掲載:2017.03.08
2017年2月開催 HRコンソーシアム全体交流会 レポート
- 【イントロダクション】 人事同士がつながり、学び合う、人事のためのオープンプラットフォーム~「日本の人事部 HRコンソーシアム」のご紹介~株式会社アイ・キュー 「日本の人事部 HRコンソーシアム」 事務局
- 第一部:会合【プレゼンテーション①】 人事同士がつながる意義 ~3つの意義と6つのポイント~パナソニック株式会社 コーポレート戦略本社 人材戦略部 主務 One Panasonic / One JAPAN発起人・代表 濱松 誠氏
- 【プレゼンテーション②】 クワクしながら自分の成長に挑むギャップジャパン株式会社 人事部 シニア・ディレクター 志水 静香氏
- 【参加者によるディスカッション】
- 【第二部:新年懇親会】
人事の、人事による、人事のためのオープンプラットフォームである、「日本の人事部HRコンソーシアム」。その第2回の「全体交流会」が、2017年9月8日に開催された。冒頭では、各分科会参加企業の感想を共有する報告会を実施。後半はその分科会のひとつである「HR Tech・AI」グループを代表して、アクセンチュア株式会社 佐藤優介氏による講演「HR領域におけるテクノロジー活用~人事業務や人事としてのキャリア構築はどう変わっていくべきか~」が行われた。広い会場の各テーブルは、会員企業に加えオブザーバー参加の企業からの出席者で埋まり、参加者は情報収集と企業の垣根を超えた人事同士の交流に熱心に取り組んでいた。
- 志水 静香氏(しみず しずか)
- ギャップジャパン株式会社/人事部 シニア・ディレクター
西南学院大学文学部卒業後、日系ソフトウェア・サービス会社に入社。入社とともに米国オハイオ州シンシナティ市に勤務。その後、AMD、マイクロソフトなどの外資系IT企業を経て、1995年にゼネラルモーターズに転職。人事部にて職務評価、報酬制度設計などの主要プロジェクト業務に従事。
1999年ギャップジャパンに転じ、採用、研修、報酬管理などをはじめとする人事全般の管理業務をプロジェクトリーダーとして牽引するとともに人事制度基盤を確立。2011年現職のシニア・ディレクターに着任。2013年よりGap本社およびGap店舗部門人事を統括。
2013年3月 法政大学大学院 政策創造研究科雇用政策専攻。修士課程終了時に最優秀論文賞を受賞。非正規社員の能力開発、キャリア展開など非正規社員を中心とする雇用政策を研究する傍ら、意欲と能力のある若者が活躍できるような仕組みを構築し、社会にインパクトを与えるという想いをもって自身の仕事に取り組んでいる。
- 濱松 誠氏(はままつ まこと)
- パナソニック株式会社/コーポレート戦略本社 人材戦略部 主務
One Panasonic / One JAPAN発起人・代表
大阪外国語大学在学中、米国留学やインド長期研修等を経て、卒業後2006年にパナソニックに入社。 海外営業、インド事業推進を経て、2012年にコーポレート戦略本社人材戦略部に異動。 採用戦略や人事制度設計・運営を担当する傍ら、同年、部門横断の交流を図る有志の会「One Panasonic」を立ち上げる。
2016年3月、同社初の試みとして、資本関係をもたないベンチャー企業(パス株式会社)への出向人材に選抜。 2016年9月には、大企業20-30代の有志社員による実践共同体「One JAPAN」を設立、代表に就任。 オープンイノベーションや新しい働き方について研鑽をはかり、提言や実践的な事業モデルの確立を目指す。 日経ビジネス「2017年 次代を創る100人」に選出。
【イントロダクション】
人事同士がつながり、学び合う、人事のためのオープンプラットフォーム
~「日本の人事部 HRコンソーシアム」のご紹介~
株式会社アイ・キュー 「日本の人事部 HRコンソーシアム」 事務局
冒頭に、株式会社アイ・キュー 代表取締役社長の林城より「日本の人事部 HRコンソーシアム」創設のご挨拶と、「日本の人事部 HRコンソーシアム」事務局の青田より、創設の背景や具体的な運営ポリシーについて説明を行った。
「私どもは『日本の人事部』や『HRカンファレンス』などへの反響を通して、よりインタラクティブで、かつ参加者を人事担当者に限定したコミュニティが求められていることを実感していました。そこで創設したのが、人事の、人事による、人事のためのオープンプラットフォーム「HRコンソーシアム」です」
「HRコンソーシアム」の当面の活動は、半年に一回の全体交流会と、月一回程度のテーマ別分科会が中心となる。そのうち、テーマ別分科会は、講師と受講生という一方通行の関係で学ぶのではなく、「HRコンソーシアム」会員同士が主体となって関心のあるテーマを元に集まり、問題意識や取り組み事例など持ち寄り、知の共有によって課題解決のヒントを得る、双方向的かつ能動的な学びの場であることが特色だ。
初年度は、事務局がテーマ設定や運営についてもサポートするが、最終的には「HRコンソーシアム」会員企業が自律的に運営していくことを目指す。また、活動を通しての一対一の出会いで「社外メンター」を見出すことも、「HRコンソーシアム」の目的の一つであり、事務局はそのための支援も行っていく。
「人事同士の知恵。それを結集して日本の人事全体を良くしていくことにつなげたい。私どもはそれを全力でサポートしていきます。皆さまの積極的なご参加を期待しています」
「HRコンソーシアム」設立の趣旨が参加者にも浸透したところで、続いてこの日のメインイベントである二つの特別講演が行われた。
第一部:会合【プレゼンテーション①】
人事同士がつながる意義 ~3つの意義と6つのポイント~
パナソニック株式会社 コーポレート戦略本社 人材戦略部 主務 One Panasonic / One JAPAN発起人・代表 濱松 誠氏
最初の講演を担当した濱松氏は、「組織を超えて知の共有を行う」という「HRコンソーシアム」の理念をまさに体現する存在といえる。この日は、そのような活動がイノベーションの実現にいかに効果的であるか、濱松氏自らの経験を通して具体的に語られた。
講演は、現在「四足のわらじ」を履いているという濱松氏のユニークな自己紹介からスタートした。
「入社当初は海外営業でした。でも、組織や企業全体を変えられるのは経営者か人事しかいないと思っていました。その時はまだ20代だったので、社長になるにはあと30年くらいかかるなと(笑)。そこで人事に異動したんです。人事としてバリバリやって絶対会社を変えようと思っています」
濱松氏のパナソニックでの所属は「コーポレート戦略本社 人材戦略部」。しかし、現在は東京の株式会社PATH(パス)株式会社に出向中だ。同社は「越境型」人材開発・コミュニティ醸成プログラムの立ち上げなどを行うンチャー企業。パナソニックが資本関係のないベンチャーに人材を派遣するのは濱松氏が第一号だ。薄型テレビ事業で大きな挫折を経験したパナソニックは、組織風土そのものから変革しようとしている。濱松氏は「外部の知」の導入するための先駆けだが、ここまでなら「二足のわらじ」となる。実はここからが濱松氏の本領である。
「同時に、『One Panasonic』の発起人・代表をつとめています。部門を超えて、タテ・ヨコ・ナナメで人をつなげることで、一歩踏み出す個人をつくる。それによってクロスバリューイノベーションを実現する。10年前に40人で始めた内定者懇親会が、今では約2000人の集団になりました」
パナソニックには国内本体だけで7万人の社員がいる。関係会社まで入れれば10万人、グローバルでは25万人だ。しかし、よく見ると同じ職場であっても、隣の部署が何をやっているのか知らないことも多い。もし、多くの社員がつながって知の共有ができれば、さまざまな課題が解決するのではないか。そんな思いが「One Panasonic」の活動のバックボーンになっている。
「これは自社に限った話ではありません。そこで“組織を超える”ことを考えました。まさに今日のように企業の枠を超えて多くの人たちとつながりを持とうということ。そしてオープンイノベーションを起こしていきたい。それが『One JAPAN』の活動です」
これで「四足のわらじ」が出そろった。もちろん、こうした社内・社外にわたる活動に対しては批判的な声もあった。しかし、濱松氏は粘り強い活動によって、そうした圧力を跳ね返してきたという。
「いろいろやっているとまず社外が評価してくれます。すると社内の風向きも変わってくる。地道に継続してやっていく、いわば草の根の社会運動のようなことをやっていく必要があります」
こうした実践経験を受けて、濱松氏が「人事同士がつながる意義」としてあげたのは、以下の3点だった。
1.弱い紐帯(Strength of Weak Ties)
2.志・熱量の維持・拡大
3.人事こそがイノベーター、人事こそドライバーズ・シートへ
一つ目は、「One JAPAN」がめざすような外部との弱いつながりという意味だ。これは社内での「強いつながり」とセットになることでオープンイノベーションの実現につながる。二つ目は、他社の人事と話し合うことで、変革への思いを強くするということ。三つ目は、会社を変えられるのは経営者か人事しかいないという認識だ。したがって人事こそが主役になるべきだと濱松氏は強調する。
続いて、実践する際のポイント、活動を成功に導く秘訣が6点に整理されて紹介された。
1.社内と社外のバランスを心がける
2.人事とその他職種のバランスを心がける
3.トップ・ミドル・新入社員、どの階層とも繋る
4.自分のタグは何かを考える
5.会に出るだけでなく、自ら主催する
6.まず動く、次につながる、そして持ち帰る
まず、濱松氏が触れたのは「社内外の人脈や活動のバランス」だ。社外活動にあまりにも熱心になりすぎると、社内に「何をやっているんだ」「自己満足じゃないのか」といった不信感が生じる。「半々」ないしは、「社内6・社外4」くらいの比率が望ましいという。
最後に濱松氏が訴えたのは、主体的に取り組むことの重要性だった。
「人事こそがイノベーターにならないといけません。人事が前に出すぎ、目立ちすぎ。そう言われてほしいと思います。「人事がそこまでやるの?」と言われるくらいでちょうどいい。さらに、皆さん個人はできていたとしても、同僚、後輩、先輩、上司、新人など、周囲の人たちはどうでしょう。今日お話ししたことをまわりの方に一つでも伝えてください。知を共有していってください。それを同僚、後輩、部下が、さらに周囲の人たちに伝えていくんです。人事と経営者だけが会社を変えられる。このことを最後にもう一度お伝えしたいと思います」
「次代を創る100人」にも選ばれた濱松氏。その熱い思いを参加者全員が共有した講演だった。
【プレゼンテーション②】
クワクしながら自分の成長に挑む
ギャップジャパン株式会社 人事部 シニア・ディレクター 志水 静香氏
続く講演を担当した志水氏は、日米で数社の外資系企業に勤務後、ギャップジャパンに入社。以来18年間にわたって同社の人事を担当している。まさに人事のプロフェッショナルといえる存在だ。「たぶん社内でいちばんギャップが好き」という志水氏は、同社が創業以来保ち続ける「常に対等」「公平な機会」「一人ひとりが大切」といった理念が浸透したギャップの組織を何よりも誇りに思っているという。講演は、そんな志水氏の考える「人事の役割」を参加者と共有するものとなった。
志水氏が最初に示したのは「エンゲージメントを高める人材戦略」と題されたスライドだった。
「私はこれまでにさまざまな施策、プログラムを実施してきました。その基盤はものすごくシンプル。人をひきつける(Attract)、育成する(Develop)、報酬を与える(Reward)。この三つだけ。これで、外的なモチベーションではなく、社員が自分の中から湧き出る『この会社で働き続けたい』『頑張っていきたい』という思いを持てるようになる。それがエンゲージメント。さきほど濱松さんは、経営者と人事が会社を変えられるとおっしゃっいました。私は、人事は経営者をも変えられると思っています。会社に、組織に、社会にもっとも影響力を持つであろう社長を変える。それが人事のミッションではないでしょうか」
ギャップジャパンの制度はすべて、このエンゲージメントを強化し、「称賛される企業(Admired Company)」になることを目的として組み立てられている。ここから数枚のスライドを使いながら、同社が理念を浸透させるために導入しているリワード制度などが説明された。
その上で「人事とは何のためにいるのか」というこの日のテーマについて、志水氏による一つの回答が示された。要点をまとめると以下のようになる。
1.事業戦略達成に必要な人的なアプローチを一緒に考える
2.ビジネス業績に寄与していることを認識し、戦略パートナーとして常にビジネスの視点で話す
3.ルールの番人。制度設計や運用の達人から文化の醸成と変革をリードする
4.ビジネスと人材の課題を解決する支援(ビジネスリーダーのコーチ)
5.個別のマネジメントと自立的キャリアを支援する
「人事とは何なのか。企業や顧客を取り巻く環境、ビジネスモデルなどは、日々変化していきます。人事も同じところに止まっていてはいけない。20年近く人事をやりながら、私自身も毎日問い続けています。ですから、ここにあげた答えはあくまでも現時点でのものということになりますが、基本的には経営のパートナーであるということ。人事がいないと経営戦略が立てられないと言われるくらいのパートナーであるべきだと思っています」
さらに「人事の顧客は従業員」であるということも強調した。
「一人ひとり違う社員をしっかり見ていくことが大事。そういう人たちがいきいきと働けるようにすることも人事の重要なミッションです」
講演の後半は、志水氏を中心とするギャップジャパンの人事が取り組んでいる三つのポイントが紹介された。
第一は「制度より風土」という意識。いくらよい制度を入れても、その制度を支える風土が組織に育っていないと意味がなくなる。
第二のポイントは、「リーダーと社員の感情を動かす」。人は「なぜ」がはっきりしないと動かない。志水氏は制度を導入する時、対話する時、メッセージを発する時、常に「Why?(なぜ)」から始めるという。リーダーや社員を「やってやろう」という気にさせるのである。
最後は、「リーダーが生まれる場をつくる」。
ギャップジャパンでも、こうした人事の取り組みを「組織を超えて」共有していく試みを行っている。
「私たちも、こうした人事同士でつながるイベントを自社で企画しているわけですが、その背景には、やはり人事こそが会社を、社会を変えられる、社長にもインパクトを与えられる…という思いがあります。私はギャップだけが素晴らしいと言いたい気はなく、皆さんからもぜひいろいろと教えていただきたい。お互いがうまくいっていること、いってないことを共有しあって、どんどんネットワークを広げていきたい。知の共有が進むことでワクワクできるし、最終的には社会を変えるということにもつながると思います。今後もこういうイベントはぜひ、活発に行っていきましょう」
最後に、ギャップ社内で従業員のエンゲージメント強化のために作成された動画が上映された。約5分のものだが、プロのビデオクルーを使い、映像にも音楽にもこだわりをもって制作したという映像作品だ。さまざまな国籍、人種、性別、職種…のスタッフが紹介され、関わる人たち全員を巻き込んで包括的に働ける会社にしていこうという同社のメッセージが伝わる内容だった。社内でしか見られないという貴重な動画に、この日の参加者も熱心に見入っていたのが印象的だった。
【参加者によるディスカッション】
講演終了後は、テーブルごとに参加者によるディスカッションが行われた。
■ディスカッションテーマ
・自社内だけでは解決が難しいと思われること
・他社の人事とつながることで可能になるかもしれないこと
・今後学びを深めていきたいテーマ
ディスカッション終了後は三つのテーブルから話し合った内容が簡単に報告された。「人材開発プログラムへの参加を業務内とするか業務外とするか」「リクルーティングの難しさと解決方法」「人事内でも業務群ごとに壁がある」「組織風土の変革はどうすればよいのか」といった課題が話し合われていた。もちろん、他のテーブルではこれらとは異なるテーマも議題になっていたようだ。
いずれにしても、人事には課題が多い。しかし、組織の枠を越えて知識・経験を共有することで、それらの課題を解決できる可能性も実感していただけたのではないだろうか。業界が異なっても規模やステージが近い企業の場合、共通できる部分も多い。「HRコンソーシアム」の活動に積極的に取り組む企業が増えていくことで、より活発なイノベーションが現実のものとなるはずだ。人事同士がつながり、学び合うことで組織の課題は解決できる。そう確信できた第1回の人事交流会だった。
■参加者の声
- ・普段、他企業の人事の方と話をする機会が少ないため、有意義でした。
- ・役職、業界に偏りがなく、幅広い企業の方がいらっしゃったので、さまざまな情報交換ができるきっかけになると思いました。
- ・業種、担当業務の異なる方と話す機会が大変刺激となりました。皆さんバックグラウンドが異なるなかで共通する原則を見つける場となることを期待しています。
- ・近年、働き方の変革を求める声が社会的に強くなり、行政の動きも従来と異なる様相を見せています。1社の問題ではないこれらのテーマについて 実務レベルでの対応を取り上げていただきたいと思います。
- ・講演では、2名のスピーカーの方のポジティブなエネルギーと想いを聴くことができ、とても参考になりました。
【第二部:新年懇親会】
懇親会は、同じく2月2日に開催した「日本の人事リーダー会」との合同開催となった。 業種や人事エグゼクティブ、若手の垣根を超えた交流が活発に行われた。