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掲載:2020.10.20

HRコンソーシアムレポート

2020年9月10日開催「HRコンソーシアム」全体交流会レポート
コロナ禍の半年を振り返り、今後の人事を考える
~3社の取り組み事例を基に~

株式会社サイバーエージェント 執行役員 採用戦略本部長 石田裕子氏
SCSK株式会社 人材開発グループ 人材開発部長 篠原貴之氏
KDDI株式会社 執行役員 コーポレート統括本部 人事本部長 白岩徹氏
神戸大学大学院 経営学研究科 教授 鈴木竜太氏

2020年に起きた新型コロナウイルス感染症の流行は、人々の生活や働き方を一変させ、企業にさまざまな変革をもたらした。この半年、企業人事はコロナ禍において、新たな採用、育成、働き方を模索し続けている。今回の日本の人事部「HRコンソーシアム」全体交流会では、パネリストとしてサイバーエージェント、SCSK、KDDIの人事責任者が登壇。コロナ禍の中でどのように人事業務に取り組んだのかを語り合った。ファシリテーターは、経営組織論、組織行動論、経営管理論の専門家である神戸大学大学院の鈴木竜太教授。初めてオンラインで行われた今回の全体交流会は、人事が新たな局面に向かっていることを実感した会となった。

問題提起:奮闘の中で見えてきたもの
神戸大学大学院 経営学研究科 教授 鈴木竜太氏

鈴木竜太氏(#神戸大学大学院 経営学研究科 教授)

まず鈴木氏が、コロナ禍において人事が奮闘する中で見えてきた課題について語った。

「今回のコロナ禍は、これまで私たちが経験してきた自然災害や地震などの問題とは大きく異なる部分があります。災害や地震は発生した当初が最もひどく、そこからどうやって再生していくかを考えるものでした。しかし、現在のコロナ禍は常に状況が変化し、悪化することもあるなど、実に不確実なものです。つまり、対策を立ててそれを実行すればいい、というものではない。その対策が水の泡になることもあれば、違うものを生み出すこともあります。そこで本日は、これまでの半年で皆さんがどんな奮闘をしてきたかを振り返り、これからの人事が行うべき活動について考えたいと思います」

次に鈴木氏は、コロナ禍の中で向き合う人事の仕事において、考えるべき三つの分野を挙げた。

「一つ目は『働き方(リモートワーク、テレワーク)の推進と変更』です。リモートワークでの評価をどう考えるのかは大きな問題です。そして、日常の仕事における情報のやり取りをどのように行うか。また、リモートワークにおける精神的な負担への理解と対策も、人事が向き合うべきものです。二つ目は『採用』です。インターンシップや面接などのリモートへの移行に対応し、人事は何を評価するのか。学生の情報の受け取り方や理解度も考えるべきポイントです。三つ目は『人材育成、研修』。オンライン研修の有効性をどのように確保するのか、研修における交流をどのように推進するかは大きな課題となっています」

事例発表:採用
株式会社サイバーエージェント 執行役員 採用戦略本部長 石田裕子氏

石田裕子氏(株式会社サイバーエージェント 執行役員 採用戦略本部長)

石田氏は、コロナ禍における採用活動の変化について述べた。サイバーエージェントの採用に関する考え方は、一言でいえば「能力の高さより一緒に働きたい人を集める。採用には全力をつくす」だ。

「社長の藤田からはいつも『素直でいい人を採って』と言われています。このニュアンスを毎年言葉に落とし、アップデートしながら採用活動を行っています。弊社の事業はどんどん多角化していますので、変化への対応力のある人を中心に採用を行っています」

同社の新卒採用の取り組みにおける特徴の一つは、全社員での採用だ。新卒採用は人事だけでなく、全社員で取り組む文化がある。これを「良い人材を・自分たちで・ちゃんと採用する」の頭文字をとって、YJCプロジェクトと呼んでいる。現場の社員が採用活動の設計に参加したり、学生との接点をつくったり、インターンへの呼び込みを行ったりする。

特徴の二つ目はインターンシップを必須にしている点。これにより企業理解、事業理解、風土理解、人への理解を進め、ミスマッチを最大限防ぐよう努力している。今年の採用活動は、コロナ禍で3月の合同企業説明会などのイベントが中止となり、自社が主催するオンラインイベントでの採用活動を行ってきた。結果として、地方の学生のエントリーが増加。学生は不安があるためか就活の動きが早まっており、エントリー数は昨年から数百パーセント増となっている。

コロナショックによる採用活動の変化

石田氏スライドより

「面接をオンラインに切り替えましたが、人の見極めが難しいことを感じているところです。学生からは『一度だけでも会社に行きたい』という声があり、希望があれば最終面接は対面で行っています。インターンシップも、オンラインが基本。職種によっては就業型インターンシップも行っていますが、80%以上はオンラインです」

4月の新人研修は300名弱の人員に対して、フルリモートで行われた。石田氏は、基礎知識のインプットは問題ないが、熱量や一体感の創出には工夫が必要だと感じている。

「アフターコロナの採用活動では、オンラインとオフラインのどちらでも状況に合わせて対応できるような体制を構築したいと考えています。それぞれの良いところを使い分け、採用活動に取り込んでいく。会社理解や事業理解はオンラインで十分ですが、会社のカルチャーや社員の雰囲気は実際にオフィスに行かないとわかりません。そこで対面によって志望度を上げ、クロージングや関係構築も基本は対面で行いたいと考えています」

石田氏は、今後も経営、現場、人事の三位一体型の採用を引き続き行いたい、と語る。そして最近同社が新たに人材要件として提示しているのは、この先も長く活躍してくれる10年活躍人材だ。数年で辞める人材を採るより、当事者意識をもって会社を大きくしたいと考える人を採っていきたいと語った。

事例発表:育成
SCSK株式会社 人材開発グループ 人材開発部長 篠原貴之氏

篠原貴之氏(SCSK株式会社 人材開発グループ 人材開発部長)

篠原氏は今年度行った新人の育成について語った。SCSKは約8000社の顧客に対し、八つの事業部門を持ち、連携して多種多様なITサービスを提供している。従業員は連結ベースで約1万4000人。単体7400人のうち5300人がIT技術者だ。人事の体制としては、人事・総務グループに人事部、労務部、ライフサポート推進部があり、人材開発グループに人材戦略推進部、人材開発部、専門性評価推進部がある。

同社は経営理念に「夢ある未来を、共に創る」を掲げ、人を大切にすることを約束事としている。人材育成は社員の自律的なキャリア形成を支援するスタンスで行っており、そこには三つの柱がある。

「一つ目は、学びの機会の提供です。全社の教育体系であるi-University、自己研さんを促進する仕組み『コツ活』と『学び手当』などがあります。二つ目は、配置・育成。年1回社員がキャリアについて上司と面談を行うキャリアディベロップメントプラン制度、部門内での定期ローテーション、人材公募・社内FA、副業兼業制度を運営しています。三つ目は、評価です。組織業績への貢献度、成果に導く行動特性を評価するMBO制度、技術職・営業職の専門スキルを可視化する専門性認定制度を運営しています。これら三つを『学び→配置・育成→評価』のサイクルで回し、人材育成を行っています」

全社の教育体系であるi-Universityには、キャリア開発、リーダーシップ開発、専門能力開発、ビジネス基礎能力開発の4分野があり、約350の研修コースを用意している。新人研修にはフェーズが三つあり、4月~8月は、フェーズ0の内定者教育とフェーズ1の新人研修(ビジネス基礎、IT基礎教育)を実施。9月の配属後にフェーズ2のOJT+配属後教育を年度末まで行う。

「これまでフェーズ1は集合研修でしたが、コロナ禍による緊急事態宣言中はすべてオンラインで行いました。宣言解除となった6月下旬から、一部集合形式を組み込み、ハイブリッドで実施しています。運営体制は新人375人に対し、事務局が7人。1クラス30~36人に分けて11クラスをつくり、各クラスにクラスマネジャーとして現場の社員が1人付いています」

新人教育の全体像(2020年度)SCSK株式会社

篠原氏スライドより

4月の研修初日から新人はオンラインで参加。ツールとしては日常のコミュニケーションにマイクロソフトのTeams、新人の状況を日々確認するためにタレントパレット、講義にZoomを使用。講義とは別に、月に一度、Zoomによる新人との面談を実施し、IT基礎教育では、研修後に理解度を測る確認テストを毎年実施している。結果はオンライン研修となった今年もいつもと遜色ない理解度が示されており、例年通りの成果と評価している。

「オンライン研修の課題には、『他クラスとの接点がなく同期の人脈が広げづらい』『常に見られている意識となり、雑談やくだけた会話の機会が少ない』『疲労が蓄積しやすく、集中力が維持できない』『ビジネスマナーができない新人が散見される』などが挙がっています。今後はこれらの解決に注力したいと考えています」

事例発表:働き方
KDDI株式会社 執行役員 コーポレート統括本部 人事本部長 白岩徹氏

白岩徹氏(KDDI株式会社 執行役員 コーポレート統括本部 人事本部長)

白岩氏はKDDIのテレワークへの取り組みの変遷について解説した。同社は在宅勤務を2005年に制度化。しかし、当時は育児・介護などでの利用を想定した限定的なものだった。2009年からテレワークの準備を開始。2011年の東日本大震災で実際に稼働したが、このときは一時的な導入となった。2017年より総務省などが行ったテレワークデイズに参画。2019年からは働き方改革として、社内カウンセラーの配置、ドレスコードの廃止、オフィス内での全面禁煙、社内副業の自由化などを実施している。

コロナ禍におけるテレワークへの取り組みはどうだったのか。同社のテレワーク比率は、2020年2月で2割、3月で6割、4月で9割と増加。「ワークライフバランスの充実」「通勤時間がなくなったことによる時間の有効活用」「ウェブ会議ツールの浸透」などの効果があったという。一方で、課題として「コミュニケーション、雑談の減少」「業務管理・品質の維持」「長引くテレワークによる不安」「成果評価の難しさ」を挙げる。

「実際に取り組んでわかったことは、ほとんどの仕事がテレワークで可能だということでした。ただし、仕事の質や生産性については検証が必要だと思います。また、リーダーによってテレワーク下でのメンバーとのコミュニケーションに差があるため、うまくできているリーダーのノウハウを全社で共有するようにしています」

テレワーク急速拡大(KDDI)

白岩氏スライドより

同社は、ウィズコロナは今後も続くと考えており、2020年7月には「KDDI新働き方宣言」「新人事制度」を発表した。その目的は、時間や場所に捉われず、成果を出す働き方を実現することだ。

「新人事制度では、職務を明確化し、成果で評価するKDDI版ジョブ型を目指しています。しかし、これはコロナ禍を契機にしたものではなく、2019年から検討していたものです。実践に向けての考え方として、『市場価値重視、成果に基づく報酬』『職務領域を明確化し、成果、挑戦、能力を評価』『Willと努力を尊重したキャリア形成』『KDDIの広範な事業領域をフル活用した多様な成長機会の提供』『企業の持続的成長と、ともに働く人の成長』を重視しています。また、社内DXではテレワークと出社によるハイブリッドな働き方を実現するIT・オフィス改革を行っていきます」

KDDIでは、これから「通信とライフデザインの融合」を推進し、“ワクワクを提案し続ける会社”として、社員の成長とイノベーション創出を加速し、新しい体験価値を創造することを目指している。

「今年6月には弊社の社長がタウンホールミーティングを行い、社員がオンラインで視聴しています。私たちがこれから目指す働き方は『NEW NORMALの実現~それぞれの“働く”を“デザインする”~』。そのために人事は『多様な働き方の実現』『新人事制度の実現』『人財育成・自己啓発の強化』『HRテクノロジーの導入』を推し進めたいと考えています」

「論点の整理」
神戸大学大学院 経営学研究科 教授 鈴木竜太氏

三者のプレゼンテーションを聞いて鈴木氏は、コロナ禍での奮闘の中で見えてきた課題を三点挙げた。一つ目は、ルーティン化していた日常の業務の部分的終焉と再考だ。長い間に結晶化・堆積化したやり方を再確認し、不要なルーティンのふるい分けを考える必要がある。二つ目は、人事業務において気付けていなかったことの気付きだ。

「コロナ禍では、距離と情報と時間構造の変化がもたらす問題が起きているように思います。距離の変化とは、ソーシャルディスタンスの問題で近くに集まって活動できない、という変化、逆にオンラインで現地に行かずとも活動ができてしまう変化です。情報の変化とは、画面上の情報と、そうではないアナログな情報の違いによる変化。時間構造の変化とは、人が集まらずにすぐに行えたり、通勤時間がなくなったりする、といった時間の変化です。こうした変化が我々に何をもたらしているのかを考える必要があります」

三つ目は「遂行する人事」から「思考・実行する人事」への移行だ。これまでは人事にもルーティン業務がたくさんあったが、コロナ禍で一旦リセットし、本当に必要なものは何かを思考する人事が求められる。鈴木氏は、人事の仕事の変化をこうした三つの視点から考えることが大事だと述べた。

グループディスカッションと全体共有

ここまでのプレゼンテーションを踏まえて、約30分の参加者同士のグループディスカッションが行われた。

<ディスカッションテーマ>

●コロナ禍で気づいた、日常の業務
どういうことが必要・大事で、不要だと気づいたか
必要な業務の再確認と、不要なルーティンのふるい分け

●人事業務における気づけていなかったことの気づきは何か
距離・情報・時間構造の変化がもたらすもの

ディスカッション終了後は、それぞれのグループで出た意見がチャットで共有された。

●コロナ禍で気づいた、日常の業務
  • 多くの業務がテレワークであっても可能であることを実感した。一部、押印や経費精算など出社が必要な業務はシステム化による改善が必要。
  • オンラインでの雑談の難しさ。雑談から得る情報は多いと気付いた。
  • 毎年ルーティンで行っていた定型業務で止めたものがあるが、それでも構わないのではないかと感じた。 など
●人事業務における気づけていなかったこと
  • マネジメントの難しさが課題。対面を抜きにしても部下の成果・メンタル面を把握できるような工夫が必要。また、高まるマネジメント層の負担に対するケアも重要。
  • コミュニケーションの取り方が大きな課題。1対1のコミュニケーションは取りやすくなったが、横のコミュニケーションは薄くなる。
  • リモートワークの前提として、信頼関係の構築が非常に重要。マネジメントの役割が増し、いろいろな面で二極化が進むように感じる。  など

パネルセッション

後半のパネルセッションでは、グループディスカッションの内容について議論が行われた。

鈴木:多くのチームが仕事における雑談の効能を述べていました。しかしコロナ禍で、研修では同期との雑談がなくなり、採用では学生との雑談が難しくなっています。こうした状況をどう思われますか。

石田:若手社員からもベテラン社員からも同様に、オンラインに移行したことで雑談の時間がなくなったという声を聞いています。そのため、各部署で工夫を行っています。例えば、雑談タイムをあえて設けたり、オンライン飲み会を実施したり、朝会や夕会で最初の数分を雑談に当てたり。特に新人は入社してすぐリモートワークの状況に置かれたので、周囲と信頼関係をつくるうえでも雑談は必要だと感じています。

篠原:雑談などの非公式なコミュニケーションはやはり大事だと思います。何気なく同僚に心情を話せるメリットは大きいと感じました。

白岩:緊急事態宣言中は、朝礼や夕礼、ランチタイム、飲み会など、あえて自由に話せる場をつくるようにしました。普段話さないような人同士をあえてグルーピングしたり、オンライン飲み会を開いたり。また、人事本部内での試みとして、地方にいるカウンセラーと職場をZoomで常時接続し、常にオフィスが見えるようにしたケースもありました。

鈴木:また、チャットでは「社員の躾(しつけ)がうまくいかない」という投稿がありました。これに関して参加者の方に詳しくお聞きしたいと思います。

参加者:ビジネスマナーなどは対面であれば教えやすく、注意もしやすい。しかし、オンラインではできているのかどうかがわかりにくく、注意もできません。

鈴木:オンラインで相手を注意するのは確かに難しいですね。この問題について、白岩さんはどう思われますか。

白岩:研修でもインプット系の内容は、オンラインで問題なく行うことができています。ビジネスマナーなどオンラインで教えることが難しいものについては、リアルに集まる機会をつくって教えようとしています。現場でのOJTも難しくなっていますが、現場の声を聞きながらフォローしていきたいと考えています。

鈴木:ここで皆さんに一つお聞きしたいのですが、社員の感情的なつながりをオンラインでどのように確保すべきでしょうか。

白岩:オンラインでも、感情的なつながりはつくれると思います。直接会っても言いづらいことはありますし、オンラインだから言いやすくなっている部分もある。コロナ禍によってコミュニケーションの選択肢が増えた、と前向きに考えていいのではないでしょうか。

石田:私たちは普段から一体感を大事にしていますが、それが薄れていることに危機感を感じています。そのためリモートワークでも熱量の高い組織を実現することをゴールとして、さまざまな試みを行っているところです。

篠原:弊社はエンジニアが多く、オンラインにも慣れ、ビデオをオフにして音声だけでコミュニケーションを取ることもあります。しかし、今の状況は過去の関係性の貯金によって成立している部分もあるので、今後は関係性が薄らぐこともありえます。そのため、以前のような関係性に戻すことも大事だと思いはじめているところです。

鈴木:私は、今、企業の取り組みは一つの分岐点にきているのではないかと考えています。一つ目の道は、オンラインでも、できる限り今までの関係性を維持し、それを確保していこうとする考え方。二つ目の道は、例えばジョブ型に移行して業務連絡を中心にオンラインを使うなど、まったく新しい関係性をつくっていく考え方です。今後人事はどのような方策を取るべきか。皆さんにとって本日のセッションは、人事が新たな局面にあることを実感できた会になったのではないでしょうか。どうもありがとうございました。