「今、管理者に求められる伝達力とは」
ビジネスに必須の言語伝達力
新入社員の研修でよく言うのが、「仕事はコミュニケーションで成り立っている」ということ。そして、ビジネスにおけるコミュニケーションの大半は言語によるものです。報・連・相やセールストークなど、情報を整理してわかりやすく、かつその場にふさわしい言い方で伝えることができないと、成果につながりません。これは、管理者に対してももちろん当てはまります。社内外の全てのコミュニケーションに言語の力が必要です。ところが、これまでの日本のビジネス文化において、この言語伝達力はあまり重要視されなかったため磨かれていないのが現状です。
日本人のコミュニケーションの特徴は「察し」
日本では古来「みなまで話すのは無粋」「言わなくてもわかってもらえる(だろう)」という文化があり、これを、アメリカの文化人類学者エドワード・ホールは「ハイコンテクスト文化」と名付けています。
コンテクストとは文脈=共有する文化や背景のことで、これに多く依存する社会はハイコンテクスト文化であり、そうでない社会はローコンテクスト文化とされます。日本は前者、英語やドイツ語圏などは後者に分類されます。日本では、同じ民族、同じ言語、同じ文化的背景、同じ釜の飯など、集団や組織においてバックグラウンドが共通しているので、わざわざ言葉にしなくても聞き手の察しに頼ったコミュニケーションが成り立ったのです。
グローバル化時代の伝え方
今まではこれで問題なかったかもしれません。しかし、現代はグローバル社会であり、国際的には通用しません。また、社内に目を向けても、外国籍の社員や世代間ギャップの大きい若手社員など、コンテクストを共有しない相手が増加しています。これまでのような聞き手側の知識や察知力に頼った伝え方は成功しません。「言語化しなければ通じないのが当たり前」の時代なのです。話し手が自己の責任において、聞き手を選ばず、誰にでも伝わる話し方を工夫する必要があります。
ビジネスパーソンに必要な3つの伝達スキル
1.論理性
わかりやすく、かつ説得力のある伝え方には、論理性が不可欠です。論理とは考えの道筋のことです。情報を整理、分類し、そこから合理的な手順で結論を導く論理的な考え方を身に付けた上で、自分の主張を論理的に組み立てる必要があります。よく指摘される「何を言いたいのか明確ではない」「なぜそうなるのか根拠が不明」などの問題点は、訓練により改善できます。
2.日本語表現力
論理は骨組みであり、そこへ上手く肉付けするには日本語力が必要です。研修担当者や上司から、「新人の言葉遣いがなっていないので、重点的に指導してほしい」という依頼をよく受けますが、ビジネス経験が長い方でも自分の言葉遣いに自信がある、という方はほんのわずかです。「お客さまへの言葉遣いが正しいのか迷うことがある」「文書やメールの表現がいつもワンパターン」「部下の言葉を聞いておかしいと思うが、理由を説明できない」等々。「日本人だから日本語ができて当たり前」ではなく、ビジネスの道具としての日本語(文法や語彙)を改めて見直すことをお勧めします。
3.適切な自己主張
精神科医、土居健郎氏の日本人論「甘えの構造」でも解き明かされていますが、言わない文化は、察してもらいたい文化であり、相手に気を遣って言わずに我慢する文化でもあります。これは「言わなければわかってもらえない」グローバル社会では非常に損をします。会議の場で上の人の意見に遠慮して自分の考えを言わない、というのは、今後美徳とは見なされないでしょう。部下指導では、「我慢し続けて最後に反動できつく叱ったらその後の関係がこじれた」という相談を受けることもあります。自己主張はすればよいのではなく、自分の意見や気持ちを相手に配慮して表現する「アサーティブな伝え方」を習得しましょう。
言語はビジネスコミュニケーションのOSであり、以上の伝達スキルは、交渉、部下指導、プレゼンテーションなど、管理者に必要なヒューマンスキルの土台と言えるでしょう。また、言語は伝える手段であると同時に考える手段でもあります。道具としての言語を見直すことにより、分析力や発想力の向上など複合的な効果も期待できます。
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