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専門家コラム

人は本当に人を評価できるのか?

■人事制度上最大の難問

人事コンサルタントとして長年のキャリアを積んできているものの、 いまだに正解を得ていない領域に人事評価があります。
ある意味で、人事制度上の最大の難問。
それが人事評価ということになるかもしれません。

いまから十数年前、公務員制度改革が話題になっていた頃、 当時の内閣官房行政改革推進事務局からの依頼で、 中央省庁の人事担当者を対象に「民間企業の人事制度改革の潮流」を テーマにお話をさせていただく機会がありました。

その場に参加されていた方からの素朴な質問が 「ところで、人は本当に人を評価できるのですか?」 というものだったことを、いまでも印象深く覚えています。

その当時の公務員の世界では、きちんとした人事評価というものは、 実際上行われていなかったのが現実だったからです。

民間企業における人事制度改革は、1990年のバブル崩壊以降、 企業の構造改革の一環として進められてきており、 成果主義のコンセプトの下に既に10年以上の実績がありました。

そのときの私の答えは、
「民間企業では、ごく当たり前に人事評価はなされていますし、 人が人を評価するという行為も、ごく当たり前に実施されています」 というものでした。

人事制度改革担当のコンサルタントという自分の仕事に対する一定の自負も あり、官よりも先行している民間企業での実例を知る者として、 人事評価というものに対する認識には一定の自負があったことも事実でした。

しかしその後、多くの企業で人事評価の実務に関するコンサルティングをさせていただく中で、正直に申し上げると、 この自信が揺らぐ場面に遭遇したことも少なくはなかったのです。

■人事評価の曖昧性と納得性

人事制度を適正に運用していくためには、3つの原則があります。
それは、「透明性」、「公正性」、「納得性」の原則です。

平たく言うと、
人事評価の基準や運用ルールがオープンにされていて透明性が高いこと。
また、その定められた基準やルールが公正に運用されていること。
そしてその結果について、社員が納得性をもって受け入れていること となります。

しかし、多くの企業の実態は、それにはほど遠いのが実情です。
評価基準や運用ルールが仮にオープンにされていたとしても、その基準やルールに対する社内の理解が伴っていないケースが少なくありません。

明文化された基準やルールが正しく運用されていないケースも 多々見受けられます。
社員の納得性に至っては、理想に遠く及ばないというのが現実です。

そもそも、評価基準が曖昧であったり、基準は定められていても実際にはオープンにされていなかったりするケースも多いのですから、 自分が何を基準に評価を受けているのか全くわからず、 評価結果もフィードバックされていない。そんな企業が多いのです。

人事評価には、常に曖昧性が伴います。
それは、人が人を評価する以上、永遠につきまとう傾向とも言えます。
評価者研修で講師をさせていただく場合には、
「評価基準に照らして、主観を交えず客観的に評価してください」 と教科書通りの原理原則を申し上げる機会が多くなります。

しかし、人が人を評価する以上、主観を全く排除して客観的に評価するということには少し無理があるということも認めなければなりません。
上司・部下の関係にも相性があり、好き・嫌いの感情も介在するため、 ここには実に悩ましい現実が横たわっているのです。

強いて言うなら、曖昧性を伴って主観的に評価しても、 その結果については「この上司にそう評価されるのなら仕方がない」と、 部下(被評価者)にある程度の納得性をもって受け止めてもらえる 環境づくりに配慮するということなのです。

 

■近道は日々の学習にあり

こんなところから、評価者研修に注力する企業も増えてきました。
それも単発の研修で終わらせず、シリーズ化して毎年愚直に実施するのです。

ある企業では、人事制度改革後、5年連続で評価者研修を実施しました。
制度改革初年度には、制度の現場定着化のための説明会や評価者研修に注力。
導入2年目は、定期的な人事評価検討会を開催し、現場での運用実態に 関する意見聴取を実施。
3年目は、給与への評価結果の反映ルールを検討。S、A、B、C、Dなどの 最終評語のもつ意味解釈の社内コンセンサスづくりに努めました。
4年目は、社内の各事業部門の実情を反映した100通りもの ショートケースを開発し、さまざまな場面を想定した評価者研修を実施。
そして5年目は、各評価段階の違いに対する認識レベルを さらに高めるためのオリジナル研修を開発しています。

人事評価の悩ましい点は、それが日常業務のように日々の繰り返しによって習熟できる性格のものではないということです。
さながら年中行事のように年に1、2回実施されるものなので、 習熟が図れず評価スキルがいつまでたっても伸びないのです。

評価制度を定着させていくためには、目標管理に代表されるような定期的な 振り返り(レビュー)が必要となります。週次単位、月次単位、四半期単位、 といった一定の期間で業務の状況がどのように進捗しているのか、 その間の部下の仕事ぶりはどうか、こまめに振り返り、 定期的に評価者としての評価の視点を強化するということです。

この日々の業務の中での学習性の向上が、 人事評価の適正運用と納得性をもたらす近道となります。

その結果として、人材の成長が加速され、ビジネスの成長を加速する。
そんな理想型が人事評価には期待されているものと考えています。


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コラム執筆者
吉田寿
吉田寿(ヨシダヒサシ)
ビジネスコーチ株式会社 常務取締役 チーフHRビジネスオフィサー BCS認定プロフェッショナルビジネスコーチ 中央大学大学院戦略経営研究科客員教授 早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員
人材マネジメント・システムの再構築や人事制度の抜本的改革などの組織人事戦略コンサルティングに従事。プロジェクト担当実績400件以上。
『世界で闘うためのグローバル人材マネジメント入門』(日本実業出版社)
『ミドルを覚醒させる人材マネジメント』、『人事制度改革の戦略と実際』
『人を活かす組織が勝つ』(以上、日本経済新聞出版社)
『社員満足の経営』(経団連出版)
得意分野 人事考課・目標管理
対応エリア 全国
所在地 東京都/千代田区

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