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HRカンファレンストップ > イベントレポート一覧 > 日本の人事部「HRカンファレンス2021-春-」  > 特別講演 [T-5] パナソニックエイジフリー社と語る、農業を通じた障がい者雇用

パナソニックエイジフリー社と語る、農業を通じた障がい者雇用

  • 金城 学氏(パナソニック エイジフリー株式会社 専務取締役)
  • 酒井 健行氏(株式会社エスプールプラス 障がい者雇用支援グループ チーフ)
  • 岡本 開太氏(株式会社エスプールプラス 障がい者雇用支援グループ リーダー)
特別講演 [T-5]2021.06.21 掲載
株式会社エスプールプラス講演写真

2021年3月に障がい者の法定雇用率が引き上げられたように、障害者雇用促進法改正や納付金拡大の議論が展開され、障がい者雇用の環境は急激に変化している。そんな中、既存の職場・職種対象に障がい者を雇用するだけではなく、新たな障がい者雇用の形を取り入れて企業全体への波及効果を得ている企業がある。障がい者の採用と就職支援に取り組むエスプールプラスの岡本氏、酒井氏が、障がい者雇用で成果を出しているパナソニックエイジフリーの金城氏、前田氏を迎えて、課題や効果について語り合った。

プロフィール
金城 学氏( パナソニック エイジフリー株式会社 専務取締役)
金城 学 プロフィール写真

(きんじょう がく)1990年松下電器産業株式会社(現、パナソニック株式会社)入社。本社・分社・事業部・関係会社の人事・労務畑を歩む。2018年10月より現介護事業会社の役員に就任。喫緊の課題となっていた障がい者法定雇用率を達成。障がいを持った従業員の活躍の場の拡大と更なる社内ノーマライゼーション向上に向け取組み中。


酒井 健行氏( 株式会社エスプールプラス 障がい者雇用支援グループ チーフ)
酒井 健行 プロフィール写真

(さかい たけゆき)30年間大手百貨店で、販売・店舗開発・コンプライアンス・人事労務に携わる。その後、エスプールプラスに転職。百貨店人事担当時に、障がい者雇用の課題と現実を実感。現在、企業人事担当者として障がい者雇用に取り組んだ経験を活かし、一人でも多くの障がい者雇用の創出と社会貢献に取り組む。


岡本 開太氏( 株式会社エスプールプラス 障がい者雇用支援グループ リーダー)
岡本 開太 プロフィール写真

(おかもと かいた)ハウスメーカーにてBtoC営業、オフィス系商社にてBtoB営業を経験。SDGs達成に向け事業理念に共感、2017年にエスプールプラスに転職。その後現在までに約200名の雇用創出に携わる。イキイキと働く障がいのある方々から日々元気をもらい活動。


農園運営という障がい者雇用の課題解決モデル

まず、エスプールプラスの岡本氏が登壇した。エスプールプラスは、障がい者雇用の支援サービスの事業を展開しており、東証1部上場企業のエスプールを親会社に持つ。全国展開しているエスプールグループのミッションは「アウトソーシングの力で企業変革を支援し社会課題を解決する」だ。社会問題や付随する企業の課題を新たなビジネスで解決するソーシャルビジネスをグループ全体で推進し、障がい者、シニア、シングルマザーや主婦、社会人経験の少ない若者の雇用を創出。就業機会の少ない層に対する雇用の支援を通じ、就職に結びつけるノーマライゼーション社会の実現を目指している。

グループの中でエスプールプラスは、「障がい者雇用」を創出し、社会に貢献する活動を展開。設立以来11年間で2200名以上の就職を実現し、360社以上の企業を支援した実績がある。

「私たちが事業開始時にフォーカスしていたのは、重度知的障がい者でした。IQ35以下、幼稚園の年長や小学校低学年ぐらいの発達段階のまま成長された方々です。この方たちの福祉事業所での1時間あたりの工賃は、200〜300円程度。一方、10年前企業側には適した仕事も雇い入れるノウハウもほとんどなく、重度知的障がい者の雇用は進んでいませんでした。そこで、一般就労したい障がい者の能力開発につながるうえに、企業の障がい者雇用の一つの選択肢になると考え、企業向けの貸し農園、農業を通じた支援を開始したのです」

次に岡本氏は、事業の二つの柱を紹介した。一つ目は、企業向け貸し農園「わーくはぴねす農園」の運営。障がい者が働ける場所と仕事の提供だ。二つ目は、働きたい障がい者の企業への紹介だ。母集団の形成から実習体験、マッチングを経て企業に人財を紹介する。この二つの事業を組み合わせ、人財発掘支援、採用支援、就業支援、雇用継続支援まで一貫したサポート体制を持っている。

「まずは障がい者の方に対して農園の説明会・実習体験を実施し、企業に面接していただきます。入社後も、障がい者がやりがいを持っていきいきと働けるようにサポートするため、専門のスタッフがアドバイスを続けます。農園のモットーは、安全で清潔であること。コンプライアンスを重視し、安心して働ける農法を採用しています。全国に28ヵ所ある農園は、企業の方が足を運びやすいように利便性の高い場所に設けました。行政とも連携して、新耐震検査済取得物件、高品質ビニールハウス使用、冷暖房完備の休憩棟完備、感染症対策徹底など、万全の環境を整えています」

講演写真

農園で収穫された野菜は、自社の社員への配布、企業内食堂での使用など、福利厚生や健康経営の観点で活用される。また、農園はノーマライゼーションやダイバーシティの研修会場としても利用できる。新入社員やマネジャークラスが障がい者と一緒に作業を行うことで、コミュニケーションを通じて障がい者雇用の理解が深められていくという。

さらに「収穫された野菜を子ども食堂、フードバンクに寄付する」「採用説明会や株主総会で紹介する」といった活動は、CSRやSDGsの一環にもなる。こうした活動はさまざまな効果が見られており、企業評価も高い。企業ブランディング、採用ブランディング、ESG投資の観点からも注目されている。

「障がい者のこれまでの定着率は92%以上。知的障がい者は7割弱ですが、最近は精神障がい者の割合も増えてきました。業種もエリアも幅広く、上場企業、有名企業にも数多くご利用いただいており、2割ほどの企業が農園の借り増しをされています。現状、企業の雇用対象となる年齢の障がい者の中で、最低賃金以上を稼ぐことができている方の割合はわずか12%です。この現状を改善していくためには、企業の協力が必要です。障がい者の自立をサポートするためにも、ぜひ弊社の農園を通じた新たな雇用に興味を持っていただければと思います」

パナソニックエイジフリーの障がい者雇用

続いて、パナソニックグループの介護事業会社である、パナソニックエイジフリーの金城氏が、同社の概要を説明した。パナソニックの介護事業には、子会社4社による約20年の歴史があるが、1社に統合されて誕生したのが同社だ。従業員数は約4000人、介護サービス170拠点、介護施設・住宅66拠点、介護ショップ122店鋪を全国に展開。介護サービス事業(在宅・施設)、介護ショップ事業、介護機器・設備事業を事業領域とし、2000年の介護保険の制度施行後、順調に売上を伸ばしている。

「在宅の介護サービス事業については、泊まり、通い、訪問を行っています。施設では介護付き有料老人ホーム、グループホーム、サービス付き高齢者向け住宅を運営。住み慣れた地域でサービスを受けながら元気に暮らしていける体制での在宅介護、高齢者向け賃貸住宅と小規模多機能型居宅介護を組み合わせた住宅づくりなどが大きな特徴です。介護ショップ事業では介護リフォームや介護用品をレンタルおよび販売。介護機器・設備事業では電動ケアベッド、ポータブルトイレ、シャワーチェア、ベッドと車椅子が一体になって切り離せる離床アシストロボット、リハビリ機器などを開発・生産しています」

ここからはエスプールプラスの酒井氏が進行役となって、セッションが行われた。

酒井:パナソニックエイジフリー様では、以前は障がい者雇用がどのような状況にあり、どんな課題があったのでしょうか。

金城:当社では主に各エリアの有料老人ホームや本社間接部門などで、障がい者雇用を行っていました。高齢者向けの介護事業と障がい者雇用には、社会福祉という観点から親和性があるように思われがちですが、実際の現場はそうではありません。当時は、お客さまへの接客などのコミュニケーション、入浴介助、ベッドや車椅子からの移乗介助などを担当してもらっていました。ところが、体力面で大きな負担を伴うため、障がい者にとって本当に適した業務なのか、と疑問に思っていました。障がい者にとって、安定した勤務を続けることには相当の苦労と努力を伴います。周囲のスタッフも慢性的な人手不足でしたが、複雑な勤務シフトの職場に障がい者が入ることには不安がありました。

また、障がい者が働く介護サービスの現場で起こった過去のトラブルによるトラウマも気掛かりでした。障がい者に対して「お客さまとのコミュニケーションがしっかり取れるのか」「安定した勤務ができるのか」といったネガティブな先入観が職場に広がってしまった時期もありました。

酒井:当時の障がい者の法定雇用率はいかがでしたか。

金城:障がい者雇用は遅々として進まず、2018年には雇用率0.99%という状況でした。法定雇用率から算出した必要ポイントから41.5%も不足していたんです。1000人以上の従業員を雇用する企業の中で、全国ワースト10に入るような状況でした。もちろん、多様性を尊重してどのような方でも働くことができる職場を創出していきたいという思いはありましたが、それが実現できない現実と理想のギャップにもどかしさを感じていました。

酒井:そんな時期を経て、農園の利用に至るわけですが、決断された理由をお聞かせいただけますか。

金城:会社としてもCSRの観点から、法定雇用率を何としても達成することが喫緊の課題となっていました。そんなとき、エスプールプラスさんの紹介記事を目にして「一度話を聞いてみよう」と思ったんです。農園を見学して衝撃を受けたのは、エスプールプラスさんの営業担当の方から、甘い言葉が一切出てこなかったこと。「障がい者雇用をする上で、農園は楽ですよ」などといったアピールをされるだろうと予想していたので本当に驚きました。

障がい者雇用とは、障がい者の方にきちんと向き合うことであり、同時にそのご家族の方にもしっかりと向き合うことでもある。常に正面を向いて付き合っていかなくてはならない。そんな姿勢を教えられると同時に、障がい者雇用に対するエスプールプラスの本気度を強く感じました。

酒井:決断後は、上司や経営に対する社内調整が必要になると思いますが、いかがでしたか。

金城:正直なところ、社内での説明には苦労しました。「なぜ農業なのか」「本業で障がい者を雇用できないのか」といった疑問の声があがり、なかなか認めてもらえませんでした。そんな状況を変えるべく、百聞は一見にしかずということで、社内の者を農園見学に連れて行ったのです。障がい者の方が元気に働いている姿や、しっかりと挨拶している様子を見て、考えはガラリと変わりました。これが一つの大きなきっかけになったと思います。

講演写真

障がい者雇用が生み出す効果と社員たちの変化

酒井:農園を使い始めて3年あまりですが、社内に何か変化はありましたか。

前田:農園で収穫された無農薬野菜を各拠点に無料配布したことで、障がい者雇用に対する社員たちの認識が深まったように感じています。会議中の社員に野菜を配布したところ、「張り詰めた空気が一変してスムーズに話が進んだ」と喜ばれたこともありました。

過去に障がい者とのトラブルによるトラウマを感じていた社員とも、野菜に会話の糸口を見つけて理解が高まりつつあります。障がい者雇用に協力したいという声も、社内から聞こえるようになってきました。今後は、野菜を社内のカフェやデイケアの現場で活用できるようにしていきたいと計画しています。

酒井:職場での適応や定着のために、日々のコミュニケーションで気をつけたいポイントを教えてください。

前田:農園では、本人・農場長・責任者・ご家族それぞれが感想を書く日報を作成し、共有していますが、何かあったらすぐに周囲が対応できるような仕組みは大切です。農園以外の拠点で働いている障がい者に関しては、入社時に障がい特性の公表の承諾を得た上で、それを職場のスタッフに説明し、理解してもらうことも欠かせません。また、情報共有にあたっては、リーダーを一人決めておくとコミュニケーションがよりスムーズになると思います。

酒井:障がい者の方の印象的なエピソードを教えてください。

前田:聴覚障がいで知的重度の44歳の男性Kさんの話です。この方は両耳が全く聞こえないため簡単な手話しか通じず、人間関係を築いていくのが容易ではありませんでした。そこで、絵を見ながら農作業が行えるカードや簡単な手話マニュアルを作って準備しました。ところが、実際に入社後は、これらがなくても十分にコミュニケーションが取れたのです。心が通じ合えば、ジェスチャーだけで事足りるのだと気付かされました。農場長、チームメイト、エスプールプラスのスタッフたちの心からの歓迎が、コミュニケーション用ツールを不要にさせたのです。

酒井:障がい者の定着率はいかがですか。

金城:農園での雇用をスタートしたのは2018年7月ですが、退職者はいません。2019年9月からは他の農園でも雇用を始めました。現在、農園での障がい者雇用は25名です。社内で障がい者雇用のさまざまな選択肢を模索した時期もあったのですが、農園利用が安定した雇用につながるというコンセンサスもしっかりと得られました。

酒井:金城様、前田様、ありがとうございました。本日は、パナソニックエイジフリー様が障がい者雇用でいかに成果を上げているのか、また、そのためにどのような工夫をされているのかを伺うことができました。今後も弊社では、障がいのある方々の自立と企業の障がい者雇用のためのよきパートナーとして、サポートしていきたいと考えております。本日はありがとうございました。

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