企業研修、採用、評価、人材開発、労務・福利厚生のナレッジコミュニティ

プロフェッショナルコラム

シリーズ:ファシリテーター型リーダーの「巻き込み力」第6回

シリーズでお送りしているファシリテータ型リーダーの「巻き込み力」、今回が最終回となります。前回は、これまで取引のない他社を巻き込み、新たなビジネスモデルを作るといった高いハードルを越えるために、プロジェクトリーダーとして何を考え、どのような行動をとるべきかを解説しました。今回の最終回では、他社と協業による新しいビジネスへの取り組みを始めるにあたって、プロジェクトリーダーとして具体的にどのように関係者を「巻き込み」、プロジェクトを進めていけばよいのかを、引き続きケースを使って解説していきます。   

 

シンスターでは、島田編集長のように、「誰を」「どんな目的で」「いつ」「どんなやり方で」「誰が」巻き込むのが最適かを瞬時に判断して行動し、ビジネスの成果をだす、いわゆる「人を巻き込む」力をつけるための研修プログラムを開発しました。リーダーたちのそういった行動は、一見その人の経験や勘やセンスから来るものだと考えられがちですが、シンスターはそのようなリーダーたちの行動を「見える化」して体系化し、ビジネスの現場ですぐに使える研修プログラム「巻き込み力」を提供しています。
 

◆シリーズ:ファシリテーター型リーダーの「巻き込み力」第6回他社との協業による新しいビジネスへの取り組み

 

~巻き込みの目的設定~

  豊かな生活社の島田編集長は、電子書籍事業に参入する最初のステップとして、月刊誌「楽しい科学」や書籍「楽しい実験シリーズ」などのコンテンツを生かした学習塾A社との協業に取り組むこととなった。しかし、学習塾A社の企画開発室室長の伊藤氏からは海外ビジネスの検討もスコープに加えたいという更に高いハードルも要求された。他社との協業による新しいビジネスへの取り組みを具体的に始めるスタートラインの   目前にまで来た島田編集長は、このような状況でリーダーとして何を考え、どのような行動をとるべきであろうか?

  島田編集長は、高杉社長にこれまでの検討経緯を説明し、プロジェクトの目標、スコープの再設定を行うためにミーティングを行った。事前に高橋部長が高杉社長に学習塾A社との話を伝えておいてくれたため、議論は比較的スムーズに進んだ。学習塾A社との協業プロジェクトを行う上で、高杉社長が出した条件は以下の3点であった。

(1)豊かな生活社にとって、海外でのビジネス展開の検討まで一気にスコープに含めるのは、ハードルが高すぎる。海外展開を視野に入れた議論を行うことは構わないが、具体的なビジネスの検討は国内でのビジネスを作った後の次フェーズとすること。

(2)学習塾A社との検討で作られる学習塾向けコンテンツなどを、豊かな生活社として横展開できるものにすること。

(3)今回のプロジェクトで作る電子書籍向けのアプリケーションやサイトなどを、豊かな生活社の他のコンテンツの電子書籍事業に活用可能なものとすること。

(2)、(3)に関しては、著作権などの契約上の難しい問題も含むが、基本的にコンテンツを含めて電子書籍を豊かな生活社が開発して提供することでクリアできると思われる。しかし、(1)に関してはプロジェクトのスコープの問題なので、学習塾A社の野原社長と合意をとっておく必要がある。そこで、島田編集長は両社の目的および取り組み姿勢をすり合わせるために、両社トップを交えたミーティングのセットアップを伊藤室長に依頼した。

  両社のミーティングでは、スコープのすり合わせが主な議論となった。学習塾A社としては、今後の成長戦略を検討する上では海外展開はスコープから外せないものの、豊かな生活との協業では最初のステップとして国内での展開をターゲットとして取り組むことに野原社長も合意した。但し、海外展開を常に意識してコンテンツなどを作成して欲しいと言う要望が出された。高杉社長もこの要望には合意した上で、以下の点に関して両社で確認してプロジェクトをスタートさせることになった。

 ● プロジェクトのオーナーは野原社長、高杉社長の両名とし、進捗確認も含めて月1回の定例会議を行う。

 ● 実務窓口は伊藤室長と島田編集長とし、進捗会議を週1回実施して双方食い違いのないようにプロジェクトを進める。

 ● 最初のターゲットは学習塾A社の来年1学期(4~7月)に間に合うようにコンテンツを提供する。

 ● 費用などに関しては、内容が具体化した段階で豊かな生活社が見積を出し、双方で負担を協議する。

  島田編集長は、学習塾A社との共同プロジェクトに関して編集部会議で報告し、全編集長からの協力合意を取り付けることができた。いよいよ具体的な取り組みが始まることになる。しかし、プロジェクトの目的もスコープも、検討当初からはかなり異なったものとなっている。このような状況下で、プロジェクトを成功させるために島田編集長はリーダーとしてどのようなことを考え、どのような行動をとるべきであろうか?    

 

~巻き込みプランの具体化~

  プロジェクトを成功させるための確度を上げるには、プロジェクトに必要なリソースを定義し、そのリソースをいかに調達するかを明確にしておかなければならないことは言うまでもない。今回のプロジェクトでは、目的・スコープとも変わり、更に取り組む内容が具体的になったので、そのためのプランをこの段階で策定しておく必要がある。以前紹介した「目標設定と巻き込みプラン概要シート」を思い出して欲しい。  

【目標設定と巻き込みプラン概要シート】  

http://www.shinstar.co.jp/picture/column_pic04.png

 

このワークシートでは、プロジェクトのゴール、ゴール達成に必要な取り組み、達成のために必要な巻き込みの概要を定義することになっている。今回必要な取り組みを大別すると、

 ● 学習塾A社で展開できるコンテンツの整理と電子書籍化(他コンテンツへ転用可能なアプリ開発)

 ● 学習塾A社の教育プログラムと連動した雑誌、書籍の企画方針の策定とA社での推奨販売

 ● 紙媒体、電子書籍と連動するネットでのプロモーションのプロトタイプ作成(FB、ツイッター、ブログなど)

となる。そして、この取り組みを行うために必要な巻き込みの対象は、

 ● 学習塾A社の教務部、講師陣、および塾生とその親

 ● 豊かな生活社の自然科学系コンテンツ編集部と著者陣

 ● 電子書籍化、およびこれと連動するプロモーションサイト構築のためのITソリューションプロバイダー

となる。この巻き込み対象と現在の関係、および外部の巻き込み目的を整理したものが下図「関係者マップ」である。

 

 【関係者マップ】

http://www.shinstar.co.jp/picture/column_pic05.png

 

「関係者マップ」では、良好もしくは強力な関係を赤線、ニュートラルな関係を黒線、現在の状況が分からない関係を青線で示している。(ネガティブな関係がある場合は、黄色線で記述)今回のプロジェクトで   はこの図から遂行上重要なポインが3点あることが読み取れる。

 ● 自社内の峰岸編集長を軸とした自然科学系担当者が積極的に動き、必要なコンテンツの整理と企画を行ってもらえるようにする。  

 ● 学習塾A社の伊藤室長から先の巻き込み対象者と伊藤室長の現在の関係性が見えていない。巻き込むために誰に対してどのような働きかけをすべきか早急に対応する必要がある。

 ● 今回のプロジェクトでは必須なITソリューションプロバイダーとの関係ができていない。中野室長を軸に活動内容を決める必要がある。  

このように、「関係者マップ」を作ると、巻き込みが必要な対象と現状の関係、そしてどのような方針で活動すべきかの見える化が行える。このようなプロジェクトばかりでなく、日々の実務を行っていく際にも、全体像を把握して漏れなく必要な対応ができるように活用してもらいたい。

 

~アクションプランの作成~

巻き込みプランの概要が策定できれば、次に巻き込みの優先度を見極めた上で、具体的なアクションプランを策定する必要がある。誰を、いつ、誰が、どうやって巻き込むのか。特に、現在の関係性が見えない、あるいはネガティブな場合は周到な計画を立てる必要がある。例えば、学習塾A社の教務部とその先にいる講   師陣の巻き込み。伊藤室長が教務部と良好で強固な関係を持っていれば良いのだが、そうでない場合もある。その際には、どのようなアクションが考えられるだろうか?例えば、野原社長に動いてもらうことも考えられる。

  その際には、自分が伊藤室長経由でお願いするのが良いのか、高杉社長にお願いして動いて頂く方が効果的か。あるいは、峰岸編集長に動いてもらい、著名な著者や学者なども連れて、協力を依頼する場を相手にとってもメリットのある情報を提供する場にするのが良いか。ITソリューションプロバイダーの巻き込みに関しても、いろいろな手がある。もちろん、中野室長が適切な会社の適切な部署と関係があれば問題ないの   だが、そうでない場合は学習塾A社の情報システム担当者を巻き込んだ方が良いかもしれない。(但し、その   場合にはそもそも学習塾A社の情報システム担当者をどう巻き込むかを考える必要があるが。)

  あるいは、自分の大学時代の仲間や社内の誰かが適切な会社に関する情報を持っている、既に良好な関係がある場合もある。他者、特に外部の巻き込みの場合は、一筋縄ではいかない場合も多々ある。常に、2の矢   3の矢を用意し、上手く行かなかった時に次の手が打てるように用意しておく必要がある。以下、アクション   プランを立てる際に利用する「巻き込みアクションシート」を参考までに掲載する。

   

【巻き込みアクションシート】

http://www.shinstar.co.jp/picture/column_pic06.png

 

6回に渡り、ファシリテーター型リーダーの「巻き込み力」と題して解説してきたが、本連載は今回をもって終了となる。豊かな生活社の島田編集長が電子書籍事業への参入プロジェクトを立ち上げるというケースを通して、「巻き込み力」に必要な要素を一通り解説したつもりである。読者の皆さまの実務に少しでも生   かして頂ければ幸いである。最後に、今回の連載で解説してきたポイントをまとめておく。

 

【「巻き込み力」まとめ】

http://www.shinstar.co.jp/picture/column_pic07.png


この記事にコメントする

この記事に対するご意見・ご感想のコメントをご投稿ください。

※コメントの投稿をするにはログインが必要です。

※コメントのほか、ニックネーム、業種、所在地(都道府県まで)がサイト上に公開されます。

コラム執筆者
井上 浩二
井上 浩二(イノウエ コウジ)
CEO
経営幹部育成研修のプロフェッショナル。コンサルの実務経験に基づいた自社課題解決型研修で、業界を問わず数多くの企業から指名を受ける名物講師。
アンダーセンコンサルティングで、米国、国内で戦略立案/業務改善プロジェクトに参画し、1994年にケーティーコンサルティング、2009年にシンスターを設立。会社設立後は、コンサルティング、外部監査役、MBAスクール・企業研修の講師も務める。
得意分野 経営戦略・経営管理、モチベーション・組織活性化、人事考課・目標管理、キャリア開発、グローバル、リーダーシップ、マネジメント、コーチング・ファシリテーション、チームビルディング、コミュニケーション、プレゼンテーション、ロジカルシンキング・課題解決、営業・接客・CS、財務・税務・資産管理、情報システム・IT関連
対応エリア 全国
所在地 渋谷区

このプロフェッショナルのその他のコラム

会員として登録すると、多くの便利なサービスを利用することができます。

タレントパレット ジョブ・カード制度 総合サイト

注目コンテンツ


テレワーク特集

「テレワーク」のメリット・デメリットを整理するとともに、導入プロセスや環境整備に必要となるシステム・ツール、ソリューションをご紹介します。


【人事の日制定記念企画】
オピニオンリーダーからのメッセージ

HR領域のオピニオンリーダーの皆さまから全国の人事部門に向けてメッセージを頂戴しました。


人事メディア情報

人事メディア情報

人事・労務関連の代表的なメディアをご紹介いたします。


会社の新しい挑戦を支えるために<br />
人事戦略のよりどころとなる総合的な人材データベースを構築

会社の新しい挑戦を支えるために
人事戦略のよりどころとなる総合的な人材データベースを構築

第一三共株式会社は2025年ビジョン「がんに強みを持つ先進的グルーバル...


「見える化」による効果検証で テレワーク導入をスムーズに実現<br />
西部ガスが取り組む“業務・ワークスタイル改革”とは

「見える化」による効果検証で テレワーク導入をスムーズに実現
西部ガスが取り組む“業務・ワークスタイル改革”とは

福岡市に本社を構える西部ガス株式会社は、「働き方改革」の一環としてテレ...