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掲載:2019.11.11

HRコンソーシアムレポート

2019年9月20日開催「HRコンソーシアム」全体交流会レポート
人事のキャリアをどう歩む?
~何を学び、どのように向き合えばいいのか~

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日々、自社の社員のキャリアと向き合い、成長の支援に携わる人事。時代の変化とともに、働き方の多様化が加速しつつあるなか、自身の「人事としてのキャリア」に想いを巡らせる方も多いのではないだろうか。 今回の日本の人事部「HRコンソーシアム」全体交流会では、企業人事として三者三様のキャリアを歩んできた三氏がパネリストとして登壇。人事という仕事にどう向き合ってきたのか、これまでの経験から得られた学びや気づきについて語った。ファリシテーターはキャリアの専門家で、豊富な人事経験も持つ慶應義塾大学大学院 理工学研究科 特任教授の小杉俊哉氏。参加者とともに「人事のキャリア」について本音で話し合い、考える時間となった。

「人事のキャリア開発について」
慶應義塾大学大学院 理工学研究科 特任教授 / 合同会社THS経営組織研究所代表社員 小杉俊哉氏

最初に小杉氏が、自身のこれまでのキャリアについて語った。30歳でNECを退職し、アメリカに私費留学。コンサルタントとして働いた後、縁あって入社したユニデンで、人事もマネジメント経験もまったくない状態から、人事総務部長に抜てきされた。その後、ヘッドハントされたアップル日本法人では、当時停滞期にあった同社を立て直すために人事ディレクターとして辣腕(らつわん)を振るった。現在は大学で教えたり、会社を立ち上げたりしているが、基本はフリーランスだ。個人事業主としてのキャリアは20年を超える。かなり早い時期から自律した働き方を選択してきている。

そんな自身の経験談から、話題は「現在、もっとも優秀な学生はどんなキャリアを希望しているか」というテーマへと展開。近年、人気なのは「外資系戦略コンサルティング会社」に就職し、その後、自ら「起業」するコースだという。東大の理工系大学院でも、ITの学生の就職希望先一位は「スタートアップ」だ。就職ひとつとっても、以前の常識とはまったく様変わりしているのだ。

#2019年9月20日開催「HRコンソーシアム」全体交流会レポート

「企業も、今までと同じことをしていたら成り立たない時代になっています。そういう環境の中では、社員も自律的に働くことが必須です。顧客志向、課題発見・仮説構築力、継続的学習などが、これからの人材に求められます。また、問題を自ら見出していく能力も必要です。企業はそういうことができる人材を採用し、育成していかなくてはなりません。その上で、価値創造、イノベーションをもたらすようにするには、タレントのモチベーションを最大化するしかない、つまり人材に気持ちよく働いてもらうことです。管理してやらせる従来型のマネジメントは意味をなしません。多様で自律した人材といかに向き合うのかが重要です」

小杉氏は、いま人事が向き合っていかなくてはいけない課題として、女性活躍やLGBTなどのマイノリティー対応に留まることなく、副業解禁、退職者ネットワークの形成、出戻り歓迎の人事施策などのテーマを示した。さらにはミレニアル世代・Z世代に納得される評価・人材確保施策、中国やインドなどの海外人材も含めたAI・データサイエンス人材の確保、ESG・SDGs・CSVとの同期なども重要だという。

特に小杉氏が強調していたのが、「職場の人間関係づくり」の重要性だ。チームビルディングを重視する外資系企業では、社内研修もアウトドアやリゾートで行う。メンバー同士が触れ合う時間を大切にするためだ。会議室で研修を行う日本企業とは大きな違いといえる。

「日本企業は、職場の人間関係づくりやエンゲージメント、マインドフルネスのための投資をほとんど行っていません。働き方改革で勤務時間が短くなったこともあり、職場が殺伐としてきています。しかし、仕事をこなすだけでは間違いなくビジネスは先細りになります。人間関係づくりに投資していかない限り、イノベーションも生まれず、個人の充実もありません」

では、これからの人事のキャリアは「どうあるべき」なのか。小杉氏は、「いくつかのスキルを組み合わせる」ことでオンリーワンの存在となるのが、人事としての市場価値を高める有効な戦略だとする。では、自分の強みとなる経験はどうやって積めばいいのか。

「複数の専門性を組み合わせてもつこと。それには『プランド・ハプンスタンス(計画された偶然性理論)』が参考になるでしょう。2000年に慶應義塾大学SFCのラボが日本に紹介した、アメリカ西海岸発の考え方です。基本的には生涯にわたって学習し、いきいきと毎日をエンジョイすることが重要であり、キャリアの意思決定はしなくていい、という理論です。肝心なのは、いかにチャンスを作り出す行動をとるか、ということです」

いろいろなことに好奇心を持って自身が開いていれば、チャンスはむこうからやってくる。従来型のキャリア理論に対するアンチテーゼでもあったが、すでに広く受け入れられている。実際、小杉氏自身もキャリアの方向性を自分で決めたことは、留学・コンサル以外はほとんどない。目の前のことを必死にやっていたら、たまたま人事をやらないかと声をかけられ、大学で教えてみないかと誘われた。それが現在のキャリアにつながっている。

小杉氏は「これからの人事が優先的に取り組むべきテーマ」も語った。

#2019年9月20日開催「HRコンソーシアム」全体交流会レポート

「それは『人間関係への働きかけ』です。そのために必要なスキルは、コミュニケーション、ファシリテーション、コーチング、リレーション・ビルディングの四つ。いろいろな企業のお手伝いをしてきてわかったのは、うまくいかない原因のほとんどは人間関係だということです。コミュニケーションの問題さえ解決すれば、うまくいきます。そして、社内でその問題を解決できるのは人事だけです」

さらに、人事にとって「リーダーシップ」がより重要になるという。

「グーグルでは社内調査の結果、成果の出せるチームとそうでないチームの違いは、心理的安全性の差だと結論付けています。要は、自由にものが言えて人間味あふれる組織かどうか、ということ。上から管理してやらせるのではなく、お互いにチェックしあえる関係の方がチームは活性化し、新しいものを生み出すことができます。日本もそうなっていかなければ、欧米や中国だけでなく他のアジアの国々からも置いていかれるでしょう。その中心になるのはマネジャーではなく、リーダー。人事の皆さんには、その役割を担ってほしいと思います」

「何を学び、どのように仕事と向き合えばいいのか」
株式会社Jストリーム 管理本部 人事部長 田中潤氏

田中氏は、自身のキャリアを「企業内でのキャリア」と「越境キャリア」という切り口から語った。キャリアのスタートは日清製粉での営業。29歳で人事に異動し、採用を担当した。その後、制度企画の仕事をアサインされるが、まったく経験がなかったので外部の「経営アカデミー」で約1年間勉強した。これが最初の「越境」だ。

#2019年9月20日開催「HRコンソーシアム」全体交流会レポート

「いろいろな企業の人事と触れ合うことで、人事観が変わりました。どっぷりと仕事に取り組むようになり、本をたくさん読んで勉強しました。疑問に思ったことがあれば、他社に出かけて直接話を聞くことも。そんな関係が1対1でなく面で広がればもっとおもしろいと思って、いろいろなコミュニティーをつくりました。今も続く『食品シェアードサービス連絡会』『異業種ダイバーシティ連絡会』なども、私が事務局をやって立ち上げたものです」

その後、異動でグループ会社の営業担当役員に。キャリアはいったん中断するが、自ら「浪人時代」と呼ぶその期間もずっと人事の勉強は続けていたという。

「ただ、勉強してもアウトプットする機会がない。そこでキャリアデザイン学会で発表したり、毎日ブログを書いたりしました。47歳の時に、やはり企業人事をやりたいという思いで、ぐるなびに転職。責任者として人事のほぼ全分野を経験しました」

10年目の節目となった今年からは、Jストリームの人事部長に。現在も副業として、GCDFキャリアカウンセラー養成講座のトレーナーを務めている。ライフワークは「人事・キャリア・酒場」だ。

「人事はさまざまな学問がクロスオーバーする分野。常に学習し、人と真摯に向き合っていれば必ずいい仕事ができます。そして、人事をやるからには、あらゆる分野を経験してオールラウンダーになってほしい。全部経験していれば、人事部長へのチャンスも広がります。私の今のポジションも、非常におもしろいと思っています」

「一事例としてのキャリア紹介」
SCSK株式会社 人材開発部人材開発課 鈴木潤氏

現在42歳の鈴木氏は、労働時間削減の「スマートワークチャレンジ20」「健康わくわくマイレージ」「自己研鑽支援・コツ活」「副業/兼業解禁・スマプラ」といったユニークな人事施策で知られる、SCSKで人材開発を担当している。これまでのキャリアを「外的キャリア(仕事内容や組織内での地位)」と「内的キャリア(仕事への動機づけ、価値観)」の二側面から語ってくれた。

鈴木氏の外的キャリアは、尺八演奏家として始まった。証券営業を経て、26歳からは一貫して人事。主に採用・人材育成でキャリアを重ねてきた。現在の会社に転職後は年間300~350名規模の採用を取り仕切ったほか、合併によってSCSKが誕生した際には、約半年間、合併先企業に単身で出向し、統合後の人事施策の準備に携わった。

「もう一方の内的キャリアは、CDPシートの『将来のありたい姿』を見ていただくのが早いでしょう。転職して12年間、ずっと同じことを書いています。『50代後半には、会社に籍を置きつつ、業務で得た経験を社外で活用していたい。社外活動を通じて会社の社会的地位向上に寄与したい』。具体的には大学のキャリアセンターで就職支援をするようなイメージです。もともと音楽家としてスタートしたので、人を楽しませたい、気持ちのいい職場づくりの役に立ちたいという思いが強くあります」

#2019年9月20日開催「HRコンソーシアム」全体交流会レポート

また、鈴木氏は今年解禁された副業にも積極的に取り組んでいる。大学でのキャリア授業、就活塾でのカウンセラー、キャリアコンサルタント資格更新講習の講師など、いずれも自身の将来のありたい姿につながる要素が大きい越境キャリアだ。

「これらはすべて知人の紹介による副業です。よいキャリアには人脈が重要だと改めて感じています。自己研鑽で得た知識をゆるやかな人脈(弱い紐帯の強み)で副業につなげ、その成果を本業に持ち帰る。そういう往還を意識して、今後もキャリアを重ねたいと考えています」

「キャリア形成の図り方・向き合い方」
ダイドードリンコ株式会社 人事総務部 人事グループ 石原健一朗氏

石原氏は、京セラで約10年、ダイドードリンコで約5年、通算15年の人事キャリアを持っている。京セラ時代には、人材開発・組織開発に特化していた石原氏だが、現職では人事のほぼ全分野に携わるようになった。その過程はかなり興味深いものだ。

「転職してまず任されたのは、経験のある教育・研修。それ以外の分野はすべて自分で取りにいって仕事の幅を広げてきました。最初に教育・研修で専門性を示しながら、人材育成上の課題を抽出し、翌年には関係の深い採用スキームの刷新に従事。そこで自身のプレゼンスを向上させ、直接役員・社長に提案して興味のあった人事企画や人事評価制度の仕事もまかせてもらえる環境をつくりました。現在は経営戦略部との関係も構築しつつあり、来季には戦略人事としてPDCAを回す基盤ができあがる計画です」

数年かけて着実に自らの仕事の幅を広げてきたが、京セラ時代の経験が大きく影響しているという。

#2019年9月20日開催「HRコンソーシアム」全体交流会レポート

「京セラでは、教育・研修が専門でしたが、主体的に既存の仕組みを再構築し、毎年のように新規研修を立ち上げ続けてきました。研修を通して組織を観察し、それぞれの風土を把握。キーマンとの関係を構築していくことの重要性を学びました。また、自らクレーム対応を積極的に買って出て、困難な交渉相手との関係を築く、あるいは誰も手を出さないような難しい課題に率先して取り組む、といったことも意識的にやってきました」

石原氏は常に「探究心」を持って、自身の「思考力」や「対人関係構築力」を磨いてきた。自分がやりたい仕事ができる環境を自分でつくる、きわめて戦略的なキャリア形成を図ってきたといえる。

「人は人によって良くも悪くも変わります。私は人事として人に関わることで良い方向に変えていきたい。それが生きがいであり、そこを意識しながらキャリアを歩みたいと思っています」

グループディスカッションと全体共有

ここまでのプレゼンテーションを踏まえて、テーブルごとに約15分のグループディスカッションが行われた。終了後は、それぞれのグループでどのような意見が出たのかが共有された。

  • これから人事がもっとも取り組むべきなのは組織開発、人間関係への働きかけという話には非常に納得させられた。
  • たまたまあったチャンスを自分でつかみにいく話が印象に残った。しかし、実際にはキャリアは会社から与えられるものと考えている社員が多いのが実情ではないか。
  • 専門性の掛け算が強みになるという話があった。人事ともうひとつは何があればいいのか。非常に難しく悩ましい。
#2019年9月20日開催「HRコンソーシアム」全体交流会レポート

パネルセッションと質疑応答

後半のパネルセッションでは、まず「キャリアの専門性をどうつくればいいのか」というテーマについて話し合われた。

#2019年9月20日開催「HRコンソーシアム」全体交流会レポート

田中:私の場合は、社外でいろいろな「事務局」を担当して、人を集めたり仕組みを作ったりする経験をたくさんしました。結果的に、それが自分の専門性になっています。越境学習は経験を持って帰らないと意味がありませんが、うまく会社の仕事にも生かされていますし、循環もできているのかなと思います。

鈴木:担当業務の「深さ」もひとつの専門性になると考えれば、私にとっては300名規模の採用をまわしてきたことが専門性になっていると思っています。それにさらに何かを組み合わせれば、100人の人事がいてもその中で一番になれるかもしれません。

石原:私は、逆に専門性を深めすぎて悩んでいた部分がありました。そこで、もっと人事を幅広く経験したいと考え、転職したわけです。さまざまな部署の人とつながって、いろいろな価値観を吸収すると、人事内だけの常識が転換されます。そこから新しいものが生まれることもあります。とにかく関わろう、多様な価値観を知ろう、という意識でいいのではないかと思います。

#2019年9月20日開催「HRコンソーシアム」全体交流会レポート

小杉:特定のフィールドで深堀りすることだけが専門性ではないと思います。コミュニケーションが得意とか、現場を知ってるとか、幅広い経験があるといったことも専門性でしょう。人事は人事内にこもりがちです。組み合わせが専門性になると広く捉えるのがいいと思います。自分で「ここを深めよう」と考えなくても、何でもやっていれば結果的に複合的な専門性になっていくはずです。

質疑応答では、「オールラウンダーを育てたいがジョブローテーションのタイミングが難しい」という質問に対して、登壇者が回答した。

田中:上司として、かなり意識してやってきた部分です。給与のスペシャリストだった人材にも、採用や能力開発を経験させ、その上で最終的に給与に戻したこともあります。新卒採用などは何年も続けてやっているとマンネリ化してきす。仕事によっては「旬」があるので、それを本人にも伝えると納得感があるのではないでしょうか。

石原:大手だと人事内でも担当が明確に分かれていますが、たとえば「採用」と「教育」は、とても関係が深い。「教育」と「評価」も関連があります。そういった隣接する業務に関わらせてあげることで、スイッチしやすくなると思います。現在は意識的に行っていますね。

他にも多くの質問が出され、登壇者から経験に即した回答やアドバイスが行われた。最後にセッションを締めくくって、小杉氏から参加者にメッセージが送られた。

#2019年9月20日開催「HRコンソーシアム」全体交流会レポート

「私は皆さんのように人事の専門ではありません。それでも、人事マネジャーや人事コンサルティングをやってきました。あえて言うなら、人事は誰でもできる仕事です。人の立場に立つことは誰でもできますから、道理・合理から自分で考えればおのずと道が見えてくる。同時に、いくら戦略、戦術とかいっても人が動かなければ、何ひとつ実現されません。そういう意味で、人事はもっとも重要な仕事といえます。そういう自負を持って、人事に取り組んでほしいと思います」