会合レポート

「日本の人事リーダー会」第14回会合レポート
コロナショックを乗り越えて日本経済を活性化させていくために、人事は何をすべきか

2020.11.27 掲載

第14回会合レポート(日本の人事リーダー会)

2020年のコロナ禍は、企業に大きな試練を与えました。多くの人事の方がその対応に追われたことでしょう。この試練を乗り越え、日本経済をいま一度活性化させるために、いま人事は何をすべきなのか。この壮大なテーマについて議論するため、日本企業を代表する人事リーダーの方々にオンラインでお集まりいただきました。法政大学大学院の石山教授からの問題提起を受けて、熱いディスカッションが展開されました。

■ファシリテーター
法政大学大学院 政策創造研究科 教授・研究科長 石山 恒貴氏
■出席者
株式会社オカムラ 執行役員 コーポレート担当 CHRO(人事部・人財開発部・お客様相談室・サステナビリティ推進部) 佐藤 喜一氏
カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 社長室長 兼 人事部長 松浦 俊雄氏
グーグル合同会社 執行役員 人事本部長 谷本 美穂氏
株式会社湖池屋 人事部 部長 八代 茂裕氏
コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社 人事/総務本部 人財開発部 部長 東 由紀氏
サトーホールディングス株式会社 高度専門職(エグゼクティブフェロー)グローバル人財開発室長 兼 一般社団法人サトーグループ共済会 代表理事 江上 茂樹氏
参天製薬株式会社 理事 人事本部 藤間 美樹氏
株式会社Jストリーム 管理本部 人事部長 田中 潤氏
株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 人材ファースト統括 有賀 誠氏
日本マクドナルド株式会社 人事本部 上席執行役員 チーフ・ピープル・オフィサー 落合 亨氏
日本ユニシス株式会社 組織開発部 部長 藤曲 亜樹子氏
ノバルティスファーマ株式会社 人事統括部 ファーマP&Oビジネスパートナー ヘッド 口村 圭氏
フェイスブックジャパン株式会社 人事統括 (Head of Human Resources) 佐々木 丈士氏
株式会社三井住友銀行 人事部 上席推進役 樋口 知比呂氏
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長 島田 由香氏
※社名50音順、所属や役職は「日本の人事リーダー会」開催時のものです

石山氏による問題提起:コロナ禍で人事に求められることと

まず石山氏が、コロナ禍を越えて今後人事が考えていかなければならない課題について語った。最初に取り上げたのは、環境変化の激しさだ。

「これまでも人間の適応力を越えるような環境変化が起きてきましたが、コロナでさらに変化が加速しています。他方、日本では、古い濃密な共同体が縮小しつつありますが、それに代わる新しい開放的な共同体も発展途上です。そのため、国際的に見て、日本は社会的に孤立している人の比率が高いのです。そのうえ、世界的に資本主義がうまく機能せず、格差が拡大するという問題も起きています」

渡部亮法政大学名誉教授によれば、さかのぼると1980年代は日本経済が好調だったが、そのあとは、アングロサクソン・モデルが絶好調となった。そして、経済のグローバリゼーションが世界に恩恵をもたらした。フリードマンの著書『フラット化する世界』は、こうしたグローバリゼーションの賛歌といえる。世界中の人々がマクドナルドのハンバーガーを食べ、スターバックスのコーヒーを飲み、ナイキのスニーカーを履いて、ネットでつながればどんどんもうかる、という考えだ。

「しかし、リーマンショック以降、フラット化する世界の限界が見えてきました。経済は生産性低迷、所得格差拡大、国家債務肥大化といった三重苦に陥ります。では、アングロサクソン・モデルに代わる、何かよいモデルはあるのかというと、新しいモデルの形も不明確です。そこにコロナが起きてしまった。フラット化の限界が見えて、自国第一主義に走り始める国も増えています。これに対して、そもそも日本型経済は、三方よしでステークホルダー重視であるものの、同質性が強くて外部との交流に弱いという弱点がありました。日本も答えのない時代に入ったのです」

ここで石山氏は、日本の人事には横並び現象があると語った。例えば「成果主義を導入すればうまくいく」「コンピテンシーを導入すればうまくいく」という考え方。それらがうまくいかなければ、今度は「アンチ成果主義になればうまくいく」という考え方が横並びで出てくる。最近も「ジョブ型雇用さえ入れればうまくいく」という声があるが、そう簡単なことではないと石山氏はいう。

「横並びで他社と同じ人事制度を導入することよりも、自社の戦略に基づき、模倣できない独自の価値を目指す人事部のあり方こそが重要ではないでしょうか」

法政大学大学院 政策創造研究科 教授・研究科長 石山 恒貴氏
法政大学大学院 政策創造研究科 教授・研究科長 石山 恒貴氏

ここで石山氏は、Gellat(1989)が示した「積極的不確実性の時代」という言葉をあげた。未来はあいまいで矛盾しており、予測も制御もできない。そのため、合理的な戦略は陳腐化する。むしろこれからは、積極的に不確実性を受け入れることが新しい戦略になるという。

「そもそも情報には、三つの特徴があります。一つ目は『事実は陳腐化する』。常に陳腐化するので、正しい情報というものはありません。二つ目は『情報が増えるほど不確実性が増す』。カオス理論に基づけば、何か一つのきっかけがあれば情報は加速度的に変わってしまいます。三つ目は『純粋な情報というものは存在しない』。送り手と受け手の存在そのもので、情報は変わってしまう。だからこそ、積極的に不確実性を受け入れるべきなのです」

石山氏の専門は人的資源管理と組織行動だが、組織行動とは組織の中の人間の行動や意識を研究する学問だ。この領域で今、ポジティブ組織行動論が注目されている。

「ポジティブ組織行動論では、心理的資本が注目されています。それがもたらすものとして『真正なリーダーシップ(Authentic Leadership)』も重要です。不確実な時代だからこそ、あたかも答えがあるかのようにカリスマ的に人を引っ張っていくのではなく、自分というものを認識したうえで、弱みも強みも自己開示して、倫理的な方向についてみんなと一緒に考える。そういった、自分らしいリーダーシップが求められる時代になっています。これが不確実な時代のキャリアを構築する、一つのポイントではないでしょうか」

自分らしさとは何か。それは自己を認識することだが、そのためには、越境学習を経験するとよいと石山氏は語る。

「境界を越えるとは『ホーム=自らが準拠する状況』と『アウェイ=その他の状況』を行ったり来たりすること。ホームでは自分が知っていることばかりで安心できますが、刺激がありません。アウェイは知らないことが多くて居心地が悪いけれど、刺激があります。それらを往復することで、リフレクションをするようになります。リフレクションとはその人の信念の根拠を評価すること。ずっとホームにいると何でもわかっている気になってしまうので、評価ができません。不確実性の時代は『自分の信念の根拠はこれでよかったのか』と自分に問うことが重要です」

最近、よく聞かれる言葉に「ワーケーション」がある。これは仕事(work)+休暇(vacation)の造語だが、関西大学・松下慶太教授はその意味を「日常的非日常と非日常的日常が同時に実現すること」と述べている。

「これまでのオフィスは島型のレイアウトで『いつも一緒』でした。それがテレワークになると『孤独だけど一緒(Alone,Together)』となり、もっと進めば『離れているけど一緒 (Distancing,Together)』となる。そもそもワーケーションという考え方は、欧米で働くフリーランスであるデジタルノマドという人たちの働き方を指していました。日本ではこれがフリーランスというよりも、企業で雇用されている人に対して『いつでもどこでも働ける』ことへの活用が注目されています。ここには雇用者が今後フリーランスに近づいていくという文脈もあるように感じます」

最後に石山氏は、これからは仕事と遊び、そして家族との境界のあり方を考えることも重要だとした。ワークとライフが連動していけば、そこにはキャリア自律も求められる。そして最終的には、アリストテレスが語った「幸福(エウダイモニア)」を目指す時代が来るのではないか。

「幸福(エウダイモニア)とは、徳に基づく魂の理性的活動のことです。アリストテレスは幸福の形は三つあると述べています。幸福を快楽と考える『享楽の生活』、名誉と考える『政治的生活』、真理の探究である『観想活動の生』。要するに、人は『よく為し』『よく生きる』ことにより、一時点のことでなくて、人生をまっとうすることが幸福につながっていく。コロナ禍を経て人が考えるべきことは、個人においてもただの利益追求ではなく、自分の幸福を考えること。自分として『よく為す』ことは何なのかを考えることに価値を置く時代になったのではないでしょうか」

ディスカッション1:コロナ禍における人事の新たな課題とは

ここからは、四つのグループに分かれてグループディスカッションが行われた。一つ目のテーマは「コロナ禍における、人事の新たな課題とは何か」。ディスカッション後は、各グループが話し合われた内容を発表した。

【Aチーム】
参天製薬株式会社 藤間美樹氏
サトーホールディングス株式会社 江上茂樹氏
フェイスブックジャパン株式会社 佐々木丈士氏
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 島田由香氏
参天製薬株式会社 理事 人事本部 藤間 美樹氏
参天製薬株式会社 理事 人事本部 藤間 美樹氏

藤間:4社ともコロナ禍でも大きな問題がなく、この機会をプラスに捉えて対応を進めています。日本の人事という視点でみると、「ビフォーコロナに戻ろう」という考え方もあるなど、それぞれが戦略的に考えていると思います。

佐々木:フェイスブックは今オフィスを閉じているのですが、それによって「フェイスブックらしさを感じる上でオフィスの役割は大きかった」という声がありました。新しい発見でした。

藤間:交通費を廃止するという動きもありました。参天製薬では検討中ですが、他の3社ではすでに廃止しています。コロナ禍という大きな変化があっても、動きの早い企業はすぐに対応できるんだなと感じます。

サトーホールディングス株式会社 高度専門職(エグゼクティブフェロー)グローバル人財開発室長 兼 一般社団法人サトーグループ共済会 代表理事 江上 茂樹氏
サトーホールディングス株式会社 高度専門職(エグゼクティブフェロー)グローバル人財開発室長 兼 一般社団法人サトーグループ共済会 代表理事 江上 茂樹氏

江上:ただし、問題がないわけではありません。テレワークの際のイスや机をどうするのか、という問題が聞かれました。問題の出方にもそれぞれの企業の風土が出てくるのは、興味深いことです。

藤間:参天製薬でも同様の意見が出たので、日本円対応で5万円を個人に支給しました。

島田:人事の課題には、変化に対して未来を見ながら課題として捉えることと、現場で現実に起きている問題に対応すること、その両方があると思います。

石山:人事には、さらに変化を促していくのか、現場からの課題にすぐに対応するのか、大きな二つの課題があると感じました。

【Bチーム】
カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 松浦俊雄氏
株式会社日本M&Aセンター 有賀誠氏
日本ユニシス株式会社 藤曲亜樹子氏
株式会社Jストリーム 田中潤氏
カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 人事部長 松浦 俊雄氏
カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 社長室長 兼 人事部長 松浦 俊雄氏

松浦:コロナ禍でも、本質的にはそんなに大きな変化はないと感じています。当社ではもともとオンラインでコミュニケーションが取れていましたし、リモートワークをしている人もいました。ただ一方で、「評価を変えるべき」「管理の仕方を変えるべき」という社員もいて、これまで意識していなかったことへの対処が必要だと感じました。

有賀:私は外資系IT企業での勤務経験が長いこともあって、そもそも上司は日本のオフィスにいないのが当たり前という環境でした。ずっと「プロとして何をなすべきか」ということに向き合ってきたので、自分個人としては、コロナ禍でも何かが変わるということはなかったですね。ただ、現在はいわゆる「ザ・日本企業」におり、「お~い、みんな集まれ、朝礼やるぞ」的な組織的文化なので、コロナはチャレンジでした。ただ、アグレッシブな会社ではあるので、変化や対応のスピード感はすごかったですね。

松浦:当社は直営の店舗があり、それを支援する本部があります。コロナ禍でも店はオープンしているので、出社する必要がある人とリモートでも働ける人とで、職場環境の差が生まれました。そのため、心のケアを含めた対処は丁寧に行いました。また、オンラインでのコミュニケーションでも「今の話し合いは何のためにやっているか」といった目的を意識して話す場面が増えたように思います。リアルな場でのコミュニケーションでは、雑談やあいまいさのある話もしますが、オンラインでもそういうものは大事で、もう一度コミュニケーションのあり方を構築していくことが必要ではないかと感じています。

藤曲:オンラインでのコミュニケーションは、課題もある一方で、メリットもあります。オンラインで会議や研修を行うときは、積極的に発言しないと、参加している状態になりにくくなります。今年度全面オンライン化した新人研修では、自分から声を出さないと伝わらないことから、主体性が高まり、受け身の姿勢から脱却するようになりました。また、マネジメントも、同じ空間で仕事をしていると部下のことをわかっている気になっていたが、実はわかっていなかった、などの気づきもあります。

石山:オンラインでのコミュニケーションでは目的に集中するため、雑談やあいまいな話がなくなり、「本当にこれでいいのか」という声も出ていますね。大学も、Zoomを利用するようになって「ブレイクアウトしたほうが討議に集中できる」「オンラインのほうが積極的に意見が言える」などという声もあり、良し悪しの両面が指摘されています。

【Cチーム】
株式会社湖池屋 八代茂裕氏
グーグル合同会社 谷本美穂氏
株式会社三井住友銀行 樋口知比呂氏
株式会社湖池屋 人事部 部長 八代 茂裕氏
株式会社湖池屋 人事部 部長 八代 茂裕氏
グーグル合同会社 執行役員 人事本部長 谷本 美穂氏
グーグル合同会社 執行役員 人事本部長 谷本 美穂氏

八代:テレワークという仕組みがもともとない中でコロナ禍になり、急遽テレワークに対応することになりました。在宅勤務をしてみると、「イスがよくない」「ネットが不安定」などの声が聞かれました。また、当社は食品製造業で工場はコロナ禍でも継続稼働して、同じ会社でテレワークをする本社とのリスク対応の差が課題となりました。

谷本:私たちはIT企業で日頃からデジタルを使った働き方をしているので、リモートワークへの移行はテクノロジーの面ではスムーズに行えました。大事なのは、バーチャル下でいかにグーグルのカルチャーを維持していくのか。「グーグルで働く意味は何か」「どうすればグーグルで働くことに求心力を持たせられるか」という観点が重要です。さらに人が離れている中で、いかにコラボレーションし、イノベーションを生み出していくか。個々が分散しているようで、実はチームワークやコラボレーションがすごく大事であり、それをどう維持していくのかに知恵を絞っています。個々がプロフェッショナルとして働き、会社として個の成長や強いカルチャーに最大限着目して、それをエンゲージメントにつなげていく。人事部として、会社のカルチャーをつくるミッションが非常に大きくなっています。

樋口:当社では、コロナ禍でも支店はオープンしていますが、本部にはもともとテレワークの仕組みがあり、その利用が一気に広まることになりました。ただ、人数的な制約があって、全員にパソコンが配れなかったことから、自宅待機の状態になった人もいました。課題としてみえてきたのは、ホワイトカラーの生産性はどうあるべきか、ということです。コロナ禍でテレワークが増え、部下をマネジメントができているマネジャーとできていないマネジャーの差が見えてきたと思います。今後はマネジメントの原点回帰を行い、その中でしっかり管理しなればならないと考えています。

石山:各企業に共通する点もありますが、ホワイトカラーの生産性のあり方は、実は本質的には変わっていなくて、プロとしてどうやっていくかを考えることが大事です。ただ同時に、グーグルの谷本さんのお話にもありましたが、一人ひとりが離れている中でのカルチャーとはどんなものかを考えなければいけないと思います。

【Dチーム】
株式会社オカムラ 佐藤喜一氏
コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社 東由紀氏
日本マクドナルド株式会社 落合亨氏
ノバルティスファーマ株式会社 口村圭氏
コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社 人事/総務本部 人財開発部 部長 東 由紀氏
コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社 人事/総務本部 人財開発部 部長 東 由紀氏

東:リモートワークを行う中で、もともと存在していた問題が顕在化してきたと感じています。リモートになって孤独を感じるという声や、仕事がこれまでのようにスムーズに行われないことに対して、1on1で十分な話し合いができているのか、仕事のプロセスは明確になっているか、チーム内にプロセスが共有できているか、上司と部下、チームメンバーとの信頼関係は構築できているかなど、本来はリモートでなくてもできているべきことを再確認しています。

落合:日本の大企業にありがちな課題がコロナ禍で一気に表面化した感があります。それをどのように解決するかというと、デジタルソリューション、デジタルトランスフォーメーションが不可欠です。ステークホルダーに対して、行動変容やそれを含めた文化を変えていくという人事施策がないと、本当の意味での課題解決にならないと感じています。

佐藤:オカムラは、オフィスを通じた働き方改革の実践を提案するビジネスを行っており、まさにオフィスありきの企業です。コロナ禍でオフィスに行くことを制限された中でどういう働き方をするのか。また、オフィスは何のためにあるのか。オフィスをなくすといった短絡的な考えも出がちですが、そうではなくてオフィスはどんなバリューのためにあるのかをあらためて問い直すことが大事だと思います。

ノバルティスファーマ株式会社 人事統括部 ファーマP&Oビジネスパートナー ヘッド 口村 圭氏
ノバルティスファーマ株式会社 人事統括部 ファーマP&Oビジネスパートナー ヘッド 口村 圭氏

口村:当社では、働く場所を選ばずにリモートでも働けるのではないか、といういい意味での気づきが生まれています。単身赴任を解消するなど、新たな動きも進みつつあります。一方で、医者や代理店など顧客との接点については、競合との問題もあって、なかなか変化できない面もあります。そのため、各々のステークホルダーの要求を考慮しつつ、トレードオフではなく、それらの要求を「アンド」でつなぐような解決策が必要だと感じています。さらにそれを実現するための創造性、革新性を実現する風土をつくるにはどうすればいいのか。人事としての根源的な問いに戻ると感じています。

石山:皆さんの話をまとめると、今回のコロナ禍によって、もともと会社にあった本質的な課題がより顕在化したケースが多かったように思います。そこで解決策を考えようとすると、各々のステークホルダーのことを考えないといけないということがポイントになっていると感じました。

ディスカッション2:これから注目すべき企業課題とは

石山:現状での企業課題は大きく三つあると思います。現場で直面するトラブルをどう解決するかという短期的な課題、未来に向かってどうしていくかと考える中長期的な課題、そして三つ目は、コロナ禍であぶりだされた物事の本質的な課題です。次はこれまで共有したさまざまな課題の中から、特に注目される課題について話し合っていただきたいと思います。

【Dチーム】

株式会社オカムラ 執行役員 コーポレート担当 CHRO(人事部・人財開発部・お客様相談室・サステナビリティ推進部) 佐藤 喜一氏
株式会社オカムラ 執行役員 コーポレート担当 CHRO(人事部・人財開発部・お客様相談室・サステナビリティ推進部) 佐藤 喜一氏

佐藤:Dチームは、「これからオフィスは必要なのか」という議題で話し合いました。今はまさにオフィスの再構築の時代を迎えているのではないでしょうか。オフィスには新しいものを生み出すクリエイティブな場であることが求められます。しかし、リモートとリアルが混在すると、リアルなオフィスでは何をすべきかを考えてしまいます。やはり、人と人が本音で話すには会う必要がある。あるいは、一つのオフィスだけではなくて、例えばサテライトオフィスとか、いろいろなところにオフィスをつくっておいて、それを有機的につなぐ仕組みも必要です。

石山:そもそもオフィスは、何をするところなのか。場のつながり方をどう変えていくか、という視点は確かに重要ですね。

【Cチーム】

八代:オンライン化、デジタル化で効率が良くなった面もありますが、なくした要素もあるのではないか、という議題で話しあいました。例えば、雑談や仕事の余白の必要性です。当社では新入社員が半年で辞めました、コロナ前には無かったケースです。組織にコミットする機会をきちんとつくらなければいけないと考えています。

谷本:グーグルでは、新入社員でも入社1日目からプロとして扱います。新人でも、我々が知らないことを知っていることもあります。外からの目でみた意見が新しいビジネスやアイデアに結びつくこともあります。そんな視点をもっと生かせていけたら、コロナ後の日本の社会はもっと発展するのではないでしょうか。

石山:「余白と雑談」VS「効率化」ということを考えたときに、新人が組織にどうなじむか(組織社会化)ということを考えると、やはり余白があったほうがいいのではないでしょうか。そして、新人の視点を生かすことも考えるべきですね。

【Bチーム】

日本ユニシス株式会社 組織開発部 部長 藤曲 亜樹子氏
日本ユニシス株式会社 組織開発部 部長 藤曲 亜樹子氏
株式会社Jストリーム 管理本部 人事部長 田中 潤氏
株式会社Jストリーム 管理本部 人事部長 田中 潤氏

藤曲:私たちは、リアルに会うことの意味、オフィスに行くことの意味について話し合いました。今回はリアルのよさに気づくよい機会になったという声が多かったですね。

田中:あまりに会議が目的志向になりすぎると、余白や猥雑さがなくなり、面白みがなくなります。偶然のことから新しいものが生まれることもあるわけで、そういうことがなくなっていくのではないか。また、イマジネーション力も必要です。例えば、会議で会っていればメンタル面で調子が悪い人にも気づけますが、オンラインだとなかなか難しい。オンラインではお互いの状況を気遣うような想像力がより大事だと思います。

藤曲:会議と会議の間でも余韻や余白がなくなることで、リフレクションをすることも難しくなってきます。例えば会議が終わったあと、席に戻る間にフォローできていたことができなくなっています。

石山:これまで軽くフォローできていたことがオンラインではなかなかできない、という面はありますね。一方で、オンラインによって、普段会えない人にも会えるといったメリットもあります。

【Aチーム】

ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長 島田 由香氏
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長 島田 由香氏

島田:これからの企業における雇用、働き方に関わるキーワードとして、副業とワーケーションについて話をしました。雇用においては副業が変化のきっかけになると思います。働き方においては、働く場所の選択肢が広がりつつあります。例えば、ワーケーションは、オフィスの役割について考える入口になるでしょう。働く場所を選べるようにすることで、単身赴任がなくなるという例もあります。ただ、実践においては、社員の自律も必要です。ここでいう自律は、私の解釈ですが、自分の「旋律」を奏でるという意味の自律です。自分から主体的に思いを表現していく。それに加えて大事になるのは、信頼です。会社がまず社員を信頼することからしか関係は生まれない。信頼してゆだねていくことが大事になるのではないでしょうか。

石山:ワーケーションが広がれば、単身赴任や転勤の意味が変わってきます。キャリア自律は自分の旋律を奏でる、という表現はいいですね。主体的に自由度を高めるということは実に大切なことです。

いま人事として、もっとも気になる課題とは

石山:最後に、いま気になっていることについて意見交換していただきたいと思います。

有賀:私はコロナを経て、日本でもっとも変わっていくのはお役所ではないかと思っています。この先、書類もハンコもなくなれば、人事部の生産性は高まるでしょう。これは大きな変化につながると思います。

谷本:私も大賛成です。デジタルでできることは、実にたくさんあります。なんといっても、ムダがなくなる点は本当に助かりますね。働き方を変えていくときには、デジタル化を一緒に進めることが大事です。

株式会社三井住友銀行 人事部 上席推進役 樋口 知比呂氏
株式会社三井住友銀行 人事部 上席推進役 樋口 知比呂氏
フェイスブックジャパン株式会社 人事統括 (Head of Human Resources) 佐々木 丈士氏
フェイスブックジャパン株式会社 人事統括 (Head of Human Resources) 佐々木 丈士氏

樋口:社内のデジタル化はかなりのところで行われていますが、企業はもっとプロセスを改革すべきだと思います。例えば、稟議決裁システムは導入されていても、決裁承認を取るには、順番に上げていくのが原則で、結局決裁まで数日かかってしまう。これをもっと同報でできないか、同時編集ができないかと、プロセス改革をすべきところがあると思います。そうすれば生産性も大きく変わると思います。

佐々木:今日の話を聞いて、ハンコ問題の本質は承認という行為にあると気づきました。本当にいくつもの承認がいるのか、ということです。承認をなくすことは、現場にいかに権限移譲をするかという考えにつながります。ここがすっきりすれば、デジタル化も生きてくる。デジタル化だけだと承認のスピードは上がっても、承認のレイヤーは減りません。

藤間:私も同じことを痛感しました。決済の階層は、各社でまったく違います。テクノロジーの仕組みを入れても権限移譲ができていないと、効率化できない。決済規定などのルールも併せて進めないと、スピードは上がらないと思います。上の人間は部下を育てるつもりで権限移譲を進めるべきです。

日本マクドナルド株式会社 人事本部 上席執行役員 チーフ・ピープル・オフィサー 落合 亨氏
日本マクドナルド株式会社 人事本部 上席執行役員 チーフ・ピープル・オフィサー 落合 亨氏

落合:そもそも稟議は共同責任であり、個人では責任を取らない、という仕組みですよね。私は日本企業と外資系を両方経験していますが、外資系は基本的に予算付けがされていて、決済権限者は責任も取らなければいけない。実にドライな仕組みです。しかし、日本は共同責任であり、個々では誰も責任を取らない。HRの仕組みはDXで解決できると思いますが、そのためには稟議の仕組みを変えなければいけません。このときに大事になるのは、企業や個人における「パーパス(目的、存在意義)」です。我々がなんのために仕事をするのか。企業は何のために存続するのか、ということを原点回帰して考える必要があると思います。

島田:そんな場面でパーパスをもっとも語れるのは、やはり人事部だと思います。コロナ禍で、どうしてこの会社で働くのかという問いについて考える機会も増えました。皆さんの話を聞いていて、コロナ禍は実にいろいろなものを人事にもたらしてくれているなと感じます。

石山:しかし、実際に人事がパーパスを語っているかというと、それよりも目の前の課題をどうするかを語る機会のほうが多いように思います。どうすれば人事がパーパスを語れるようになると思いますか。

株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 人材ファースト統括 有賀 誠氏
株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 人材ファースト統括 有賀 誠氏

有賀:人事に限りませんが、パーパス、目的、ミッションを語れない人をリーダーのポジションにつけてはいけない、ということに尽きると思います。年功序列で人事部長になった人ではパーパスは語れない。パーパスを語れる人をリーダーに据えるべきです。最近も「ジョブ型雇用を導入すべき」などと手段の話が出ますが、こういう言い方は目的と手段の順序が逆ではないか。あくまでも目的が大事であって、企業の目的と、その手段がフィットするのかを考えるべきだと思います。

藤間:日本企業の場合、個人がパーパスを持ちにくいのは本人の意思抜きで、ローテーションで職場が変わることにあります。だから多くの人は、定年まで勤めあげることがパーパスになり、会社でうまく生き抜くことだけを目指すようになる。個人が自分で「この道を進むんだ」と思えるようにしていかなければいけません。

江上:やはり、パーパスへの共感がポイントになると思います。会社がどんなパーパスをもっていて、それにどう共感するか。パーパスについて考えることが当たり前にならないと、会社で長く働くことが目的になってしまいます。

口村:パーパスを浸透させるには、対話しかないと思います。余白の時間に「この仕事は何のためにやっているのか」について対話することが必要です。今よりも先のことを語り合うことは、共感を生成するうえですごく大切です。

東:コロナ禍の経験は、これまで当たり前だったり、じっくりと考えたりしてこなかった物事を考えるきっかけとなったと思います。例えば、リモートワークによって組織とのつながりが薄くなったと感じている人が多いことがわかったら、研修や1on1の場で、あらためて「なぜここにいるのか」という問いを投げかけることが、パーパスについて考えることにつながると思います。

松浦:今、真正面から「人事」という仕事をしようとするとダメだと思います。イマジネーションを働かせながら、その裏にある課題は何かを想像して、あらゆるアセットを活用して対処していく。そういうクリエイティブな観点から仕事を掘り下げることが、今の人事の役割だと思います。

石山:今後は企業や個人がパーパスについて考え、個々で幸福の形について考えていくことが大事になるのではないでしょうか。本日はありがとうございました。

■ファシリテータープロフィール

石山恒貴氏
石山 恒貴氏
法政大学大学院 政策創造研究科 教授・研究科長
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佐藤喜一氏
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松浦俊雄氏
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