注)本コラムは、当社(株)トッパンマインドウェルネス 取締役 松井が執筆いたしました。
お客様からチームや組織についてのご相談を受ける際、チームを活性化したい、モチベーションを上げたいというテーマがたいへん多いです。
今回は、製造ラインのモチベーションを上げてほしいというご相談に取り組んだ事例をご紹介いたします。事例概要は次の通りです。
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■テーマ:チームのモチベーション向上
■期 間:4ヶ月
■参加者:
・依頼者:総務部長
・対象組織:製造ラインのAチーム(課長1名+部下40名)
・スポンサー:工場長/製造部長
■主な取組み:
・事前ヒアリング:10名程度
・事務局打合せ:3回
・全員対話:1回
・シフト制部門のため、シフト毎の対話:
1回/シフト × 3回
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□本案件の背景
某企業のある工場を担当している総務部長の「製造ラインAチームの雰囲気がかなり悪く、何とかしたい。」という想いから始まった案件でした。
どんな事象があるかというと、
・(そのラインに)新入社員を配属しても1年もたたないうちにやめてしまう
・忘年会などを管理職中心に企画しても数名しか参加しない
・(総務部長からみて)課長のマネジメントが機能していない
などのお話でした。
総務部長は「課長をローテーションするしかないのか」という捉え方だったのですが、現状に対し「本当にその方法がベストなのか、もう少し事実を把握してから打ち手を考えませんか?」と提案し、チームの各階層から数名ずつ合計10名程度を選んでいただき、事前ヒアリングを行う事からスタートしました。
□取り組んだ事
事前ヒアリングを行うと、メンバーの発言は、将来への不安と現状への不満の声でした。中でも特徴的だったのは「事業の成長が期待できない中、労働環境や設備への改善投資がほとんどなく、今いる人たちの大変さを”上“は見ようとしていない」という声でした。
組織への信頼感を失っている状態だったのです。
当社ファシリテーターは、組織に信頼感を感じられていないという状況で対話機会を設計しても建設的な対話は難しいと考え、本件について工場長と意見交換する機会を総務部長にご調整頂くなど、事務局としての打合せを重ねることになりました。
工場長や製造部長としては、工場としてTPM(Total Productive Maintenance)活動に力を入れているので、その活動について話し合うというテーマ設定が妥当ではないかという意見もあり、「TPM活動の活性化」というテーマについて、Aチーム全員で対話を行うことになりました。全員対話の当日は工場長にも講話いただき、皆で真剣に考えてほしいとメッセージを出して頂きました。
しかし、「TPM活動の現状について感じる事」を出し合う中、全体の意見共有を行っても少し“場が重たい”雰囲気が続きました。そしてある一人の発言がありました。
「そもそも、なんでTPM活動に取り組まなければいけないのかがわからない。自分たちのためになっているとは思えない。」
という声でした。
その声への共感は強く、「このままTPM活動についての対話を続けることが皆さんにとって最善ではないのかもしれない」、と当社のファシリテーターチームも感じましたので、一度休憩をもらって対話の進め方を再検討することになりました。
休憩の間、事務局とも相談し、率直に意見を出してくれる雰囲気ができていることを活かして、TPM活動にかかわらず現状への問題点を出してもらうことに軌道修正する選択肢を了承いただきました。休憩後、「TPM活動についての対話を進めるか」、「TPM活動に限らず現状への問題点を出し合うか」、または「その他テーマがあるか」と、皆さんに尋ね、「TPM活動に限らず現状への問題点を出し合う」というテーマに軌道修正をすることになりました。
そこからは、自分たちが出した問題点を整理し、全体で共有しました。そして、共有したことを振り返ってどう感じるかを考えてもらいました。
その中で、参加者の気づきを促したのが、
「自分たちが出した問題点を振り返ると、会社に何とかしてほしいという声が多いけれど、自分たちができることもあるかもしれない」
という、一人のシフトリーダーの発言でした。
その発言から、この全体対話の次は、シフトリーダーの元、シフト毎の対話機会をもって、それぞれ何に取り組むかを検討するという流れが生まれたのです。
この対話は、11月から3月にかけて実施しましたが、総務部長はその雰囲気を見て、4月に新人数名を製造ラインのAチームに配属することを意思決定されました。実施して1年後、この製造ラインの課長にお会いする機会があったのですが、「配属された新入社員は働き続けてくれている」と安心した表情で教えてくれ、参加者の力でチームの雰囲気変えていく事ができたのだと、とてもうれしく感じる出来事となりました。
□本取り組みから学んだこと
取り組みの経緯の説明が長くなりましたが、この事例から私が学んだことは大きく2点あります。
◇1点目は、全員対話を実施する際は、対象組織のトップの理解と支援が欠かせないことです。
本コラムで紹介している事例に共通していることですが、トップが対象組織の力を信じて応援し続ける姿勢を見せ続けてもらう事の力は相当大きいものです。今回は、途中から支援していただくことになったのですが、全員対話の一部だけでなく、全体のプロセスがトップにも見える状態をつくる必要性があったと感じています。
◇2点目は、テーマを自分で決めることの重要性です。
全体対話の事前設計では、議論を具体化させるという事を重視してTPM活動というテーマを事務局側で選定しましたが、このテーマは参加者からすると自分たちで選んだテーマではなかったことになります。一方で、シフト毎で検討した取り組みテーマは自分たちの考えで決めたテーマでした。自分が選んでいないテーマは、やらされ感により解決策検討まで進みにくいですが、自分で選んだテーマは具体的に何を実践するかまでの話し合いがスムーズに進みました。対話には「自分で決める」というプロセスが欠かせないということがいえると思います。
当社の組織開発の目的は、組織の当事者が自分たちの力で問題解決を進めていくことにあります。企画設計側として問題解決を急ぐあまりに、その中味や解決方法を押し付けることにならないよう、常に当事者が選択して決めていけるような支援をこれからも心掛けていきたいと考えます。
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