仕事ができない=発達障害?それって本当に発達障害??

障害者雇用の採用や定着で企業様のお手伝いをしている当社Kaienですが、ダイバーシティ推進特にニューロダイバーシティ推進に取り組まれる企業様が増え、配属現場向けや人事担当者様向けに講習をさせていただく機会が増加しております。本日は、そんなときに寄せられる疑問のひとつ、仕事できない=発達障害*?に、Kaien法人窓口の角田がお応えしていきます。
仕事できない=発達障害*?
人事 A様 「お客様の心情が読めないとか、抜け漏れが多いとか、つまり仕事ができないということが発達障害ということなんですか?」
仕事ができないからと言って、発達障害であるというのは強引です。たしかに、発達障害には次に挙げるような苦手さがあります。
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ミス・抜け漏れが極端に多い
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指示の受け取りでズレが極端に多い
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複数の仕事を同時にこなせない
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特に口頭のやり取りで大きなズレが頻繁に生じる
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いわゆる職場の常識が何度言ってもわからない
ただし、これのすべてが当てはまる人は基本的におらず、いずれかが当てはまる程度とお考え頂きたいのと、どんな環境であっても、つまり会社や周囲の人たち、仕事内容などを複数試しても同じような状態が繰り返し起こる場合でなければ、それは発達障害ではない可能性があります。
仕事ができない他の要素とは?
人事 A様 「だとすると、発達障害以外で仕事ができない原因があることもあるということですよね。例えばどういうものがあるか教えてください」
まずは、発達障害の人は基本的に手を抜きません。手を抜かなくても、他の人が当たり前に出来ることがとても苦手な状態です。例えば、毎朝遅刻してくる人がいたとします。ADHDの診断を受けている人に多いことではあります。でもADHDの人は頭の中の情報整理がうまくできず特に朝の身支度のバタバタを上手にハンドルことが出来なかったり、自分の中の体内時計を上手に感じることが出来ないために、一生懸命に準備して苦労しても、やっぱり遅れてしまうのです。
◆可能性1 やる気がない
でも同じ出来ない状態でも手を抜いている人がいます。それは発達障害ではなく、仕事ができない状態です。例えば、単に会社が嫌だったり、やる気がない人もいます。わざと仕事への無関心や上司への反抗を示すために意図的に遅れてくる、だらけた人もいるでしょう。この「意図的かどうか」という視点は常に発達障害かいなかを見極める上で重要になるポイントと言えます。
面倒なのは、熱心な上司ほど、何かを克服した上司ほど、発達障害の人が頑張っている様子を理解しつつも、もう少し頑張れるはずだ、と思い込む傾向がありそうだということです。発達障害の人は上手に自分の内面を言葉や表情で表現することが苦手なため、とても苦しくても飄々と見えることも多くあります。やる気を起こそうという上司の熱血指導が、発達障害の人を潰す可能性はとても高いです。本当にやる気が無いのか、やっぱり先天的な脳機能として(つまり発達障害的に)特定の仕事ができないのかは、即断せず様々に状況証拠を集めていただきたいと思います。
状況証拠を集めるのに慣れがいりますが(そもそも素人が診断できるものでは当然ないので)、例えば頑張りを押し付けるのではなく、出来ない部分をカバーする解決策を一緒に考えた場合に、試していけるかどうか。一生懸命な人は取り組んでみることが出来ますが、やる気がない人は取り掛かろうとしないかもしれません。更に、出来ない部分をカバーする解決策を見つけていくことが出来れば、発達障害であったとしても、それは双方にとって発達障害が双方の働く障害になっていない状態に近づくわけなので、非常に良い取り組みかと思います。
◆可能性2 新人/仕事に馴染んでいない
やる気があるにも関わらず”仕事がうまくない”人として、発達障害以外にも、単にその仕事に慣れていない新人ということも考えられます。実際、発達障害の人向けのビジネススキル講座を担当していると、結構な部分は新人教育と似ています。でも新人さんと発達障害の人では決定的に2つが違います。それは…
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そのうちなんとなくできるようになるか?
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いつまでたってもやはり出来ないことが無い(または少ない)か?
違う言い方をしますと、発達障害の人は「なんとなく出来るようになったね」ということが少なく、何度も根気よく(繰り返し)、定量的にしたり図示したり(視覚化)、無駄な要素を落として本質だけを(単純化・簡素化)、体系的に構造的にお伝えして、ようやく前進することが多いです。(※ 確かに上司や同僚としてはつかれるかもしれませんが、真面目で嘘をつかないため、一度理解するとしっかり責任を果たしてくれるので教え甲斐があることは付け加えておきます。)
また発達障害の人は、やはり努力しても努力しても限界があることがいくつかあります。もちろんどんな人間でも様々な限界があるのですが、こっちの作業はこれだけできるのに、なんでもっと簡単なあっちの作業はからっきし駄目なの?、というような凸凹が顕著です。単なる新人でしたら徐々に出来ないことが少なくなり凸凹が見えにくくなると思いますが、発達障害の人はいつまでも凸凹がくっきり見えることが多いでしょう。
人事 A様 「可能性1でのずる賢い立ち振舞いは、たしかに発達障害の人はできなさそうですものね。可能性の2も納得はできます。でも私が見てきたケースではなんらかの精神障害が疑われることもあって、発達障害なのかそれとも違うのかと感じることもあったんですけれども…。」
実際のところ、発達障害と他の精神障害をぐっちゃにしている人事や上司の方は多いようです。可能性3・4・5はそういった例についてです。

発達障害以外の精神障害が原因と疑われる例
可能性3 気分の落ち込み 抑うつ状態
人間誰しも自分ではコントロールできない不測の事態に陥ったり、限界まで努力しても期待していたとおりに進まずにエネルギー切れしてしまったり、気分が極度に落ち込むことを経験する可能性があります。心の風邪という表現があるぐらいうつは一般的になり、統計でも生涯でうつ病を経験したことのある人は10~15人に一人と言われています。
うつ病は気分が落ち込むだけではなく、様々な脳機能が低下すると言われているので、当然仕事のパフォーマンスも下がりがちです。うつ病とまで行かなくても抑うつ状態が続くと、ミスや抜け漏れが多かったり、同時並行の業務ができなかったり、相手を慮った行動が出来なかったり、ということが目立つことになるでしょう。
うつ病と似たものとして双極性障害(ハイな状態とうつの状態を繰り返す)があげられるかと思います。ハイと書きましたが、お金を使い果たしてしまう、自分がなんでも出来るように感じる、というようなわかりやすい躁状態になる人は少なく、周囲から見ると「最近元気良いね」ぐらいに思われるうっすらとした躁(軽躁と言われます)の場合が多く見られるかと思います。
いずれにしても、抑うつはお薬などの力を借りたり、自分の考え方の癖を修正したり、大きなストレスから離れるなどすることで回復すれば、仕事力も元の状態に近くなります。この辺りが、先天的で基本的に機能が変わらない発達障害の人とは違うところですね。
可能性4 パーソナリティ障害
「あの人発達障害なんじゃない?」とおっしゃる方の中で、アスペルガー症候群とパーソナリティ障害を混同している方はかなりいらっしゃいます。パーソナリティ障害は非常に幅広い概念ですが、通常では受け入れられる性格の範囲に入っておらず、恒常的あるいは一時的な人格、つまりパーソナリティの歪みと考えられるタイプのことです。最近では、サイコパスなどという言葉も言われていますし、ナルシスト・自己愛もパーソナリティ障害の一つです。
パーソナリティ障害は人口の数%と多く、また社会的に成功した人にも見られることが多いため、実は周囲を見回すとそれらしい人はたくさんいらっしゃいます。経営者にはパーソナリティ障害が一般の比率よりも多いという研究結果もあるほどです。
職場で問題となるのは、好きな仕事しかしなかったり、ミスや抜け漏れがあってもすぐに人のせいにして自分目線で自己責任で考える癖が弱かったり、相手の心や状況に配慮せずに言動を繰り返したり、ある人のところではニコニコしているのに別の人は極端に嫌って職場の人間関係を分断しかねない動きを起こしたりすることでしょう。
発達障害との違いは作為性の有る無しと当社では考えています。つまり相手を操作しようとしているような魂胆や思いが強く見えるときはパーソナリティ障害の可能性が高く、一方で純粋に良かれと思って行動している場合は発達障害と考えることができるでしょう。またパーソナリティ障害は先天的ではなく後天的なものであるため、幼少期にそのような特性が見られるわけではありません。
ただしパーソナリティ障害はれっきとした病気ですので素人判断で対応することはお勧めしません。もしかしたらと思ったら、やはり医療や福祉の専門家に相談することが必要になります。
可能性5 愛着障害
パーソナリティ障害に並んで、素人では発達障害との見分けがつかないであろうものが愛着障害です。小さい頃の親との関係がいびつだった場合に見られるものです。極端な場合ですとDV。言葉の虐待も含まれます。またネグレクト・育児放棄などがあげられると思います。逆に箸の上げ下げにまで文句をいうような過干渉な親のもとで極端なしつけを受けた場合も愛着障害のような症状を起こすことがあるでしょう。症状は、自分目線で考えがち、気分の浮き沈みが大きい、環境や物事によって集中できるできないが異なる、ミスや抜け漏れが目立つなど、発達障害と間違えられるような状態が多く見られます。
発達障害との違いは先天的か後天的かの違いです。ただ愛着障害は後天的とは言えかなり小さなころの体験が元になっているため物心ついたときから発達障害に似た症状を見せていて、専門医でも見分けが難しいと言われます。とても職場の力では根本の治癒は難しいですので、カウンセリングや精神科の受診など、専門家に任せることが重要になります。
人事 A様 「自分たちでわからないときはEAPのカウンセラーを頼ったり産業医に相談したりしてみたいと思います。職場の問題ということも有りえますよね。」
はい。最後は本人以外の問題についてお伝えします。
本人の問題ではないことも
可能性6 上司の責任(業務分担が下手/指示出しが下手)
端的にいうと上司の責任ではないかということですね。指示が上手だったり、モチベーション管理が上手だったら、その部下ももうちょっと上手に働ける、仕事ができるようになる場合は多いでしょう。またそもそも割り振る仕事の種類や量が適切ではないというケースもありそうですね。誰だって得意なこともあれば苦手な業務がありますから…。
ただ上司に責任がある場合は、多くの部下から文句が上がったり、パフォーマンスが落ちたりということが考えられますので、その人だけ著しく問題が起こるという場合には考えにくくなります。でもその際はそもそもその上司がなんらかの課題を抱えているということも考えられますね…。
人事 A様 「いろいろ教えてもらいありがとうございます。とても参考になりました。」
最後にひとつだけ。発達障害=仕事ができない、というわけではないことは念を押させて下さい。本人に合った適切な環境で、本人の特徴を活かした仕事ではパフォーマンスを発揮します。私はよく”個と環境のマッチ”などといいます。場合によっては他の人を上回るパフォーマンスを発揮することもあり、その場合は発達障害=仕事ができる、という事例になってくるほどです。
ですので仕事ができないことをすべて発達障害のせいにせずに、他の人よりも環境や配属によって仕事の出来が左右されやすい人たちと考えていただければと思います。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
※今回のコラムは、自社サイト発達障害Q&A 「ちょっと待って!それって本当に発達障害?」の日本の人事部向けリライト記事となります。
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角田 直樹(カクタ ナオキ) 株式会社Kaien ブリッジコンサルタント

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