手帳を基準にしない障害者雇用

1976年に1.5%。1988年は1.6%、1998年に1.8%、2013年2.0%、2018年4月2.2%、2021年3月からは2.3%。
勘のいい方なら気が付かれるかと思いますが、これは徐々に引き上げられてきた法定義務の障害者雇用率です。国、地方公共団体や教育委員会はもう少し高めになってますが、特に近年、引き上げのスピードが高まっていることがわかります。
歴史を振り返ると、1976年の身体障害者雇用促進法によって、身体障害者の雇用を努力義務から義務化に変えたことがスタートになっています。1987年に障害者雇用促進法によって雇用される障害者の対象に、知的障害が加わっています。やっと2018年に障害者雇用促進法の改正によって精神障害者の雇用も義務に加わったわけです。
これらの法改正に紐づいて、当事者の生活と企業の受け入れ態勢は大きく動いてきました。歴史的背景や複雑な福祉制度の中で、人事担当の方のよくある悩みを Kaien ブリッジコンサルタント(”就労希望者と採用したい企業の懸け橋になる ”という職種)の角田が解説します。今回はまず2点取り上げています。
障害者手帳を持つことだけが、障害者が働く道ではない?
障害者にとって働き方の選択肢は多様です。福祉的な働き方といわれる「就労継続支援A型」「就労継続支援B型」そして、一般就労の「一般雇用」「障害者雇用」。本人のスキルと職場環境のマッチング次第ではありますが、働き方は大きく4種類あります。
職種でいえば世の中に五万と職業がある通り、障害者にとっても職業は五万とあるのです。色んな選択肢から、この企業で自分の力を活かしたいという考えで、障害者も当然選択をして企業の採用に応募をされます。その際に「一般雇用」を選ぶのか「障害者雇用」を選ぶのかは、その方の自由となります。
そして一歩戻れば、「手帳をとるのかどうか」も本人の自由です。ここまでをまとめるとこんな式が出来ます。
診断≠障害者手帳取得≠障害者雇用枠での就労
これは、「『障害者が働きやすい会社を作ろう』と思ったときに、障害者雇用枠の方だけを考えてプロジェクトを走らせても難しいですよ」ということです。歴史を振り返ってみても、1976年時点で企業に身体障害以外の障害者が企業に雇用されていなかったか?といわれると、そんなはずはありません。障害者雇用に関する法改正は、「配慮を受けることが出来る職場環境」があって、「配慮を受けながら働きたいと選択出来た障害者の方」の最低マッチング数が引き上げられてきた歴史ととらえるのが良いかもしれません。
もちろん企業や国・地方自治体で障害者雇用枠での就労を目指して、就職のタイミングで手帳の取得を検討される障害者の方は多いです。でも、手帳を持たずに、あるいは手帳を持っているけど一般雇用で働いている社員の方も存在しますので、障害者雇用枠の従業員に限定せずに生産性が高まるような環境を作ることが「障害者が働きやすい会社を作る」ということに繋がります。はたまた「誰しもいきいき働きやすい職場に」というDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)やニューロダイバーシティの考え方にも繋がります。
Q.障害者手帳を持つことだけが、障害者が働く道ではない?
A.答えはYES.障害者雇用枠以外の従業員の中にも障害で生きづらさを感じていると考えたほうが良いでしょう。人事担当の方がこれを知っているか知らないかだけで、社内の働き方改革や障害者雇用枠の就業環境改善などのプロジェクトは大きく進め方が変わるでしょう。
障害者手帳の種別ごとに業務や職場環境を配慮すればよい?
おさらいですが、障害者手帳は3つの種類があります。身体障害者手帳・療育手帳(※自治体によって呼び名が変わりますが以下、療育手帳で統一)・精神障害者保健福祉手帳です。いずれの手帳をお持ちの方も障害者総合支援法の対象となり、様々な支援策が当事者に講じられています。
企業で採用を考えるときも、この3種類の手帳をお持ちの方を雇用することで、障害者雇用数のポイントがカウントされています(※ 労働時間や重度障害等は1人1カウントとは異なる場合があります)。
では、企業が受け入れ態勢・業務切り出しなどを行っていく際に、みなさんは手帳の種類で障害を考えていますか?それとも診断を伺った上で考えていますか?
おそらく手帳の種類で話をすることよりも、漠然と「何障害か」という視点で考えられることが多いのではないかと思います。
身体障害者手帳は身体障害・療育手帳は知的障害・精神障害者保健福祉手帳は精神障害。
発達障害は…重複の場合を除いて、確かに発達障害の方は精神障害者保健福祉手帳を取得されることが多いです。例外として、兵庫県だと発達障害と診断された方にも療育手帳を交付されています(2022年10月末現在)。その他の自治体でも、検査・判定によっては周りからは知的障害を感じないけれども療育手帳をお持ちの方もいらっしゃいます。
さて、障害種別が同じだから同じ配慮を設ければよいかというと、そうでもない気がします。
あくまで”個人の特性(個性・キャラクター・身体的特徴・感覚・性格・くせ・好み 等)と環境との摩擦によって生きづらさが生じている状態”を障害と呼びます(根拠法:2006年国際連合で採択された障害者権利条約、2011年改正障害者基本法)。前段の手帳や障害の診断で配慮をすることは、何も配慮しないよりは当然ベターなのだろうと誰しもが考えます。しかし、このように考えて動いてきた企業の多くでも、まだまだ次の課題に直面してる印象です。
従業員の方にとって配慮が合わなかったり、キャリアが見えなかったり、結果的に従業員離職が起こり、人事担当の方が常に採用活動に追われるという話もお聞きします。
やはり人事担当の方は仕事のやりがいについて、「採用した方の定着や活躍で事業に貢献してもらい、会社の組織づくりに貢献できること」だと仰られます。そのためには出来ることからやっていく前に、目指したい社内環境をイメージしてから、出来ることをやっていく必要があるのかもしれません。
Q.障害者手帳の種別ごとに業務や職場環境を配慮すればよい?
A.答えはNo.YESと言いたいところですが、手帳を持っていることから憶測で、障害を考えてもその人の適切な配慮を行うことは難しいでしょう。大切なのは「何障害か」ではなく どんな配慮があれば大きなパフォーマンスを発揮できる個人なのか という視点です。
本日は2点、よくある企業担当者の方の悩みを取り上げてみましたがいかがでしたでしょうか?
人事担当の方も採用や定着・評価・社内浸透など障害者雇用に関して様々な課題をお持ちでいらっしゃるかと思いますが、手帳を基準にしない障害者雇用という考え方は様々な課題解決のための引き出しになるのではないかと考えています。
それでは最後に、手帳を基準にしない障害者雇用を実現する職場づくりに必要なPDCAのP(プラン)のエッセンスをご案内します。
①現状理解(課題の整理 例:現在の職場で活躍出来ている人、そうでない人の特徴や、それぞれの環境の分析)
②目指したい職場環境のイメージ
③取り組むべき課題の全体像の把握とファーストステップの整理
ただプランを考えていくにも、一般的に人事担当の方が障害者雇用のプロフェッショナルというわけではないかと思うので、我々も企業向けに無料のセミナーを開催して情報提供に努めたり、個別でのご相談・コンサルティングも受けさせていただいだりしています。
1社でも多くの企業様の採用活動や事業発展の一助になればと思いますので、ご興味を持たれた方は弊社のセミナーを覗いてみてください。
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日本のトップランナーである障害福祉企業2社での経験(講演実績99回 2022.10.01現在)。
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角田 直樹(カクタ ナオキ) 株式会社Kaien ブリッジコンサルタント

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