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『日本の人事部』HRクラブ 開催レポート

【第25回テーマ】

女性の「管理職・経営幹部」をいかに育成していくのか
――持続的かつ効果的に“女性が活躍できる”組織をつくる

2013年8月27日(火)に、第25回『日本の人事部』HRクラブを開催いたしました。今回のゲストは、NPO法人GEWEL理事、人財・組織戦略コンサルタントのアキレス美知子さん。前半は、アキレスさんのキャリア紹介、今回のメインテーマである「女性活躍推進の背景・課題」などについて、資料やデータを提示しながら詳しくお話いただきました。続く後半は、参加者からアキレスさんへの質問コーナーのほか、数名ずつのグループに分かれたディスカッションを実施。活発な意見交換が行われました。「女性の活躍推進、管理職・経営幹部の育成」について、深く考えることができた今回のHRクラブ。当日の模様をダイジェストでご紹介いたします。

HRクラブの様子HRクラブの様子HRクラブの様子


【第25回 開催概要】

■ テーマ
女性の「管理職・経営幹部」をいかに育成していくのか
――持続的かつ効果的に“女性が活躍できる”組織をつくる
■ 開催日時
2013年8月27日(火) 18:30~20:30
■ ゲストスピーカー
NPO法人GEWEL理事、人財・組織戦略コンサルタント アキレス美知子氏
<アキレス美知子(アキレス・ミチコ) プロフィール>
上智大学比較文化学部経営学科卒業。米国Fielding Graduate Institute組織マネジメント修士課程修了。富士ゼロックス総合教育研究所で異文化コミュニケーションのコンサルタントを始め、シティバンク銀行、モルガンスタンレー証券、メリルリンチ証券、住友スリーエムなどで人事・人材開発の要職を歴任。あおぞら銀行常務執行役員人事担当、資生堂執行役員広報・CSR・環境企画・お客さまセンター・風土改革担当を経て、現在に至る。2010年APEC女性リーダーネットワーク、2011年APEC女性と経済サミット、2012年APEC女性と経済フォーラムに日本代表メンバーとして参加。日本生産性本部女性パワーアップ会議推進委員、文部科学省中央教育審議会高等教育部会委員、横浜市専門委員、横浜市男女共同参画推進協会の監事、神戸大学グローバル人材育成推進事業の外部評価委員も勤めている。プライベートでは、米国人の夫をもち、二人の娘の母親でもある。

子供を産んでから、三十代でキャリアをスタート

HRクラブの様子アキレスさんはまず「一つのモデルとして参考までに」と、ご自身のこれまでのキャリアについて話されました。二十代の頃は育児休業や短時間勤務などの制度が十分ではない企業が多かったため、子育てをしながら会社勤めをするのは難しいと考え、しばらくは学びの道を進むことにしたそうです。その後、海外留学先で、米国人の夫と結婚し、二人の娘の母親となりました。

アキレスさんがキャリアを本格的にスタートさせたのは、三十代に入ってから。最初の勤務先では、子供を保育園に送り迎えしながら、海外赴任者向けの事前セミナー講師として週三日、働いていたそうです。そこで人が成長するさまを目の当たりにし、仕事の面白さを実感。もともと組織開発に興味があったアキレスさんは、次女が高校に入ったタイミングで大学院に進学し、組織開発の修士号を取得するなど、フルタイムの勤務をしながら精力的に学び続けました。三十代以降、さまざまな企業で人事・人材開発の要職を歴任してきましたが、2011年から籍をおいた資生堂では、人事以外の役割―広報・CSR・環境企画・お客さまセンター・風土改革担当―を任せられたそうです。畑違いの分野でしたが、チャレンジした結果、視野が大きく広がっただけでなく、外から人事がどう見えているのかといったことも分かり、大変良い経験になったとのこと。

「普通は、キャリアを作ってから子育てをする人が多いと思いますが、私の場合は逆のパターン。子供を産んでから、三十代でキャリアをスタートするというスタイルもあります」とアキレスさんはいいます。

「戦略」としての女性活躍推進の時代へ――必要なのは“意識改革”

いよいよ本題。最初に「なぜいま女性活躍なのか」をテーマにお話しいただきました。まずは「日本企業における女性活躍推進」について、時系列で追っていきます。女性活躍をめぐる動きは、次の三段階で進んでいるといいます。第1ステップは、1986年の男女雇用機会均等法の施行を契機とした「法令遵守」。法を守る意識の高まりから男女を平等に扱わなければならないという動きが出てきました。第2ステップは、日本でも2000年頃から注目されはじめた「CSR」。社会的責任やイメージ向上の観点からも「働く母親を支援する必要がある」と、企業が制度や環境整備に力を入れ始めました。そして第3ステップである現在は、「戦略」として、ダイバーシティや女性活躍を推進していく段階に入っているとのこと。大手企業では、経営理念にダイバーシティを組み込むところも増えているといいます。また、ガバナンスや成長戦略として捉え、取り組みに力を入れるところもあるそうです。同じ「女性活躍」でも、段階的に“男女平等”から“戦略”の位置付けに移りつつあるのです。

「女性活躍推進というと『女性』だけに目がいきがちですが、グローバル展開を進めていくには、異なる価値観やスタイルを持つ人たちが活躍できる組織を作らなければ、環境に適応できません。女性はその大きな柱の一つであり、多様な人材を活かす企業だけが勝ち残ります」とアキレスさんはいいます。

HRクラブの様子次に、「女性活躍推進上の課題」について、ご説明いただきました。機運は高まっているものの、実際にはなかなか進まないのが現状。それは一体なぜなのでしょうか――。アキレスさんは、二つのデータからその理由を分析します。

一つ目は、「女性活躍推進上の課題トップ5」と題したアンケート。課題の1位は「女性社員の意識」で8割近くが回答しています。2位は「管理職の理解、関心が薄い」で、その後は「育児等、家庭負担に配慮が必要」「男性社員の理解・関心が薄い」「経営者の理解・関心が薄い」と続きます。注目すべきは、トップ5のうち、四つは“意識”が課題だということ。支援策を整えても、関係する人たちの“意識”改革がまだ進んでいないため「制度を利用しにくい」という実情があるのです。

二つ目は、「女性社員の意識」を上司がどのように見ているかの調査。「昇進昇格への意欲が乏しい」「難しい課題を出すと敬遠されやすい」「感情的になりやすく、注意を受け入れない」「仕事に対する責任感が乏しい」「文句や不満が多いので、ものを言いづらい」という項目がトップ5に挙がっています。女性は仕事を頼まれると、目的や背景を理解した上で、責任を持って進めたいと考え、きっちりと確認する人が多いとのこと。しかし、それが一部の上司に「仕事を頼みにくい」と思われてしまうこともあるそうです。ただし、上記の5項目は、女性だけに該当するものではありません。こうした社員は男女問わず、上司から期待されないと思っていいとのことでした。

仕事観マトリックスここで、アキレスさんから「仕事観マトリックス」の図が提示されました。これは、仕事への姿勢を「安定維持」「ワリキリ」「空まわり」「スター」という四つのタイプに分けたもの。それぞれの特徴を把握した上で自社の社員を当てはめると、人材育成策や人員バランスを考える際に役立つそうです。たとえば、「空まわり」タイプは、場数や経験を積むと、段々と力がついてくるので、将来のスター候補になり得るとのこと。実力をつけるためには、鍛え続ける必要があるといいます。また、「安定維持」タイプは、均等法世代が多く、もともと優秀な人材なので、仕掛け方次第ではやる気に火がつくこともあるそうです。このマトリックスは人材を型にはめるのではなく、どこに眠っている宝(=人材)がいるのか、どうやって掘り起こし、育てるのかを、社内で議論するためのツールとして使うことに意味があるといいます。

企業側にもさまざまな課題があります。「働く母親支援のみを充実させると、独身で頑張っている社員に不公平感や負担感が広がる」「女性が働き続けやすい制度など、環境整備を進めても、それはインセンティブに過ぎず、モチベーション向上には不十分」などのほか、重要なポイントとして、投資家の視点も考えなければならないとのこと。非財務情報や、その開示を重視する傾向が出てきたため、女性が活躍できない企業は評価が低いのだそうです。

「女性の活躍推進・幹部の育成に向けた心構えとして、経営者や人事担当者自身が本気で取り組まなければ、効果は出ない――“変革や変化は、個人に始まり個人に終わる”」というアキレスさんの言葉が大変印象的でした。

いま求められる「D&Iリーダー」の存在

D&Iリーダー続いて、アキレスさんから、「女性活躍推進の重要なポイント」についてお話しいただきました。

「女性が経営に参画する五つの利点」「女性幹部育成の七つのカギ」のほか、特に印象深かったのが「D&Iリーダー」の存在です(D&Iは、ダイバーシティ&インクルージョンの意)。D&Iリーダーには、図表にある「行動」「考え方」「価値観」が必要であり、それぞれの要件は、女性の方が多く当てはまるといいます。

“活躍”とは、リーダーが増えていくことであり、影響力のある立場に男性だけでなく多様な人材がいなければならない。変化が激しく、多様性に富んだ顧客や市場、組織をリードしていくリーダーとは、「多様な人たちの強みを活かし、共通のビジョンや目標を達成していける人材」。つまり、D&Iリーダーがこれからは求められる――そうアキレスさんは強調します。

女性活躍推進に向き合う、現場人事のリアルな声とは

後半は、アキレスさんへの質問コーナーと、4~5人ずつのグループによるディスカッションが行われました。

HRクラブの様子質問コーナーでは、「仕事観マトリックス」の成り立ちについての質問が挙がるなど、講演内容の理解を深めるための質問が挙がりました。アキレスさんは、明確かつ丁寧に回答し、参加者の方々も熱心に耳を傾けていました。

続いて、会社規模別の六つのグループに分かれ、前半の講演で共有した考えをもとに「女性の活躍推進や管理職育成のために、どのような課題があるか」「企業は女性のキャリアについてどんな支援を行えばいいか」といったテーマでディスカッションを実施。終了後には、それぞれのグループの代表が、ディスカッションの内容を発表しました。

「制度は作ったが、手を挙げにくいのか利用者がまだいない」「そもそも女性社員の数が少ないので、採用に力を入れなければならない」「育児休業から職場復帰した女性社員の仕事への意識が二分化している。短時間勤務を後ろめたいと思う社員と、当然の権利だと思う社員がいるので、それぞれどのように対応すればいいのか」など、さまざまな“現場の生の声”が聞かれました。同じような悩みや課題を抱えるご担当者同士ということもあり、これまで以上に熱いディスカッションが展開されました。

自社に合った答えは、人事が自ら見つける

最後に、アキレスさんから「この勉強会で私は、今回のテーマに関する考え方や方向性、過去・現在の事例などを紹介しました。しかし、それらの情報がすぐに皆さんの課題を解決する策になるとは限りません。おかれている状況、規模、女性社員の比率など、企業ごとに異なるので、『答えは自分で見つける』ことが重要。皆さんは今後、自らアクションを起こしていくと思いますが、この勉強会で得た情報が一つのヒントになることを願っています」という、あたたかいメッセージがあり、今回の「HRクラブ」は終了しました。

いつも以上に濃密で、深い話ができた2時間半でした。参加された皆さまも、多くの発見や学びを得ることができたようです。

以下、参加者の方々からは、下記のようなコメントをいただいています。

【参加者の声】

≪講演の感想≫

  • 女性管理職を増やすための取り組みのヒントが多くちりばめられた話で非常に参考になりました。ご紹介のあった『リーン・イン』と通じる話が多く、納得感がありました。(独立行政法人国際協力機構/倉科和子様)
  • 大局的な視点で、女性が活躍するためのポイントについて考えるきっかけとなりました。(株式会社プライムクロス/田口愛子様)
  • アキレス美知子さんのお話が素晴らしく頭の整理になりました。最終的には個人のモチベーションが重要だということに気付き目からウロコが落ちた思いです。本当に参加して良かったと思います。(食品/人事・労務・人材開発担当)
  • 今後の施策のヒントをいただくことができました。(商社/人材開発・キャリアデザイン担当)
  • 自分の考えと重なる部分が多々あり、目の前の仕事で少し行き詰っていたので、あらためて自分の考えは間違っていなかったのだと思うことができました。(HRビジネス/採用担当)

≪ディスカッションの感想≫

  • 男性の方がグループディスカッションに入っていたので、男性側の視点を知ることができて良かったです(株式会社ソルクシーズ/内山和子様)
  • 自社にない環境の取り組みを他社からうかがうことができ、参考になりました。(株式会社ベルシステム24/浜口聡子様)
  • 会社ごとに課題があり、それぞれ解決に向けて努力していることに感慨を覚えました(広告・デザイン・イベント/人事企画・制度構築、採用・雇用担当)
  • 同じ規模の会社がグループディスカッションで集まっていたので、悩みが共有できてよかったです。(人事BPOサービス/賃金・社会保険、福利厚生担当)
  • ディスカッションでは、人事の経験が豊富なメンバーが集まり、観念的ではない議論ができました。(医薬品/人事・労務・人材開発・総務・採用、人材開発・キャリアデザイン担当)
  • 女性の皆さんが大変積極的に発言されるのにビックリしました。(販売・小売/総務・採用、人事企画担当)
  • 「自分だったらどうするだろう?」ということを考えながらのディスカッションは、時間が足りないと感じるほどでした。大変刺激を受けました。(その他業種/就業管理・コンプライアンス担当)
  • 各社、似ている課題があることが分かりましたが、なかなか改善点にまで話が及ばなかった場面で、アキレスさんのコメントがありとても良かったです。(医薬品/人事企画・制度構築、人材開発・キャリアデザイン担当)
  • 同じ悩みを持つ方との情報共有、すでに解決されている企業の事例など、ヒントとなる情報を得ることができ、大変満足しました。(機械/人事・労務・人材開発・総務・採用、採用・雇用担当)