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時代を制する組織人事戦略

2015.6.23 掲載
川内正直氏 Photo

最近、新聞などのメディアで、企業の組織や人事にまつわる話題が多く見られる。今や企業の業績を最大化する手法として、組織人事戦略は注目される分野なのだ。リンクアンドモチベーションの川内氏は「社内で、ようやく人事の時代が来たと話している」と語る。それでは、組織人事戦略において、人事部門はどのような役割を担うべきか、また、企業をどのように導くべきなのか。川内氏はそのカギは「信頼インフラを構築できる組織づくりにある」と語った。

プロフィール
川内正直氏(株式会社リンクアンドモチベーション モチベーションマネジメントカンパニー 執行役
カンパニー長)
川内正直氏 プロフィール写真

(かわうち まさなお)早稲田大学教育学部卒業。組織人事領域のコンサルタント・プロジェクトマネジャーとして顧客企業の変革を成功に導く傍ら、西日本統合拠点立上げなど、多くの新規拠点立上げに関与。グループ会社取締役を経て、現職。大学にてキャリア教育に関する講師を務める他、人事担当者やビジネスパーソン向けセミナー講演多数。


これからは企業と個人が「互いに選ばれる存在」になる

リンクアンドモチベーションは「モチベーションエンジニアリングによって、組織と個人に変革の機会を提供し、意味のあふれる社会を実現する」をミッションとする人材サービス企業。事業領域はBtoBで組織・人事・コンサル、イベント・メディア、人材紹介・派遣事業を行い、最近ではBtoC領域に進出。これらのノウハウを教育分野にも活用し拡大している。

川内氏は初めに、いま企業経営にとって「組織人事戦略」が重要となっている二つの背景について説明した。その一つ目は、経済の「成長」と「成熟化」だ。エンゲル係数は戦争直後に60%を超えていたが、近年は20%程度まで下がっている。現在は食べるために働くという時代ではなくなっているのだ。

「マズローの欲求階層説によれば、基本的な欲求である生理的欲求、安全の欲求が満たされれば、それが高次元、多様化し、社会的欲求、自尊の欲求、自己実現の欲求へと向かいます。企業にとっても社員のワークモチベーションが多様化しており、これらを束ねられなければ組織成果(業績)が下がることになります」

二つ目の背景は、「商品市場の変化」と「人材の流動化」だ。この50年で産業構造は変化し、第3次産業が大きく伸びた。それに伴い、商品市場にも変化が生まれ、企業の競争優位性は「ハードからソフトへ」、商品のライフサイクルは「長期から短期へ」と変わっている。それらに対応するには個人の力が必要であり、競争優位の源泉も「事業戦略」から「人事戦略」へと変化しているのだ。

そのうえで川内氏は企業と個人の関係も、「相互拘束型」から「相互選択型」に変化していると語る。「これまで企業と個人には、相互拘束型の関係がありました。企業は個人に終身雇用を保証し、個人は全面的な忠誠行動を取る。それがバブル崩壊後に変化し、企業は個人に多様な雇用形態を提供し、個人は企業に自立的な投資行動を取るようになってきています。これは相互選択型の関係といえ、互いに選ばれる存在になる必要性が生まれているのです」

たとえばゲーム業界なら、よいソフトがつくれるエンジニアに選ばれる企業は、商品市場でも強さを持つことになる。企業は商品市場に加えて、労働市場に適応することも至上命題となっているのだ。個人から選ばれない企業は労働市場だけでなく、商品市場での負けにも直結する時代が来ている。

川内正直氏 Photo

「One for All, All for One」の実現をいかに目指すか

それでは、企業はいかに労働市場適応を行うべきか。ここで意識すべきは、企業の普遍的テーマである「外部適応」と「内部統合」の両立だ。「すなわちOne for All, All for Oneの実現を目指すことになります。“All”は企業でありソフト化、短サイクル化を進める。“One”は個人であり、多様化・流動化を進める。一人はみんな(全体)のために、みんな(全体)は一人のために活動できる組織。このような状態をいかにつくれるかです」

ここで、組織人事戦略の前提となる「人間観」について考える必要がある。川内氏は、今までのように社員を、「完全合理的な経済人」と考えるのではなく、「限定合理的な感情人」と考えるべきと語る。「行動経済学で著名なダニエル・カーネマン氏は、『人間は“勘定”ではなく、“感情”で判断する』と述べています。これまでの人間観は前者が多かったが、今は後者に変わりつつあります。例えば、相手から感謝の気持ちを示されるときに、1000円というお金をもらうことよりも、『ありがとう』と言われたほうが、自分にとってありがたいと思える。必ずしも合理的であることが、常に優先順位が高いわけではなくなっているのです」

もし「経済人」であれば、その報酬は金銭でよかったが、「限定合理的感情人」への報酬となると金銭報酬に加え、意味報酬を求めるようになる。意味報酬とは貢献欲求(例:感謝の言葉)、承認欲求(例:成果の表彰)、親和欲求(例:良好なチームワーク)、成長欲求(例:知識・技術の向上)といった無形の報酬だ。

では次に、組織人事戦略の前提となる「組織観」とは何なのか。川内氏は、「組織とは、要素還元できない協働システム」と考えるべきと語る。「組織の問題とは、実は“人”ではなく、その“間”に生じます。組織観とは、要素に分けられないものであり、人が一つのつながりとして成立しているような状態です。トラブルが発生しても、誰が悪いのかを考えるのではなく、システム全体をよくしようと考えなければなりません。組織を人の足し算ではなく、掛け算でイメージすることが重要です」

企業と個人がどの程度、相思相愛の関係にあるのかを探る

リンクアンドモチベーションでは、企業を捉える要件フレームとして、五つのMを提案している。外部適応を示す「Message(事業戦略)」、内部統合を示す「Motivation (動機形成)」。そして、それらの実現のために必要な「Mission (役割設計)」「Membering (人材開発)」「Monitoring(管理制度)」だ。

5Mの一つ目の「Message(事業戦略)」では、事業が発信するメッセージの明確化を図り、メッセージを反映した商品・サービス開発が行われているのかを見る。このように考える理由は「ビジネスとは社会とのコミュニケーション活動」という考えからだ。「売上はメッセージに対する共感の総量と捉えることができます。例えば、ユニクロは『良いものを安く、定期的に買い替えましょう』とメッセージを送り、それに賛同を得たからこそ1兆円を超える売り上げがあるのです」

二つ目の「Motivation (動機形成)」では、従業員のモチベーションファクター把握し、事業戦略の実現に向けた意欲喚起を図る。「私たちは、社員は単なる〈労働力〉ではなく〈最大の投資家〉と考えています。社員は〈時間〉と〈能力〉を会社に投資している存在。企業は投資先として社員に選ばれ続けなければなりません。社員からの投資を仰ぐためには、モチベーションをマーケティングし、〈金銭報酬〉に加えて〈意味報酬〉の提供が必要となります」

同社では、企業と個人がどの程度、相思相愛の関係にあるのかを測るためにサーベイによる調査を行っている。そこで度合を見る基準は、期待度と満足度の二軸。「期待度=会社に何を期待しているか」を縦軸、「満足度=会社の何に満足しているか」を横軸として、各々の高低で社員の「思い」の分布を見るのだ。

「期待度と満足度が共に高ければ良い状態にあるといえます。期待度が高いのに満足していない場合は、組織に多くの課題が出ている状態。その分布が、右肩上がりのラインにあれば、よい状態といえますが、右肩下がりだと、期待するところは全然やってくれない上に、満足するところは全然期待していない部分になっている。私たちはこの数値を偏差値化していますが、その数値が高いほど翌年の利益も上がるということがデータで検証されています」

川内正直氏 Photo

組織の体力とは「信頼インフラがどれだけあるか」に尽きる

「Message(事業戦略)」、「Motivation (動機形成)」をつくるために存在するのが残り三つのMだ。「Mission (役割設計)」では、職掌や権限など組織内の分業設計、機能間連携を促す調整システムの設計を行う。「Membering (人材開発)」では、外部からの人材採用と内部の人材育成、戦略的な人材登用と配置を行う。「Monitoring(管理制度)」では、業績の予実管理を行う管理会計を行い、等級・評価・報酬などの人事制度、重点経営指標の設定を行う。

川内氏はこの5Mの全体像を常にチェックすることが重要と語る。正常なバランスを保てていないとすぐ機能しなくなるのだ。例えば、成果と複雑性との関係においては、「統合」なき複雑性の取り込みは、パフォーマンスの低下につながる。人材開発の多様性も同様で、マネジメントが複雑になると機能しなくなる。また、組織内のミッションを分化し過ぎると、調整コストが増大し、個人のモチベーションダウンを引き起こす。また、管理・人事制度設計では、適度に曖昧さを残した設計・運用をしなければ、ルールが目的化し変化適応力の低下を引き起こす。

「One for All, All for Oneを実現するには、複雑性を取り込むだけでなく、「統合」を図ることが大切です。組織がうまく回っている企業は、人事ポリシーに基づいた全体設計がなされている。統合軸を強化するには、コミュニケーションへの投資が欠かせません。それによって相互連携を実現し、社内に信頼インフラを構築する。それこそが大きな財産になります」

通常、社内でのコミュニケーションは、物事を決定する「議論」、考えを掘り下げる「対話」、相互理解を生む「会話」の3層構造だ。しかし最近では、対話や会話が軽視される傾向にあり、信頼インフラがなかなか構築されないようになっている。すると少しの誤解が不満に変わってしまう。

「対話や会話があり、志が共有されている組織は非常に強い。通常、何か新しいことをやろうとすると、社内に現状維持バイアスが生まれます。しかし、志が共有されていれば、「あいつがやるなら助けよう」となる。この関係がつくれると、組織は成功循環モデルに入っていきます」

人事が社内で最初に手をつけるべきは「関係の質」。ここが変われば次に社員の「思考の質」が変わる。すると「行動の質」が変わり、「結果の質」が変わる。その結果が「関係の質」に戻って好循環化していく。

「組織の体力とは信頼インフラがどれだけあるか、これに尽きると私たちは考えています。人事で勝てるチームや組織が、競争市場でも勝てる時代になってきました。そのためには全体をシステムで捉え、設計ができているのかを確認することが重要です」。コミュニケーションを通じ、信頼インフラが構築できているかどうかを見直すことの重要性を強調して、川内氏は講演を締めくくった。

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