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5. ワーク・ライフ・バランスを社内に定着させるための取り組み

制度を作れば終わりではない

イメージ前章では育児や介護のための休業制度などを中心に、ワーク・ライフ・バランス支援の具体策を概観した。しかし、どれだけ立派な制度を用意しても、それだけでワーク・ライフ・バランスを実現できる環境が整うわけではない。実際、法定水準を上回る充実した制度がありながら、あまり利用されていないという事例は数多く見られる。

制度だけに注目するということは、ワーク・ライフ・バランスを育児や介護といった「特別な事情」がある従業員のためだけの支援策であると見る考え方にもつながる。しかし、何度も述べてきたように、ワーク・ライフ・バランスは、仕事以外でやりたいことがあるすべての従業員が、仕事とそれ以外の生活を両立できる環境を実現するためのものでなくてはならない。制度以上に大きな意味を持ってくるのが、職場での人材マネジメントや働き方の改革、職場風土づくりといった日常的な取り組みなのである。

制度利用ができる人材マネジメント

ワーク・ライフ・バランスのための支援制度があるのに利用できない、利用しにくいといったケースを詳しく見ると、休業取得によって業務に支障が生じるので、管理職や同僚が休業取得を歓迎しないといった状況が多いことがわかる。この問題を解消するには、日常的な人材マネジメントの改革が不可欠である。

ワーク・ライフ・バランス実現のための人材マネジメントを一言でいえば、「時間制約のある従業員がいることを前提にした仕事管理」ということになるだろう。

  • 休業や短時間勤務を選択した従業員の業務を、他の人が引き継げる体制を作る
  • そのために、業務内容の整理や情報共有、一人ひとりの能力開発などが重要になる
  • それによって、周囲の人への負担が過剰にならないように配慮もする
  • 休業などの場合、代替人材を派遣などによって手配することも選択肢となる
  • 休業や短時間勤務が処遇やキャリア形成において不公平にならないようにする
  • 短時間勤務でも補助的な業務を任せるのではなく、仕事の質は落とさずに量だけを減らすようにする
  • 育児や介護だけでなく、自己啓発や社会貢献、スポーツや趣味などワーク・ライフ・バランス支援の対象は可能な限り広げる

これらは、制度が実際に利用されるための運用ノウハウである。特に、対象範囲の拡大は、子どもや高齢者が家族にいない従業員が、育児や介護などでワーク・ライフ・バランスに関する支援制度を利用している同僚に対して、お互いさまだと考えて協力するようになるためにも重要と言える。

「時間」を有限のリソースと考える働き方改革

ワーク・ライフ・バランス支援制度の活用促進と同時に進めなくてはならないのが、全社的な「働き方の改革」である。

育児や介護に取り組む従業員だけを手厚く保護しても、企業全体の働き方が長時間勤務を前提としたものであれば、ワーク・ライフ・バランス支援制度を利用する従業員と利用しない従業員との間にギャップが生じてしまう。場合によっては、両者の間に処遇やキャリア形成の面で大きな格差が生まれるという、新たな問題が発生する可能性もある。

また、育休から復職した社員や、仕事と介護を両立している従業員には、ワーク・ライフ・コンフリクトが発生する可能性があることも考えなくてはならない。

イメージこのような問題を解決するには、全社的に長時間勤務を前提としない働き方への転換、つまり、時間が有限のリソースであるという意識を持って、効率的に仕事に取り組む姿勢が不可欠となる。

日本では、時間を有限と考える働き方の伝統がないため、「それで成果は上がるのか」という疑問が投げかけられている。しかし、これまで日本企業は、エネルギーや環境など、さまざまな制約がある中でも、世界に誇る数々のイノベーションを実現してきた。そう考えれば、時間という制約があっても、大きな成果をあげる可能性は高いと言えるのではないだろうか。

多様な価値観/ライフスタイルを受容できる職場風土

イメージもちろん、ワーク・ライフ・バランスは、短時間労働だけを推奨し、長時間労働をむやみに否定するものではない。従業員一人ひとりが自分の価値観やライフスタイルに従った働き方を選択できる環境を理想とする考え方である。そのため、さまざまな価値観やライフスタイルが共存できる職場風土を醸成することが、取り組みを成功させるために重要である。

1)重要な管理職の価値観

ワーク・ライフ・バランス支援制度の運用や働き方の改革を職場で実践していくカギは、管理職の意識と姿勢にあると言ってもよい。しかし、管理職世代はまだ、価値観が多様化した職場に十分対応しきれていないのが実状だろう。ワーク・ライフ・バランスを実現する取り組みは、まず管理職の意識を変えるところから始まると言っていい。

2)不公平感を助長しない

休業や時短勤務などでは、必ず業務を引き継いだりサポートしたりする周囲の従業員の協力が必要になる。そこで、育児や介護を行っていない従業員も「お互いさま」と思って気持ちよく協力できる環境を作るには、多様な価値観やライフスタイルを認め合う職場風土づくりが欠かせない。


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