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3. ワーク・ライフ・バランスの歩み・歴史

1980年代のアメリカで生まれたワーク・ライフ・バランス

ワーク・ライフ・バランスという考え方が生まれたのは、1980年代のアメリカと言われる。当時、IT技術の革新などによって産業構造が大きく変化し、女性の活躍する職場は飛躍的に増えた。そこで問題になったのが、女性の仕事と子育ての両立である。優秀な女性従業員が子育てをしながら仕事を続けられるように企業が打ち出したさまざまな支援策が、今日のワーク・ライフ・バランス支援の始まりである。

イメージ当初、こうした支援策は「ワーク・ファミリー・バランス」「ワーク・ファミリー・プログラム」などと呼ばれていた。つまり、明らかに「仕事と子育て」を意識したものだった。しかし、1990年代になると、仕事とそれ以外の生活の調和は、子供のいない女性や男性にとっても重要と考えられるようになっていった。

その理由の一つが、自己啓発と仕事の両立である。アメリカにはもともと終身雇用という慣習がない。そのため、不意に迫られるかもしれない転職に備えて、労働者は資格取得やスキルアップのための勉強に取り組む必要がある。そうした自己啓発の時間を確保するため、長時間の残業や休日出勤を減らすことは、労働者の切実な要求でもあった。企業側は終身雇用という慣習がない以上、労働者の要望を受け入れるしかない。また、労働者が自己啓発によってスキルアップすれば、企業力の向上にもつながる。そういった意味では、アメリカにはワーク・ライフ・バランスという考え方が浸透する素地があったと言えるだろう。

1990年代に大きく変化した日本の労働環境

日本でワーク・ライフ・バランス支援という考え方が知られるようになったのは、1990年代以降である。1980年代までは「24時間働けますか?」というコマーシャルソングが流行したことでもわかるように、自分の時間を全て仕事に注ぎ込むことが理想的な労働者の姿と考えられていたのである。

ここで、1980年代までと1990年代以降で、日本企業を取り巻く経済環境や社会がどう変化したかをまとめてみよう。

  1980年代まで 1990年代以降
景気 高度成長~安定成長・バブル景気 停滞(バブル崩壊~デフレ定着)
雇用 終身雇用・年功序列
正社員中心
成果主義・リストラ
正規雇用と非正規雇用の二極化
働き手 団塊世代中心 少子化・高齢化
女性戦力化と高齢者活用が課題に
働き方 長時間労働で成果をあげる
製造業中心
時間ではなく質が成果につながる
知的労働・サービス労働中心
男女役割 正社員の夫と専業主婦が標準 共働きが普通
価値観 画一的
経済的に豊かな暮らしを志向
企業に依存
多様化
幸福の基準は人それぞれ
企業には依存できない

1990年代以降は、二つの大きな動きが同時に進行していたことがわかる。一つは景気の停滞によって雇用環境が厳しくなり、共働き家庭が増え、人々の価値観が変わっていったこと。かつては企業に依存することで経済的に豊かな生活を送ろうとしていた人々が、企業に依存できない時代になったことで、仕事以外の新たなものに価値を見出していったのである。

イメージもう一つは、少子化・高齢化が進展したことや、男女雇用機会均等法の考え方が浸透したこと、産業の知的労働化・サービス労働化が進んだことなどが複合して、女性活用の必要性が急速に増したということだ。

価値観が多様化し、仕事だけに全ての時間を投入していた男性社員が減ったこと、出産・育児などで時間に制約のある女性社員が労働力として期待されるようになったことにより、日本企業もワーク・ライフ・バランス支援を意識するようになっていったのである。

こうした状況の変化を受けて、行政もワーク・ライフ・バランス支援を法制化する動きを進め、民間でもさまざまな企業が制度導入に取り組んだ。2000年代に入ると、その動きはより加速していく。

■行政によるワーク・ライフ・バランス支援の動き
1985年 男女雇用機会均等法成立
1991年 育児休業法成立
1997年 改正男女雇用機会均等法成立(1999年施行)、労働基本法改正、育児・介護休業法成立
1999年 厚生労働省による「均等推進企業表彰」「ファミリー・フレンドリー企業表彰」始まる
2003年 少子化対策基本法成立、次世代育成支援対策推進法成立
2005年 「男女共同参画会議」設置
2007年 「骨太の方針2007」にワーク・ライフ・バランスが盛り込まれる
2008年 内閣府「仕事と生活の調和連携推進・評価部会」スタート、次世代育成支援対策推進法改正

企業によるワーク・ライフ・バランス対応の現状

現在、企業はワーク・ライフ・バランス支援制度の整備を積極的に進めている。しかし、制度が有効に活用されていて、ワーク・ライフ・バランスの支援に役立っているとは言えないのが実状である。

イメージたとえば、男性の育休取得に関して、職場での理解が進んでいる企業や協力体制が整っている企業は、少数派だと言わざるをえない。これは大きな問題だろう。産休・育休の制度を設けていても、実際に機能していなければ、根本的な問題解決にはならないからだ。 産休・育休制度がある企業でも、出産を契機に退職する女性従業員は少なくないが、その理由について聞くと、「夫が恒常的に長時間勤務の体制で働いていて、育児への協力が得られそうにないから」という回答が多い。夫婦が別々の企業で働いているケースが多いことを考えると、一部の企業が努力するだけではなく、社会全体でまとまって動いていく必要があると言える。

また、制度を作ってもそれが効果的に機能するには、職場の管理職の理解と適切な人材マネジメントが不可欠である。現在、多くの企業で管理職のポジションにある層は、1980年代かそれ以前に新人時代を送った世代であり、ワーク・ライフ・バランスという考え方を十分に理解していないケースが多い。ワーク・ライフ・バランス支援を実のあるものにし、それを企業力向上につなげていくためには、経営トップや管理職層の理解が必要だろう。もちろん、それらの層だけでなく、全社員がワーク・ライフ・バランスに関して共通の理解と認識を持って「働き方の改革」に取り組んでいくことは、企業が発展していく上で、 大変重要である。

正しい理解を進めるための取り組みが広がる

イメージワーク・ライフ・バランスが職場で正しく理解されていないことによって、せっかくの支援制度が形骸化しては意味がないだろう。そこで、ワーク・ライフ・バランスという用語にこだわらず、その意義をより理解しやすい言葉に置き換える試みも広く行われている。 たとえば、東芝では「ワーク・スタイル・イノベーション」という用語を用い、革新的な働き方を創造する取り組みであることを強調している。また、アメリカンホーム保険では、仕事にも生活にも良い相乗効果(シナジー)をもたらすという観点から「ワーク・ライフ・シナジー」という言葉を使っている。この他にも、P&Gの「ベターワーク・ベターライフ」などがよく知られている。


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