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掲載:2021.10.05

HRコンソーシアムレポート

従業員がイキイキと働き、組織が活性化するために必要な「パーパス」とは
~企業は何のために存在し、人は何のために働くのかを考える~

平松 浩樹氏(富士通株式会社 執行役員常務CHRO)
木下 達夫氏(株式会社メルカリ 執行役員 CHRO)
前野 隆司氏(慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授)

従業員がイキイキと働き、組織が活性化するために必要な「パーパス」とは ~企業は何のために存在し、人は何のために働くのかを考える~

新型コロナウイルス感染症の流行は、多くの企業にインパクトを与えている。今後の展開が見えない中、企業では自社の「パーパス」について考える動きが活発化している。パーパスが自社の指針となり、自分たちのあるべき姿、いま行うべき活動を示してくれるからだ。では企業はどのようにパーパスを定め、従業員と共有すればいいのか。従業員がイキイキと働くために何をすればいいのか。富士通の平松氏、メルカリの木下氏が事例を紹介。慶應義塾大学の前野氏のファシリテーションで、パーパスの意義や重要性についてオンラインでディスカッションを行った。

プロフィール(講師/ファシリテーター)
平松 浩樹氏(ひらまつ ひろき)
平松 浩樹氏(ひらまつ ひろき)
富士通株式会社 執行役員常務CHRO

1989年富士通株式会社に入社し、主に営業部門の人事を担当。2009年より、役員人事の担当部長として指名報酬委員会の立上げに参画。2015年より、営業部門の人事部長として働き方改革を推進。2018年より、人事本部人事部長として2020年4月に導入したジョブ型人事制度の企画・導入を主導。2021年4月より現職。

木下 達夫氏(きのした たつお)
木下 達夫氏(きのした たつお)
株式会社メルカリ 執行役員 CHRO

P&Gジャパン人事部に入社し採用・HRBPを経験。2001年日本GEに入社、北米・タイ勤務後、プラスチックス事業部でブラックベルト・HRBP、2007年に金融部門の人事部長、アジア組織人材開発責任者を務めた。2011年に8ヵ月間のサバティカル休職取得。2012年よりGEジャパン人事部長。2015年にマレーシアに赴任し、アジア太平洋地域の組織人材開発、事業部人事責任者を務めた。2018年12月にメルカリに入社、執行役員CHROに就任。

前野 隆司氏(まえの たかし)
前野 隆司氏(まえの たかし)
慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授

慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長。ハーバード大学Visiting Professorなどを経て現職。博士(工学)。『幸福学×経営学』(2018年)、『幸せのメカニズム』(2014年)など多数。専門は、システムデザイン・マネジメント学、幸福学、イノベーション教育など。

前野氏によるプレゼンテーション:パーパスと幸せ

Well-beingとは「健康、心、社会」が良好な状態にあるという意味だ。ではHappinessとは何か。前野氏は「Happinessは楽しい、うれしいといった感情としての幸せであり、こうした気持ちも含めてWell-beingだと考えている」と語る。では、幸せにはどんなメリットがあるのだろうか。

「幸せな人は長寿です。先進国に住む多くの人で比較したところ、幸せを感じている人はそうでない人に比べて、7.5~10年寿命が長いことがわかりました」

幸福感はパフォーマンスにも影響する。研究によれば、幸福感の高い社員の創造性は3倍になり、生産性は31%高く、売上は37%高い[Lyubomirsky, King, Diener]。また、幸福度が高い従業員は欠勤率が低く[George, 1989]、離職率が低い[Donovan, 2000]ことがわかっている(ハーバードビジネスレビュー2012年5月号「幸福の戦略」P62〜63)。

「幸福な社員は創造性、生産性が高く、休まないし、辞めない、ということです。まさにトータルで良い社員といえます」

前野 隆司氏(慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授)

金、モノ、社会的地位といった「地位財=他人と比べられる財」による幸せは長続きしないといわれる。利益を求めることは活動の基盤にはなるが、幸せという気持ちには影響しにくい、ということだ。

では何が幸福に強く影響するのか。それは「非地位財」型の幸せだと前野氏は語る。そこには三つの要因がある。一つ目は社会的要因で、安全など環境に基づくもの。二つ目は身体的要因で、健康など身体に基づくもの。三つ目は精神的要因で、そこには幸せの四つの因子が存在する。

「一つ目は『やってみよう因子』です。自己実現と成長への意欲があり、強みを活かし、主体性を持って行動すること。二つ目は『ありがとう因子』。つながりと感謝を大事にし、利他的で、思いやりの心があること。逆に孤独感は幸福度を下げます。三つ目は『なんとかなる因子』。前向きさと楽観性があり、チャレンジ精神があること。四つ目は『ありのままに因子』。独立の心と自分らしさを持ち、自分軸があることです」

次に前野氏は「パーパス(Purpose)」について解説した。パーパスは、一般に「目的、意図」と訳される。しかし、近年は経営戦略やブランディングのキーワードとして用いられることが多く、その場合は企業や組織、個人が何のために存在するのかという「存在意義」を意味する。

「パーパスとは『そもそも、なぜ、なんのために生きるのか・やるのか?』であり、企業のミッション、ビジョン、バリューよりも根本・本質のものだといえます」

幸せの四つの因子はパーパスとも大きく関係する、と前野氏は語る。やってみよう因子では、企業も人もパーパスが明確なとき、主体的に強みを磨き、成長し、自己実現に向かえる。ありがとう因子では、深いつながりと信頼関係はパーパスの達成のために不可欠だ。なんとかなる因子では、パーパスの推進と実現はチャレンジにつながる。また、視野の広い人は狭い人よりも幸せだという研究結果もある。パーパスを明確にして働くことと、人にいわれて働くことでは視野の広さが違う。パーパス経営とは社員の視野を広くして経営することだ。ありのままに因子では、個性的で独立したパーパスこそが人も企業も強くする。

「現在はコロナのため不確定な時代であり、VUCAを加速させています。そのような時代を生き延びるために必要なのは、幸せであることです。そのために企業には今、明確なパーパスを示すことが求められています」

富士通 平松氏によるプレゼンテーション:パーパスドリブン経営によるDX企業への変革

富士通は2019年に社長が交代し、「富士通は IT企業からDX企業へ変わる」と宣言。「わたしたちのパーパスは、イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくことです」とパーパスが示され、同時にFujitsu Wayの見直しも行った。そこで大切にする価値観として「挑戦」「信頼」「共感」が提示された、と平松氏は語る。

「これまではインダストリーごとに組織やソリューションも分かれていましたが、このときからパーパスをもとに事業を展開しています。社会課題を起点にお客さまと共に成長を加速させることを目的に、For Growthをけん引する七つの重点注力分野を設定しました」

バーチカルエリアでは「Sustainable Manufacturing 環境と人に配慮した循環型でトレーサブル(追跡可能)なものづくり」「Consumer Experience 生活者に多様な体験を届ける決済、小売、流通」「Healthy Living あらゆる人々のウェルビーイングな暮らしをサポート」「Trusted Society 安心・安全でレジリエントな社会づくり」を設定した。

「これらはすべてクロスインダストリーであり、業界や組織の垣根を越えて、将来どういう世界を生み出すのかというところから、顧客とサービスを考えていきます」

平松 浩樹氏(富士通株式会社 執行役員常務CHRO)

次にDXを支えるためのホリゾンタルエリアでは、「データを活用した経営や新たな働き方を支援する改革によるDigital Shifts(データドリブン、働き方改革)」「企業を支えるクラウドインテグレーションやアプリケーションによるBusiness Applications(クラウドインテグレーション、アプリケーション)」「企業や社会を支えるクラウドやセキュリティによるHybrid IT(クラウド、セキュリティ)」を設定している。

では、人事はどのように変えていくのか。同社は「社内外の多才な人材が俊敏に集い、社会のいたるところでイノベーションを創出する企業」というHR Visionを掲げている。

「HR Visionを実現するために必要なものとして、『全ての社員が魅力的な仕事に挑戦』『多様・多才な人材がグローバルに協働』『全ての社員が常に学び成長し続ける』を設定しました。これらを基にグローバル・グループワイドな人事基盤づくりを行っています」

パーパスは企業のパーパスと個人のパーパスが共鳴し合うことが大事になる。そこで今、同社はパーパス実現のため、「13万人パーパス宣言」に取り組んでいる。まずは、Purpose Carving(パーパスの削り出し)を2022年3月末までに実施する。

「Purpose Carvingとは、これまでの人生を振り返りながら自身の大切にしている価値観を見つめ直し、対話を通じて自らのパーパスを言語化するもので、13万人の社員一人ひとりが自分だけのパーパスを持つことを目指しています。進め方はトップファーストで社長、役員から行い、発言内容はビデオで社員に流しています」

また、パーパス実現のための一貫性を重視したコミュニケーションツールとして、新たな評価制度「Connect」を策定した。理由はこれまで目標管理制度を行ってきたが、変化の激しい時代にスピード感が合わなくなったためだ。

「パーパスから各組織の長がビジョンに落とし、そのビジョンが、メンバーがワクワクするビジョンになっているか、その組織のビジョンにインパクトを与える成果を出したかを評価しています。また、個人のパーパスを設定しても忘れることがあるため、1on1で確認し、ビジョンに向けたチャレンジがベクトルに合っているかを常にチェック。その中で富士通が大切にする価値観を実現していれば高く評価し、お金ではなく、より大きな職責や成長機会を与えています」

メルカリ 木下氏によるプレゼンテーション:ミッション・バリューに基づく組織づくり

メルカリのミッションは「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る」だ。そのため、今、海外の人材を積極的に採用している。その目的を木下氏は次のように語る。

「今は、月間のアクティブユーザーが1900万人以上という規模ですが、社会的によりよいインパクトを与えていきたいと考えています。限りある地球資源を世界の人々と、次の世代と、そして地球上のあらゆる生命と共有し、環境課題の解決に寄与したい」

メルカリではミッション達成のために、三つのバリューの体現を重視している。一つ目は「Go Bold 大胆にやろう」だ。新たな挑戦を会社でも個人でも行い、失敗も容認する。二つ目は「All for One 全ては成功のために」だ。チームの成果を最大化するために力を合わせる。三つめは「Be a Pro プロフェッショナルであれ」。約1700人の社員は中途採用が多く、全員がプロとして採用されている。

「評価においても、三つのバリューの体現を重視しています。結果、メルカリのエンゲージトレンドは右肩上がりで上昇。調査では『ミッションに共感している』でイエスは91%、『バリュー行動ができる』でイエスは80%でした」

木下 達夫氏(株式会社メルカリ 執行役員 CHRO)

エンゲージメントサーベイは、3ヵ月に一度実施している。「自分の知人や友人に、メルカリで働くことを薦めることができるか」というeNPS(Employee Net Promoter Score)を用い、社員エンゲージメントを把握する。

「eNPSと相関性が高い項目は『仕事のやりがい』『成長実感』です。実際の採用も4割は社員紹介で、eNPSのスコアの高さが影響しています」

また、メルカリはカルチャーとして「Trust & Openness」=相互の信頼関係を大切にしている。

「個を信頼しているので、社内のルールはできるだけつくらないようにしています。これが自発的な行動を生み、意思決定の納得感を高めています」

今は組織の多様性が変化しており、約40ヵ国から社員が集まっている。メルカリ東京オフィスのエンジニアリング組織の約半数は外国籍だ。そのためD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)がより大事になっている。

「『ミッションの実現のため、構造化された差別・機会の不平等を是正する』ことを目的に掲げ、なぜ行うのかを明確にしています。メルカリそのものが社会においてもロールモデルになりたいと考えています」

そこでメルカリでは、3年前に「メルカリ(会社)とメンバー(社員)が大事にする、共通の価値観」をまとめた、社内向けのドキュメントとしてMercari Culture Docを作成した。これを、ミッション・バリューを実行するときの判断軸としている。

また、メルカリのHRでは、今、事業成長のために組織と人材のWinWinを最大化する=WinWinMaxを追求。

「人事領域でもCEOから『Go Bold』、大胆にやってくれと言われています。『All for One』では、多様な社員との対話を重視し、人事制度の設計時も社員の声を集めています。『Be a Pro』では、世界に通じる人事のプロとして向上し続けることを目標にしています」

エンゲージメント分野では、パーパスにひもづけたEX向上に向けた取り組みを行う。

「日々、評価報酬制度、ワークスタイル・Culture Doc、福利厚生制度のアップデートを行っています。人事では、日本における先進の人事事例を仕掛け、社会にポジティブなインパクトを与えることを目指しています」

ディスカッション:日本におけるパーパス経営とは

前野:まず、平松さんにお聞きします。13万人が個人のパーパスをつくるのは大変なことだと思いますが、どれくらい進んでいますか。

平松:パーパスをつくり始めたのは昨年からで、まだ時間がかかりそうです。トップからつくっていて、社長や役員のパーパスを先に聞けるので、社員にも大いに参考になっているようです。また、マネジャーが部下との1on1などの機会に、個人とありたい姿の対話ができるようにトレーニングしています。また、部署のビジョンはこれまでなかったので本部長はどう策定すればいいかと悩んでいましたが、本部長同志で発表、評価し合ってブラッシュアップしています。

木下:メルカリでは、個人のパーパスを特につくっていませんが、最近中途採用された社歴の浅い人が多くて、みんなが企業のミッションに共感して入社しています。年齢層は30代がもっとも多く、何をしたいのかが明確な人が多いですね。

前野:木下さんはP&G、GEでも人事を経験されていますが、外資系企業とメルカリではどんな違いがありますか。

木下:P&GはGEよりもパーパスドリブンだと感じます。ただメルカリはまだできたばかりで若い人も多く、社内に熱狂的な雰囲気がある点は大きく異なります。

前野:お二人の個人としてのパーパスは何ですか。

木下:人事領域を通じて、人をエンパワーしたい、人を明るくする灯台のようになりたい、と思っています。メルカリは成長意欲が高い人が集まっているので、皆の背中を押しやすい点にはやりがいを感じています。

平松:私は、尊敬と信頼で結びついた人と組織をつくることです。

前野:さすがパーパスを推進されているだけに、お二人ともすぐ答えが返ってきますね。

木下:平松さんにお聞きします。パーパスの推進において、大きな組織ではマネジャーがキーになると思いますが、どのようなトレーニングや評価を行っていますか。

平松:前線の人材と接するミドルマネジャーがもっとも苦労していると思います。ただ、人は簡単には変われないので、二つの施策を行っています。一つは各本部にHRビジネスパートナーとして人事を一人ずつ張り付け、本部長に寄り添って改革を進めていること。もう一つは、1on1の改善です。1on1を2020年7月に始めましたが、当初は「何を話すの?」という声が多くありました。そこで1on1のプロを招いてEラーニングを一斉に行い、加えて1on1のサーベイを定期的に行って、フィードバックしています。これらを繰り返しやっていくしかないと思っています。

私からも、木下さんに質問があります。バリューを定めても、現場に浸透しないとか、マネジャーによってばらつきが出るといった弊害が出てくるかと思います。マネジャー教育ではどんな工夫をされていますか。

木下:仕組みとしてあるのは、グレードごとにバリューの期待内容が決められていることです。例えば、あるグレードの人は「Go Bold」ではこんな行動を期待しますと、英語と日本語で言語化されています。一方、評価はパフォーマンスとバリューという2軸で行います。作業としては、個人が各々のセルフアセスメントを3段階で評価し、具体的にできていることを書き出します。その後、マネジャーがアセスメントを行い、加えて同僚同士でも評価するピアレビューを行います。ピアボーナスの仕組みもあり、チップを送り合ったりしています。また、4半期に一度、バリューのアワードによる表彰を行っています。ちなみに当社は普段スラックでコミュニケーションをとっていますが、その中でもバリュースタンプがよく使われているなど、日常でバリューが自然な形で意識されていると思います。

前野:若い会社は楽しさを埋め込むのが上手ですね。富士通さんはいかがですか。

平松 浩樹氏(富士通株式会社 執行役員常務CHRO)

平松:話をうかがって、評価内容は似ていると思いました。富士通での評価軸はインパクトとビヘイビア(行動)が50%ずつ、そのビヘイビアが富士通におけるバリューになっています。今後はフィードバックなども評価に加え、また、日常的な感謝を伝える手段としてサンクスポイントのシステムもつくろうと考えています。

前野:ところで、HRにおけるパーパスの位置づけはどうなっていますか。また、ウェルビーイングについての議論は行われていますか。

木下:メルカリにおいてパーパスはセンターピンなので、常に行動がひもづいているかどうかを考えています。ウェルビーイングもパーパスにひもづいて考えます。

平松:個人のパーパスは仕事のことではなく、自分の生き方を語るものなので、ワークとライフと両方を充実させることにつながります。会社も業績だけでなく社会でのあり方も示すので、同じような考えです。会社のパーパスと個人のパーパスをそれぞれ起点に考えれば、それがウェルビーイングな状態につながると思います。

前野:パーパス経営は日本では遅れているといわれていましたが、メルカリさんのように、大変進んでいる企業もあるのだなと感じました。富士通さんは13万人もの大規模でありながら、個人のパーパスを支援するという最終形のパーパス経営を目指されている。両社から日本型のパーパス経営が生まれるように感じますね。

視聴者との質疑応答:実際にどう動いているのか

ここからは、視聴者からの質問に三人が回答した。

Q:木下さんにお聞きします。採用時にミッションやバリューへの共感を判断されるということですが、どのように判断されているのでしょうか。私たちも同様のことを行いたいと思っています。

木下 達夫氏(株式会社メルカリ 執行役員 CHRO)

木下:面接官研修でどんな質問をするかを伝えています。転職時はもちろんキャリアについて考えますが、働くときにどこにやりがいを持って仕事がしたいかということは聞きます。また、メルカリでユーザーとしてどんな体験があり、サービスがどのようになればよりよくなるかといったことも聞きます。バリューについては、例えば「大胆な挑戦についてはどんな経験があるか」など、その内容に基づいた質問をしています。

Q:平松さんにお聞きします。個人のパーパスをつくる際、中には企業のパーパスと合わないという人も出てくると思います。どのように対処されていますか。

平松:パーパスが合わないことが分かるのは素晴らしいことだと思います。個人のパーパスはつくって終わりではなく、その火を維持し続けることが大事です。今いる組織と合わないのなら、別のプロジェクトに移ることを考えてもいいし、それで会社を去る人が出ても仕方がないと思います。近年、人事では人そのものに向き合うことがおろそかになっていたことに問題意識をもっていました。パーパスによって、本気で人と向き合える関係になれればいいと思います。

Q:平松さんにお聞きします。大きな組織で大きな改革を行うことは大変なことだと思います。改革を最後までやり遂げるために、気を付けていることがあれば教えてください。

平松:大前提はトップの強いコミットメントです。それを強いメッセージで伝えています。また、人事の立場でいえば、社員を本当に信じて制度を設計し、説明してサポートするという点は崩してはいけないと思います。この二つがあり、定期的にサーベイをして振り返りの機会をつくることが大事です。これらをあきらめずにやり続けることが重要だと思います。

Q:平松さんにお聞きします。当社ではミドルマネジャーが行う1on1では、個人ごとにレベルの差が生まれています。どうすれば皆を標準的なレベルに引き上げられるでしょうか。

平松:一つは、やらされ感と共にやらせないことです。当社では1on1の報告は一切行っていません。その上で1on1がいかに効果的かという情報を発信し、サーベイを取って「あなたの1on1はこうですね」とフィードバックを行うことを集中して行いました。もう一つは、テクニカルなサポートです。どんな話をするといいのかというテクニカルな悩みが出てきたので、部下が次回の1on1で話したいテーマをクリックすると、それが上司に届き、他のマネジャーが同様の問いにどんな回答をしているかが例示される仕組みを入れました。1on1で大事なのは、実践することで部下の満足度が上がっていく手ごたえを感じてもらうことです。そこにサーベイを用いて、速いサイクルで上司に変化を感じてもらうように心掛けています。

グループディスカッション:組織活性化に必要なパーパスとは

次に「今日の話を聞いた感想」「自社でどのようなパーパスを定めているか」「従業員がイキイキと働き、組織が活性化するにはどのようなパーパスが必要か」をテーマに、グループディスカッションが行われた。ディスカッション後、数グループがその内容を発表した。

グループ1
これからパーパスをつくるという企業もあるなど、本日の話は皆、参考になったと思います。印象深かったコメントは、組織が活性化するにはどのようなパーパスが必要かというテーマで、個人のパーパスと企業のパーパスの融合が非常に大切であり、そこで「違い」があっても、そのことを言える文化、それを言語化する文化が社内にある、という話でした。そうした文化は失敗談を言い合うキャンペーンから生まれたそうです。当社にもパーパスはありますが、企業のパーパスが上から下りて、その実現のためにどうするかという話なので、どうしても企業発信になってしまいます。自分発信のものはなかなか生まれてきません。失敗をどんどんアピールするというやり方は有効だと思いました。

グループ2
総じていうと、大事なことはトップマネジメント層と現場社員とのすり合わせではないか、ということでした。いかに上層から熱意をもってブレイクダウンしていくかに尽きると。当社の場合は、社長が社内ブログで考えや情報の発信をしており、それに対して社員がリアクションしています。現場とトップがオンライン上で対話することが、新たな会社の風土になっているんです。また、最近ではコロナ禍でのコミュニケーションの活性化施策として社内にカフェをつくりました。

グループ3
私たちのグループはメンバーが老舗企業ばかりでしたが、「富士通さんの試みはすごい」という言葉が聞かれました。組織が活性化するにはどのようなパーパスが必要かというテーマでは、「パーパスを自分ごと化できることが大事ではないか」「企業のパーパスと自分のパーパスがつながっていると感じられるかどうかが大事」という言葉がありました。また、エンゲージメントサーベイでは「企業のパーパスをしっかりと持っていても、自分の働きがいになかなかつながらない」という声が聞かれたという例もありました。

グループ4
私たちのグループは、パーパスにこれからトライしようという会社ばかりでした。各々で運営方針やミッションはありますが、まだパーパスという概念、言葉は使って行ってはいない点が印象的でした。当社もパーパスという言葉は使っていませんが、企業のミッション、ビジョン、バリューがそれに置き換わっていると感じます。当社は5年前に人事制度を、成果主義から成長主義的な考えの制度に変更。企業の運営方針とともに個人の中期計画を立てて、個人の成長ミッションについてもマネジャーと話し合うようにしました。それにより、個人との関わり方が大きく変わったように思います。

最後に平松氏、木下氏、前野氏が本日の気づきを述べて、HRコンソーシアムは終了した。

平松:日本企業にはおもてなしの心がありますから、その一部でも自分の上司や部下に回すようにすればきっと共感が生まれると思います。やらされ感のマネジメントから共感のマネジメントに変われば、エンゲージメントも上がり、いい循環が生まれると思います。

木下:今日私が学んだのは、個のパーパスの解像度を上げることが大事だということです。メルカリには入社3年目の山があり、3年目くらいに一定のやり遂げ感から転職を考える人が出ています。そのような人には、もう一度パーパスを再設定するお手伝いをしなければいけないと感じました。参加した皆さんも、一緒にこれからパーパスドリブンのジャーニーをやっていきましょう。

前野 隆司氏(慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授)

前野:メルカリでは欧米に負けないようなクリアなパーパス経営を行っていました。富士通では欧米でもやらないような、企業と個人のパーパスの融合を試んでいます。ぜひ皆さんの会社でも、自社のパーパス経営とウェルビーイング経営にトライしてください。この先、どの会社が勝つかではなくて、「どの会社もみんなパーパスの会社になったね」といえるような状況をつくって、世界にそうした日本企業のよさを広げる時代が来るといいと思います。本日はどうもありがとうございました。