会合レポート
『日本の人事部』人事エグゼクティブ定期会合(日本の人事リーダー会)第4回
これからの人事エグゼクティブの育ち方
“当たり前”の経営、“当たり前”の人事とは?
野田 稔氏 明治大学大学院グローバルビジネス研究科教授/一般社団法人 社会人材学舎 塾長
2015.10.8 掲載
人事部門のリーダーである人事担当役員・部長(人事エグゼクティブ)は、これからの社会変化の中で、どのように自らのキャリアを伸ばせば、経営と一体化した人事施策の推進役になれるのか。「日本の人事リーダー会」第4回会合では、明治大学大学院グローバルビジネス研究科教授・野田稔氏をお迎えし、これからの大きな経営環境の変化の中で、人事エグゼクティブの選抜と育成をどのように考えていけばいいのか、参加者全員で議論を深めていった。
プロフィール
野田 稔氏 明治大学大学院グローバルビジネス研究科教授/一般社団法人 社会人材学舎 塾長
(のだ みのる)1957年東京生まれ。1981年一橋大学商学部を卒業後、株式会社野村総合研究所に入社。一橋大学大学院修士課程修了。野村総合研究所に復帰後、経営戦略コンサルティング室長、経営コンサルティング一部長を経て、2001年に退社。多摩大学経営情報学部教授、株式会社リクルート新規事業担当フォローを経て、2008年より明治大学大学院(MBAコース)グローバルビジネス研究科教授に就任する。2013年には一般社団法人社会人材学舎を設立し、日本のビジネスパーソンの能力発揮支援に取り組む。専門分野は組織論、経営戦略論、ミーティングマネジメント。研究フィールドは「組織で人がいかに行動するか」。小さなチームでの個人の振る舞いから、大きな企業グループでの意思決定に至るまで、その対象は幅広い。現在、もっとも先端な組織と人の実務家研究者として知られる。講演・研修の他、TV出演も多数。主な出演歴は、NHK総合「経済ワイド ビジョンe」メインキャスター、NHK総合「Bizスポワイド」メインキャスター、NHK Eテレ「仕事学のすすめ」トランスレーター、BSジャパン「7PM」メインキャスターなど。また、組織論・経営戦略論をテーマにした著作も数多い。主な著書に、『当たり前の経営』『組織論再入門』『中堅崩壊』(以上、ダイヤモンド社)などがある。
時代と共に変化する企業経営における“当たり前”
最初に野田氏が、企業経営において人事エグゼクティブに求められる期待と役割について、解説と問題提起を行った。
「本日のテーマは『これからの人事エグゼクティブの育て方』ですが、私なりにいろいろと考えていく中でたどり着いたキーワードが“当たり前”です。当たり前という言葉は、実に取り扱いが難しい。人は自分を取り巻く環境や自分の生い立ちで、何をどう見るのかが規定されてしまうからです。私たちはある枠の中にいて、モノを考え、モノを見ています。この枠が通用する時代が未来永劫に続くのなら、何の問題もありません。しかし、私たちを取り巻く環境は大変な勢いで変化しています。ですから、どこかの段階で今まで適合していた枠が適合しなくなる時が必ず来ます。そのことに、強い危機感を持たなければなりません。そこで今回は『“当たり前”の経営、“当たり前”の人事』というタイトルを付けました」
人事エグゼクティブという職責は経営者であり、まさに会社経営の一翼を担っている。その中でたまたま人事を担当している、という感覚を持つことが大切だと野田氏は言う。まずは「エグゼクティブ(経営者)としての当たり前は何か」というテーマから、話は始まった。
「企業経営にも当たり前があります。それは『変化する』ということです。時代の変遷と共に、だんだん変わっていきます。また、変化している時には混乱が伴います。古い枠のパラダイムにいる人にとっては、新しいパラダイムがきれいごとに見えるという混乱です」
終身雇用・年功序列は、バブル経済崩壊の前まで当たり前だった。しかし、1990年代の初頭には成果主義へと一気に変わっていく。「当時、いくつかの会社でコンサルティングをしながら、成果主義では成果に応じて給料を上げたり下げたりするという話をしたところ、ある人事部長から『理想論を言われても困る』と言われました。給料を下げることは、不当労働行為に当たると。しかし、私のいた野村総合研究所では、実際に給料が上がったり下がったりしていました。これは、不当労働行為と言えるでしょうか。そんなことはありませんね。『一円たりとも給料を下げることはできない』という思い込みの枠が、その人事部長にはあったわけです」
当たり前が変化する前後では、「それはきれいごとではないのか、理想論ではないのか」と、かつての姿に引き戻そうとする混乱が生じることもある。しかし、勇気を持って新しい枠に飛び込む企業があれば、新しい当たり前が実現することになり、それに追随していく企業が出てくる。そして、それらの会社の業績が上がるに従い、それが次の当たり前になる。このような変化が起きると、前の時代の当たり前は過去のものとして、ノスタルジックに語られるようになる。
「日本の経営の当たり前は、戦後、三つの世代で変わっていきました。第一世代は、高度成長期の頃。1945年から、オイルショックのあった1970年代の半ばまでの約30年間です。今では非常に懐かしく感じる当たり前が、この時代にはありました」
第一世代は、国としての幸せの絶頂期の頃。そもそも日本は小さな国で、江戸時代の頃は人口2703万人という小さな国だった。そして、明治維新が勃発。経済的に言うと産業革命である。産業革命によって生産性が向上するに従い、人口が急増する。それが人口ボーナス期と言われるものだ。その結果、20世紀の100年で、日本の人口は4385万人から1億2669万人と3倍に増えていった。
特に、第二次世界大戦後のベビーブーマーの時代は、人口の垂直立ち上がり期。加えて、経済的にも大きく成長したので、国内マーケットが急速に拡大した。この第一世代における企業の当たり前は、強い会社を目指そうというパラダイムである。規模の拡大、収益至上主義などが叫ばれ、何事でもアメリカをまねることが多く、物まねがあたりまえだった。コンプライアンスの意識もまだ希薄だった。
では、この頃の人事の当たり前はどんなものだったのか。それは精神主義と根性論だと、野田氏は言う。アメリカのまねをすることが第一なので、あまり頭を使うことはなく、肉体的にがんばることが重要だった。その時のパラダイムは「明日を夢見て、今日は我慢」であり、これが日本企業において非常にプラスに寄与した。
「この頃は企業にはお金がありませんから、従業員の給料を満足に払うことができなかった。そこで社員に手形を切るわけです。将来、会社が大きくなる頃まで働いてくれれば十分に見返りを払うから、今は安い給料で我慢してくれと。年功序列、終身雇用というのは、この当時の状況で考えれば、極めて合理的な選択でした」
当時の企業の社会的価値は、人々が確実に生きることを、量とデリバリーによって支えることだった。そのために、均質な労働者を大量に採用し、鍛え上げ、脇目もふらずにルーティンワークに邁進させる仕組みを作り上げた。
「第一世代による企業の量とデリバリーを重んじていた時の企業の基本競争戦略は、コストリーダーシップ戦略です。人と同じモノでいいから、安く大量に確実に作ることが基本戦略になっていました。 組織も、コストリーダーシップ戦略の実現に最適化されていました」
それががらりと変わるのが、1970年代の半ば過ぎからの第二世代。この頃によく言われた言葉が「成熟化」である。企業経営の当たり前は「多角化」し、本格的な海外進出も始まった。当時の企業の目指すべき方向は賢くなること。規模の拡大は相変わらず続いていたが、多角化が進み、国際化も進んだ。頭が悪くては経営できない、根性だけでは経営ができないという時代に突入したことにより、戦略という言葉が重要になった。人事の当たり前も、「明日を夢見て、今日は我慢」から「今頑張った人に今報いる」成果主義的パラダイムへとシフトした。
「成果主義は、『今主義』の象徴です。今がんばった人に、今報いるという考え方。これを行うことによって、日本企業は経営責任をしっかりと果たし、無駄のない筋肉体質となっていきました。ただ、未来志向、未来への投資が少し薄まっているように感じます。また、当時の企業の社会的価値は、『人々がより豊かに生きる』ことを質とバラエティーの提供によって実現することでした。これに伴い企業の基本戦略も差別化戦略に方向転換することになりました」
そして、第三世代。2008年のピーク時に人口が1億2808万人であったのが、昨年(2014年)の推計では、1億2702万人にまで減少した。人口減少はまだ序の口で、これから急速に人口が減っていき、2046年には1億人を割り込み、2100年には4771万人にまで減少すると予測されている。当然、今の経済構造では持たない。高齢化もますます進展していく。このような大きな変化をどのように乗り切っていくかを、今から考えておかなければならない。
「いったい、どのようなパラダイムになるのでしょうか。結論から言うと、志の高い企業でなくてはいけない、ということです。社会問題に対して、しっかりと解決できるような企業となること。そうでないと、生き残っていくことはできません」
人口が急速に減少し、高齢化、成熟化が進むことによって、ニつの大きな変化がもたらされる。一つ目は税収減。税収が減ると、今まで公共サービスとして我々が享受していたものが、成り立たなくなる。国も地域も自活力、自給力を高めなくてはならない。二つ目は、超・洗練化社会が到来すること。オーストリア、北欧の国々など、比較的早めに高齢化が始まった国では、子どもが大人びていて、洗練されている。
「私の仮説ですが、国が成熟化するに従って、子どもは大人化します。事実、今の日本の子どもたちを見ていると、私が子どもだった頃と比べて圧倒的に洗練されています」
洗練化とはすなわち、一人ひとりの個性が際立つことでもある。人々は自分らしい生き方を求め、今まで以上に自分に合ったモノやサービスを欲するようになる。
この二つの変化が、大きく社会に影響してくることが予測される。社会的変化(税収減)に対して、企業は人々が安心して生きることを支えるために、社会やビジネスモデルという観点でモノを見なければならなくなる。もう一つの超・洗練化社会に関しては、人々の「自分らしく生きたい」という願いを個とマッチングの観点から支える、ということが求められるようになる。
「両方に共通しているのは、創造性が豊かでないと、このような変化には対応できないということです。これからはクリエイティビティ、人間本来の力が発揮されるような企業経営を志向していかないといけない。きれいごとではなく、クリエイティビティが本当に競争力の源泉となる時代が来ると信じています。第一世代のように、言われたことを実現するために馬車馬のように働くだけでいいという時代ではありません。また、第二世代のように、賢く、戦略的であればそれでいい、ということでもありません。Howだけではなく、What to doで勝負が決まる時代が来ると思います」
さらに、グローバルという観点で日本を見てみると、相対的な地位が変わってきたことは周知の通り。G7はいつの間にかG20となり、日本のGDPは中国に抜かれて第3位となった。これではいけないと言うことで、経団連が提言を行った。第一の提言は「女性と高齢者の労働参加。生涯を通した人材力強化」。第二の提言が「環境変化に対応した新たな人材育成」。そして第三の提言では「教育現場の創意工夫、抜本的教育改革」となっている。三つの提言は全て人に関することであり、この事実を人事は重く受け止めるべきだろう。
「2022年までになくなる可能性が高い仕事、というレポートが発表されています。減少する仕事に共通しているのは、既存の知識を使って行うものだということ。では、今後増加していく仕事は何かというと、創造性発揮が求められるものと、社会的知性の発揮が求められるものです。このことを大学の教授会で話して、今後、大学の教員の仕事はどうなるのかという問題提起を行いました。過去の知識を講義という形で伝授するだけの先生は要らなくなる。これから求められるのは、学生たちが学びたいと思う気持ちを引き出したり、自分の頭で考えられるようにファシリテートする先生であると。これができなければ、先生としての役割が果たせません。古いタイプの先生には頭の痛いことかもしれませんが、これがまさに今起きているパラダイムチェンジなのです」
人事の“当たり前”はどのように変化するのか?
野田氏は現在を人事における最大のパラダイムシフトとして、本気でダイバーシティ&インクルージョン、つまり多様な背景を持つ人材を組織に受容し、一人ひとりの意見やアイデアを大切にしなくてはならない、と言う。それも、男性対女性といった表層的なダイバーシティではなく、深層的なダイバーシティだ。
「例えば、マスキュラン(男性性)なのかフェミナン(女性性)なのか、といったアプローチ。男性の中に女性性があり、女性の中にも男性性があるわけで、その両方の良さを適材適所していくことが大切なのです」
次が、健康経営の推進。従業員が健康でない状態が続くことによって、会社が傾くことがあり得るからだ。そのため、合理的な選択、競争的な選択として健康経営に焦点が当たることになる。そして、一人ひとりの個を活かすことによって、イノベーションを起こしていくこと。新しいビジネスモデルを作ることができないと、会社が生き残ってはいけないからだ。この三つが、これからの人事のパラダイムシフトなのである。
「私が主催する社会人材学舎では、キャリアを『仕事を通じて志を実現する成長プロセス』と定義しています。キーワードは可能性と期待。そして、それを担保するための職域開発、すなわち“価値を生む仕事を創り出す”ことです。本人が自らの可能性を信じ、継続的な努力と成長を周囲が期待すること。これを会社の中に、作り込んでいかなければなりません」
野田氏は、このような状況を10年単位で全ての階層で実現できるようにすることがポイントだと言う。20代には20代のための、30代には30代のための仕組みを作ることで、全ての社員を活かし切る、使い切るということだ。年代別のキャリアテーマ・キャリアデザインと人材像を示すと、以下のようなフレームとなる。
年代 | テーマ・キャリアデザイン | 人材像詳細 |
---|---|---|
新入社員~20代 |
1000日間、仕事の型を身に付ける 自己ブランドの構築 |
まず、周囲を安心させる。優秀な部下であると認められること。周囲から期待を抱かせる自己イメージを確立。期待により、チャンスが広がる。 →『○さん、うちの人らしくなったよね』 →『○さんて、優秀だよね』 |
30代 |
プロフェッショナル化 旗印を掲げる |
プロフェッショナル意識を持つ。自社に対する貢献を言語化できている。自らの可能性を高め、自立的かつ自律した働き方の確立。プロフェッショナル化。 →『◎と言えば、○さんだよね』 |
40代 | 出世の10年 |
50代までに会社の枠を超え、広く社会から有用な人材として、一目置かれる存在を目指す。マネジメントの経験。市場価値の拡大。 →『△社に○さんあり』 |
50代 |
組織での仕上げ 世代継承性 次のステップへ |
主役から支え役へ。組織に残すものは何か?新たな発想でキャリアデザインを行う必要がある。 →『○さんが□を始めたんだって』 |
「全ての社員が絶望することなく、自らの可能性を信じ、努力をし続けることがないと、会社としての力はどんどんと落ちてしまいます。そのためにも、しっかりと価値を生む仕事を創り出し、会社が社員に対して期待する状態を作り込まなくてはなりません」
また、このような期待される人材とするためには、以下の五つの要件がポイントとなる。
- 1.自らのキャリアを戦略的に捉えさせる
- 2.変化を恐れさせない、挑戦を楽しませる
- 3.学ぶ習慣を身に付けさせる
- 4.“楽観力”を鍛える
- 5.会社を舞台とした能力発揮を考えさせる
「そして、会社全体をイノベーションが起きやすいプロセスへと再設計していくことです。そのためにも、イノベーティブな組織風土を作っていくこと。それは組織の楽観性ということです」
楽観性を上げると、組織のレジリエンス(精神的回復力)が高くなる。その結果、組織は失敗にめげることなく挑戦を続ける力を身につけることになる。ところが今は逆の状態にある。日本企業は悲観的で、リスクを怖がり過ぎていると野田氏は警鐘を鳴らす。では、どうやったら組織を楽観的な方向に向けることができるのか。
「楽観性と言っても、ただポジティブになるのではありません。現実を直視し、柔軟に捉え、合理的な思考を持つことです。そのためにも、人事が自ら“運”を強くする必要があります。そこで、お勧めの本があります。リチャード・ワイズマン博士の『運のいい人の法則』。10年に渡って心理実験を行った結果、運がいいと感じている人とそうでない人との間には、考えや行動パターンの違いがあることを博士は発見したのです。具体的には、運のいい人と悪い人には、次のような違いがあるとしています。
- 1.運のいい人はいつも偶然のチャンスに巡り合うが、悪い人はそんな経験がほとんどない。
- 2.運のいい人は理由が分からないまま正しい選択をしている。悪い人の選択は失敗に終わる。
- 3.運のいい人の夢や目標は不思議なくらい実現する。悪い人の夢や目標ははかない空想と同じ。
- 4.運のいい人は不運を幸福に変える力がある。悪い人はその力はなく不運が混乱と破滅をもたらす。
運のいい人と悪い人の出現する確率は同じだが、運のいい人は同じ確率で起こるいいことを得ることができ、悪いことを避けることができる。その根源にあるのは楽観性がベースとなる「モノの見方」。具体的には、以下のようなことがあると言う。
- 1.運が悪いと感じている人には神経質なタイプが多く、不安感が強くて不注意になりやすいことから、思いがけないチャンスに気づけなかったり、事故に遭遇してしまったりする傾向がありました。
- 2.一方、運のいい人は、リラックスしていて心が開かれているため、意図していたこと以外のチャンスに気づきやすいという特徴がありました。
- 3.将来に対する期待にも大きな違いがあり、運のいい人は物事がうまくいくと期待しているため、目標に向けて努力する意欲が高いのに対し、運の悪い人ははじめからできないとあきらめてしまいがちです。
ワイズマン博士は、気持ちの持ちようが運を大きく左右しているという結論を導き出したのだ。楽観性がある人は、できると信じているから努力が続く。だからこそ、組織の楽観性がとても大切なのである。野田氏は「人事エグゼクティブとして成長していくためには、以下に示したようなパラダイムシフトが求められています」と言う。
- 1.人事テクノクラートからの脱皮
- 2.経営者としての“常識”を身に付ける
- 3.これからの“当たり前”を考え続ける
- 4.人事・組織を競争力源泉とする
「私は究極の人材マネジメントとは、松下幸之助さんの役員登用の条件『彼・彼女は運が強いかね?』だと思っています。では、運がそんなに強くない人はどうすればいいのかというと、『徳を積みなさい』ということです。徳とは、その時できる最善を他に尽くすこと。一日一徳でいいから、自分の損得を考えないで人のために尽くすのです。そうすれば、一年で365徳。10年で3650徳となります。それは3650人から『ありがとう』と言われたということであり、3650人のサポーターができたのと同じことなのです。何かを志した時、あるいは苦境に陥った時、この内の何人かは必ず助けてくれるはずです。それを見て、他者は『あの人は運が強い』と思うようになるのです」
どういう人を人事エグゼクティブとして昇格させていけばいいのかを考える時、このような「徳」や「運」を見ればいいと野田氏は言う。「このやり方で進めていけば、仕事も組織もうまく回っていくからです。経営層に近づくほど、こうした側面がリアルに効いてくると、松下幸之助さんは言いたかったのだと思います」
グループディスカッション&まとめ
まさに人事エグゼクティブとは、人と組織を通じて、会社を変える人のこと。では、どういう人に、どのようなトレーニングを行えばいいのか。その選抜と育成のあり方について、参加者がディスカッション行い、意見を共有した。
- 世界に通用する人事エグゼクティブの要件は、人に興味を持ち、人が好きな「人たらし」であることだと思います。つまり、社員から好かれる、尊敬される、親近感を持たれる人でなければいけないません。そのためには、筋を通す、嘘をつかない、正直である、信念を持っているといったことが大事です。そして、それらを通して社員に火をつけ、やる気にさせ、的確なアドバイスができること。そういったことができるなリーダーとなるためには、自分自身がいろいろな失敗や経験をしていることが大切だと思います。
- 人事エグゼクティブとして、右脳派(パッション)、左脳派(ロジック)のどちらのタイプがいいのか、議論を重ねたのですが、結論は両方が必要であるということでした。ただ、自分がどちらかのタイプの場合、全てを一人でやる必要はないので、自分を補ってくれる相方やチームを作ればいい。また、どちらがリーダーであるべきかでは、できれば右脳派が望ましく、左脳派が参謀としてサポートしていくほうが、いろいろな新しいアイデアがブロックされないと思います。
- 尖った人材をうまく使っていける組織が強くなる。そういうことのできるリーダーが求められていて、例えば、1+1を3にできることが、これからの人事エグゼクティブの要件だと思います。
- 人事エグゼクティブには、楽観性がとても重要です。また、それは人に対して楽観的であること(人に期待する力)です。例えば、人は必ず成長できる、人は元々いいモノを持って生まれてきている、だからこそ、そこに火をつけることが大切である、というような楽観性です。
- エグゼクティブである以上、ビジネスで勝つことに結び付いた行動が取れる人であることが必要です。そして、経営トップとのバランスがうまく取れることです。
- 人事のリーダーには、会社のカルチャーを作る(変革する)ことのできることが重要な要件です。それを実現するためには、いろいろな経験を有していなければなりません。そして抵抗勢力を納得させるためにも、社員に使える力、共感させる力が必要です。
- 何より、経営者であるという自覚が重要です。例えば、世の中の“匂い(方向性)”をかぎとれること。そして、そのための配置を的確に考えられること。人に対する嗅覚に優れている、といったことです。また人事だけではなく、社内のさまざまな部門を経験していることも必要だと思います。
- 人事エグゼクティブには、トップと従業員の両方から信頼されていることが必要です。そのためにも、事業をよく知っていることが欠かせません。その前提の中で、人事エグゼクティブとしての育成を考えなくてならないと思います。
最後に野田氏は、各テーブルの提案に対して解説を加えた後、以下のような総括を行い、第4回の「日本の人事リーダー会」を締めくくった。
「今、大変革期であることは間違いのない事実です。人口が大きく減り、事業構造が変化していく中で、どのように経営の舵取りを行っていけばいいのか。いずれにしても、どこかの段階で人と組織のあり方を大きく変えなくてはならないでしょう。人事エグゼクティブとして、その時が最大のチャレンジであり、またチャンスだと思います。そのためにも、これからどのような人と組織としてくのか、そのためにはどのような仕組み・施策が必要なのか。「日本の人事リーダー会」の場を活用し、業種・業態の垣根を越え、今後も皆さんと議論を続けていきたいと思います」
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第4回会合の風景
冒頭、『日本の人事部』企画・運営の株式会社HRビジョン代表取締役社長 林城より、挨拶とともに、「日本の人事リーダー会」の趣旨・活動概要について、説明いたしました。
『日本の人事部』からのお役立ち情報として、ATD(Association for TalentDevelopment)インターナショナルネットワーク・ジャパンの浦山昌志会長、中原孝子副会長より、海外のHR分野のトレンドについてご紹介をいただきました。
アドバイザリーボードの皆さまどうし、活発な議論が交わされました。