その人たちの力になりたいという想いがあるので、少々きつくても乗り越えられているのだと思います。

清水:人事のリーダーはハードであることは参加者の皆さんからも伝わってきます。では、なぜやれているか。やはり、個人ではなく組織で働くことによってスケールする楽しさを知っているからだと思います。心身のバランスを保つには、冗談のように聞こえるかもしれませんが、運動をすること。肉体的な負荷をかけることで、精神的な負荷と調和する感覚があります。

伊達:私もトレーニングをしているので、よくわかります。肉体的に元気であることはやはり重要ですよね。

質疑応答&グループディスカッション:
経営と人事メンバーをどうつなぐか

参加者1:現在どのような課題があって、人事としてどのようなリーダーシップを示していますか。また、3年後を見据えて、今どんな種まきをしているのかを教えてください。

田中:当社の人事部門は、以前は何か問題が起きたときにだけ姿を見せる、黒子のような存在だったと思います。しかし、人事が当社らしさを体現していこうと考えたら、やはり人事の考えを発信することが大事です。そのため、全社朝礼の場を活用し、研修の意図や給与改定の説明を人事が顔を出して直接伝えるようにしています。徐々に前に出ていく人事へと変化してきたつもりです。ただ、未来を見据えた取り組みについては課題を感じています。

清水:現在取り組んでいるのは、ミドルマネジメントの強化です。外部研修を活用したり、事業ごとにカスタマイズした研修を提供したりして進めています。DMMは経営スピードが早く、変化も激しいため、中期経営計画が存在しません。「普通の会社になっていくことから企業の衰退は始まる」と考えており、事業変化が激しく、常に勢いのある事業会社でいたい、という思いを持っているため、人事施策も柔軟に見直しています。

参加者2:お二人の会社は事業がどんどん増えて、職種の数も膨大になっていく点が共通しています。こうした変化に対応する醍醐味と難しさについて教えてください。

田中:当社は新規事業の立ち上げやM&Aも含め16社が集まっているので、グループ内でも各社の働き方が全く異なります。コールセンターやホテルは24時間営業ですし、クルーズ船は出航したら長期にわたり乗船します。グループ全体で統一の人事制度を導入しているので、制度設計が大変です。それでも、「アットホームでストイック」という共通の文化を醸成したいと考え、統一した人事制度に注力しています。

特に力を入れているのは働き方で、「週3回はノー残業デー」「仕事の持ち帰りは禁止」といったルールがあります。しかし、グループに入る前は夜通し仕事するのが当たり前だった会社の従業員に、このポリシーを理解してもらうのは容易ではありません。勤怠データをしっかりチェックし、各業界の良さも生かしながら取り組んでいます。

清水:人事をしていて感じるのは、同じことの繰り返しはない、ということです。「飽きがこない」という表現が合うかもしれません。意識しているのは、事業部の挑戦したいことに人事が寄り添うこと。多種多様な事業があるので、それぞれの特性に合わせて議論を重ねてチューニングしています。

参加者3:事業部門で問題が発生した際に、事業責任者から人事が呼び出されることがあります。人事リーダーであれば対応できますが、メンバーだと対応しきれないこともあるのではないかと思います。そういった場合は、どのようにメンバーをマネジメントされているのでしょうか。

清水:私たちは週1回の全体ミーティングで方針を共有し、各部門の状況を確認しています。個人への負荷を分散するため事業部人事制を採用し、事業領域ごとにHRBP機能やリクルーターを一つのチームとして整備。個別の事業やトラブルにメンバーだけで対応が難しい場合は、責任者が対応します。

田中:例えば新卒採用については新卒採用担当の課長が詳しく、インターンについてはインターンを立ち上げたメンバーが最も詳しいですよね。私に問い合わせが来たとしても、事業責任者からの質問に答える際は詳しいメンバーを同行したり、チャットの質問ならCCに担当者を入れて返信したりして、事業と人事メンバーをつなぐことを意識しています。これを繰り返していくと、そのうち新卒採用関連の質問は直接、新卒採用チームに届くようになります。

参加者4:私は成長拡大期をすぎた産業にいます。社長や役員が「ベンチャーマインドを持とう」というものの、なかなか浸透はせず、社内にベンチャー人材もいない状況です。お二人の会社は成長期・拡大期ですが、人事としてディフェンシブな局面での経験や得られた感覚についてお聞かせください。

清水:事業状況に応じてディフェンシブにならざるをえない状況は確かにありますよね。その中でも取り組む意義を自分なりにナラティブにすることかなと考えます。最後には自分の選択を正当化できるように全力を尽くすことだと思います。

田中:私自身、新しい仕事が増えていく中で苦しいと感じる場面もあるのですが、それとは違う人事の苦しさもあるのだなと、質問を聞いて感じました。ディフェンシブな経験といえば、労務や健康経営を担当していたときに、私のキャラクターには合わないかもしれないと感じました。人と向き合う人事の仕事にもさまざまな分野があり、向き不向きがあるので、人事部内での適材適所の配置が重要です。

3人の話を受け、参加者がグループに分かれてディスカッションを行った。テーマは「今回のセッションで印象に残ったこと」「人事に求められるリーダーシップとは」で、活発に意見が交換された。

写真:ディスカッション

伊達:最後に、お二人から参加者へメッセージをお願いします。

田中:私も各テーブルに入ってより具体的な話をしたかったくらいです。個人的には、人事の取り組みには「社外秘」がないと考えています。会社の状況や取り組み、メンバー、組織構造は違っていても、人事として共有することで学べることは多い。今日の質問内容や対話を、今後自社にどう生かせるか考えていきたいと思います。

清水:私たちの話はテストケースに過ぎません。皆さんがそれぞれどんな悩みをお持ちなのかにも関心があります。このような場で出会い、長年のお付き合いにつながった経験もあります。ぜひ、もっと交流させていただければうれしいです。

伊達: グループディスカッション中、多くのグループから「人事のリーダーシップは泥臭い」という意見が出ていました。人事施策は、ある人にとって良い変化でも、別の人にとっては良くない変化になることが往々にしてあります。それでも人事は前に進んでいかなければならないと改めて感じました。この場がそれぞれのリーダーシップについて考えるきっかけになっていたらうれしいです。

セッションのあとは会場を変えて懇親会を開催。参加者同士による活発な意見交換や、ネットワーク作りが行われた。

写真:懇親会