日本の人事部 2018 Vol.6
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ーー髙倉さんは外資系企業を中心に、長年にわたってグローバル人事としてのキャリアを積み重ねてこられました。味の素に入社されて気付いたこと、課題だと感じたことは何だったのでしょうか。また、どのような方向に改革していこうとお考えになりましたか。 味の素に入社したのは2014年7月です。グローバル化に向けた人事制度改革の話をいただき、伝統的な日本企業の味の素での人事制度改革なら、私の今までの外資系企業での経験が活かせるのではないか、と考えました。また、日本企業の今後の成長に貢献したい、という強い思いもありました。 ノバルティスファーマの頃、採用担当として1年間に400人もの採用を行っていましたが、経営トップを担う人材の採用もリードしました。そのときに感じたのが、日本における外資系企業の社長となる人材のプールが年々、縮小していたことです。グローバル経営を展開する際、トップを任せることのできる人材は本当に限られていました。このままグローバル経営を任せることのできる経営人材が育たないと、日本企業の地盤沈下は避けられない、と思ったんです。 例えば外資系企業にいた頃、私の上司はほとんど本社の人事担当役員だったのですが、それが徐々に中国やシンガポールへ移っていきました。日本法人のポジションがどんどんと下がっていく実態を目の当たりにし、非常に悔しい思いをしました。このような問題意識を持って味の素に入ったわけですが、まず感じたのは、グローバル競争の上での改革のスピードに課題があることです。 では一方で、なぜファイザーが製薬会社の売上ランキングで世界一になれたかというと、自ら積極的にリスクテイクしたからです。当時の社長が言っていたのは、「60%OKならば、チャレンジする」。経営としてビジネスが成功する確率が50%ではダメですが、行けそうな確率が10%高い60%なら、素早くチャレンジすることが重要だということです。というのも、ビジネスの世界では最初にチャレンジしたファーストランナーの得る利益が大きく、またファーストランナーだからこそ、何か問題があった時に引き返すこともできます。しかし、2番手、3番手ではそうした経験や余裕がなく、戻ることが難しい。ファイザーは、リスクを取るファーストランナーをよしとする考え方でビジネスを捉え、常にリスクを取っていろいろなことにチャレンジしたからこそ、世界一になれたのだと思います。 私はファイザーの経営姿勢と具体的な行動を経営トップの傍らで見て、強くそのインパクトを実感しました。外資系企業は「これでいいな」と思ったら、まずチャレンジします。例えば米国のベンチャー企業は、「いかに失敗を早くやったか、たびたびやったか」を評価の対象としています。チャレンジしないと、失敗はありません。もちろん失敗したままではダメですが、その後、失敗を糧にしていかにレジリエンス(回復)で、生まれ変わっていくことができるか。これができなければ、会社は成長しないのではないでしょうか。そのことの持つ意味を、もう一度考える必要があると思いました。日本企業では、最終判断や実行する前に、あまりにも確認が多いのかもしれません。ーーこれから日本企業がグローバル化を進めていくためには、どのようなことが必要でしょうか。 過去30年間を振り返ると、世の中は大きく変化しています。特に技術の進歩は、全く想像できなかったほどの進化を遂げています。現在、巷間で話題となっているAIやIoT、ロボットがこの先どこまで進化するのかは分かりませんが、今起きている変化のスピードがこれまでと全く違うのは確かです。問題はこの変化のスピードと、今の日本企業の意思決定のスピードがかみ合っていないこと。まず、この点を何とかアジャストする必要があります。 味の素の場合、社長の西井をはじめ、経営幹部がスピード対応に関して強い危機感を持っており、意思決定のレイヤー(階層)を減らし、ルールをシンプルにしようとしています。会社が変わっていくときには、当然のことながら将来の「職務要件」も変わります。 例えば、人事を例に取って考えてみましょう。これまでの人事は法令・ルール遵守の下、いかに管理するかに主眼を置いてきました。まさに「守りの人事」だったと言えます。ところが変化が求められる時代になり、今度はチャレンジを促す「攻めの人事」となった場合、求められる職務要件も大きく変わります。 それと同時に、変わった職務要件に対して、適切な人財を育てていかなければなりません。これまでのような人を見てポジションを作る「適財適所」ではなく、戦略や外部環境が職務要件を規定するわけですから、それに人財を当てはめていく「適所適財」へと、人財活用の方向性を180度方向転換することが必要です。また、そこには過渡期ゆえの「ギャップ」が出てきますから、それを埋めるためにどんな人を育てていくのか、つまり、人財育成が大きなポイントにな伝統的な日本企業・味の素に感じた「課題」とは53

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