研修転移実践。コロナ禍収束後の研修の未来。
コロナ禍収束なら、オンライン研修は対面研修に戻すべきか?
(第1回)
2020年4月7日の緊急事態宣言から、もう足掛け3年目。昨日6月27日の新規感染数は日本全体で9,572人と1万人を割る規模になりました。街に出て見れば、ほとんどの人がマスクこそ付けていますが、たくさんの人出がありコロナ前の賑わいに戻りつつある感じがします。ワクチンの効果をスルーするような強力な変異株が現れない限りは、いよいよ収束が見えてきたのかもしれません。
そうだとすると、企業研修の世界にいる私たちにとって気になることは、「もしこのまま新型コロナが収束した時には、オンライン研修を元の対面研修に戻すべきか?」という疑問です。このコラムを読んでいただいている、あなたは Yes? No? どちらですか?
この質問に答える前に、まず「企業で実施する研修は一体何のためなのか?」という企業研修の目的について考えてみます。それはたぶん次の3つになるのではないでしょうか?
1.知識を知るため
2.スキルを身に付けるため
3.気付きを得て、考え方を変えるため
しかし、ただ「知る」、「身に付ける」、「気づきを得て考え方を変える」だけで良いのかというと、それは違っていて、研修を企画する人事部門や管理部門からすると、それらを仕事の現場で発揮してもらい、顧客への提供価値を高め、会社の事業に貢献してもらうためです。
つまり、「研修転移」を実現することが企業研修を実施する目的だと言えます。
「研修転移」とはアメリカを中心に長らく研究されているテーマです。古くは1959年発表のカークパトリックの「研修評価の4段階モデル」までさかのぼると言われています。立教大学経営学部の中原淳教授らが2018年出版の「研修開発入門 『研修転移』の理論と実践」(ダイヤモンド社)で日本に紹介し、その後人材開発を巡る大きなキーワードの一つになっています。同書では次のように定義しています。
● 研修転移とは、「研修で学んだことが、仕事の現場で一般化され役立てられ、かつその効果が持続されること」
● 端的にいえば、一般化とは「研修で学んだことが現場で適用されること」であり、持続とは「現場に適用された内容の効果性が、ただちに失われるのではなく、持続すること」
平たく言えば、学んだことが仕事の現場で役に立たなければ、研修は意味がない、ということになります。
この前提を持って冒頭の「コロナ禍収束なら、オンライン研修は対面研修に戻すべきか?」の疑問を考えると、それは、「研修転移をより多くもたらすのは、対面研修の方なのか、オンライン研修の方なのか?」という疑問に形が変わることになります。
「『研修転移』の理論と実践」では、研修転移を実現するカギとして重要なのは「上司の巻き込み」と「研修講師の影響」だとして、次のような項目を挙げています。
【研修前の上司の巻き込み】
・上司に強制力を働かせる
・現場の課題とフィットさせる
・上位方針と連動させる
【研修中の上司の巻き込み】
・研修に集中できる環境をつくる
・研修の一部に関わってもらう
・研修の「前後」と紐づける
【研修後の上司の巻き込み】
・上司と部下で並走させる
・事後アンケートを活用する
・人事の熱量を伝える
【研修転移を促す講師の働きかけ】
・参加者の現場を知る
・「やればできる感」を高める
・本人のWANTを問う
・スモールステップを明確にする
・逆戻り予防策を考える
・行動を宣言させる
・参加者同士を結び付ける
・ハッピーエンドで終わる
これらの項目からは、研修転移=職場での実践を問題にするとき、研修実施部門の人事も研修講師も研修当日だけのことを考えるのではなく、研修前・研修中・研修後というある程度の時間の流れ(期間)を考えなくてはならないことが分かります。そうだとすると、それも踏まえた上で、これらの項目をより効果的に行うには、対面研修の方が向いているのか、オンライン研修の方が向いているのかを考えてみる必要があります。
私は研修講師・経営コンサルタント(その仕事の実態は約70%が研修)の道に進んで30年になります。考えてみれば、それはずっと「いかに研修転移を実現させるか」を試行錯誤してきた年月でした。そしてこのコロナ禍の2年は、「いかにオンラインで対面研修と同じくらいの効果が出せる研修が行えるか」に取り組んできました。そして今、こう思うのです。「(対面研修に比べて)オンライン研修の方が、より多くの研修転移を効率的に生み出せるのではないか?」、「特に費用対効果で考えたとき、研修転移が実現しやすいのはオンライン研修の方だ」と。次にその理由を、「研修講師」の立場に立ってお伝えしたいと思います。
≪オンライン研修の方が研修転移を実現しやすい理由≫
1.事前に受講生の上司や職場でのサポート役を集めてオンラインの「研修説明会」を短時間で行うことで、職場のキーパーソンに対する講師からの直接の巻き込みが、場所的・時間的・費用的に容易にできる
2.上司にオンライン参加でオブザーブしてもらうことが容易にできる
3.オンライン研修の中で個人もしくは(チーム分けした場合の)チームごとの時間を十分に取る設計を行えば、現場に即した個別の具体的な悩みや課題を、他者が聞いていない環境で本音で講師が聞くことができ、対話すること、アドバイスすること、講義内容に反映することが容易にできる
4.研修後の実践期間中、及び次の研修までのインターバルの期間に、受講生個人の取組の進捗状況を確認したり、疑問や問題への対策等の相談を受けたりすることが、オンラインで短時間かつ機動的に容易にできる
5.上記1から4を組み合わせて研修設計することで、受講生の職場のキーパーソンを巻き込むことができ、受講生個人やチームごとのモチベーションを上げることができ、最終的な研修成果(=研修転移)を高めることが、対面研修よりも容易にできる
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今回のコラムは第1回とし、次回のコラムで、この理由の1から5についての、実施事例をご紹介したいと思います。
また、この話をある企業の人事担当の方にしたところ、「確かにオンラインのこのやり方で研修転移は起こる気がするが、対面の集合研修にはまた違った良さもあるのではないか?」という声をいただきました。それは確かにそうです。そしてそれは「研修転移」につながる部分と、そうではない部分の両方で「対面集合研修ならではの効果」があると思います。次回はそこも含めてお伝えしたいと思います。
研修転移実践。コロナ禍収束後の研修の未来。「コロナ禍収束なら、オンライン研修は対面研修に戻すべきか?(第1回)」にお付き合いいただきありがとうございました。
株式会社ヒューマンラボ 取締役シニアコンサルタント 津田 陽一
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一人ひとりの強みと才能をチームの強みに。チームの強みをお客様の喜びに。
どうすれば人と組織は変わるのか? どんな時に元気になり、またダメになるのか? 真の顧客満足を生み出す方法は? 経営幹部陣と、現場の担当者たちと、これらの問いに一緒に取り組み、答えを出してきました。あなたの会社のお役に立ちたいと思います。
津田 陽一(ツダヨ ウイチ) 株式会社ヒューマンラボ 取締役マーケティング部長 シニアコンサルタント

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所在地 | 大阪市 |
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