日本の人事部 LEADERS vol.13
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日本企業における組織論の重要性―現代の日本企業において、組織論が果たす役割や重要性についてお聞かせください。 組織論は経営学の基盤を形成する重要な要素で、大きく二つの領域に分類されます。一つ目は組織行動論、二つ目は組織構造論です。組織行動論は、心理学を基盤とした領域で、リーダーシップやモチベーションといった人間行動を分析し、組織の中で人がどう相互作用するかを研究します。組織構造論は、社会学を基盤とした領域で、組織内の役割体系がどのように人の行動や相互作用を促進または抑制するかを探求します。 よく「最後は人が大事だ」と言われますね。私もその考え方には賛成です。しかし、その前に組織をつくることが重要なのです。 私が特に研究している組織構造論は、道路網や通信回線のようなインフラ構築にたとえられます。適切なインフラを整備することで、初めて経済発展や業務効率化が実現する、と言えばわかりやすいでしょう。組織構造論でもう一つ重要な点は、「誰と毎日関わるか」を決めることです。事業部を分ければ、その瞬間から他の事業部の人と会う機会が減り、関係が薄れることもある。人は日々会う相手によって常識がかたちづくられます。同じ会社でも人が接する「企業内世間」は狭く、そこで身につけた常識が新しいアイデアを生むこともあれば、間違った、硬直した行動を引き起こすこともあります。これが組織構造の持つ怖さでもあります。経営層は、企業内の「世間」をどのようにつくれば健全な状態になるかを考えて、組織構造を設計しなければなりません。健全な相互作用を生む構造をどうつくるかが重要なのです。適切な組織構造を設計することで、個々の従業員がその能力を最大限に発揮できる環境が整備されることになるのです。―DXが進展している今、組織構造のあり方も変えていく必要があるのでしょうか。 組織構造を考える上で重要な視点の一つが「情報処理パラダイム」です。組織構造は単なる人間関係の集まりではなく、情報処理システムとも深く結びついています。DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展に応じて、組織のあり方も大きく変えていかなければなりません。 かつて、組織内のコミュニケーションは内線電話や対面が主流でした。1990年代半ばのインターネット普及以降は、外部の取引先やコラボレーション先とのつながりが深まり、組織は固定的な境界を持たないネットワーク型やバーチャル型へと進化しました。 現在では、オンライン会議ツールやチャットツールといった技術が普及し、グローバル規模でのコミュニケーションが容易になっています。特に距離の壁を越えたリーダーシップの発揮が可能となり、従来とは異なる形での影響力を生むようになりました。この変化は、日本企業におけるグローバル化を加速させる契機となる可能性があります。 情報処理システムとしての組織構造が新しい技術と連動することで、これまでの枠組みを超えた革新が可能となります。ミスから学ぶ組織文化を構築する―沼上さんは著書などで「『しっかりした組織』とは、各人が自分で判断できる問題をほとんど自動的にミスなく解決し、判断に迷う問題を即座に上司の判断に委ねることを当たり前のように遂行する組織」と述べられています。現代の日本企業がそのような組織をつくるには、どうすればいいのでしょうか。 管理職層、特に課長を育てることが重要です。しかし、簡単なことではありません。現在、多くの課長はプレイングマネジャーとして、現場の仕事と管理業務を兼任しています。課長が自身で処理すべき事項を判断するときに、ミスをするケースも出てくるでしょう。すると、次のミスを防ぐためにルールやマニュアルがつくられます。 しかし「ルール化」によって、課長の判断力が奪われ、成長を阻害する可能性もあります。課長が成長するためには、ミスを経験させ、それを糧に学ばせるプロセスが不可欠です。組織が「ミスを許さない」方針を取ると、課長はルールに従うだけの存在になったり、何でも部長に判断を仰ぐようになったりするかもしれません。それは、柔軟性を失った組織へとつながります。 急成長する企業でも似た課題が生じます。例えば、年率10%の成長を続ける会社は、それに応じて管理職の数を増やす必要があります。しかし、内部から適任者を昇進させるだけでは人材が足りないため、外部から採用しなければならない。その結果、会社の文化や判断基準を新任者に浸透させる余裕がないまま、ルールで縛る傾向が強まります。「しっかりした組織」をつくるには、管理職を忍耐強く育てることが欠かせません。管理職が現場で学び、成長できる環境を整える必要があります。5人・組織・経営のエンパワーメント巻頭インタビュー

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