掲載:2018.12.11
相談できる仲間に出会える。自社課題解決のきっかけが得られる。事業会社人事のコミュニティー「人事ごった煮会」
三浦 孝文さん(オイシックス・ラ・大地株式会社 人材企画本部 人材企画室 人材スカウトセクション マネージャー)
田中 理沙さん(株式会社ディーバ 営業統括部 シニアスタッフ)
「人事ごった煮会」は、主宰者である三浦孝文さん(オイシックス・ラ・大地株式会社・人材企画本部に勤務)が、さまざまな人事課題について自由に意見交換やディスカッションができる場として、2016年11月に個人的に立ち上げた人事コミュニティーです。集まった人たちが講師の話を聞くという一般的な勉強会とは異なり、全員が主体的にアウトプットしていくことで、より掘り下げた討論をおこなうスタイルで注目され、すでにコミュニティー参加者数は1000名以上。現在も毎月1~2回の定例会をコンスタントに開催しています。「人事ごった煮会」とはどんな会なのか。どんな人が参加し、どんな活動を行っているのか。発起人である三浦さんと、会の立ち上げ当初から運営に携わる田中さんに詳しくお聞きしました。
- 三浦 孝文(みうら たかふみ)さん
- オイシックス・ラ・大地株式会社 人材企画本部 人材企画室 人材スカウトセクション マネージャー / 人事ごった煮会発起人・運営メンバー
1987年、大分県別府市生まれ。関西学院大学を卒業後、新卒入社したD2Cで採用全般、Cookpadで採用と子会社人事機能立ち上げを経験後、現職へ。事業会社の人事としてマネージャーをしつつ、社外では「人事ごった煮会」という1,000人を超える人事が所属する人事コミュニティーを発起人として運営。
- 田中 理沙(たなか りさ)さん
- 株式会社ディーバ 営業統括部 シニアスタッフ
2011年新卒で株式会社トライアンフに入社し、中小から大手企業まで幅広い企業の採用コンサルティング、アウトソーシングを担当。2015年に株式会社ディーバへ採用担当として転職。企業人事の内向きさを感じたなかで、接点の場を作り出す「人事ごった煮会」に共感し、2017年から運営にジョイン。2017年末からの産休育休期間中もメンバーの協力を得ながら運営に携わる。2018年12月より現職へ復職。
参加者全員がアウトプットできる勉強会をつくりたい
まずは三浦さんが「人事ごった煮会」を立ち上げられたきっかけからお聞かせいただけますか。
三浦:私は2010年に就職して以来、キャリアの8割以上が人事なんです。最初に入社したモバイル広告のD2Cという会社にいた頃から、若手人事が集まる勉強会やイベントに積極的に参加していて、キャリアを重ねていくうちに自分が中心になって飲み会などを開く機会も多くなっていきました。そうやっていろいろな会社の主に若手人事の人たちと交流する中で、「ぜひ三浦さん主催で勉強会をやってほしい」という声をたくさんいただくようになりました。期待してもらえるのはありがたかったのですが、その当時、私自身は人事の勉強会に誘われてもあまり行かなくなっていたんです。著名な講師を招いて、その話を聞いて終わるだけのイベントには、あまり興味を感じなくなっていましたから。ただ、いい機会なので、既存の勉強会とは違うものを自分で立ち上げてみてはどうだろうかと考えました。それが現在の「人事ごった煮会」につながる直接のきっかけですね。
最初は運営メンバーもいないので、自分一人で会のコンセプトを考えました。当初いちばん重視したのは「1対n」の構造を防ぎたい、ということ。誰かがしゃべって、みんなでそれを聞いて、「刺激になりました」「勉強になりました」と言って帰るだけでは意味がないと考えたんです。参加者は本来、一人ひとり、自分なりの問題意識や課題意識を持って会に参加しているはずです。私なら話を聞くだけでなく、講師とディスカッションしてより知見を深めたい。インプットだけでなく全員が必ずアウトプットして、それをシェアすることで成立する会にしたい。そう思って「全員アウトプット型」をコンセプトにスタートしました。
第1回を開いたのは、2016年11月末。「こういう会を始めます」という話をするだけの場だったのですが、最初から120人以上の方々が来てくれました。SNSなどを通じて呼びかけたところ、多くの方が興味を持ってくれたんです。趣旨に賛同してくれたメンバーの中には、田中さんを始め、一緒に会の運営に携わってくれる人も出てきて、みんなで話し合いながら会のミッションや参加者への約束などの細かい部分を固めていきました。
現在、会の運営には私と田中さん以外に、GYAOの羽生さん、インタースペースの小林さん、マネーフォワードの土江さん、LITALICOの西岡さん、「朝渋」という渋谷の朝活コミュニティーの主催者でもある井上さん、アトラエの清水さん、gcストーリーの松本さん、アールキューブの橋本さんという人事の方々に関わっていただいています。そして実は、次年度以降の会をよりパワーアップすべく、CCCの執行役員でもある松浦さんにも運営に関わって頂き、運営メンバー全体のアップデートを図っています。
田中:私は初期メンバーとして人事ごった煮会の運営に携わっていますが、他のメンバーも企業人事の方々なので課題や悩みが近しく、相談しやすい環境なので、一緒に会を運営することでとても勉強になっています。運営メンバーの参加目的はそれぞれ異なりますが、みんな何かしら熱い想いを持って臨んでいるので、本業を抱えながらも自主的に会の運営に携わっています。
皆さん、会社の業務とは関係なく、人事ごった煮会の運営をされているんですね。
三浦:その通りです。私が第1回を開いたのは、ちょうど現職(オイシックス・ラ・大地株式会社)への転職が決まっていた時期でした。「こういうコミュニティーや勉強会をやりたいと思っている。副業ではないが、そういう活動を主業務とは別にやらせてほしい」と今の上司に話して、了解をもらいました。兼業制度もあり、社員の多様性や社外活動に寛容である会社には感謝しています。
立ち上げから約2年ですが、現状ではどのくらいの方が参加されているのでしょうか。
三浦:おかげさまでコミュニティー全体では1000名を超えており、複数回参加したことがある方の数も500名を超えています。といっても、毎月1~2回のペースで開催する勉強会へ参加出来る数の上限は平均して40名ほどで限りがあります。勉強会は運営メンバーが毎回テーマを設定し、そのテーマに関心のある人が自発的に参加します。それ以外に年2~3回は飲み会も開催していますし、不定期ですが一泊二日程度で交流やディスカッションを行う「超交流会」も実施しています。前回は箱根で行いましたが、約90名が参加して大盛況でした。
人事がもっとも関心のあるテーマをタイムリーに
参加するにあたって、条件や資格のようなものはあるのでしょうか。
田中:「人事ごった煮会」のSNS(※connpass)をフォローしてもらえれば、予定されているイベントを見ることができます。参加資格は「事業会社の人事」ということだけ。イベントのテーマに関心があって、インプットするだけでなく自らアウトプットしていきたいという人にぜひ、参加していただきたいです。現状では営利団体ではないので、会費などはありません。ただ、定例会では軽食や飲みものを運営側で用意しますので、お一人1000円前後の参加費だけをいただいています。
「アウトプット型の勉強会」ということですが、具体的にはどのように行われているのですか。
三浦:まずはアイスブレイクとして、参加者の皆さんに、その日のテーマにかかわる自社の人事課題や参加理由などを話しあってもらいます。ここで自己開示をすることが最初のアウトプットです。次にその日のスピーカーに登壇してもらい、ライトニングトーク的に短いプレゼンテーションを数分程度で数組おこなってもらいます。そこで得たインプットをもとに、自分は何を考えたのか、自社ではどう応用できそうかといったことを話しあうグループディスカッションに移ります。この5~6名程度のグループでのディスカッションがメインのアウトプットです。ここでは、翌日から具体的なアクションとして何をやるかまで固めてもらい、最後にグループ内でそれをシェアして終了となります。スピーカーに討論に加わってもらうこともあるので、かなり密度の高い話ができています。このようなアウトプット中心の進め方は、初期の頃から大きくは変えていません。
時間帯は基本的には平日の19時30分にスタート。プレゼンや議論自体は約1時間半で、その後は懇親会になりますが、遅くても22時にはお開きにしています。初めて参加される方でも、勉強会で一度自己開示をして、さらに突っ込んだディスカッションを経ているので、懇親会の頃にはかなり打ち解けて、共通の話題で盛り上がることが多いですね。「今度一緒に勉強会をやりましょう」といった次のアクションにつながったという話もよく聞きます。
勉強会のテーマどのように設定されているのでしょうか。
三浦:私以外に10名いる運営メンバーが話しあって決めます。「採用」「教育」「制度」「総務・労務」というカテゴリー別のグループがあって、順番に担当していく感じですね。みんな自主的に関わっていて、お金をもらっているわけではありません。運営自体が事業会社で人事に関わる人達なので「自分たちが今いちばん興味、関心のあるテーマを会としてやる」ことを大事にしています。
田中:自分がまさに、自社で抱えている課題をテーマにできるのは、運営メンバーの特権ですよね。それが結果的に他社の人事の方々の関心があるテーマをタイムリーにとりあげることにもつながっていると思います。
三浦:もちろん、テーマによって参加希望者の増減はありますが、むしろニッチなものの方が、他社の人と話しあう機会があまりないのでありがたい、という声をいただくこともあります。問題意識を持った人だけが集まるので、議論の密度が高ければ参加人数は関係なく満足してもらえる、という手ごたえがありますね。
他の人事コミュニティーとの違いとして、意識されていることはありますか。
三浦:学ぶだけではなく、「自社に持ち帰ってアクションを起こしてみてどうだったか」をフィードバックする場としても機能することですね。成果だけでなく、「新たな課題が見つかった」というケースもあります。それができるのは、一人ひとりがアウトプットした会だからこそ。運営としても、ここで生まれた知見やノウハウ、情報を記録してシェアしていくことが大切だと考えるようになって、最近はイベントの記録をブログに書いたり、ツイッターハッシュタグを用意したりするなど、ネット上に残すことも始めています。
参加者同士をつなぐ「横のネットワーク」を生み出す
参加者の方からは、どのような反響がありますか。
三浦:大きくいえば、二つですね。まず、最近人事になった人たちからの「横のネットワークが広がって、相談できる仲間ができた」という声です。一方で、もう少し経験のある人からは「ここで知りあった会社と一緒にイベントをやることになった」「具体的なアクションに落とし込めたのがよかった」という意見を聞きます。現状では、比較的キャリアの浅い人の参加が多いと感じています。ただ、考えてみるとそれはごく自然なことで、人事もある程度キャリアを積むと自分でアクションを起こせるようになります。話を聞きたい人がいれば、直接連絡をとって聞きにいくことができるようになるんですね。そういうキャリアのある人同士がじっくりと話しあえる場をつくることも、これからの展開の一つとして考えていますが、当面は人事になったばかりの人や一人で任されているような人が、「本当にこれでいいのかな?」と迷った時に一歩を踏み出す「きっかけ」の場になれればいいと考えています。
3年目に向けて「人事ごった煮会」としての今後のビジョンをお聞かせください。
三浦:運営メンバーそれぞれが、いろんなことを考えていると思います。自主的・自発的な集まりですから、基本はみんながやりたいことをやる場であってほしいと思っていますし、その方向で運営していくことになるでしょう。立ち上げ後すぐから関わってくれている田中さんはどんな方向性を考えていますか。
田中:人事ごった煮会で学んだことを自社に還元できるよう、意義のある会を運営し続けたいと思います。そうすることで何かしらの悩みや課題を持ってイベントに参加してくださった多くの人事の方々の手助けになれたら嬉しいです。
また、企業の人事が考えていることをより幅広く発信していけたらと思います。具体的に言うと、先日新卒採用をテーマにイベントを行ったのですが、多くの人事が自社の採用のことだけでなく、採用のあるべき姿や仕組み、どうしたら学生も企業も幸せになれるかなどについて、こんなにも本気で考えているんだなということを感じたんです。大人たちがそういうことを真剣に議論している姿を見て、知ることができたら、学生はもっと視野や選択肢が広がるのではないでしょうか。私もそういう経験をしていたら、就活の考え方だけでなく人生が変わっていたかもしれないな、と思います。大学生に限らず、中高生からでもいいと思います。人事ごった煮会やイベントを通じて、若い人にインパクトを与えられる存在になっていきたい、というのが自分のビジョンの一つですね。
三浦:すごくおもしろいですね。ぜひ、やりましょう。私個人としては、今三つのことを考えています。一つ目は「コミュニティーの開放」。この2年で参加人数が1000名を超えており、勉強会を月2回コンスタントに開催しても、単純計算で全員が年1回参加できるかどうかという規模になってきました。そこで、複数回参加しているようなアクティブな人には、「人事ごった煮会」という場を大いに利用して、自分たちがやりたいことを自律的にやってほしいと考えています。
二つ目は「外部とのコラボレーション」。これだけ現役の人事が集まっているわけですから、人事の意見を聞きたい、一緒に何かがしたいというところなら、企業でも大学や学生でも、どんなところとでもコラボできると思います。すでに先日、あるメーカーの方から人事向けサービスのモニターの依頼があり、プロトタイプを触ってもらい、率直な意見が欲しいとのことで、会のテーマが近しいイベントのときにスペースを作ってもらい、懇親会の時間で触ってもらえるようにしました。そこではたくさんの意見が出て、ご担当の方にもとても喜んでいただけました。
三つ目は「もっと少数精鋭の場をつくる」。さきほどキャリアのある人たち同士が深い討論のできる場をつくるという展望をお話ししましたが、まさにそういうことですね。箱根で行った超交流会などは、これに近い試みかもしれません。参加者には上場企業の役員や事業部長クラスの方も多く、その方々が深く濃いレベルで、クローズドな場所でじっくりディスカッションできる機会は大変貴重でした。その超交流会を、もっと少数精鋭でクローズドな場で開催するイメージですね。人事が主体的に問題提起し、交流するための場として、「人事ごった煮会」のネットワークをさらに広く深くしていきたいと考えています。