日本の人事部 LEADERS vol.13
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「組織と個人のWIN-WIN」を意識するようになったP&Gでの経験―HRアワード2024最優秀個人賞を受賞した感想をお聞かせください。 私は、人事としての自分のミッションを「組織と個人のWIN-WINの関係を構築し、その両者のWINのレベルを最大化させること」だと考えています。このミッションは私一人で成し遂げられるものではありません。今回の受賞はこれまでに組織変革をともに進めてきたリーダー、メンバー、外部パートナーなど、仲間たちとの共創の結果だと思っています。―木下さんが掲げる人事ミッションは、どのような経験から見出したのですか。 私がこの思いを抱くようになった原点は、社会人としてのスタートを切り、最初に人事を担当したP&G時代にあります。 私は大学時代に、マーケティングを学んでいました。マーケティングの基本的な考え方はWIN-WINです。お客さまに大きなメリットを感じてもらうため、自社とお客さまの両者のWINを高めて橋渡しするのがマーケティングの仕事。同じように、会社で働く個人がWINになり、会社もWINになるよう橋渡しをしていくのが人事だと学んだのです。―P&G時代にはどんな仕事を担当したのですか。 最初に担当したのは新卒採用です。ここでも、候補者のWINを大切にすることを第一に考えました。 ただ、自社を志望した人たちの思いを理解する採用担当としては、入社後になかなか活躍できない人がいる現実は受け入れがたいもの。「入社した人が活躍できるようにしたい」と考え、HRBPを志願しました。人事の課題を乗り越えるために、あえて人事以外のポジションへ―2001年、木下さんは日本GEへ転職していますが、この決断の背景には何があったのでしょうか。 GEへの転職を決めたのは、「HRリーダーシッププログラム」という制度があったからです。当時の設計では、人事部門に入社したメンバーが8ヵ月×3回のローテーションでさまざまなポジションに就き、人事以外の仕事を経験するという仕組みでした。 人材開発や組織開発の知見不足を痛感していた私は、事業の現場に身を置いて事業そのものを前に進める経験を積み、そこで奮闘する従業員の思いを理解したいと考えていました。そんな私にとって、GEの制度はうってつけだったんです。人事は「運用が8割」。良い理念や方針が現場に悪さをすることもある―GEでのさまざまな経験の中で、人事パーソンとしての転機となった出来事はありますか。 GEが買収した日本の金融事業会社へ赴任した際は、人事制度における「運用の重要性」を痛感しました。 この会社では、伝統的な日本企業のやり方から外資系企業のやり方へと変化する中で、現場から不安や不満の声が多く上がっていたのです。たとえば外資系となってからは「従業員本人の希望を考慮しない人事ローテーションはNG。すべて社内公募しなければいけない」という方針になり、それまで行われていた定期人事異動が止まっていました。―「動きたくても動けない」というジレンマを抱える人がたくさんいたわけですね。 はい。この問題をひも解くために、私は現場でたくさんの人から話を聞きました。現場からすると、一人ひとりが大きな案件を抱えているので、社内公募で突然動かれては困る。支社・支店の管理職からすると、人を出すのはいいとしても、代わりに誰かが来てくれなければ業務が回らなくなってしまう。 そこで私は、定期人事異動を復活させることを決断しました。GEの「従業員の意思を尊重する」という方針に則り、本人の希望を聞いた上で、実際に異動する人数の上限を定めて支社・支店の人員計画に影響が出ないようにしました。こうして定期人事異動が再び始まり、現場からは喜びの声がたくさん届きました。 会社として崇高な理念があり、正しい方針だと信じていても、それが必ず現場の人を幸せにするとは限りません。良い理念や方針が現場に悪さをすることもあるのです。本質的に組織のWINと個人のWINを両立するために必要なのは、人事が「制度2割・運用8割」を意識すること。完璧な制度を作っても、現場で「裏切日本の人事部「HRアワード2024」 受賞者インタビュー63

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