日本の人事部 LEADERS vol.13
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に取り組むべきではないかと考えました。―貴社の事業の特徴をお聞かせください。 退職で終わらない、企業と個人の新しい関係を実現し、退職による損失をなくすことをビジョンとしています。企業と個人の両方を対象に、『Official-Alumni.com(オフィシャル・アルムナイ・ドットコム)』というSaaSプロダクトを提供しています。SaaSを中心にアルムナイに関わるコンサルティングや運用代行などの支援も行っています。 仕組みとしては、企業ごとにアカウントがあり、企業側は人事管理システムのように退職者の情報を一元管理できます。企業側だけでなく退職者側にもメリットがあることが重要だと考え、アルムナイ側にはクローズドのコミュニティに加入できる専用のスマホアプリを提供しています。―貴社のシステムを活用すると、アルムナイネットワークが広がるのはなぜでしょうか。 ビジネスが好きで、SNSで積極的につながろうとする人ばかりではなく、世の中にはさまざまな人がいます。 SNSを使っていても、ビジネスや自分の会社のことを一切書かない人もいます。当社のシステムはクローズドなので、そういった人たちも参加しやすいのでしょう。元同僚からの紹介で登録する方も多いですね。 最近はカムバック採用なども増えてきていますが、現役の社員は辞めた人に「戻ってきませんか」と声をかけにくい。今の職場で楽しくやっているかもしれないからです。しかし、「アルムナイコミュニティに登録するとビジネスのつながりもできるし、損はないと思うよ」と、アルムナイにとってもメリットが大きい場への参加を勧めることはできます。―「辞め方改革」というスローガンを掲げていますが、そこに込めた思いをお聞かせください。 辞め方改革という言葉には、個人側の「辞め方改革」と、企業側の「辞められ方改革」の二つの意味を込めています。 アルムナイに取り組むようになって、なぜ退職者が裏切り者扱いされることが多いのだろうと考えました。日本の場合は終身雇用という暗黙の前提があるため、企業と個人の間に「ずっと一緒に働く」という心理的な契約が存在し、辞めないことを前提にして教育などの投資が計画されています。そのため、辞められると投資を回収できないと捉えられやすい。ただし、辞めてからも、以前の勤務先とうまくつながっている人もいます。 その違いは「どんな辞め方をしたか」。辞め方や辞められ方がよくないと、お互いに悪い印象が残りやすいんです。 会社に残る側は「辞める人が悪く、自分たちは正しい」と思う。辞める側は「あいつらは本当にわかっていない。あの会社はだめだ」と思ったりする。そんないざこざが繰り返されると、ネガティブな辞め方がどんどん増え、悪循環が生じます。しかし辞め方・辞められ方が変われば、アルムナイのつながりがもっと当たり前になる。退職では終わらない、企業と個人の新たな関係を実現する切り口になると考えています。―アルムナイコミュニティが頼りになる組織として存在すると、人事の方の捉え方も変わっていきそうです。 エグジットインタビューなどで退職時に理由などを尋ねる企業は多いですが、個人側が退職時に理由を明確に説明できないこともあります。転職してみてから、前職の良さや改善すべき点に気づくこともある。そんなときもアルムナイコミュニティを通じて退職者とつながっていれば、退職から3ヵ月後、半年後にアンケートやインタビューをすることもできます。 外に出た状態のアルムナイと話すことによって、「自社の〇〇はもっとアピールすべきだ、逆にこの環境は改善しなくては」ということに気づくこともあります。気づきを取り入れていくことは、今いる社員の離職防止にもつながります。企業・アルムナイ双方にメリットがある状態をつくる―HRソリューション事業を手がけるうえで、大切にしていることは何でしょうか。 私たちから見たクライアントと、その先にいるユーザー(アルムナイ)両者の視点を意識するようにしています。なぜなら、双方の意図が相反することが往々にしてあるからです。私たちのビジネスは、企業とアルムナイの双方に存在意義やメリットがある状態をつくることなので、両者とのリレーションシップをもつべきだと考えています。システムの機能を考える際も「この機能は企業側のメリットに偏っているのではないか」などと、バランスを意識するようにしています。―今後手がけようとしていることを、教えてください。 企業以外のアルムナイについても少しずつ取り組みを始めています。例えば大学には校友会がありますが、さらにつながりの強い経営者だけのアルムナイをつくりたいというニーズをお手伝いしています。87

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