掲載:2021.03.02
2021年2月5日開催「HRコンソーシアム」全体交流会レポート
いま人事に求められる「レジリエンス」
困難や逆境を乗り越え、企業が発展していくために人事は何をすべきか
佐々木 丈士氏(Facebook Japan株式会社 人事統括 (Head of Human Resources))
東 由紀氏(コカ・コーラボトラーズジャパン株式会社 人事/総務本部 人事統括部 人財開発部 部長)
八代 茂裕氏(株式会社湖池屋 経営管理本部 人事部 部長)
服部 泰宏氏(神戸大学大学院 経営学研究科 准教授)
2020年に起きた新型コロナウイルスの感染拡大は、企業活動にとって大きな障壁となった。人事は従業員の安全確保、リモートワーク推進、オンラインでの採用や研修の実施などに追われた。このような状況を経て、今後人事に求められるのは、組織および個人における「レジリエンス」の強化だ。困難や逆境を乗り越えて、企業が復活し発展するために何をすべきなのか。神戸大学大学院の服部氏がコロナウイルス関連の調査結果を発表するとともに問題提起。三人の人事リーダーと、レジリエンスをテーマにディスカッションを行った。また、視聴者がグループに分かれてのディスカッションや質疑応答なども実施し、オンラインで活発な意見交換や情報交換が行われた。
- 佐々木 丈士氏(ささき たけし)
- Facebook Japan株式会社 人事統括 (Head of Human Resources)
フォード・ジャパン・リミテッド、フィリップ モリス ジャパンにおいて人事ビジネスパートナーとして様々な事業部門の組織開発を担当。2015年6月よりフェイスブックに入社、日本、韓国、パートナーシップ事業部の人事戦略を担当。
- 東 由紀氏(ひがし ゆき)
- コカ・コーラボトラーズ ジャパン株式会社 人事/総務本部 人事統括部 人財開発部 部長
コカ・コーラボトラーズ ジャパン株式会社 人事/総務本部 人事統括部 人財開発部 部長
外資系と日系の金融機関で営業やマーケティング業務に従事し、2013年に人事にキャリアチェンジ。野村證券でタレントマネジメントとダイバーシティ&インクルージョンのジャパンヘッドに着任。その後、アクセンチュアを経て、2020年2月より現職で人財開発、採用、評価制度を統括。中央大学大学院戦略経営修士、LGBTアライと企業施策の効果について研究。 2018年からAllies Connectの代表として、企業×アカデミック×社会のアライをつなげる活動を開始。特定NPO法人東京レインボープライド理事、認定NPO法人ReBit アドバイザー。『法律家が教えるLGBTフレンドリーな職場づくりガイド』(法研)、『LGBTをめぐる法と社会』(日本加除出版)を共著。
- 八代 茂裕氏(やしろ しげひろ)
- 株式会社湖池屋 経営管理本部 人事部 部長
1981年、高卒でコマツに勤務しながら夜間大学にて学び、その後Sler、半導体メーカー、医療機器メーカーを経て2008年に湖池屋に入社。主に人事総務畑を歩むが、食品安全認証事務局なども経験し、2018年より人事部長。現在、法政大学大学院石山恒貴研究室にて人材開発を学ぶ。
- 服部 泰宏氏(はっとり やすひろ)
- 神戸大学大学院 経営学研究科 准教授
1980年神奈川県生まれ。2009年神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了、博士(経営学)取得。滋賀大学経済学部情報管理学科専任講師、同准教授、横浜国立大学大学院国際社会科学研究院准教授を経て、現職。日本企業における組織と個人の関わりあい(組織コミットメントや心理的契約)、経営学的な知識の普及の研究、シニア人材のマネジメント等、多数の研究活動に従事。著書『日本企業の心理的契約: 組織と従業員の見えざる約束』(白桃書房)は、第26回組織学会高宮賞を受賞した。2013年以降は人材の「採用」に関する科学的アプローチである「採用学」の確立に向けた「採用学プロジェクト」に従事、同プロジェクトのリーダーを務める。著書『採用学』(新潮社)は、「HRアワード2016」書籍部門最優秀賞を受賞。近著に『日本企業の採用革新』(中央経済社)、『組織行動論の考え方・使い方』(有斐閣)がある。
服部氏による問題提起:組織と個人のレジリエンス
服部氏はまず、人事について、コロナ禍の中で見えてきたものが二つあると語った。一つ目は、業務においてデファクトスタンダート(事実上の標準)があったことだ。
「例えば採用でいえば、求職者は企業を訪問して面接を受けることで、採用の可否を判断されてきました。それが標準的な工程になっていたわけですが、コロナはそれを『本当にそれでいいのか』とあぶり出していきました」
二つ目は、業務の冗長的な部分に重要なポイントがあると気づいたこと。冗長とは重複していたり不必要に長かったりして、無駄が多いことを指す。これまで無駄だと思っていた作業の中に、実は重要な要素があったと気付かされたのだ。
「採用でいえば、面接を始める前に待合室で10分ほど雑談したりしますが、実はこの雑談の中に重要な情報があったりします。上司と部下の1on1でも、そうです。しかしリモートで行うと、雑談をするのが難しくなります。本日のテーマであるレジリエンスと関わりがあるのは、二つ目の話です。これまで一見すると無駄のように思えていたものや、私たちが合理性を追求する中でそぎ落としてきたものの中にこそ、実は大事なものがあるのではないか。コロナ禍でも頑張っている企業は、そういう点で何らかの秘訣を持っているのかもしれません」
次に服部氏は、2020年4月から8月にかけて行った、コロナ禍での企業および社員の行動の調査を紹介した。一つ目のデータは企業レベルの動きだ。
「コロナの事業活動・売上への影響を聞いたところ、3分の2の企業が減少していました。企業規模をみると、小規模事業者ほど大きくなっています。現場でどんな影響があったのかを聞くと、50~60%の企業で『従業員への意思伝達が難しくなった』『仕事上でのストレスを抱える従業員が増えた』『部署間の連携が取りにくくなった』と答えています。他方で『現場で事故、ミス、トラブルが増えた』という項目は賛同が30%ほどで、ミスはなんとか防げている状況がうかがえます」
本日のテーマであるレジリエンスとは、不測の事態や危機に直面した際に組織がそこから迅速に復旧できる能力を指す。服部氏はここで、レジリエンスとどんな要素に相関があるのかを測定したデータを紹介した。
「例えば『テレワークの早期導入』とレジリエンスは、強い相関があります。また『リーダー発信度』が高い企業ほど、レジリエンスが高い。『専門組織設置レベル』では、顧客からの相談を聞く部署を設けるなど、何らかのコロナに関する対応部署をつくった企業は、レジリエンスが高くなっています。企業がコロナ禍をくぐりぬけるには、こうした組織的なレジリエンスの力が大事なファクターになるのではないでしょうか」
もう一つ、コロナによって発見できた要素として、個人レベルでのインパクトがあるという。個人レベル・世帯レベルの所得の変化予測では、4000名中709名(16.90%)が大幅な所得減を予測していた。これに、ある程度下がると予測している1275名(30.39%)を合わせると、回答者の約半数である47.28%が今年の所得が減少すると予想している。そのうえ、コロナによって離職を余儀なくされている人もいる。いくつかの調査をみても約数パーセントの人が、コロナを原因として離職している。
「調査で『あなたのいる企業はコロナに対してどんな対応をしていますか』と聞いたところ、相対的に実施されていたのは『ビジョンや思いの発信』『情報提供』でした。逆にあまり実施されていないのは、『専門組織・チームの編成』『収束後の姿勢の提示』『資金・人員の投入』です。『収束後の姿勢の提示』とは、例えばコロナ禍で会議をリモートで行ってきたが、これを今後も続けるか元に戻すのかといった、収束後の姿勢を示していることを指します。例えば採用の場面で、企業がコロナに対してどんなスタンスでいたかという説明を求職者にきちんと行わないと、求職者に不信感を持たれてしまう可能性があります。各社の対応をみると、できている企業とほとんどできていない企業に分かれている印象があります」
次に服部氏が示したデータは、2020年4月から8月にかけての、コロナを理由とした離職にプラスまたはマイナスとなった要因の調査だ。離職に対しプラスの要因となったのは「飲食・宿泊業」「勤務地7都道府県」「外的エンプロアビリティ」「社外ネットワーク」。これらの要素があると、離職が増える傾向にあるということだ。
「外的エンプロアビリティとは、形成している知識やスキルが外に通用するという意味で、これがあるほど離職が多かった、または転職したということです。これはある意味、積極的な転職といえるかもしれません。また社外ネットワーク、つまり社外に人脈がある人ほど、離職が多かったということです」
では、逆にマイナスとなった要因は何か。それは「4年制大学卒業」「レジリエンス」だ。
「『4年制大学卒業』の人、また、個人として問題があったときに自身で復活できる能力のある人、つまり『レジリエンス』力のある人は離職が少ない、ということです。個人レベルでもレジリエンスの力が重要だということがデータから見えてきます」
次に服部氏は、これまで企業・個人にとって「事業活動に投入するインプット=資本」において何が大事だったかを語った。資本の種類には「経済的資本:その人が何を持っているか(例:お金、土地、パテント)」「人的資本:その人が何を知っているか、何を身につけたか(例:知識、スキル、学歴)」「社会関係資本:その人が誰を知っているか、誰とつながっているか(例:人脈、仲間、信頼)」「心理的資本:その人はどういう心のしなやかさを持っているか」がある。服部氏は、2000年代に入ってから、企業・個人にとって心理的資本が特に重要になってきているという。
「心理的資本とは、働く個人のポジティブな心理的状態に深く関わるものです。企業の競争優位を決定する心理的資本には、次のようなものがあります。『自らに対する健全な自信を持ち、挑戦的な課題に対して必要な努力を行える(自己効力感)』『現在や未来に対してポジティブなイメージを持てる(楽観主義)』『未来への希望と目標を持ち、それに向かって力強く進める(希望)』、そしてレジリエンスです。これらがあれば困難な逆境に直面しても、また仮に一時的にへこんだとしても、それを乗り越えていける力があるといえます」
服部氏は、こうした心理的資本があることで多くの強みが生まれると語る。その強みとは「長期間持続すること、目減りしにくい(持続性)」「環境変化、コンテクストの変化への耐性が強い(特異性)」「企業にとって形成可能、かつ伸長可能である(更新性)」「他の資本の形成・伸長を可能にするという意味で、一種のメタ資本(資本蓄積に影響する資本)」といったものだ。
「お金があっても使ってしまえば終わりですし、知識があっても環境が変われば使えないかもしれません。しかし、心理的資本はある程度形成されると、持続性、特異性、更新性が発揮されて、他の資本の蓄積にも影響する資本となります。本日のテーマであるレジリエンスは、この心理的資本の中でも特に重要なコアといえます」
登壇者によるディスカッション:コロナ禍に人事はどう対応したか
服部:まず、コロナ禍における変化や対処の状況からお話をうかがいたいと思います。
八代:コロナ禍によって、活躍できる人材の変化が加速したと感じています。営業がオンラインになり、今まで自分のキャラクターで売っていた人は、これまでのやり方が通用しなくなりました。戦略に富んだ人は、担当が変わってこれまで一度も顧客と会っていなくても、過去最高の売上を上げていたりします。きちんと戦略を描いている人でないと、売れなくなってきているのです。こうした変化は、人材開発を考えるうえで課題であると感じています。
佐々木:コロナ禍でより課題になってきているのは、社内のコミュニティーをどうやって維持、発展させていくのか、ということです。当社の事業そのものがコミュニティーをつくる支援をすることですが、これは従業員に対するアプローチでも同じです。人事にとって重要な仕事の一つは、社内にコミュニティーをつくり、従業員同士をつなげてエンゲージメントを高めたり、アウトプットを高めたりしていくこと。なぜ課題として感じているのかというと、コロナ禍で1年ほどオフィスを閉じているからです。今年度の新入社員は、まだオフィスを見ていません。当社のオフィスはコミュニティーづくりを具現化する工夫をさまざまに行っています。会議室以外の部屋は常にオープンで、偶発的な立ち話ができるマイクロキッチンもありました。現在はそういう機能を、バーチャルの世界でいかに具現化するかを考えているところです。
東:コロナ禍によって働き方が大きく変わる中、管理部門の仕事のようにリモートワークが可能な人と、どうしても現場に行かなければならない人とに大きく分かれました。当社は「スマート経営」として、それ以前から全社員にスマートフォンを貸与するなどIT環境を整備していたので、リモートワークへの切り替えは早く、昨年3月には可能な社員から実施していました。当社は2017年に企業統合があり、変革のための方針を決めるタスクフォースが社内にあり、そこがコロナ禍を乗り越える施策を検討する機能としても働いたことで、非常事態に対応できました。当社は自動販売機が重要な販売チャネルなので、コロナ禍で人の外出が減ったことにより、売上は大変厳しくなっています。そのため、社内はまさに今が変革期という状況で、現場で変革を進めるリーダーをいかに育成するかが重要な課題となっています。具体的には社内大学を立ち上げ、服部先生が言われたような心理的資本をいかにつくっていくか、という仕組みづくりを考えているところです。
服部:優秀な人材の要件は今も変わりませんが、最近では、その人が持つ能力やスキルを存分に活かすために心理的資本が重要だと言われています。どんなに激しく状況が変化しても、コンピテンシーをきちんと維持していくには、心理的資本が大事になってくるからです。
ここで皆さんのお話の中にあったキーワードから議論したいのですが、まず、八代さんがおっしゃった「活躍できる人材が変化している」ということについて、佐々木さんと東さんはどのように感じていらっしゃいますか。
佐々木:当社ではコロナ前後で、ハイパフォーマーの要件が変わったということはありません。この点については二つ土台があって、一つは、早くからジョブ型雇用を採用していること。もう一つは、コロナ前からリモートができるシステムが入っていること。こうした前提があったので、変化がないのだと思います。
東:当社は、活躍する人物像が大きく変わりました。コカ・コーラボトラーズではこれまで事業において確実な製造、販売、物流が求められてきたため、計画的に物事を回せる人財が必要とされてきました。しかし、企業統合によって変革を起こす必要が生まれたことにより、当社のリーダーシップのコンピテンシーは大きく書き換えられています。「自ら新しいことを学ぶ姿勢を持っている」「変革をリードできる」「多様性を活かしながら物事を進められる」といったリーダーシップが、求められるようになっています。
服部:佐々木さんは「社内のコミュニティーの維持」を挙げていましたが、レジリエンスに非常に関係する要素だと思います。八代さん、東さんはコミュニティーをつくるために工夫されていることはありますか。
八代:これは失敗例になりますが、2020年に新卒を26名採用し、半年で1名退社しました。このような事態はこの10年なかったことです。原因となったのは、オンラインでの研修だったと考えています。製造と営業の二つのチームに分かれて研修を行ったのですが、営業はオンライン研修だったため、リアルな接点がありませんでした。人との関わりによって組織に対する気持ちを高める機会を提供できなかったことが、退社の原因になっているのではないか。当社は社内にアットホームな雰囲気があることが魅力の一つであると思っていますが、その良さをバーチャルで伝えることができなかったのは、今後の課題だと思っています。
東:オンラインではどうしても1対1の会話になってしまい、あちこちで同時に会話が発生するような集団としての盛り上がりや連帯感が生まれにくくなります。そのため、当社では以前から導入している社内SNSを活用したコミュニティーづくりを推進しています。私が外資系企業に勤務していた時も、離れた人同士でのコミュニティーづくりにチャットを利用していました。やはり、気軽に話せる場をつくることは大事ですね。ただし、それだけでは連帯感の醸成にはまだ十分ではありませんので、研修のオンラインコミュニティーでは人事が仕掛けをつくるようにしています。例えば、チャット上で順番に自己紹介を提案したり、反応が鈍いときには誰かの発言に反応する効果を伝えます。オンラインのコミュニケーションを促進するには、ある程度仕掛けをつくることが重要だと思います。
服部:先ほど佐々木さんの話に「偶発的な立ち話」とありましたが、東さんのお話は、仕掛けによって偶発的な関わりをつくる作業のように感じました。この点について、佐々木さんはいかがお考えですか。
佐々木:偶発的な人の関わりという試みで、業務の延長ではない、ゆるさのある場づくりを行っています。まずは、毎日午後3時くらいにオンライン上に部屋を開けておき、誰でも自由に訪問して、くつろいで話ができるようにしました。最初はいろんな人が来てくれましたが、すぐに人が固定化するようになりました。理由を聞くと「テーマもないのに話に入れない」という意見が多かったので、毎回テーマを決めるようにしました。例えば、クルマ、料理、ヨガなど趣味の話です。そのうち「3時はまだ忙しい」という声が出て、今では金曜の夕方5時から、自由に飲み物なども持ち込めるようにしています。こうした場づくりで大事なことは、数を追わないことです。あくまでも自発的に、ゆるさをもって集まれるようにしています。
服部:人が自発的に自由に動くには、一定のルールや枠組みがあったほうがいいですね。オンラインでのディスカッションで「自由に発言して」と言っても、見えない相手を気にしてか、なかなか自由に発言できません。むしろ、何かルールを決めたほうがいい。例えば「最初はチャットで書いてください。そうしたら私が当てていきます」など、やり方を決めたほうが発言は活発になります。
グループディスカッション1:
「4人の話を聞いてどう思ったか?」
ここからは聴講者が数名ずつに分かれて、グループディスカッションが行われた。最初のテーマは「4人の話を聞いてどう思ったか?」。ディスカッション後はグループで話し合われた内容について二人が発表した。
Aさん:私のチームでは「コミュニティーを大事にしないといけない」「オンラインが増えたことで、コミュニケーションが密になったところもあれば、分断されたところもある」といった話が出ました。それらを踏まえて、レジリエンスを今後どのように従業員に持たせていくのか、評価にレジリエンスの部分は必要か、といったことを議論しました。評価については、レジリエンスの要素がある企業とない企業がありました。話の中で私が印象に残ったのは、レジリエンスを養っていくためには、企業理念を明確に打ち出し、それを浸透させていくことが重要だということです。自社が世の中にあることの意義を、従業員が実感していることが大事ではないか。理念を浸透させる方法にはトップダウンもあればボトムアップもあり、人の採用段階から企業理念の話をすることも大事だという声もありました。
Bさん:コロナ禍で、人事はいろいろな場所で仕事ができるように環境整備をしているという話がありました。その中で出てきたのは、従業員一人ひとりが、よりポジティブに健全な危機感を持って提案していくスタンスを持たなければいけない、ということです。そのためにはビジョンが共有できていなければいけません。ビジョンを明確にして、この状況下でどうすれば生産性を高められるかといった視点をもとに、ディスカッションしていくことが大事だと思います。
服部:そもそもレジリエンスには個人が先か、企業が先か、という問題があります。大事なのは、それぞれに共通する部分をいかに見出していくか、ということです。そのためにはビジョンを共有したり、お互いの意識をすり合わせたりすることは大事です。以前インタビューした自動車メーカーで面白い話がありました。その会社では「明日突然、クルマで四つのタイヤを使えなくなったらどうするか」「明日、顧客リストが消滅したら何をするか」などと、最悪の状況を想定した議論を行っていました。突然の状況下でどうするかという議論を行うことは、組織レベルでレジリエンスを高める一つの方法だと思います。一方、個人レベルでレジリエンスを高める方法としてよく言われるのは、小さな成功体験を積むことです。
グループディスカッション2:
「組織、個人でレジリエンスを高めるために人事ができることは何か」
二つ目のテーマは「組織レベルで、個人レベルでレジリエンスを高めるために、人事が行えることは何か」。ディスカッション後はグループで話し合われた内容について、参加者が発表した。
Cさん:個人については、全員からキャリア開発がポイントになるという意見が出ました。個人のキャリア開発のサポートを人事がどのように行っていくのか。個々がやりたいことをどのように実現させていくのか。そのためには組織に頼らなくても動ける、自律した人材を育てることが大事ではないか。また、組織については、正社員だけではなく、業務委託など、いろいろな形態の人材を組織として抱えることが大事になるのではないか、という意見が出ました。
服部:キャリア開発が大事という話が出ましたが、この点についてはいかがですか。
八代:変化の時代は先が読めないので、不確実性に対する構えの有無が大きなポイントになると思います。当社では新人に「10年で3部署以上は異動する」と宣言しています。その中で何が得意か、自分には何がやれるのかを探していこうと言っています。今後キャリアアダプタビリティ(キャリア適応力)を高めることは、個人にとっても組織にとっても必要ではないか思います。
東:当社では毎年、自分でキャリアを考える機会をつくっています。キャリアディベロップメントプランという仕組みで、1年、3年先のキャリアプランを個人が書き出します。また、書くだけでなく、上司との1on1で具体的にどうアクションするかを一緒に考えます。この他にも、同じ職位や異なる職種など、いろいろな人と共にキャリアについて考える機会をつくるようにしています。
佐々木:当社でも、キャリアについて考える機会を設けています。コロナ禍になって課題感が増したのは、自身が成長しているという実感をポジション異動だけではなく、今のポジションでどう醸成していくのか、ということです。今はなかなか新たなポジションをつくれない状況なので、同じポジション内でいかに成長できる経験を積ませるかに苦心しています。社員個々のキャリア志望、強み、能力開発領域を今まで以上に具体化し、一人ひとりに合ったキャリアプランを作成するよう働きかけています。
最後に服部氏がまとめを述べて、ディスカッションは終了した。
「私たちは何かが起きると、つい問題の渦中にいると思いがちですが、実はまだまだ前段部分ということがよくあります。レジリエンスでは今のポジションで、柔軟にどこまで考えられるかが大事になっていきます。本日はレジリエンスという非常に難しいテーマでしたが、その重要性について考えるきっかけとなったのではないでしょうか。本日は、どうもありがとうございました」