HRのオピニオンリーダー100人が提言、日本の人事を考える情報誌 「日本の人事部 LEADERS(リーダーズ)」

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賢者に聞く これからの「人・組織・経営」

難問山積の時代に生き残る企業経営の要諦とは
ー“解”は社内にはない。世界のどこかに必ずある。

大前 研一さん(株式会社ビジネス・ブレークスルー 代表取締役社長/ビジネス・ブレークスルー大学学長)

株式会社ビジネス・ブレークスルー 代表取締役社長/ビジネス・ブレークスルー大学学長 大前研一さん

「海外のライバル企業は、ビジネスの“見えざる新大陸” がどういうものか具体的に見えていて、すでに着々と手を打っている。日本企業のトップもそれに負けないよう、積極的に見聞を広げ、行動していかなければならない」。そう厳しく指摘するのは、世界的経営コンサルタントの大前研一さんです。わが国の戦略コンサルの草分けであり、多くのビジネスパーソンから圧倒的支持を集め続けてきた大前さんは、1日500本ものニュースをチェックする一方で、今も精力的に国内外を飛び回り、時代の予兆を読み解いています。日本企業が直面する困難の本質とは何か、成功し生き残るにはどうすればいいのか、日本が世界に誇る賢者に、詳しいお話を伺いました。

Profile

おおまえ・けんいち/1943年福岡県生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、東京工業大学大学院原子核工学科で修士号、マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、常務会メンバー、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。以後も世界の大企業、国家レベルのアドバイザーとして活躍するかたわら、グローバルな視点と大胆な発想による活発な提言を続けている。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長及びビジネス・ブレークスルー大学大学院学長(2005年4月に本邦初の遠隔教育法によるMBAプログラムとして開講)、2010年4月にはビジネス・ブレークスルー大学が開校、学長に就任。日本の将来を担う人材の育成に力を注いでいる。

まじめすぎる日本企業
車座会議とコスト削減では勝ち目はない

円安効果で一転、企業業績や株価は急回復しているかに見えますが、そうした利益の多くは企業の自助努力や競争力強化とは関係なく、“降ってわいた” だけにすぎないとの見方もあります。日本企業の真の再生を妨げているものは何でしょうか。

日本企業は、真面目すぎるのだと思います。例えば、家電メーカーをはじめ日本の製造業は、今ある製品やサービスを「磨く」ことには長けています。既存技術を次々と改善して新製品を出したり、一生懸命コストダウンしたりすることで市場を席巻してきました。ほんの10年ほど前までは、日本のメーカーが世界に先駆けて、デジタル化を推し進めていたわけです。ところが今では、いいカメラもいいビデオもみんなスマートフォンの中。機能だけ取り込まれて、デジカメやビデオ機器はもう要らない、という話になってきました。大企業にそれぞれ独立した事業部を擁し、大勢の社員を養ってきた製品がスマホのアイコンの一つになってしまったんですね。日本企業は、この変化に気づくのがあまりに遅すぎました。だから、依然として素晴らしいカメラを作っている企業はあるけれど、多くの消費者にとっては、残念ながらお呼びではないということになってしまった。せっせと技術を磨き、コストを削る――真面目なことだけが取り柄だったのに、そうした日本企業の得意技は、とっくに陳腐化してしまっているんです。パナソニックやソニー、シャープだって赤字転落する時代です。一時的に持ち直したように見えても、日本企業の本質は何も変わっていません。

つまりリーダーに「方向」が見えていないため、昔のやり方で一生懸命努力しているのです。世の中が大きく転換する時には努力だけでは問題が解決しないのです。日本企業の苦悩の背景は、リーダーの欠如と人材の老朽化です。

企業経営が変化に対応できていないということですか。

対応どころか、スマホに象徴されるすさまじい技術革新が、あらゆる分野に革命とも言える変化を起こしているのに、気づいてもいない企業や経営者が多いと思います。そのスマホにしても、アップルやサムスンがしのぎを削っていますが、ゆくゆくは1台5000円ぐらいになると私は見ています。実機にはレンズなど最小限のコンポーネントが残るだけで、欲しい機能は全部クラウドからダウンロードするようになる。そこがデジタル化の怖いところで、高度な技術や製品もたちまちコモディティー化される運命にあります。テレビも、単なる端末になっていくでしょう。今も私は、ベルリンフィルのコンサートを毎日テレビで観ています。テレビからWi-Fiでネットに直接つなげば、部屋に居ながらにしてベルリンフィルの最新プログラムが見放題で、音も画質も素晴らしい。都内のホールのS席で観たら5万円は下らないものが月14ユーロ、2000円で楽しめるんです。そんな時代に、コスト削減だけでは勝てないでしょう。削るといっても、せいぜい3割なんですから。ネットが登場したとき、ユビキタスという言葉が流行しましたが、いまはもう世界中の空気の中に情報があふれている、まさにユビキタスの時代です。では、そういう時代に企業が生き残るための条件は何かというと、流れをいち早く読み、変化の兆しが少しでも見えてきたら、他人の何倍もの勢いで行動することです。方向が分かって、そこへ向かう勇気と勢いがあるかどうか、そこが勝負の分かれ目です。

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