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プロフェッショナルコラム

well−being (1)

欧米の学問の特徴の一つは、ものごとを細かく分けて、その特性を明らかにする分析のプロセスを大切にするところです。臨床心理学の分野で偉大な業績を挙げた河合隼雄は、欧米の科学は、「切断する力」を強力に発揮することで発展したと説明しています。その特徴が最も顕著に現れているのが、医学です。西洋医学の発達の基礎となったのが解剖学であり、顕微鏡を駆使した細菌学でした。西欧医学とは対照的に、中国の漢方医学は人間全体を視野に置き、身体の各部の繋がりである経絡や心身を全体的にとらえるという考え方を重視します。アメリカで発達したキャリアマネジメントも同様で、さまざまなキャリアのもろもろの現象を切り取り、それを細分化し、統計などの分析を駆使して、新しい概念をつくり出しました。キャリアアンカー、ポジティブアンサーティンティ、キャリアアダプトビリティなど、枚挙にいとまがありません。これらの概念が学問やビジネスに対して果たした貢献は大きいです。しかし、筆者が欧米で研究された心理学的な概念で、欧米流の分析的な手法ではうまく解明できないのではないかと思っているものがあります。それはウェルビーイングという概念です。

 

ウェルビーイングの代表的研究者はマーティン・セリグマンです。セリグマンは一時的な幸福と、持続的な幸福を分け、持続的な幸福が、私たちが良い人生を送るためには重要であると考えています。セリグマンは持続的な幸福をウェルビーイングと考え、その根底にあるのが6つの美徳であるとしています。すなわち、①知恵と知識、②勇気、③愛情と人間性、④正義、⑤節度、⑥精神性と超越性です。(注) これらの6つの美徳に至る論理構成は一分の隙もなく、一流の外科医のあざやかなメス捌きを思わせるものがあります。ウェルビーイングを解剖したら、そのコアの部分は6つの美徳から構成されているというのですが、筆者はここで、一種の絶望感に囚われてしまいました。なぜならば、6つの美徳のどれも十分に持ち合わせていないからです。つまり、筆者は人生の終わりの日まで、ウェルビーイングの至福を味わうことがないままだと、セリグマンに宣言されたようなものだからです。仮に、これから心をいれかえて、6つの美徳を、1つずつ磨いてけば、ウェルビーイングに到達できるとしても、そのうちの1つすらも、身につけるには何十年もかかりそうです。

 

誤解のないようにお願いしたいのですが、筆者は仕事にも、家庭にも恵まれていて、毎日楽しく過ごしています。不思議なことに、6つの美徳がないにもかかわらず、ずっと幸福だと思っています。これはいったいどういうことなのでしょうか?ウェルビーイングという概念を定義し、それを分解していき、6つの美徳という部分に分解して、次に6つの美徳という材料を使って、ウェルビーイングを組み立てようとしたら、組み立てることができないのは、何が問題なのでしょうか?このことについては次回に述べさせていただきます。

 

注:マーティン・セリグマン著 小林裕子訳(2008) 『世界でひとつだけの幸せ ポジティブ心理学が教えてくれる満ち足りた人生』アスベスト p195


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コラム執筆者
松下 信武
松下 信武(マツシタ ノブタケ)
わたし・みらい・創造センター(企業教育総合研究所) 上席研究員 / ゾム 代表
日本のエグゼクティブ・コーチング創生期から活躍し続ける、人材育成のスペシャリスト
現在も月10名程度のエグゼクティブ・コーチングを継続中。
メンタルコーチとしては、オリンピック選手のメダル獲得にも貢献。
心理学をベースとした人材育成のアドバイスや心理アセスメント作成でも好評を博している。
得意分野 モチベーション・組織活性化、安全衛生・メンタルヘルス、キャリア開発、マネジメント、コーチング・ファシリテーション
対応エリア 全国
所在地 新宿区

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