企業研修、採用、評価、人材開発、労務・福利厚生のナレッジコミュニティ

2. ワーク・ライフ・バランスの意義と
企業にとってのメリット

ワーク・ライフ・バランスの意義と企業にとってのメリット

ワーク・ライフ・バランスは単なる社会貢献ではない

イメージPhoto

ワーク・ライフ・バランスについて語る時、わが国では、まずその社会的な意義が強調されることが多かった。たとえば、結婚・出産後も無理なく仕事を続けられる企業が増えると男女共同参画社会の実現が近づく、あるいは、女性が安心して働ける環境ができると少子化対策につながる、といった論調である。だが、こうした社会的な意義が前面に出ることで、企業がワーク・ライフ・バランス支援に取り組むことは基本的に社会貢献であり、経営にゆとりのある企業が行っていればよいという誤解を生んできた側面もある。

しかし、ワーク・ライフ・バランスは、経済や社会、価値観の移り変わりに伴って重視されるようになった考え方である。企業が市場の変化に対応してビジネスモデルや商品、サービスを更新しなければならないのと同様、人材マネジメントの面でも変化に順応しなければ、やがて環境との大きなズレが生じてくるだろう。つまり、ワーク・ライフ・バランスへの取り組みは、企業の将来をも左右しかねないテーマと言える。

本章では、ワーク・ライフ・バランス支援に取り組むことが、企業にどのようなメリットをもたらすのかを見ていくことにしよう。

女性の離職防止が生むメリット

女性が出産・育児のために一旦離職するケースは、少なくない。年齢層で女性の労働力率を見ると、20代半ばと50代前後という二つのピークを持つ、いわゆる「M字カーブ」を描くことが知られているが、これは、結婚・出産によって一旦離職し、子供に手がかからなくなった50代前後で再就職することを示している。

しかし、近年は女性を戦力として重視し、結婚や出産後も継続して勤務することを希望する企業は多い。少子化によって男性だけでは優秀な人材を確保できないこと、女性向けの商品やサービスがより重要になっていることなどがその理由である。今や、女性が離職してしまうことによるロスは無視できないという考え方は主流になりつつあるのだ。

女性の離職を防止するために、仕事と出産・育児を両立できる環境をつくれば、以下のようなメリットが生まれる。

1)採用・教育コストが抑制できる

新人の採用・教育コストは決して小さくない。仕事にも慣れ、成長した従業員が仕事以外の理由によって退職することになれば、企業にとって損失は大きいだろう。ワーク・ライフ・バランスの実現はこの問題を解決し、社員の定着、ひいては採用・教育コストの抑制を実現することができる。

2)ノウハウの社外流出を防げる

イメージ女性

教育を受け仕事に習熟した従業員は、企業にとって、自社のノウハウの固まりと言える。共働き化が進んだ現在は、退職した女性従業員が育児の一段落した後に再就職するケースが多いが、その際、元の勤務先ではなく、仕事と育児を両立させるための支援策が進んでいる他社に転職していく可能性がある。仕事と育児を両立出来る仕組みを整えることで、貴重な人材の流失を回避することができる。

3)女性活用による企業風土の活性化

一旦退職した女性が復職する場合、補助的な業務を行うことが多く、コア業務でのスペシャリストや管理職などへの道が閉ざされてしまうこともある。しかし、ワーク・ライフ・バランス支援によって、退職せずに仕事を継続することができれば、女性がそうしたポジションで活躍する道が開ける。世界的な競争で優位に立っている企業の多くが積極的な女性活用を進めているのは明らかであり、この流れに後れをとらないことは、企業の将来にとって重要といえる。

その他の時間制限のある社員の活用が生むメリット

ワーク・ライフ・バランスは、もともとアメリカで女性従業員の離職対策として生まれたが、後に「仕事以外の生活でやりたいこと、やらなくてはならないことがある従業員」へと対象が拡張された。その背景には、現代のビジネスシーンにおいて、「知的労働」「サービス労働」の比重が高くなっているという現実がある。

1)自己啓発や学習、資格取得を支援できる

さまざまな学習や自己啓発によって、スキルや知識の向上、資格取得などを目指す従業員は多いが、長時間勤務が恒常化している場合には、そのための時間を確保することは難しい。しかし、企業がワーク・ライフ・バランス支援を行えば、従業員は学習や自己啓発の時間を確保することができ、スキルや能力を伸ばしていくことができる。さらにそれが仕事にフィードバックされれば、結果として企業力の向上にもつながる。

2)生産性向上、離職防止

仕事以外でやりたいこと、やらなくてはならないことができない「ワーク・ライフ・コンフリクト」の状態が続けば、仕事の生産性は低下する。知的労働、サービス労働においては、クオリティーが低下する可能性もあるため、特に注意しなくてはならない。また、ワーク・ライフ・コンフリクトが長期に渡れば、やがて従業員の離職という結果を招き、代替人材を採用・教育するためのコストの増大やノウハウの流出へとつながることもある。

業務効率改善に関するメリット

時間制限のある従業員が増えれば、人材マネジメントが煩雑になり、生産性は低下すると思うかもしれない。しかし、ワーク・ライフ・バランスの基本的な考え方は、仕事を犠牲にすることなく、限られた時間で同等かそれ以上の成果をあげること。ワーク・ライフ・バランス支援を行うことで、生産性の向上が期待できる。

1)時間労働生産性の向上

電話している男性

日本企業は欧米企業に比べて、時間当たりの労働生産性が低いといわれる。特にホワイトカラーの業務では、それが顕著である。長時間残業を最初から想定してスケジュールを組んでいること、資料作成など重要でない業務にまで過剰な品質を要求されること、業務の優先順位がうまくつけられていないこと、目的の不明確な会議が多いことなどが原因だ。ワーク・ライフ・バランス支援を導入した結果、これらが改善され、時間当たりの労働生産性が高まったという事例は多数報告されている。

2)業務の属人性の排除

企業がワーク・ライフ・バランス支援を行えば、時間制限のある従業員の担当業務を、誰かが引き継がなければならないケースも出てくる。それをきっかけに、業務の仕分けや簡潔化、マニュアル化などを進め、結果的に属人性の排除に成功したという事例は多い。

3)イノベーションの引き金となる

労働生産性を向上させたり、業務の属人性を排除したりする過程で行われるのは、要するに「働き方の改革」である。限られた時間の中で最大限の成果を出すためにはどうすればいいのかという発想が求められるからだ。このような考え方が、さまざまな業務や人材マネジメントにおけるイノベーションの引き金となる可能性は大きい。

ダイバーシティの実現

さまざまな価値観を持ち、働き方が異なる従業員が共存できる柔軟な組織とは、すなわちダイバーシティ(多様性)を備えた組織である。企業が強い国際競争力や創造力を発揮していくためには、ダイバーシティは必須条件と言われている。

従業員のモチベーションアップ

従業員がいきいきと働けて、充実したキャリアを積み重ねていくことが期待できる環境を企業が整えれば、従業員のモチベーションを高めることができる。

1)従業員のロイヤリティを向上

仕事以外にやりたいことと仕事を両立できる環境が整えば、長期勤務が可能になり、従業員のロイヤリティの向上が期待できる。

2)従業員の長時間労働を解消

ワーク・ライフ・バランス支援によって労働生産性が向上すれば、時間外勤務や休日出勤といった過剰労働を減らすことができる。また、長時間勤務することによって発生していた時間外人件費、光熱費、通信費などの削減にもつながる。

3)メンタルヘルス対策にも効果的

若い男女のビジネスパーソン

近年、多くの企業を悩ませている従業員のメンタルヘルス問題は、長時間勤務による心身の疲弊や、仕事以外の家庭問題に対処できないことによる心労などが、大きな原因である。従業員のワーク・ライフ・バランスを支援するさまざまな取り組みは、メンタル不調者の発生や労災などの予防策としても有効といえる。

4)人材獲得の面でも有効

これから企業が大切にしていかなくてはならないのは「成果を出せる人材」である。決して「仕事だけにすべてを捧げられる人材」ではない。人々の価値観が大きく変動している現在、仕事以外にもさまざまなことを行っている人材を採用し、活用して成果を出していくことが、企業にとって重要となる。ワーク・ライフ・バランス支援制度の充実は、そういった人材の獲得にも有効である。


記事のオススメ、コメント投稿は会員登録が必要です

よくわかる「ワーク・ライフ・バランス、働き方改革」講座

ワーク・ライフ・バランスとは何か?

ワーク・ライフ・バランスとは何か?

「仕事と生活の調和が実現した社会」の指針となるワーク・ライフ・バランスへの取り組みとは?近年社会に認知されてきた背景と現状について考察する。


ワーク・ライフ・バランス推進のポイント

ワーク・ライフ・バランス推進のポイント

労働時間削減・多様性への柔軟な対応――。ワーク・ライフ・バランス推進のために会社・従業員双方が押さえるべきポイントとは?


ワーク・ライフ・バランスを実現するために求められる「働き方改革」

ワーク・ライフ・バランスを実現するために求められる「働き方改革」

ワーク・ライフ・バランスの実現に不可欠な「働き方改革」で日本はどう変わる?これまでの雇用政策を刷新する政府の取り組みについて。


「働き方改革」の進め方

「働き方改革」の進め方

具体的な「働き方改革」の進め方を「働く環境・ツール」「働く制度・ルール」「働く意識・風土」の三つのテーマ別にまとめた。


「働き方改革」推進に向けての実務(1)同一労働・同一賃金など非正規雇用の処遇改善

「働き方改革」推進に向けての実務(1)同一労働・同一賃金など非正規雇用の処遇改善

ここでは「働き方改革」の代表的な施策についてその目的・課題と実務上のポイントを整理する。


「働き方改革」推進に向けての実務(2)長時間労働の是正

「働き方改革」推進に向けての実務(2)長時間労働の是正

2016年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」に示された、働き方改革における「長時間労働是正」とは?


「働き方改革」推進に向けての実務(3)労働生産性の向上

「働き方改革」推進に向けての実務(3)労働生産性の向上

「量」から「質」へと評価軸を転換し、高い生産性を実現するための課題と取り組み例を紹介する。


「働き方改革」推進に向けての実務(4)テレワーク

「働き方改革」推進に向けての実務(4)テレワーク

注目が高まっている「テレワーク」がもたらす様々なメリットについて、具体的な実務と留意点をまとめた。


「働き方改革」推進に向けての実務(5)副業

「働き方改革」推進に向けての実務(5)副業

副業経験が、人材の成長につながる?少しずつ解禁に向けて動き出した「副業」への対応の現状と課題。


「働き方改革」推進に向けての実務(6)育児・介護と仕事の両立

「働き方改革」推進に向けての実務(6)育児・介護と仕事の両立

「働き方改革」の重要課題である育児・介護と仕事の両立。改正を重ねる法律と支援策について紹介する。


「働き方改革」を進め、「ワーク・ライフ・バランス」を実現するための留意点

「働き方改革」を進め、「ワーク・ライフ・バランス」を実現するための留意点

すべての従業員が仕事と自分のやりたいことを両立できる環境を実現するために、一人ひとりがまず取り組むべきこととは?


テーマ別Index
研修・人材育成
社員研修を検討する際に押さえておきたい基本とノウハウ。研修の目的別に解説します。
社員研修・人材育成
新人研修・新入社員研修
マネジメント・管理職研修
モチベーション・組織活性化
グローバル人材育成
コーチング研修
コミュニケーション研修
営業・販売研修
eラーニング
採用
人事担当者のための採用ノウハウ。採用の目的別に、基本、準備、注意点まで網羅。
中途採用
人材紹介
アルバイト・パート採用
人材派遣
新卒採用
就職サイト
新卒紹介
新卒採用アウトソーシング
新卒採用コンサルティング
内定者フォロー
ソーシャルリクルーティング
適性検査
人事戦略・人事系IT
企業に不可欠な人事システム、人事制度を解説。この分野のトレンドも把握できます。
人事制度
人事システム
給与計算
給与計算代行
人事労務
テーマに特化した労務関係の取組みを解説。導入の際のヒントが見つかります。
ワーク・ライフ・バランス、働き方改革
福利厚生
社宅・社宅代行
コンプライアンス・企業倫理
メンタルヘルス
その他
それぞれ分野ごとに、基本からサービスを検討する際のポイントを詳しく説明します。
貸会議室・研修施設

最新の人事部の取り組みやオピニオンリーダーの記事をメールマガジンでお届け。

記事アクセスランキング

「よくわかる人事労務の法改正」ガイドブック無料ダウンロード

注目コンテンツ

【人事の日制定記念企画】
オピニオンリーダーからのメッセージ

HR領域のオピニオンリーダーの皆さまから全国の人事部門に向けてメッセージを頂戴しました。


人事メディア情報

人事メディア情報

人事・労務関連の代表的なメディアをご紹介いたします。


『日本の人事部』主催イベント

日本の人事部「HRカンファレンス」

日本最大のHRイベント

日本の人事部「HRカンファレンス2020-秋-」を11/17~20、11/25に開催。
<173講演ライブ配信>


日本の人事リーダー会

日本の人事リーダー会

日本を代表する大手企業の人事エグゼクティブによる、人事の未来を考える会