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いま企業に求められる実践的な人材育成手法とは
~「研修内製化」と「新入社員OJT」

2015.7.6 掲載
白井剛司氏・島村公俊氏 Photo

企業にとって、事業に貢献する人材を育成することは重要課題であるが、職場環境に即した効果的な育成を行うにはどのようにすればいいのか。本セッションでは、博報堂の「新入社員OJT」とソフトバンクの「研修内製化」の事例を取り上げ、それぞれのプログラムの開発と推進を担当する二人が、詳しく解説。参加者との質疑応答やディスカッションも行いながら、実践的な人材育成の手法について深く考えた。

プロフィール
白井剛司氏
株式会社博報堂 人材開発戦略室(HAKUHODO UNIV.)
マネジメントプランニングディレクター
白井剛司氏 プロフィール写真

(しらい たけし)1993年株式会社 博報堂に入社後、約10年間営業に従事、2005年から人材開発戦略室にて主に若手、現場リーダークラスの人材育成に携わる。新入社員OJTに関しては2007年から育成者であるトレーナーに向き合い、現行のプログラムの開発と推進を中心となって担当としている。このOJTの取り組み(活動のコンセプトと1年間のOJTの育成ストーリー)をまとめた『「自分ごと」だと人は育つ(博報堂大学[編])』(日本経済新聞出版社)を共著で上梓。「HRアワード2014」書籍部門最優秀賞を受賞。


島村公俊氏
ソフトバンクモバイル株式会社 人事本部 人材開発部 人材開発2課
島村公俊氏 プロフィール写真

(しまむら きみとし)ソフトバンクユニバーシティの立ち上げに参画し、プログラム開発、社内講師の育成体系作りに従事。現在、社内認定講師(ICI)制度ならびに知恵マルシェの企画、運営に携わり、約90名の社内講師陣の育成も担当する。累計登壇回数700回以上、受講者数1万7千人以上の登壇実績。経営学習研究所、慶応丸の内シティキャンパス、日本能率協会マネジメントセンターなど外部講演も多数実施。東北の高校生の人材育成を支援するワークショップの企画・実施にも従事している。


博報堂:
“任せて・見る”前期と“任せ・きる”後期。
二つの仕事の任せ方で、段階的に育てる

最初に、白井氏が博報堂の「新入社員OJT」に関する取り組みを紹介した。白井氏は人材開発戦略室(企業内大学、HAKUHODO UNV.)に所属し、2007年から新入社員のOJTを担当している。「新入社員のOJTに力を入れるようになったのは、この10年近くの間にOJTが難しい状況に陥ったからです。その背景には、ICTの効率化によって仕事がより高度化(効率化の先にある複雑化と高速化)してきたこと、育成が短期化(業務領域の広域化、専門化、少人数化)してきたこと、そして、若手世代の意識が変化してきたことがあります」。白井氏はこれまでの「経験してから学ぶ」から、「先に学んで経験に入る」志向を持つ新入社員が増えてきたと強調する。

2005年頃からは、トレーナーの若年化により、OJTを効果的に行うことが難しくなったという。そこで2007年から活動に着手し、2011年にはオリジナルのプログラムを作成、内製によるOJTの育成体系を導入していった。博報堂のOJTの特徴は、一人の新人(トレーニー)に対して、二人体制で育成・指導に取り組んでいること。まずは、新入社員育成のプロジェクトリーダーとしての「OJTトレーナー」で、入社8年目以上の社員が担当する。その下に実務指導にあたり、身近な相談相手としての「JOBトレーナー」が付くが、こちらは入社3~6年目の社員が担当するという。

トレーナーの選出は現場に一任しており、人事が新入社員に対して教育を行うことはない。人材開発戦略室はツールなどを渡し、トレーナーが指導していくという形を採っている。「OJTは10ヵ月に渡って行います。4月に新人導入研修が行われた後、6月に配属され、10月末までを前期、その後、折り返しという形で11月から翌年3月までを後期と位置付けています。トレーナーに対しては、配属の段階、折り返しの段階、そしてOJT終了の段階の計3回、ワークショップを行っています。さらに、任意でOJTトレーナーを集めて相互学習の場(OJTトレーナーコンサルティング)を設けています。OJTを行う際の支援ツールとしては、テキスト(OJTワークブック)とOJT日誌、計画書を使っています」

白井剛司氏 Photo

このように近年、OJTを行うのが難しくなっている環境下で、博報堂ではスキル、知識の習得だけではなく、「自分ごと」の意識を持ってもらうことを、コンセプトとしている。ただ「自分ごと」はなかなか言葉では教えられない概念なので、自ら体験すること(経験学習)によって学ぶしかない。「それには、仕事の任せ方が重要です。トレーナーには、任せ方を前期と後期で二段階に切り換えて、教えていくようにお願いしています」

今の新人は「経験の前に教えてほしい」という世代なので、前期は事前のオリエンテーションとさらに事後のフィードバックを必ず行っているという。「要は、小さなことからバッターボックスに立つ経験を与えていくわけです。つまり、新人に“任せて・見る”ということです。うまくできたら褒めてやり、できなかったらなぜできなかったのかをフィードバックします。このように前期は、学んでから経験するというやり方でOJTを進めます」

一方、後期には、フリーハンドでやり遂げる経験を与えるという。いわゆる“一皮むける経験”を用意し、チャレンジしてもらうのだ。「期間中、必ず1回は 新人に“任せ・きる”ことをさせます。前期での経験をベースにいろいろと考えて応用を利かせ、苦労の末、成功体験を持ってもらうのです。その際、トレーナーは口出しや介入をしないことがポイントです。『自分ごと』という主体性は、新人が自らやり切ることで、初めて実感できるものだからです」

前期は、今の新人世代の学びのスタイルである「学んでから経験する」からスタートし、後期では「経験してから学ぶ」を自ら体験することで、昔ながらの本来の仕事の学び方を体得していく。まさにこれが、博報堂のOJTのポイントだ。

「OJTを行う際に、大事にしている五つの軸があります。育成のゴールイメージの共有(スタート時の6・7月、終了時3月)、任せ方(通年)、ティーチング(6~8月)、相互理解(8月以降)、傾聴(12月以降)です。これらは、トレーナーとトレーニーの双方が大事にしている要素をまとめ、時期をつなげたものです。OJTのプログラムは、全てのこれらに基づいて組まれています」

ソフトバンクグループ:
社員の知恵や知識の共有を推進する研修内製化

続いて、ソフトバンクモバイルの島村氏がソフトバンクグループの「研修内製化」の全体像を説明した。ソフトバンクモバイルの人材開発部では、ソフトバンクアカデミア(後継者の発掘育成機関)、ソフトバンクイノベンチャー(新規事業提案制度)、ソフトバンクユニバーシティ(経営理念の実現に貢献する人材育成機関)という大きく三つの施策を行っている。今回取り上げるのは、ソフトバンクユニバーシティで行っている「研修内製化」だ。

ソフトバンクユニバーシティは、経営理念の実現に貢献する人材を育成する機関で、自ら手を挙げた人に機会を提供するという考えのもと、運営を行っている。約70コースを提供しているが、提供のカテゴリは、グローバル、統計、ファイナンス、テクノロジー、ビジネススキルなどから成り、より実践的で即効果がある研修を社員に提供している。

2009年からスタートしたソフトバンクユニバーシティ認定講師(ICI※)制度。今期、新たに認定された講師を合わせると100名を超える規模になった。講師陣は、本務があるため、年4回程度ボランティアで登壇している。

「基本的な考えとして、社員一人ひとりが持っている知識、経験、ノウハウに価値があると考えています。それらを社員間で相互に活かしあうことがよい効果的な人材育成につながると考えているのです。 “現場感”を研修プログラムに取り込むことで、より実践的で、即効果の出る内容にしています」

事実、プログラムの約8割は社内講師による内製で対応している。講師は、男女、年齢、役職に関係なく、多様な人が自身の専門性を活かし、社内講師として活躍している。

「研修を内製化したきっかけは、当時、外部のリーダーシップ研修を受講した際に、ソフトバンクらしいリーダーシップが学べるわけではなかったことでした。社内を見渡せば、ソフトバンクらしいリーダーシップを体現している人がたくさんいる。その人たちに講師を務めてもらったほうが、より実践的で効果が高い研修を提供できるのではないか、と考えたのです。

島村公俊氏 Photo

研修の内製化導入について、全てが順調だったかというと、必ずしもそうではなかったという。実際に始めてみると、大変なことが分かった。「研修に関して、当時は素人の集まりでした。研修を内製化するにしても、どのようなやり方がベストなのかがよく分かりませんでしたので、当初は外部の専門家に依頼し、研修の作り方を指導してもらいました。その後、研修のメニューが増えるにしたがい、ソフトバンクらしい内容にカスタマイズしていきました。社内ケース事例を作成したり、経営層の意思決定効率を上げることを目的としたソフトバンク流のプレゼンテーションの研修を開発したりと、社内の事情に合わせた内容にしていきました」

ソフトバンクでは、社員の持つノウハウや知識を研修に反映させるだけにとどまらない。内製化のメリットを活かし、社員が受講しやすい環境を提供することができている。例えば、eラーニングの提供はもちろんのこと、一日の研修だけでなく、半日の研修や2時間程度の研修などバリエーションに富んでいる。英会話レッスンなどは、1時間×10回で朝、昼、晩と好きな時間帯を選択できるようになっている。実践的な研修を提供するだけでなく、社員が受けやすい環境もしっかりと整備されている。

博報堂の事例:
トレーニーの成長課題とトレーナーの育成課題は、表裏一体の関係

後半は、「OJTトレーナー、社内講師をいかに支援していくか」という切り口で、2社の事例が発表された。

「一番大事なのは社内におけるOJTの定義をすること」だと白井氏は言う。これは推進側(人材開発戦略室)が正解をまず持つこと、しかし、同時に現場の自由度を保つということである。なぜなら、こちらがこの通りにやってほしいと言っても、現場が必ずしもできるとは限らないからだ。常に、両者のバランスを保つことが大事だと白井氏は強調する。

「OJTの運用において大事なのは、1年後のゴールのイメージを持つことです。その前に新人の成長課題がありますが、課題があって悩んだ時に引っ張っていくのがトレーナーの『持論』。その際に重要となるのが、先に述べた育成のゴールイメージの共有、任せ方、ティーチング、相互理解、傾聴という五つの軸です。これを正しく理解し、一度、自分なりに回すことができれば大丈夫です」

では、OJT後期の“任せ・きる”というのはどの程度のものなのだろうか。白井氏は、新人にとって責任が重く、リスクが高いと思われる仕事と、やさしすぎる仕事の中間が、“任せ・きる”仕事として理想的な領域だと言う。ちなみに、この“任せ・きる”仕事を経験したと回答したトレーニー(新人)は17%であった。

「“任せ・きる”は、トレーナーの肝力と二人の信頼関係が試される経験と言えます。つまり、トレーニーを信じて、我慢することが大切なのです(距離を置いての権限移譲)。そして、逆にトレーニーもまた任すトレーナーへの信頼があるからこそ、こういった難易度の高い仕事に自ら取り組むことができるのです。この相互の信頼関係があることが重要です。また、答えを教えずに助けることも必要です(内省の支援)。そして、最終的には自力でやり遂げさせること。この“任せ・きる”に入る上で、トレーナーはトレーニーの力量を前期の段階で、観察・把握していることがポイントになります。そのためにも、トレーナーはトレーニーの目線で成長課題に向き合うことが大切です」

セッションの様子氏 Photo

つまり、トレーナーは支援者として対峙すると同時に、トレーニーが成長課題をクリアすることに力を貸さなくてはならないというわけだ。結局のところ、トレーニーの成長課題とトレーナーの育成課題は表裏一体の関係であり、それがチームの課題であることに、トレーナーに気づいてもらうことが重要なのである。「大切なのは、トレーナーが人の感情を扱うということ。これがなくして、チームとして“任せ・きる”は乗り越えられません。そのために、年3回の研修(特に11月、3月)の研修の場で、育成タイミングに合ったトレーナー間の対話、内省の機会を提供しているのです」

結局、ゴールがあって、初めて成長課題が決まる。何より、良質なゴールは、良質な課題設定と対話のきっかけとなる。だから最初は、ゴールが見えなくてもいいし、好きな仕事でなくてもいい。人の成長と共に課題も変化していくわけで、全ての経験を経て本当のゴールが見えてくるのが自然の流れだからだ。「そのためにもトレーナー・トレーニー双方に対して、ゴールは期中に何度も書き直してもらいます。その結果、徐々にゴールが明確になっていくからです」

ソフトバンクグループの事例:
講師デビューを成功させるために、手厚いサポートを行う

ソフトバンクでは、社内講師を会社として認定することで講師のブランディングを図っている。講師側もモチベーションの向上につながり、研修を受講する社員側も認定された講師が登壇することで安心感が得られる。社内講師の募集は、人事が毎年3月に行っている。

「社内講師には、会社やグループの発展のために、自身の経験やノウハウを広めていきたいという方が多いです。また、自身のマネジメント経験のためにも講師を経験したいという方もいます。これは、人事側がどういう人を講師に求めているのかというスタンスにもつながります。外発的な動機づけというより、内発的な動機づけで『人材育成に関わりたい!』という人のほうが、300年続く人材育成を考えるうえで大切なのではないかと思ったわけです。とはいえ、希望者を募るわけですから、黙っていても講師への応募が多数あるということはありません。当然、人事が各部門に出向いて社内営業をしたり、社内における告知・プロモーションを積極的に行ったりしています。本日の講演もその趣旨で行っています」

また、社内講師のモチベーションを維持する方法としては、「講師が意見を言える環境作り」「研修改訂への関与」「講師同士がつながる場の提供(スキルアップ交流会、懇親会など)」などを行っている。また、自己啓発支援金として年間3万円までの研修受講や書籍購入なども認めているそうだ。

社内講師を継続させていくために、「講師がデビューするまでのサポートを手厚くした方がいい」のか、それとも「デビュー後のスキルアップをより支援する方がいいのか」という疑問があるが、この点について島村氏は、前者の考え方を大事にしていると明快に言う。「初回の登壇でアンケートの評価が良くなかった場合、かなりモチベーションが下がってしまいます。本業が多忙な中で準備してもらっていますので、なんとしても、初回のデビューで大成功してもらう必要があります。そのためにも綿密に計画されたトレーニングを用意しています」

社内講師へのステップとしては、書類選考、面接、認定試験を踏まえて認定される。認定後に認定式・交流会も行われているが、それが終了すると、各自、2時間×3回のトレーニングを受けることになる。最後に、デビュー可否判断を行うためのトライアルも設けられている。人事では、ソフトバンクユニバーシティの講師に求めるスキルを、以下のようにスキルマップにした。会社が講師に対してどの程度のスキルを求めているのかを、明らかにすることが大切であると考えているからだ。

  伝達力 演出力 対応力
経験談/事例
具体例
巻き込み
場作り
個別フォロー
運営判断
真打 わかり易い説明
動機付け
気配り
雰囲気作り
指示出し
フィードバック
二つ目 声量
テンポ/滑舌
表情/ジェスチャー
アイコンタクト
時間管理
観察

デリバリースキルについて、どのように伝えきるのか、という「伝達力」、どのように研修を飽きさせないようにするのか、という「演出力」、また、さまざまな受講者にどう対応していくか、という「対応力」の三つのカテゴリーに分け、レベルについては「二つ目」「真打」「匠」の三つに分けている。なお、レベルの一番下である「二つ目」は、初めてICI講師になる人に、登壇する前に必ず受けてもらう基礎編のプログラムとなっている。その上の「真打」「匠」については、各カテゴリーごとに応用プログラムを用意している。

「講師育成においては、初回登壇で成功するために必要なことを、コンテンツの側面とデリバリーの側面から計画的に行うことが重要です。また、初回登壇後は、更にスキルアップしたいという講師のモチベーションを維持するためにも、スキルマップごとにより高度なスキルトレーニングを用意し、また、講師同士のつながりを作る場としてもその場を機能させることが重要です。」と島村氏は、講師育成の重要性を強調した。

グループディスカッションの様子 Photo

この後、グループディスカッションに移った。テーマは、「事例にはなかったが、グループ内でこれは大切にしたいと思うものに、三つマークを付ける」である。

●OJTグループ

  1. OJTの定義を組織として共有化し、上層部を巻き込んでゴール設定をきちんと行う
  2. OJTトレーナーの動機付け。内発的な動機付けだけでなく、制度面としての外発的な動機付けも必要である(昇格時の要件とするなど)
  3. 内発的な動機付けを促進させるには、人選をしっかりと行い、帰属意識を高めていく
  1. 最初の段階で、動機付けるための“餌”は必要。その後、メンタル的なことも含め、トレーナーへのフォローやケアが不可欠である
  2. トレーナーのスキルアップの機会の提供が必要である。丸投げはいけない
  3. OJTを大事にする風土を形成するために、人事としての取り組みが必要

●研修内製化グループ

  1. トップがコミットし、活動を認めること
  2. 社内講師に、「当事者意識」を持ってもらうこと。それによって、トレーニングを受ける人にその気持ちが伝わるから
  3. 推進役のメンバーが、講師へのスキル面・感情面への支援をすることが大事である
  1. 目標・目的を明確化すること
  2. 人事によるコンテンツ作成の支援。研修への補助、参加者を増やすこと
  3. 人を育てるには、愛が大事。相手に関心を持ち、観察する

質疑応答を行った後、「OJTは、内製化でないとできない事項であり、それは企業風土とつながっています。だからこそ、とにかく一回まず形にして、毎年改善していくことが大切なのです」(白井氏)、「研修内製化の目的は、社員の知恵や知識をベースにより実践的な研修を提供することに加え、社員同士がつながるきっかけを作り、学びあう風土を醸成することです。社員が社員を教え、伝えることはとても大切なことだと信じていますので、今後も研修内製化を推進していきたいと思っています」(島村氏)という両氏からの言葉で、セッションは締めくくられた。

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