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掲載:2018.11.30

いま話題の人と組織を考えるコミュニティー

企業文化や組織開発に特化した研究所を新設 未来に向けた人・組織を考える 『楽天ピープル&カルチャー研究所(Rakuten People and Culture Lab)』

楽天株式会社 コーポレートカルチャーディビジョン エンプロイー・エンゲージメント部 ジェネラルマネージャー

日髙 達生さん

楽天株式会社 コーポレートカルチャーディビジョン エンプロイー・エンゲージメント部 ジェネラルマネージャー 日髙 達生さん photo

「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする」をミッションに掲げる楽天グループ。今や1.6万人以上もの多様性あふれる従業員を擁するグローバルな組織です。その楽天グループの新たな研究機関として2018年10月1日に新設されたのが、「楽天ピープル&カルチャー研究所(Rakuten People and Culture Lab)」。海外の先端的な情報収集やグループ内での実証実験などを通じて、企業文化や組織開発に特化した理論体系の構築を目指しています。同研究所の設立背景や活動内容、今後の方向性などについて、楽天株式会社コーポレートカルチャーディビジョン エンプロイー・エンゲージメント部 ジェネラルマネージャーで研究所の代表も兼ねる日髙達生さんにうかがいました。

プロフィール
日髙 達生氏(ひだか たつお)
日髙 達生氏(ひだか たつお)
楽天株式会社 コーポレートカルチャーディビジョン エンプロイー・エンゲージメント部 ジェネラルマネージャー 

2003年リンクアンドモチベーション入社。2010年同社執行役員。大手企業の組織変革コンサルティングのプロジェクトマネジメントを数多く手掛ける。2012年よりインテック・ジャパン(現リンクグローバルソリューション)に出向。2014年同社執行役、2016年より同社取締役に就任。国内外問わず、グローバル人材育成および組織開発コンサルティング事業に従事。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。
2018年1月に楽天入社。コーポレートカルチャーディビジョン エンプロイー・エンゲージメント部 ジェネラルマネージャーとして、グループ全体かつグローバルでの組織開発と理念共有の統括を担う。

革新的な組織開発に向けR&D活動を積極的に推進

まずは、日髙さんの部署の概要・ミッションをご説明ください。

コーポレートカルチャーディビジョンは、2017年秋にグローバル人事部とは別に設立されました。楽天グループ内外のステークホルダーと会社の信頼関係を深めていくことがミッションです。その傘下にあるエンプロイー・エンゲージメント部(以下EE部)は、組織開発にフォーカスして現場の組織課題の解決支援や全社的に新しいカルチャーを生み出していくための企画と実行の役割を担っています。

EE部の活動の柱は三つあります。一つ目は、中長期の組織開発に向けたR&D活動です。次の時代のトレンドは何か、海外で今どんなテーマが議論されているかを一早くキャッチしてEE部としての活動に反映させていきます。今回ご紹介する「楽天ピープル&カルチャー研究所」はこの中核を担っています。

二つ目は、楽天主義(楽天グループの従業員の価値観・行動指針)の最適化です。現在楽天グループには70を超えるサービスと国籍が存在しています。そうした複雑な環境下で企業理念を共有することは、かなり難易度の高い課題です。特に海外では買収によりグループに参画した会社が多いため、既存のユニークネスを尊重しつつグローバル共通での楽天カルチャーといかにアラインさせていくかに取り組んでいます。

三つ目は、事業拡大や従業員エンゲージメントに貢献し得るカルチャーの醸成です。例えば、現在弊社では、テクノロジードリブンカルチャー(※1)の推進がホットトピックです。2012年7月から開始された「Englishnization(社内英語公用語化)」に次ぐような全社一大プロジェクトとして準備中です。テクノロジーをもっと日常の業務に取り入れて、テクノロジー人材とビジネス人材が融合していけるカルチャーを作ることをテーマとしています。

※1. テクノロジードリブンカルチャー:AI、ブロックチェーンなどのテクノロジーがビジネスや日々の業務を劇的に変化させている今、エンジニアのみならず全従業員がテクノロジーの可能性を理解しテクノロジーと正しく向き合い、エンジニア人材とビジネス系人材間の円滑なコミュニケーションを実現する企業文化。

「楽天ピープル&カルチャー研究所」を新設された理由をお教えいただけますか。

楽天株式会社 コーポレートカルチャーディビジョン エンプロイー・エンゲージメント部 ジェネラルマネージャー 日髙 達生さん photo

理由は二つあります。第一に、楽天グループの成長に多大な貢献をしてきたインターネット企業の技術研究機関にならい、企業経営にとって最重要課題である人や組織に関する研究機関もあってしかるべきと考えたからです。楽天グループには、コアとなるテクノロジーを調査・研究してきた楽天技術研究所 (Rakuten Institute of Technology)というグローバルに拠点を持つ研究機関があり、彼らの研究成果が楽天内外のビジネスに大いに活用されています。

第二に、“イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする”という楽天グループのミッションを体現するためには、腰を据えて人や組織について多様な先端情報をインプットし、それらを自社用に変換する役割を担う組織が必要だと考えたからです。どうしても本社部門の宿命としてビジネスの最前線をサポートする位置付けにあるため、イノベーションを起こすことや、自分たちがビジネスの現場で起きているような葛藤に直面することは少ないと言えます。『グローバル イノベーション カンパニー』というビジョンを人やカルチャーの面からけん引するためにも、本社部門の中に自分たちからチャレンジしていくシンボルが必要だと考えました。

この発想には社長の三木谷やCPO(チーフ ピープル オフィサー)の小林も賛同してくれました。私たちは楽天グループを、「真のグローバル企業」へと成長させるべく、他の日本企業に先駆けて新しい取り組みに果敢に挑戦し、多くの課題に直面していく「課題先進企業」と自負しています。

「カルチャーを科学する」が研究所の重要なテーマ

どのようなテーマを研究されるのですか。

我々の研究所ならではのテーマとして、例えば「ハートセット(Heartset)」(※2)があります。従業員と会社との関係性が変化してきている今、このキーワードに注目しています。また、「ウィニングカルチャー」(※3)も扱います。人が集まる組織という観点では、普遍的なエッセンスがあるはずなので、スポーツなど他の領域からもナレッジを取り入れたいと思っています。

「EVP(Employee Value Proposition)」もテーマの一つです。これは従業員に対する提供価値、何をもってこの会社を選んでもらうのかの理由になるものといえます。EVPは欧米企業を中心に、エンジニア人材の獲得競争およびそのリテンションの目的で注目を集めています。国内ではまだ限られた会社が取り組み始めているのみで、マスターピースはいまだ存在していません。日本においても、この概念と戦略を啓蒙していくことで、個人と組織のエンゲージメントを前に進めていけると思っています。

※2. ハートセット:今までのヒューマンリソースの概念からより個人の“心”に着目し、従業員と会社間で信頼、プライド、愛着心といった精神的な繋がりを醸成する。

※3. ウィニングカルチャー:スポーツで常勝集団といわれるようなチームが持つ組織風土。

テーマに「カルチャー」という用語が目立ちます。

カルチャーがどのように経営の優位性につながり、どう貢献できるのかを考えていきたいからです。一般的には経営課題として、カルチャーのような曖昧なものは後回しにされがちです。カルチャーとは何か、どう醸成していくのかは、日ごろの時間軸とは違うところで、長期的に取り組んでいかなければならないテーマですからね。しかも、70を超える国籍の従業員が在籍する楽天グループにおいて、多様な地域毎に独自の尊重と、求心力を保ちシナジーを最大化するためのグローバルで共通するカルチャーの醸成は、とても重要な課題です。

研究所の業務フローを教えてください。

インプットとスループット、アウトプットがあります。まず、インプットソースですが、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)をはじめとするグローバルカンパニーや新進気鋭のスタートアップがどんな先行事例を持っているのかは常にアンテナを立てておきたいと思います。他にも、アカデミックの領域では、経営学や心理学はもちろん、いろいろな分野の知見を掛け合わせてインプットしていきますし、海外を中心とした専門機関とも積極的に連携していく予定です。

そこから得た有難い情報・知見を、スループット(一定時間をかけて処理すること)し、さまざまな業種業態、異なる規模の組織を多く持つ楽天の中で色々な実証実験を行っていきます。そうした中である事実が実証されたら、それを横展開していけるようソリューション化して、楽天グループ内に広めていくとともに、日本企業やグローバル企業にも共有しアウトプットしていく、という流れを思い描いています。

他社の研究機関と差別化を図っていきたい点は、どこにあるのでしょうか。

三点あります。グローバル、理論と実践のバランス、そしてエンパワーメントです。一つ目は、情報の収集源をできるだけ海外に置くグローバルなラボであるということ。これは、楽天グループが取り組んできた「Englishnization」の恩恵だと考えています。二つ目は、スループットの段階において、1.6万人が参加する壮大な実験を通じて、我々が当事者として自ら先端的な知見を実証し確認することで、エビデンスの強みを増していけること。三つ目は、その成果を広く共有し社会全体のエンパワーメントをスコープとしていること。これは楽天が創業以来継承しているコンセプトですが、それに向けて人やカルチャーの側面から貢献していければと考えています。

どのような方々がアドバイザリーボードに参加されているのでしょうか。

多様な領域から第一人者を、しかもグローバルでの先端情報にアンテナ感度の高い方々をお迎えしています。人と組織に絡むのでHR領域の実践家は欠かせません。それから、スポーツ、経営学、医学や脳神経科学からも積極的に知見を取り入れるつもりです。さらに、データを活用したインサイトも当然必要なので、ピープルアナリティクスの領域も大切です。また、これらのテーマにおいてアカデミックなアプローチも重要です。今後もあらゆる領域の専門家とのコラボレーションを模索していきたいと考えています。

2019年における主要な活動内容を教えていただけますか。

楽天株式会社 コーポレートカルチャーディビジョン エンプロイー・エンゲージメント部 ジェネラルマネージャー 日髙 達生さん photo

五つのテーマをリストアップしました。一つ目は、「ネットワークとリテンションの関係性」。従業員一人ひとりがどれだけ多くネットワークを持っているかどうかによって、キャリアの選択肢の幅が大きく変わってきます。このテーマについては、既にデータサイエンティストによる多面的な解析作業がスタートしています。

二つ目は、「カルチャー・哲学の共有度合いがどれだけパフォーマンスに影響しているのか」。カルチャーが企業の事業拡大とエンゲージメント向上に貢献する道筋の明示に挑戦したいと思っています。

三つ目は、FCバルセロナ(スペインの名門サッカーチーム)やゴールデンステート・ウォリアーズ(米プロバスケットボールリーグの強豪チーム)のような世界を代表するのチームのウィニングカルチャーを取り入れること。彼らは中長期的なカルチャー醸成に成功しているので、そこを丁寧に分解してグループ内の各組織やリーダーに展開していきます。ここには言語論や組織論が踏まえられており、かなり奥深いのでワクワクしています。

四つ目は、「テクノロジードリブンカルチャー」です。これは先ほどご説明した通りです。まずは、できるだけ海外のカンファレンスに参加するほか、グローバルの研究機関や教授陣との交流から、エッセンスをうまく取り入れていきます。

五つ目は、GAFAに代表されるような企業がどのような人事面での柔軟性を持っているのか、もう少し広く捉えると世界中のトップタレントから選ばれる「カルチャーとしてのフレキシビリティー」とは何なのかをインプットしていきたいと思います。

研究所の成果を楽天グループ以外の一般企業はどのようにして享受できるのでしょうか。

まだ検討中ですが、グローバルトピックの共有方法についてはカンファレンスやメディアを通じてなるべく多くの企業に共有していきたいと考えています。また、外部メディアももちろんですが、自分たちでもオウンドメディアを持って随時活動報告をしていこうと考えています。実証成果については、アカデミア領域との共同研究による論文の執筆や専門学会での発表を通じて広く受け入れられやすいプロトコルで社会に還元していきたいと思っています。

グループに留まらず、日本社会のエンパワーメントも目指す

今後拠点を拡大されるお考えはお持ちですか。

本研究所の拠点展開を積極的に行っていく必要性は感じていません。グローバルでのアドバイザリーボードミーティングも今後はテレビ会議をベースに考えており、場所に絞られる必要性を感じていないからです。ただ、コーポレートカルチャーの視点で考えると、回答は変わってきます。カルチャーに絡むものはローカルの影響を強く受けます。そのため、エリアごとの特性を肌感覚で捉えてローカライズしていくことや、現場の声をヘッドクォーターに届けるハブ機能も必要になってきます。

楽天グループには世界中に広がるオフィスを地域ごとに束ねるリージョナルヘッドオフィスが3拠点(米国西海岸、シンガポール、ルクセンブルク)にあり、そこにコーポレートカルチャーディビジョンの拠点と担当者を配置することで、グローバル共通のカルチャーとローカルの特性を接続する「カルチャーハブ」としていきたいと思っています。そのため将来的には、本研究所としてではなく、コーポレートカルチャーディビジョンとしての海外展開をイメージしています。そして、このような組織開発や理念を共有するような新しい取り組み、ならびに共同研究を共に楽しめる仲間を社内外にもっと増やしていきたいと考えています。

知見を共有できるコミュニティーを作るという方向性はいかがですか。

やはりまずは、楽天グループへの貢献が第一義となります。ただいずれは、本研究所と志を同じくする企業とコミュニティーを作っていくという構想もあります。ナレッジを共有して日本社会をエンパワーメントしていきたいですからね。そのためにも、まずは我々の中で実証研究を通じてメッセージアウトできるほどの成果が得られるか、皆さんに注目して頂ける情報を発信できるかが、ファーストステップとして重要だと考えています。

楽天本社にて。写真左より、研究所代表の日髙 達生さん、メンバーの米森千尋さん、大野 大さん photo

楽天本社にて。写真左より、研究所代表の日髙 達生さん、メンバーの米森千尋さん、大野 大さん。