関連記事

現場の声を反映した人事制度や施策はどのようにして作られるのか
従業員の本音の引き出し方、関係性の築き方を考える
2024.09.06 現場の声を反映した人事制度や施策はどのようにして作られるのか
従業員の本音の引き出し方、関係性の築き方を考える
「シン・人事の大研究」
ゲストと共に考える、これからの人事パーソンの「学び」と「キャリア」
2024.03.26 「シン・人事の大研究」
ゲストと共に考える、これからの人事パーソンの「学び」と「キャリア」
いま、人事パーソンに求められる「リスキリング」とは
何を学び、どのように行動するのか
2023.10.13 いま、人事パーソンに求められる「リスキリング」とは
何を学び、どのように行動するのか

掲載:2023.03.06

HRコンソーシアムレポート

2023年2月2日開催「HRコンソーシアム」全体交流会レポート
いま人事に求められる「人的資本経営」への関わり
人材の価値を最大限に引き出すために何をすべきか

髙倉 千春氏(ロート製薬株式会社 取締役 CHRO)
西田 政之氏(株式会社カインズ 執行役員 CHRO(最高人事責任者) 兼 人事戦略本部長 兼 CAINZアカデミア学長)
田中 研之輔氏(法政大学 キャリアデザイン学部教授/一般社団法人プロティアン・キャリア協会代表理事)

  • facebook
  • X
  • note
  • LINE
  • メール
  • 印刷
2023年2月2日開催「HRコンソーシアム」全体交流会レポート

日本企業において「人的資本経営」への注目が集まっている。人的資本経営とは、人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方だ。経営環境が目まぐるしく変化する中、企業は無形資産である人的資本にどう向き合い、企業価値を高めていけばいいのか。ロート製薬CHROの髙倉千春氏、カインズCHROの西田政之氏、法政大学教授の田中研之輔氏が、参加者とともに、人的資本経営の実現に向けて人事に求められるものについて議論した。

プロフィール
髙倉 千春氏
髙倉 千春氏
ロート製薬株式会社 取締役 CHRO

(たかくら ちはる)1983年農林水産省入省後、米国Georgetown大学にてMBA取得。1993年コンサルティング会社にて、新規事業に伴う人材開発などに携わった後、外資系製薬・医療機器企業の人事部長を歴任。2014年より味の素(株)にて、グローバル戦略推進に向けた人事制度の構築をリード。2022年4月より現職。

西田 政之氏
西田 政之氏
株式会社カインズ 執行役員 CHRO(最高人事責任者) 兼 人事戦略本部長 兼 CAINZアカデミア学長

(にしだ まさゆき)1987年、金融分野からキャリアをスタート。2004年に人事コンサルティング会社マーサーへ転じ、人事・経営分野へキャリアを転換。2013年同社取締役COOに就任。2015年にライフネット生命保険へ移籍し、同社取締役副社長兼CHROに就任。2021年6月より現職。

田中 研之輔氏
田中 研之輔氏
法政大学 キャリアデザイン学部教授/一般社団法人プロティアン・キャリア協会代表理事

(たなか けんのすけ)UC. Berkeley・University of Melbourne元客員研究員 日本学術振興会特別研究員SPD 東京大学/博士:社会学。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。専門はキャリア論、組織論。社外取締役・社外顧問を33社歴任。個人投資家。著書29冊。新刊『CareerWorkout』

法政大学 田中氏によるプレゼンテーション:
戦略人事の先にある、戦略的「人的資本経営」

「HRコンソーシアム」全体交流会は田中氏による問題提起からスタートした。2023年は「人的資本経営アクション元年」と言われるが、田中氏は企業にとって二つの課題があるという。

「一つ目は『人的資本の最大化:総合的かつ戦略的なキャリア開発』。今日のメインとなるテーマです。二つ目は『人的資本の情報開示:ISO(30414)11項⽬の検討』。これについては粛々と準備を重ねるしかありません。開示した情報は今後、どのような変化があったのかを示す必要があります。フレームとして考えなくてはならないのは、『戦略人事のその先』です。私はそれを『戦略的「人的資本経営」』と呼んでいます」

そうした中、企業は今後「激化する人材不足」という課題に直面する。2025年には「団塊世代」800万人が後期高齢者となるからだ。解決策は「人材活用」しかない。

「『人的資本の最大化』の切り札は、人材を活かす企業になることです。だからこそ、企業は人的資本経営を目指さなければなりません」

ここで田中氏は「キャリア自律と各成果指標/キャリア自律度の高低別」(パーソル総合研究所)のデータを示した。個々のキャリア自律度を高めると、個人パフォーマンスは1.20倍、ワークエンゲージメントは1.27倍、学習意欲は1.28倍、仕事充実感は1.26倍、人生満足度は1.19倍になるという結果が出ている。

「よく『人が自律すると個人主義になるのでは』と言われますが、実はワークエンゲージメントは上がっていくのです。これから企業はSDGsならぬ、『SDCs(Sustainable Development Careers)=持続可能なキャリア開発』を目指していくべきです」

これまでの企業におけるキャリア開発は、一つの組織の中で昇進するための“尺度”だった。しかし、これからは「プロティアン・キャリア=変幻自在なキャリア」の考えを取り入れ、一人ひとりが自由にキャリアを考えていかなければならない。田中氏は、「企業には、個人が求めるキャリア開発の場を提供することが求められる」と語る。

では、企業で戦略的「人的資本経営」をどのように行うべきなのか。考えなければならないのは、自律型人材へのキャリア開発によって「人的資本の最大化」を図ることだ。田中氏はそのためのアプローチとして、「キャリアオーナーシップ人材/キャリアオーナーシップ経営の診断・可視化」「マネジメント層の役割と育成」「非連続な環境の設定(副業・リスキリングなど)」「人事の役割と必要なケイパビリティ」「企業文化の醸成・適合」「人事と他組織の接続(経営・事業との連携など)」の六つを挙げた。

また、田中氏は「これからの“働く”とは、キャリア資産を蓄積していくこと」だとして、三つのキャリア資産について語った。一つ目は過去からの積み上げであり、生み出す力となる「生産性資産」、二つ目は現在の行動の源泉である「活力資産」、三つ目は未来に向けて自らを変革させていく「変身資産」だ。さまざまな項目があるが、職種や部署によってたまりやすさが違ってくるという。

国内初 キャリア資産の可視化-プロテア診断

ここで田中氏は、資産ごとに上昇した人が多かった項目を解説した。変身資産は「コミュティ」で、社外でつながる環境に影響している。活力資産は「自己選択感」で、やりたいことの実践機会が影響する。生産性資産は「精神的健康」で、新たな活動習慣が影響している。まさに社外に出ることで得られる経験が成長実感につながっていることがわかる。

最後に田中氏は、キャリア開発について、「組織内キャリアから自律的なキャリアへ」という方向性をあらためて強調した。メンバーのキャリア開発支援、およびそのロードマップでは、「キャリア論の理解」「1on1でのキャリアミーティング」「部署でのキャリア戦略会議」がポイントになるという。

「例えば、キャリア論の理解のためにプロティアンeラーニングを実施。1on1でのキャリアミーティングを月1回30分、部署でのキャリア戦略会議を月1回1時間行う。キャリア論の理解とキャリア開発のサポートに注力することが重要です」

ロート製薬 髙倉氏によるプレゼンテーション:
個人と会社の共成長を目指すWell-being経営の実現に向けて

髙倉氏はまず「この30年間で、人材についての考え方が大きく変わった」と語った。1980年代における人材の扱いは「Our Highest Cost」(費用)であり、目指すべきは総人件費適正化だった。1990年代にタレントマネジメントやサクセッションプランが出てきて、「Our Greatest Asset」(資産)となり、人材投資に対するROI最大化を目指した。2000年代には「Our Most Important Capital」(資本)となり、従業員エンゲージメントの向上を目指すようになった。

「今や人材は投資可能な人的資本と考えられるようになり、国を上げて最大限の活用を目指しています。学習院大学教授の守島基博先生は『人的資本には心がある』とおっしゃいますが、資本としての価値を高めるためにもまさに人の心に火をつけることが人事にとっても重要な使命となっています」

髙倉氏は、機関投資家も参加した経済産業省の「人的資本経営実現に向けた検討会」に参加したが、そこで話し合われた中で心に残ったことを三つ挙げた。一つ目は、持続的な企業成長から持続的な企業価値創造。また、その担い手としての人材の重要性。二つ目は、変化に対してスピードのある対応をするため、より多様な人財、多様な視点が求められること。三つ目は、経営理念と事業戦略との連携、人材マネジメントとの連動が必要になっていること。

ロート製薬ではこうした外部環境の動きを捉え、2022年10月、20年ぶりに人事制度を変更した。コンセプトは社員の「全員戦力化」であり、個人の成長を軸にした会社の成長。そのための四つのドライバー施策を展開している。

一つ目は、動的人材マネジメントによる異動・組織構築だ。各自を育む目と貫く目で、抜てきや登用を行っている。

「この人財マネジメントの取り組みは売り上げの半分を決するほど重要なドライバーと考えていて、2023年1月~2月は幹部10名が缶詰になって社員1600人の配置を考えています。また、人材育成では将来に向けた学び直し、学びのプラットフォームです。

社員自らがキャリアを創り成長していく、学びのプラットフォームとして、2021年にロートアカデミーを立ち上げました。“Who am I?”を起点に、経験価値を促進し、多様な視点を進化させるプログラムを提供。こういった学びの場の活用も含めて『学び続ける覚悟と挑戦する勇気』が昇格要件になっています」

二つ目は、「プロの仕事人」としての仕事の評価。ロートバリューポイント (RVP)で毎期評価を行っている。

「RVPはWILL(志)、CAN(できること)、NEED(必要とされること)の交わる部分であり、全社・社会的な視点から総合的に仕事の価値を評価します」

三つ目は、さらなる高みを目指してのWell-beingの向上だ。Well-beingポイント (WBP) を半期ごとに自己評価する。

「自社の行動規範をもとに設定した項目ごとに、10段階でスコア化しています」

四つ目は、自律的キャリアと学びの継続を目指す複業・兼業。複業・兼業等によってEmployee Experience(経験価値)を高めていく。

「具体的な施策には『社外チャレンジワーク(複業)』、『社内ダブルジョブ(兼業)』制度や『明日ニハ(社内起業家支援)』『Local Journey 共創型リーダー人材育成プログラム』等日々取り組みを行っています」

個人と会社の共成長:‘全員戦力化’にむけた4つのドライバー施策

こういった経験価値の促進によって、個人にどのように成長の効果がみられているのか。髙倉氏は以下の5点を上げている。「何を求めて仕事に向き合っているのか?(「Who am I?」の深堀/My Purposeの自覚)」「チャレンジする意欲の高まり(同時に組織としては失敗も含めてチャレンジするプロセスを賞賛する風土)」「社会に届ける価値を見極める力の向上(多様な視点で外部環境の変化(真の顧客志向)をとらえる)」「ビジネス全体を俯瞰し、本当の顧客志向・経営視点:プロの仕事人に」「多角的視点とスピード(「自分ブランド」の構築)」。

「こうした個人の成長が、会社に対して『新しい発想の源泉』『多様な視点』『将来の洞察』『“実験力”』『ネットワーク、チームワーク』『人間力』をもたらすと考えています。ロート製薬では石垣をつくるように人の個性を活かす、いわば『石垣経営』を目指しています」

カインズ 西田氏によるプレゼンテーション:
人的資本経営に向けた人事戦略 ~カインズが目指す自律連携型組織とは~

はじめに西田氏はカインズが目指す組織について語った。

「カインズはこれまで、指示を完璧に遂行する統率型組織で急成長してきました。しかし、これからはメンバーそれぞれが自分の頭で考える自律連携型組織を目指したいと考えています。自律連携型組織とは、個が一本の木として自律しつつ、根でつながり支え合い、一つの生命体として共生する組織です」

西田氏は自律連携型組織で実現したいことが三つあると語る。一つ目は自律しやすい組織を構築し、自律のレベルと最終的な成果レベルを引き上げること。二つ目は個人/組織が互いに切磋琢磨し、積極的に学ぶことで成長・育成を促すこと。三つ目は一律一体なやり方でなく多様性を尊重した中での個と個の創発により、これまでになかった変革を起こすことだ。

そのための手段が「DIY HR®︎」だ。そこには五つの柱がある。一つ目は「DIY Career Path®」。自らのキャリアは自らで創る。二つ目は「DIY Learning®」。従来のグレード別研修に加え、自らが学びたいものを自由に選択できる。三つ目は「DIY Communication®」。直属上司、斜めの先輩などをはじめとする1on1をベースとしたコミュニケーションの仕組み化を行う。四つ目は「DIY Workstyle®」。ライフイベントに応じた多様な働き方を選べる。五つ目は「DIY Well-Being®」。心と身体のケアのための支援プログラムを整備する。人事戦略本部は「人事のカインズ工房」として、全メンバーの成長と挑戦を支えている。

「キャリア自律もエンゲージメントも、その根源にあるのは内発的動機付けです。そこでは哲学的な問いを立てて自分と向き合うことが必須です。カインズでは、質の高い1on1ミーティングで内省を促すことを重視しています。それを組織文化とするために理想的なロールプレイングを動画にしていつでも見て学べるようにしました。また、1on1の浸透とレベルアップのために、140名程度のTeaching Assistant(TA)を養成しています」

哲学を学ぶことを推奨するカインズでは、カインズアカデミアをつくり、リベラルアーツを学べるようにしている。他にもCHRO塾、SF思考ワークショップなどを開催している。

次に西田氏は「もう一つ大事なことは、社内外でチャレンジして自分の可能性を試すこと」と語った。カインズでは年に2回社内公募を行っている。また、自らやりたいことが見つかる社内副業・インターン制度も設けている。

「やりたいことがわからない人のために、数週間~数ヵ月の社内インターンや社内副業制度も設けました。例えば、店舗に勤務しながら週に数日は本部の仕事をすることが可能になります」

また、「人事はアートとサイエンス」と考えから、人事では定期的にDIY HR®アンケート(eNPS・DIY HR®各領域満足度調査)を行い、分析結果から優先度の高い属性・領域に打ち手を集中させている。始めて半年だが、すでに目に見える成果が出ているという。

西田氏はここまでの成功の要因は五つあると語る。一つ目は、戦略策定~実行・効果創出を強力に行えるリーダー(CHRO)の存在。二つ目は、全社戦略と整合させた、誰もが理解できるキャッチーな人事戦略(コンセプト)。三つ目は、店舗従業員やパート・アルバイトを含めた、現場に寄り添った丁寧な説明や実行。四つ目は、人的資本経営にも通じ、現場課題に基づく全人事町域をカバーする施策の幅と数。五つ目は、組織や役割を抜本的に見直したことによる、6ヵ月間で効果創出する圧倒的なスピード感だ。

ここまでの成功の要諦

最後に西田氏は、ハーバード・ビジネス・スクール名誉教授であるジョン・P・コッター氏の言葉を紹介した。

「優秀なリーダーはメンバーを過熱した『生存チャネル』へ追いやるようなことはしていない。自分自身や周囲の人々の『繁栄チャネル』を活性化するために、多くの時間を費やしている(『CHANGE 組織はなぜ変われないのか』より)。私たち人事は、繁栄チャネルを活性化することに注力しけなければならないと考えています」

参加者とのQ&A

田中:ここからは、参加者の皆さんからの質問にお答えしたいと思います。「学びを昇進条件にするとのことだが、どのように中身を測るのか」という質問です。髙倉さん、いかがでしょうか。

髙倉:昇格は手挙げ方式です。次の等級に行きたい人には、日々どのように学んでいるのかを作文に書いてもらっています。幹部は個人のこれまでの仕事の取り組みや作文として提出する誓約内容などで検討を行いますが、基準はあくまでも定性的なものです。学びの質や覚悟を測っています。

田中:次は「社外副業というと目的が収入を得ることになってしまう。それが悪いわけではないが、ルールづくりに躊躇してしまう。社外副業を行い、成功しているケースはあるか」という質問です。西田さん、いかがでしょうか。

西田:当社では、社外副業は特に中途入社の人たちに広く推奨しています。プロパーのメンバーには段階が必要だと思うので、まずは社内インターンや社内副業を薦めています。もう社員を囲い込む時代ではないと思うので、社外副業が将来のキャリア形成にメリットがあるなら、会社としても背中押してあげたいと思います。

田中:次の質問です。「当社では多くの社員が『キャリア構築=ポジション変更』と捉えているように感じる。昇進して別の会社、部署、職種に行くことがキャリア構築であると考えているようだ。『今の仕事に誇りとやりがいを持って、それを極めることもキャリアのあり方であり、変化の時代には同じポジションでも要件は変化するので、それは停滞ではなく成長』ということを伝えているが、なかなかマインドセットは変わらない。実際、ポジション変更のみがキャリアとすると多くの社員は実現できないとことになり、それがフラストレーションにつながるのではと考えている。このことについて皆さまの知見をうかがいたい」ということです。髙倉さん、いかがですか。

髙倉:当社でも革新的なことだけでなく、決まった仕事の中で昨日とは違う知恵を出して成果を出すことは重要です。そうした内容をロートバリューポイントの評価軸に入れています。例えば、工場のラインの人がプロセスを工夫して時間を短縮すれば、その価値は大きいわけです。時間はかかりますが、それぞれの職種に向き合って、そこでの価値を言い続けることが大事だと思います。

田中:次は西田さんへの質問です。「完全な会社都合の異動から、半分を公募制にする際にはどのような準備をされたか」ということです。

西田:社内には140もの職種があるので、最初にジョブディスクリプションを整備し、職種紹介を行いました。また、どんな仕事内容かを知るために数日の社内インターンや数週間~数ヵ月の社内副業での仕事体験も提供し、異動の事例をつくりながら広報していきました。

全体ディスカッション

次に「今年の人的資本経営に関するアクションプラン」をテーマに、グループディスカッションが行われた。また、終了後は全員によるディスカッションが行われた。

田中:西田さんのグループでは、どんなことが話し合われていましたか。

西田:皆さん、キャリアサポートが足りていないとおっしゃっていました。「キャリア自律的に考えられるようにする」ためのサポートが足りていないと思います。

田中:そうしたサポート不足は人的資本経営のブレーキ要因になると思いますね。キャリア自律の大切さを会社側が社員に本気で伝える必要がある。ある企業では新人研修のとき、社長がオープニングトークをした後でキャリア自律研修を行っています。これはある意味、経営陣の勇気ですね。会社として「君たちは自律していいんだ」と言えるかどうか。そして難しいのは、社内ですでに経験があり、実績を上げた人たちに対するキャリアトランスフォーメーションをいかに行うか。このことについて、どう思われますか。

髙倉:やはり経営層の覚悟が必要だと思います。ロート製薬では2年前に新人研修の内容を変えて、1年かけてクラスルームトレーニングと2~3ヵ所の現場体験を行うようになりました。例えば、営業、生産、開発などを数ヵ月ごとに回る社内インターンのような研修です。現場でのOJTだけでなく、新人からもいろいろ意見を言ってもらっています。研修の最終日は「新人が先生になる日」として、新人がプレゼンテーションを行います。それを会長、社長以下みんなで聞くわけです。若い人からはSNSの活用など、これまで思いつかなかったような話を聞くことができます。まさに先輩のほうが学んでいる状態で、良い循環が生まれています。

西田:髙倉さんの話にもありましたが、やはり上から学ぶ姿勢を見せることは大切だと思います。カインズの研修では外部から著名な講師を招いていますが、学びでは面白いプログラム、質の高い講師をそろえることが大事です。学びの面白さが伝われば、内発的動機付けにもなります。心を込めてプログラム設計を行うことが大事だと思います。

田中:ここで参加者の皆さんにも話をうかがおうと思います。

グループA:もっとも多く聞かれたのは、組織がサイロ化していて、優秀な人材を「取った、取られた」という意識が強くなっていることでした。マネジャーの意識から変えていかなければいけないと思います。他では中期計画に人的資本経営が入るようになり、ゴールを見据えた進め方がしやすくなったという話も聞かれました。また、人事戦略は他社との違いをつくらなければいけないのに、経営層は「他社はどうしているか」を気にしていて、自分たちが何をしたいのかが言語化できていない、という声もありました。

田中:自分たちが何をするのか、当事者意識をもってやり抜き、その思いを経営層に伝えていくことが大事だと思いますね。続いて、「当社は製造業だが、生産現場とオフィスメンバーでキャリアや学びについて温度差がかなりあるように感じる。こうした温度差にどう対応すればいいか」という質問です。髙倉さん、いかがですか。

髙倉:当社では日々自分たちの仕事にお客さまから対価をいただいていますが、そうしたことの大切さを実感するセッションを、ボーナス支給日に開くなどの取り組みもあります。商品を買ってもらうことはお客さまからエールをもらうことですから、それに応えるためにどうすればいいのか、もっと学んだり考えたりして顧客の期待に応えようと話をしています。

またグループごとに、ウェルビーイングのフォローアップとしてキャリアワークショップを行っています。そこで「私はなぜこの仕事をしているのか」「どこに誇りを持つべきか」という話をすると、それぞれが入社直後に思っていたWILLがよみがえってきます。誰もが会社に入ったときにパーパスをもっています。それを言語化することが大事だと思います。

田中:次の質問です。「西田さんがデザインされたプログラムの数々は素晴らしいと感銘を受けました。改革を進めていく中で社内に冷ややかな反応があった場合は、どのように対処するとよいのでしょうか」。西田さん、いかがですか。

西田:組織には2・6・2の法則がありますが、施策ではトップの2割に火をつけることに集中するようにしています。そこに火がつくと次の6割はフォロワーになってくれる。また、個に寄り添うためにできるだけ多くの人と話をすることを心がけています。私は店舗巡回で1日に4~5店舗回りますが、そこでパートやアルバイトの方に声をかけて、ほんの1分だけでも1on1を行っています。

最後に髙倉氏、西田氏、田中氏がまとめの言葉を述べて、「HRコンソーシアム」全体交流会は終了した。

髙倉:人事を長年担当してきて思うのは、人に関する話は終わりがなく、正解もないということです。人的資本経営やウェルビーイングなどいろいろなバズワードが出てきて、人事の皆さんは社長から「うちでも実行して欲しい」と言われていると思います。確かに大変なことですが、人事の皆さんには「役得」として考えてほしいと思います。人と向き合うことは自分の成長のドライブにもなり、人事は自分の人生を考えるうえでも勉強になる仕事です。これからも終わりのない人事という道を、皆さんと一緒に歩みたいと思っています。ありがとうございました。

西田:今は先が見えない時代だからこそ、自分の頭で考えることが必要であり、そのために人は学び続けなければなりません。ます。従業員が学び続けられるように導くことが、我々HRの仕事だと思います。本日はありがとうございました。

田中:人事は今、一番旬な仕事です。私は人事の皆さんが日本の企業を活性化していくと本気で思っています。皆さんと良き未来、良き働き方をつくっていきたいと心から願っています。本日はありがとうございました。