掲載:2018.11.19
誰もが豊かな人生を送れる「新しい働き方」に共感し、実現をめざす人たちのコミュニティー 「Team WAA!」
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長
島田由香さん
2016年7月にユニリーバ・ジャパンが導入した「WAA(Work from Anywhere and Anytime)」は、いつでもどこでも、働く時間と場所を社員自らが自由に選択できる画期的な制度として大きな反響を呼びました。新しい働き方に共感し、自社でも実現したいと考える人たちが少なくないと感じた同社・人事総務本部長の島田由香さんは、ユニリーバでの「WAA」導入までの経験をシェアし、共通のテーマや課題についても話し合うオープンなコミュニティー「Team WAA!」を設立。活動開始から2年を迎えようとするTeam WAA!とはどんなコミュニティーなのでしょうか。その目的や活動内容、今後の計画などを、島田さんにうかがいました。
- 島田 由香氏(しまだ ゆか)
- ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長 島田 由香氏(しまだ ゆか) 1996年慶應義塾大学卒業後、日系人材ベンチャーに入社。2000年コロンビア大学大学院留学。2002年組織心理学修士取得、米系大手複合企業入社。 2008年ユニリーバ入社後、R&D、マーケティング、営業部門のHRパートナー、リーダーシップ開発マネジャー、HRダイレクターを経て2013年4月取締役人事本部長就任。その後2014年4月取締役人事総務本部長就任、現在に至る。学生時代からモチベーションに関心を持ち、キャリアは一貫して人・組織にかかわる。中学3年生の息子を持つ一児の母親。米国NLP協会マスタープラクティショナー、マインドフルネスNLP®トレーナー。
ビジョンは世の中に「HAPPY」を広めていくこと
「Team WAA!」を立ち上げられた背景はどういったものだったのでしょうか。
実をいうと計画的に立ち上げたものではないんです。2016年7月から、ユニリーバ・ジャパンの社内制度として、全社員が働く時間と場所を自由に決められる「WAA」をスタートさせたのですが、導入に先立ってプレスリリースを出したところ、予想以上の反響をいただきました。そのとき、「これだけ話題になるということは、従来型の働き方に疑問を感じている人がたくさんいるんだな」と思ったんです。
ものすごい数のお問い合わせをいただきましたし、関心を持ってくれた人たちの参考になればと、毎月一回「WAA」の説明会を開くことにしました。続けていく中で、「同じようにやりたいがどうすればいいかわからない」「社内に変化を起こすためのヒントが欲しい」といった声を何度もうかがい、ユニリーバの事例をシェアしていければという気持ちが強くなっていきました。「WAA」の目的は、充実した幸福な人生を過ごせる人を増やそうというもの。それをユニリーバ社内に限る理由はありません。他社で同じことをやってもらってもまったくかまいませんし、ユニリーバの試みで気づきを得て、自分たちもやってみようという人が増えるのはむしろ歓迎です。そこで、共感してくれる人たちで一緒にコミュニティーを立ち上げようという話を説明会でしたところ、「参加したい」という人が手をあげてくれました。11月頃にそういう動きがあって、2017年1月キックオフで「Team WAA!」をスタートさせました。
どういった方々がメンバーになっているのでしょうか。
会員登録は自分でできます。審査や会費は必要ありません。「Team WAA!」のフェイスブックで「いいね」を押してもらってもいいし、グループに入りたいというリクエストを送ってもらえればOKです。最初はメンバーが何人いるのかを数えていたのですが、800人を超えたくらいのところで、参加人数が問題ではないと思い、カウントするのをやめました。そのため正確な人数はわかりませんが、大手からベンチャーまで、さまざまな企業で働いている方を中心に、フリーランスや学生、主婦など、本当に多様な皆さんが参加されています。今は1000人を超えたのではないかと思います。
「Team WAA!」のビジョンは明確です。キーワードは「HAPPY」。新しい働き方を通じてどの人もハッピーだと言えるようになればいいな、と思っています。このビジョンに共感してくださる方なら、どなたにも参加資格はあります。大事にしているのは、単に学びに来るだけではなく、得たものを持ち帰って自らアクションを起こすこと。社内で何か変化を起こしたい、でも抵抗がすごい。そんなときに横のつながりがあり、共感する仲間がいることはとても大きな力になります。実際、「Team WAA!」があるから頑張れる、といった声をよくいただきます。
毎月のセッション(セミナー)がネットによるリモートアクセスも可能になってからは、地域のメンバーも増えています。すべてオープンなので、メンバー登録しないで見ているだけという人もいるかもしれませんが、それでも全く問題がないと思っています。もはやユニリーバという枠には納まりきらない活動なのですが、会社のミッションも一つは社会を良くしていくことなので、その方向性があっていればいいということで、認めてもらっています。
セッションのテーマ設定には「ストーリー」を重視
具体的にはどのような活動を行われているのでしょうか。
毎月一回開催するセッションが基本です。テーマや講師の選定は私が行っています。私自身も、大いに刺激をもらっていますね。今年の後半あたりからは、メンバーの中から「こういう人を呼びたい」といった動きが出てきて、具体化したケースも増えてきました。ただ、毎回おもしろければそれでいいということではなく、前後を考えたときにストーリーができているようにすることは意識しています。
立ち上げたばかりだった2017年には、メンバーが何に悩み、どんな望みを持っているのかのアンケートをとり、その結果から共通点として浮かび上がった三つのテーマを題材にして、3ヵ月連続でセッションを行った回が印象的でした。どうやって経営者のマインドセットを変えるのか、どうやって他の人を巻き込むのか、そして作った制度をどう定着させていくのか。それぞれ、航空自衛隊人事教育部長の井筒俊司さん、One JAPAN代表の濱松誠さん、妙心寺春光院副住職の川上全龍さんにスピーカーとして話していただき、それを聞いてみんなでディスカッションしました。とても充実した内容になったと思っています。
2018年になってからは、個人の生産性を上げる方法やティール組織、地域創生などのテーマでセッションを重ねています。地域創生は、「WAA」の「Work from Anywhere and Anytime」のとりわけ「Anywhere」を究める上でとても重要な視点だと思って企画したものです。「Team WAA!」が地域創生にどう連携できるだろうかということで、福岡県うきは市の高木市長をお呼びして、地域の魅力を語っていただき、メンバーが「もっとこんなことをやってみたら」というアイデア出しを行いました。地方にあって都市にないもの、都市にあって地方にないものはちょうど反転しているので、いいコラボレーションができるのではないかという手ごたえがありました。また、「Team WAA!」とコラボしたいと言ってくださった宮崎県の自治体に実際にメンバーが泊りがけで出向いて、現地を見ながらさまざまな提案をする試みも始まっています。また、地域に住んでいてリモートで仕事をしている方々、「Anywhere」を実践している人たちのリアルな話も非常に興味深いものでした。
島田さんはセッションのテーマを決める編集長のような存在でしょうか。
そうですね。ただ、「Team WAA!」は私が何か言ったからやる、というコミュニティーでは決してありません。メンバー自身が「こうしたい」というアイデアをどんどん出していく、すごくティールな組織です。たとえば、今年から毎月のセッションとは別に分科会がスタートしています。SDGsや対話といったテーマで活動していますが、完全にメンバーの自主的な企画で始まったものです。すべてメンバーにまかせていて、ミーティングの際に現状をシェアしてもらっています。中には「こういう分科会をやりたい」と言ってくる人もいますが、それに対して私は「許可」は出しません。求められればアドバイスはしますが、許可するとかしないとかというコミュニティーではないからです。完全に「自発」で「自律」ということですね。
みんなで話し合い、考えることですごい力が生まれる
会費も参加費もなしということでしたが、どのように運営されているのですか。
経費をかけずにやることが一つのポリシーなんです。講師の方々もパーパスでつながっている立場としてボランティアでお願いしていますし、会場も無料でお貸しくださる会社がたくさんあって本当にありがたく思っています。リモートで公開するための機材や仕組みもすべてお借りしていて、本当に感謝しかありません。協力してくださった方には、お返しとして私が先方の企画に参加することもあります。地域創生の企画も、基本的にバーターですね。お金をかけなくてもやれることも、これから広めていきたいと考えています。
「Team WAA!」の活動を、今後どのように広げていきたいとお考えでしょうか。
冒頭にもお話ししましたが、最終的には「私、HAPPYだよ」と言える人を増やしていきたい。日本全体をより良くしていくには、一人ひとりが変わることが大事です。「Team WAA!」は誰もが変われるきっかけを毎月、何かしら提供していきたいと思っています。メンバーには、そこで自分が感激したことをわーっと(WAA!っと)周囲に広げていってもらいたい。眉間にシワを寄せて学ぼうとするだけじゃなく、大いに楽しんでほしいですね。
そして、悩みや気づきをどんどんシェアして、チームの力で解決していくこと。一人で悩んでいるよりも、大体みんな同じようなことで困っているのだから、サポートしあって解決していこうよ、ということですね。みんなでやればものすごい力になりますよ。私たちは「たんぽぽ作戦」と言っていますが、たんぽぽの綿毛があちこちに飛んでいって、そこで根づき、花を咲かせる。そんなふうにこの「Team WAA!」のHAPPYを広げていきたいと考えています。