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HRカンファレンストップ > イベントレポート一覧 > 2015年-春-  > 特大会場[H] 企業経営における「戦略」の重要性 ~人事が描くべき“戦略ストーリー”とは~

企業経営における「戦略」の重要性
~人事が描くべき“戦略ストーリー”とは~

<協賛:GlobalEnglish 日経版>
2015.6.23 掲載
八木洋介氏 Photo

企業が競合他社に勝つには、独自の「戦略」を描き、実践していくことが必要となる。人事においても、今や「戦略人事」は重要なキーワードとなっているが、果たしてどのように実践していけばいいのか。日本の人事を代表するオピニオンリーダーであるLIXILグループの八木洋介氏と、企業の競争戦略研究の第一人者である一橋大学大学院教授の楠木建氏が、企業経営における「戦略人事」の重要性について語り合った。

プロフィール
八木洋介氏(株式会社LIXILグループ 執行役副社長 人事総務担当)
八木洋介氏 プロフィール写真

(やぎ ようすけ)1955年京都府生まれ。1980年京都大学経済学部卒業後、NKKに入社、主に人事マネージャーとして経験を積む。1999年より GEに勤務、GE Medical Systems Asia、GE Money Asia、日本GEでシニアHRマネジャーを務める。2012年より現職。著書に『戦略人事のビジョン 制度で縛るな、ストーリーを語れ』(光文社新書・ 共著)がある。


楠木建氏(一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授)
楠木建氏 プロフィール写真

(くすのき けん)1964年東京生まれ。専攻は競争戦略とイノベーション。企業が競争優位を構築する論理について研究している。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、同大学同学部助教授、同大学大学院国際企業戦略研究科准教授を経て、2010年から現職。1997年から 2000 年まで一橋大学イノベーション研究センター助教授を兼任。1994-1995年と2002年、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授を兼任。著書として『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)、『経営センスの論理』(2013、新潮社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)などがある。


八木洋介氏によるプレゼンテーション:
「人で勝つ」ために人事は何をするべきか

八木氏は、人事に関する歴史を振り返りながら、いま人事にとって大きな障害になっていることについて語った。「日本の人事には、三種の神器があると言われていました。〈終身雇用〉〈年功序列〉〈企業内組合〉です。これらは昭和20年代~30年代の日本という、安い人件費で成長が継続する特殊な状況だったからこそ、機能した戦略です。しかし1970年代に入り、ニクソンショック、石油危機、プラザ合意を経る中で環境は大きく変わりました。この時に戦略を変えなかったため、日本の人事は非常に大きなチャレンジを抱えることになります。そしてこの40年間、その状態がずっと続いています」

その結果、今の日本企業で行われているのは「協調と継続のマネジメント」。しかし、本当に求められているのは変革を起こす力であり、人事には「実力主義と勇気と決断力」が求められていると、八木氏は言う。「これまでの人事は、まさに〈管理と規律の人事〉〈過去を守る人事〉だったのではないでしょうか。しかし、これからの人事は、世の中を変える人材を育てなければいけない。人に寄り添っている人事こそが、いま一番のChange Agentになるべきです。世の中の変化を読み、私たち人事が変えなければいけないのです」

人事というと制度屋などとも言われるが、制度をつくることは過去を守ることに近い。そうではなく、できるだけフレキシブルに仕事ができる状態をつくることが人事には必要だと、八木氏は主張する。「管理する人事ではなくて、活力を引き出す人事が求められています。つまり、変革と活力の人事です。その役割も、人事管理から組織開発へと変わってきました。私は人事にとって、人のポテンシャルを生み出すことがもっとも大事な仕事だと思います。たとえば私は、朝会社で社員に会ったら『おはよう』と声をかけることから始めます。たったそれだけで、社員のやる気が何%かは違ってくる。そういうことが大切なんです。そういう意味でも、人事に最も必要なのは〈言葉力〉と言えます。エレベーターの中で社員に元気がないと気がついたとき、元気になる一言が言える。瞬時に言葉でいいコーチングを与えられる。人に活力を与える上で重要な能力です」

「将来社長になるつもり」にならないと、いい人事はできない

戦略人事とは何か。八木氏は、企業の戦略に合った人事戦略のことではなく、シンプルに捉えて「最高の結果を出す人事とは何か」を考えることだと言う。ここで八木氏は、いま人事が取り組むべきテーマを挙げていった。

八木洋介氏 Photo

「人事が取り組むべきテーマの一つ目は、『社長を育てる』ことです。今我々が育てるべきなのは、自ら物事を決められるリーダー的人材。すなわち、社長となる人材です。二つ目は『勝ちを定義し、ストーリーとして語る』こと。ミッション、ビジョン、戦略、これらを社員に伝えることも人事の仕事です。三つ目は『結果を出す:オペレーション・リズム』。人はサボってしまうから、結果を出すオペレーションのメカニズムをつくることも人事の仕事になります。四つ目は『最適組織をつくる:広いスパンと少ない階層』。階層を少なくすることは重要なことです。五つ目は「人を活かす」。最高のパフォーマンスを出したければ、もっとも仕事ができる人を発掘し、チャレンジングな仕事をしてもらうということです。皆さんの企業では、それができていますか。他にもできる人がいるのに、オジサンばかりを使っていないでしょうか。そのほか、『モチベートする』『勝つカルチャーをつくる』『人がいきいきとする環境をつくる:エンゲージメント』といった言葉も重要です」

八木氏には、普段自分が人事として仕事ができているかを確認するチェックポイントがあるという。「企業の成長、必要な変革を妨げてはいないか」「何のためにやろうとしているか」「ビジネスに勝てるか」「権限で仕事をしていないか」「最高のパフォーマンスを出せるか」「人が活性化するか」の六つだ。「人事のプロに求められることは何か。それは、将来社長をやるつもりで人事をやったほうがいい、ということです。それほどの心持ちでなければ、本当のいい人事はできません。人事に必要なものは〈経営マインド〉〈人事に関する知識〉〈リーダーシップ(未来に向けた変革、行動、スピード)〉です。そして、企業が自動車だとしたら、人事は助手席ではなく、運転席に座るべきです。自ら運転する意気込みこそが必要です」

八木氏は、研修ではリーダーは育たないと語る。LIXILの研修は自らに気付きを与え、自らが努力を始めるためのキックオフの場だ。研修は「恥をかかせる場」として、徹底した気付きを与えているという。「研修で最初に言うのは『一所懸命仕事をしているけれど、それだけで社長になれると思うか』ということです。自ら行動の先頭に立ち、判断していかなければ社長にはなれない。内省し、そこからPrinciple(状況にかかわらず適用できる真理)を引き出して使ってみて初めて、経験と呼べる。当社では執行役員から新入社員まで、すべての教育をこのリーダーシップ研修でカバーしています」

最後に八木氏は、人事における変革の姿勢について語った。「変革は決して難しいことではありません。正しいことをすれば、多くの人が付いてくるからです。社員は普通の人です。普通の人は正しいことを実践すれば、皆ついてきてくれます。だからこそ正しいことを実践して人の活力を引き出す、すなわち『人で勝つ』ということを第一に考えたいと思うのです」

ディスカッション:
「軸と知恵」を教わることで、自らに欠けている部分を知る

楠木 将来の経営者を育てるために、どんなことを行われているのですか。

八木 経営とは答えがないものです。知識やロジックだけで答えを出すには限界があります。だから、社長とは答えがないところで答えられる人でなければなりません。価値観や経営観、フィロソフィー、哲学など、何を基準に物事を決めていくか。これは研修で教えられないので、「こういう部分が皆さんに欠けているところです」と教えることが研修のポイントになっています。LIXILの研修では「軸と知恵」の大切さを教えます。「知恵」とは書籍などにある戦略論など基本のことで、基礎的な知識を付けるように促します。「軸」とは、物事を判断する決め手のことです。たとえば、営業で相手にモノを売るときに、どんな考え方で値段を決めるか、といったものを導く考え方のことです。私でいえば「人事とは活力を引き出すこと」と考えていますから、これが軸ですね。この軸があれば、いくつもの方策の中から一つに決められます。リーダー育成では、自分が何を大事にしているかについて考えてもらうようにしています。

楠木 人によって、固有の軸があったりなかったりする、ということですね。そして、その人の軸に対して、他の人が付いてくることもあるわけですね。これは脳科学者から聞いた話ですが、直感とひらめきは全く違うのだそうです。ひらめきは後から自分が説明できないものですが、直感は後から理由の説明がつくもの。直感は暗黙の裡にロジックが総動員されているそうです。ただ、皆が経営者になれるかというと、確率はすごく小さいように思いますね。八木さんは何人に一人だと思われますか。

楠木健氏 Photo

八木 以前いたGEの経験で言えば、1000人に1人くらいですね。

楠木 すごく気が楽になります(笑)。GEは全世界で30万人いますから、経営者候補は300人ということですね。逆に、経営者向きの人が社内に多いとしたら、効率は落ちるんでしょうか。

八木 おそらく落ちますね。例えばGEの社員の約2割は、物事を変えていこうとする変革型リーダーです。その中でインドだけがこの割合が大変高くて、5割を超えています。ではインドが素晴らしいパフォーマンスを出すかというと、そうではありません。逆に組織がまとまらないんですね。そこでGEでは、インドの変革型リーダーたちを、他の国に送り込むようにしています。

楠木 それはダイバーシティの本質と言えるかもしれませんね。僕がダイバーシティで物足りないと思うのは、バックグラウンドが違う人が集まれば新しいものが生まれるという、短絡的な捉え方が多いこと。それもあるのかもしれませんが、経営として見た時の本当の強みは、最適な組織の状態が新たに作れることにあるのではないかと思います。ダイバーシティは料理でいえば素材で、経営はそれを有効に使えるわけです。

「皆に正しいと思われる軸を持つこと」がリーダーになる条件

楠木 経営者人材の育成には、どれくらいの期間が必要だとお考えですか。

八木 私の感覚では10年です。このままの自分ではいけないと気付いてから10年。一人前になるまでに1万時間が必要と言われますが、リーダーシップも同じくらい必要ではないかと思います。でもよく考えてみると、私は1万時間も努力してリーダーになれなかった人を見たことがないんですね。だから普通の人でも1万時間努力すれば、かなりの確率で1000人に1人の経営者になれると思います。当社では年間300人にリーダーシップ教育を行いますが、その中から10%でも本気で経営者を目指す勉強を始める人が出てくれば、大成功だと思っています。

パネルセッションの様子 Photo

楠木 軸を基準に物事を決めて、資源を投入し、実行できる。それが本当の軸なのだと思います。また、そのような軸は、その人の「好き嫌い」に関わるものでもあると思います。ある人の軸が皆も正しいと思えるのであれば、その人はリーダーになれるということですね。私はよく好き嫌いの話をしますが、人事の方から「すべてが好き嫌いでは決められない」と厳しい批判をいただくことがあります。僕も初めからすべてを好き嫌いでやるとは言ってないんです。100から一つに絞るとしたら、三つに絞るまではロジックで行う。そこから一つを選ぶときに好き嫌いが反映されるということ。そこは誤解しないでいただきたいと思います。

八木 私が人事の方にお伝えしたいのは、何度も言いますが「自分も経営を行っている」というマインドを持ってほしいということです。そう思わないと社長に意見できません。社長はライバルくらいに思っておくべきだと思いますね。

楠木 今日は大変説得力のあるお話を、ありがとうございました。

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