イベントレポート「心のありようは、事実・出来事を『どのように捉えるか』に規定される」と話す。 認知行動療法の「認知」とは、物事の意味づけや受け取り方、考え方を指し、認知がゆがんでしまうことが、悩みの原因になる。 否定的な認知をしてしまう人に見られる傾向は三つ。一つ目は「自分に対して否定的な捉え方をする」。二つ目は、「周囲との関係に対する否定的な思い込みを持つ」。三つ目が、「自分の将来に対する否定的で勝手な解釈をする」。 否定的な認知や考え方は悪循環をもたらすため、別の視点から捉えるやり方を宮城氏は提唱する。まずは「他の人が同じような状況だったら、自分はその人にどのようにアドバイスするだろうか」と考える。次に、そのように捉えることにより、どんなプラスがあるのか、およびどんなマイナスがあるのかの両面から考える。「自分の努力で変えられないことは、現実にたくさんあります。そのような問題にいつまでもとらわれていても、仕方ありません。現実をありのまま受け入れましょう。変えられない現実を受け入れることで自分に何かメリットがあるはずだと捉え、受容してほしいと思います」 モノの見方や捉え方を変えるために必要なのが、「行動を変えること」だと宮城氏は言う。そして行動を変える第一歩となるのが、「現実を確かめる、確認する」ことだ。「『上司が自分を嫌っている』と考える人は多いのですが、それは思い込みかもしれません。まずは行動を変えてみる。たとえば、飲み会の場などで上司の目の前に座り、いろいろな話をしてみる。そうすると、『思っていた以上にいい人だ』『部下のことを考えてくれる人なんだ』と捉え方が変化することがよくあります」 認知行動療法は、楽観的な考え方を推奨するものではない。むしろ現実的に考え、行動しながら本当に自分の考え方・捉え方が適切なのかを確認することを求めるものだ。行動を変えることで相手の反応が変わり、自分も変わる。「ネガティブさ」を大事にする 次に宮城氏が紹介したのは、ロンドン・ビジネス・スクールのハーミニア・イバーラ教授が提唱した、「行動しながら試す」との考え方だ。イバーラ氏は、「キャリアで本当の可能性を見出すのは、行動を通じてである」とし、新しい活動を試して新たな手本となる人を探し出すことを推奨している。試してみなければ、その仕事やその業務に興味があるか、自分に合っているか、面白いのかはわからない。キャリアは行動して試してみて、修正しながら形成することが重要だとしている。 そのうえで宮城氏は、「新しい自分の物語を創造すること(ナラティブ・アプローチ)」の重要性を訴える。そのために必要なのは、これまで環境に影響され、形成された自分の価値観や行動である「ディスコース」からの脱却だ。「いまでも『上場企業に就職できなければ幸せになれない』と考える学生、『メンタルダウンで3ヵ月休んだから上司も会社ももう私に期待していない』と考える人たちはたくさんいます。でも、本当にそうなのでしょうか。いまの若い人は、失敗を避ける傾向にあります。しかし、成功体験よりも失敗経験からのほうが、学びが多いと言われています。ノーベル賞を受賞した学者も、ほとんどが失敗から新しい発見をしています。失敗しなければ、新しい何かは得られないのです。 出世がすべてだと考えていて、50代で役職定年を迎え、自分の部下が上司になったときに、『私の人生は何だったんでしょうか』と私に訴える人もいます」 宮城氏は、「未来の物語の著者は自分自身である」とエールを送る。どのような新たな物語をつくりたいのかを考え、そのためには何を準備するべきか、どう行動するべきかを考える。新しい物語をつむいでいくのに、年齢は関係ない。たとえ定年後であっても、人は新たな物語を歩み出せる。 一方、「ネガティブ・ケイパビリティ」の考え方も推奨する。これは、「結論や結果、方向性を拙速に求めず、不確実さや不思議さ、疑問の中にとどまる力」を指す。「自分が『会社でこういう仕事をしたい』と思っても、すぐに叶うわけではありません。世の中には、すぐに解や結論が出せない問題が多く存在しています。拙速な結論を出すよりも、時間をかけ、慎重に考えることが大事です」 宙ぶらりんで解決ができない状況にも耐え抜く力を育てることで、いつかは物事が好転するかもしれない。早々に結論を出さない力の持つ意義を、見つめ直す必要がある。 宮城氏は、「不安常駐」を提唱する森田療法も紹介した。「不安は避けられない副産物、不安はいつも起こるもの」と考え、不安を身にまといながら生きることを受け入れる。大切なのは「不安に動じない心」。悩みや心配が浮かんだとき、「5分以上頭の中でひねくり回さない」ことを求める。そうすれば脳は悩まなくなって不安や心配の種が自然に姿を消し、良い方向へ向いていくとしている。「自分は何をしたいのか、どう働きたいのか、どう生きたいのか。常に自分の心と向き合って、自分に素直に生きていけば、後悔することはないと思います。悩んだときは一旦その場から離れ、悩みを手放してみることも重要です」21
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