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プロフェッショナルコラム

バーチャル・コミュニケーションで、気をつけるべきこと

コロナウィルス感染拡大を防ぐため、日本でも緊急事態宣言が出され、自宅で、skypeやzoomなどを使って会議に参加したり、家族、友人たちとお話をされている方は多いと思います。アメリカ心理学会からメールで、皆様にお伝えしたほうがよい記事が送られてきました。 記事の題名は、”What’s ‘Zoom fatigue? Here’s video calls can be so exhausting”で筆者はRyanW. Millerです。Zoom疲労という題名ですので、Zoomという特定の通話ツールを使うと疲労困憊するという内容かな、と誤解されるかもしれませんが、そうではありません。Zoomに代表されるIT技術を使ったバーチャル・コミュニケーションのツールは、注意して使わないと、思いがけない疲労を招くというお話です。

この記事に興味を持ったきっかけは、私の個人的な体験です。外出自粛で、3月から、私は自宅で仕事をしています。Zoomやskype を使って、会議に出席をしたり、大学院の講義をしたり、コーチングをしたりしています。自宅で仕事をしていますので、通勤がありませんし、移動もありません。講義も机の前に坐ってできます。肉体的には圧倒的に楽なはずなに、とても疲労するのです。おかしいなあと思っていて、この記事が目に留まりました。記事の内容は、スタンフォード大学のJeremy Bailensonなどの、しっかりした研究をもとに書かれていて、私にとってはとても納得できるものでした。以下は、記事の内容を私なりに咀嚼したものです。

疲労の原因の一つは、視線の固定です。みんなが実際に集まって会議をしたり、わいわい団らんを楽しんでいるリアルな場面を想像してください。話しかける、人の話に耳を傾ける。そうしながら、私たちは絶えず、視線を動かしています。周りの人の表情や動作をみたり、窓の外をみたり、手元の書類を読んだり、部屋に誰かが入ってきたら、その人に注目したりします。このような視線の動きを、Bailesonは「複雑なダンス」と表現しています。ところが、Zoomやskypeでは、視線がパソコンやスマートフォンに、ほぼ固定され、あちこちを見る頻度が減ってしまいます。つまり、視線はダンスを踊っていないのです。アイコンタクトの時間が、リアルな場でのコミュニケーションに較べて、相当長くなります。このようなコミュニケーションの取り方を、私たちはこれまでしたことがありません。人間は不慣れなことをすると、大きなエネルギーを使い、疲労します。普段運動をしたことがない人が、急にジョギングをしたら、翌日、筋肉痛に悩まされるのと同じ理屈です。

次に、顔の大きさの問題があります。PCやスマフォには、話し相手の顔が大写しになります。もし、リアルなコミュニケーションの場で、視界の枠組みいっぱいの大きさで、相手の顔をみようとすれば、顔と顔がくっつくくらいの距離に近づかないといけないでしょう。zoomやskypeを使って1時間コミュニケーションをとったとします。そうすることで、顔と顔をくっつけたようにして1時間、会話をしているのと同じ状態になります。いくら親しい間柄でも、相当エネルギーを使うことになるでしょう。

リアルな会議であれば、会議に出席している人の様子をうかがったり、隣の人と目配せをすることで、会議の雰囲気がわかります。自分が発言者のときも、聞いている人達の様子をみながら話ができますので、自分の話に対して、出席者がどんな反応をしているのかがわかります。バーチャルなコミュニケーションで、多数が参加する会議や講義の場合、画面にうつっているごく限られて人の反応しかわかりません。このことは人を不安にします。私も大学院で40名以上の受講者を対象に、Zoomで講義をしましたが、受講者の反応がわからず、大きな不安を感じながら話をし、講義が終わった時、いままで経験したことがないような重苦しい不安を感じました。

バーチャルなコミュニケーションは、ビジネスとプライベートでは違う種類の疲労原因が存在します。在宅ワークで、ZoomやSkype などを使って仕事をしていますと、PCの前に居続けることになります。オフィスであれば、会議で移動をしたり、廊下で同僚と話をしたり、ランチを買いに行ったりできるのですが、在宅だと、ついつい仕事机に座り続けることになります。会社としては在宅ワークでの仕事ぶりを評価する方法を確立していないところが多く、ついつい従業員が、PCの前でどれくらい坐っているのかを把握しようという欲求にかられます。そうなると従業員は束縛された心理になり、このことがストレスを生み出します。在宅ワークは、職場で仕事をするよりも、働く人を心理的に強く束縛するリスクがあることを忘れてはいけないでしょう。プライベートな場面では、愛する人の手を握ったり、肩に手を置いたりできず、画面でお互いの姿を認め合っても、心配な気持ちや寂しさを募らせることになり、これが新たなストレスを生み出すもとになります。

コロナウィルス感染で、私たちは、新しいコミュニケーションの取り方を体験しつつあります。バーチャルなコミュニケーションはとてもすばらしい機能があり、ますます活用されるでしょう。しかし、便利なものには副作用がつきものです。副作用が強くなり、新たなメンタルの病気の原因になるかもしれません。現段階で、バーチャル・コミュニケーション疲労への対処方法は、①便利だからといって、やたらとバーチャル・コミュニケーションのツールを使わず、本当に必要なコミュニケーションだけに制限すること、②在宅ワークでは、適宜休憩をとること、③プライベートにおいては、必要な情報交換に使用用途を絞ることで、過剰な期待をかけないこと、④愛する人たちとは、コロナウィルスが終息したときの、再会の希望をしっかり共有すること、でしょう。新たな時代には、新たな知恵を、私たちが獲得することが求められています。

 

以上


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コラム執筆者
松下 信武
松下 信武(マツシタ ノブタケ)
わたし・みらい・創造センター(企業教育総合研究所) 上席研究員 / ゾム 代表
日本のエグゼクティブ・コーチング創生期から活躍し続ける、人材育成のスペシャリスト
現在も月10名程度のエグゼクティブ・コーチングを継続中。
メンタルコーチとしては、オリンピック選手のメダル獲得にも貢献。
心理学をベースとした人材育成のアドバイスや心理アセスメント作成でも好評を博している。
得意分野 モチベーション・組織活性化、安全衛生・メンタルヘルス、キャリア開発、マネジメント、コーチング・ファシリテーション
対応エリア 全国
所在地 新宿区

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